「管理職なんて罰ゲームだ」という声を耳にしたことはありませんか。責任ばかりが重くなり、やりがいある仕事から遠ざかる立場だと捉えられてしまうことも少なくありません。 しかし実際には、マネジメントはチームの成長を後押しし、組織の生産性を高めるための創造的な仕事です。昨今はマネジメントに対する誤解や先入観によって、その本質が見失われているのかもしれません。
今回は、エール株式会社取締役の篠田真貴子氏にお話を伺いました。“現場への丸投げ”やプレイングマネージャーの常態化といった課題を背景に、管理職の役割をどう再定義すべきか、そして実務を通じて培った交渉・合意形成のスキルや視座の持ち方について語っていただきます。
前回の記事はこちら 篠田真貴子氏:エール株式会社取締役。著書に『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP)監訳ほか。
現場に丸投げした“辻褄合わせ”の弊害
——「管理職は罰ゲーム」という風潮が生まれる背景には、どのような要因があると考えますか? また、この風潮をどう捉えていらっしゃいますか?
篠田真貴子氏(以下、篠田):背景には、多くの会社で組織の抜本的な見直しを行わずに、管理職の役割定義を曖昧にして、矛盾やしわ寄せを管理職に全部押し込めている構造があると思っています。
具体的には、働き方改革やコンプライアンスなど、この20年ほど社会から新しい要請があるたびに、本社で大きな方針を決めて管理職に下ろし、「あとはよろしく」と現場に丸投げしてきた。その結果、管理職が試行錯誤しながら辻褄合わせをやってきたなれの果てだと思います。
加えて、昔は純粋な管理職だったのが、今は課長クラスでもプレイングマネージャーが普通になっている。両方をやるのは本質的に非常に難しいことなのに、サポートが足りていません。
この風潮は、そういった管理職像しか知らない現場の若手から見たら当然の反応かなと思います。ただ、向上心や野心のある若い方々に管理職以外のキャリアの選択肢が実質的に示されていないのは、ちょっともったいないと感じますね。
交渉や合意形成のスキルが身についた
——ご自身のキャリア戦略において、マネジメント経験をどのように位置づけていますか?
篠田:私のマネジメント経験は、多くの人をマネージするというよりも、新しい課題や複雑な課題を扱って、経営観点と現場をつなぐかたちで実現可能にする役割を担ってきました。
具体的には、事業会社の事業部門のファイナンスの管理職や、中小企業での管理部門の実質的な立ち上げなどを経験しました。このマネジメント経験がなかったら、今の私はないと思っています。
——マネジメント業務を通じて得られた、最も価値のあるスキルや気づきは何ですか? また、それは現在どのように活かされていますか?
篠田:最も価値があったのは、組織の中のさまざまなステークホルダーに対する「いい意味での根回し」のスキルです。それぞれの話を聞いて立ち位置を理解し、統合した方向性を自分なりに考えて提案する能力ですね。
もう一つは、上の人に正面からガツンガツン当たることをやってきたことです。前例がない提案をしたこともありましたが、情熱や感情だけでなく、相手の視点から考えてビジネスロジックを組み立てることを心がけました。
例えば事業部長や役員が何を視野に入れて何を優先しているかを、その人の視点から考えてロジックを組み立てる。これは今でもずっと生きているスキルだと思います。
難局を乗り越えた3つの工夫
——管理職として直面した課題と、それをどのように乗り越えたか、具体的なエピソードを教えてください。
篠田:ノバルティスにいた時、事業部門の日本におけるファイナンスの責任者として、グローバルでネスレに売却される事業の移行を担当しました。社内では誰もやったことがない、会社のインフラを全部新しい会社に乗せ替えるミッションでした。基幹システム、購買ルート、人事制度など、すべてです。
乗り越えた方法は3つあります。
1つ目は、ネスレ側のキーパーソンを早く見つけて、密にやり取りする関係を築いたこと。
2つ目は、最初は話がぜんぜん通じなかったのですが、その違いがどこから来るのかを分析し、お互いの事業構造の前提の違いにあることを理解できました。1〜2ヶ月かかりましたが、文法が違うだけで目標は同じだと分かってからは、両方のロジックを理解した私が通訳をするような感覚で進めました。
3つ目は、チームメンバーには目標だけを渡して、それぞれの専門領域で任せるかたちにしたこと。私は相談に乗りながら、双方の通じなさが各所で起きるので「通訳」の役割として入り、メンバーの仕事をサポートしました。
“2階層上”を見るマネジメントが秘訣
——これからマネジメントに挑戦する方、または現在悩んでいる管理職の方へのアドバイスをお願いします。
篠田:私はどちらかというと「ことのマネジメント」に重きを置いてきた観点で言うと、自分の直属の上司ではなく、2階層上の人の視座や視点から物事を考えることをおすすめします。
結局、自分の上の人はさらにその上の人に評価されるわけなので、直上の人の評価がよくなるように動いてあげれば、関係がよくなって自分が楽になります。ゴマすりではなく、2階層上の人の視座は経営の方向に近いので、自分がマネージしているチームも含めて、みんなの共通ゴールに近づきやすいんです。
その視点を持って、そこから自分の仕事を組み立てるということが重要だと思います。
管理職にまつわる課題を乗り越えるには、一人で抱え込むのではなく、組織の中で交渉し合意を形成する力が欠かせません。まずは直属の上司にとどまらず“2階層上”の視座を持ち、チームの仕事を経営の方向に近づけることから目指してみましょう。その一歩が、あなた自身と組織の未来を大きく変えるはずです。
ログミーBusinessでは
マネジメントスキルをはじめ、
キャリア形成やチームづくりに役立つ記事を数多く掲載しています。ぜひ他の記事もご覧ください。
※この記事にはプロモーションが含まれています。