【3行要約】
・タレントマネジメントは経営戦略実現の重要な手段として注目されているが、単なる人事管理システムと混同される課題があります。
・いすゞ自動車 常務執行役員 CHROの有沢正人氏は、経営目標達成には個人の希望と組織ニーズのマッチングが不可欠だと指摘。
・経営者は職務基準の異動希望システムと段階的な後継者育成プログラムを導入し、イノベーション人材の発掘・育成に注力すべきです。
経営戦略を実現するためのタレントマネジメント
有沢正人氏:いすゞ自動車の有沢と申します。本日はよろしくお願いします。「タレントマネジメントとサクセッションプラン」ということで今日はお話させていただきます。このテーマってすごくニーズが高くて、いろいろと講演のお話をいただくんですね。
一番多いのは、「人的資本経営を話してくれ」と。次が「サクセッションプラン」。「タレントマネジメント」。「HRBP」という順番で、ちょっと離れて「ジョブ型」ですかね。今日はその中で「タレントマネジメントとサクセッションプラン」をお話させていただければと思います。

私はもともと、今のりそな銀行の協和銀行の行員で、そこからHOYAというAI系、半導体系で今すごく儲かっている会社にいきまして、その後AIU保険というAIGグループで、世界最大級の損害保険のところにいきました。この間はずっと人事の責任者をやっていました。次にカゴメという会社で、13年間人事の担当役員、CHRO(最高人事責任者)をやっていました。
2025年の2月にカゴメを任期満了で退任しまして、2025年の4月から今度はいすゞ自動車でCHROとして、やらせていただいています。趣味の話をすると長いですけど、アニメのところだけだと『呪術廻戦』とか『葬送のフリーレン』とか『地獄楽』とか『推しの子』とかですね。デファクトスタンダードですので「日本人なら必ず見なきゃいけない」と私は思っています。
私は週に40本ぐらいアニメを見て「アニメの合間に仕事をしている」と言われています。ドラマもそうですけど。その話をこれ以上すると長くなりますので、ここまでにしておきます。
タレントマネジメントとは「人事管理システム」ではない
今日お話する中身って「タレントマネジメントってそもそも何だ?」ということです。これは釈迦に説法で申し訳ないですけど「具体的にそれをどうやって活かしていくんだ?」ということと。
例えば私が前にいたカゴメとか、今のいすゞでは、「どういったサクセッションプランを、タレントマネジメントをベースに活かしているのか?」を中心にお話させていただきます。
今さらなんですけど「タレントマネジメントとは何か?」ということですね。ここの定義はハッキリしないと、上の人から「タレントマネジメントシステムを入れなきゃいけないらしい」って言われて「はい!」って言ってもなかなか進まないことって多いんですけど。
ここに書いてあるとおり、従業員一人ひとりの能力、スキル、経験を一元的に管理します。「これは何のために使うか?」というと、経営戦略の目標を達成するために使うんですよ。タレントマネジメントは、人事管理システムとは違います。人事管理システムじゃなくて、経営戦略の目標を達成するためのシステムです。
期待される効果としてはここに挙げました。従業員のモチベーションが上がるというのは、もちろんそうなんですけど、まず人材の配置の最適化を行えます。みなさんのいわゆる従業員の方の希望を聞くんですね。異動の希望とかを聞きます。それで優秀な人材の確保とリテンションにも活かせることができるし。
そもそも企業の生産性の向上と成長につながることが、全体的なやりがいとか、企業全体の利益に貢献できるということです。それで「押さえておかなきゃいけないポイントは何か?」というと、(スライドを示して)このステップです。まず「なんのためにタレントマネジメントを入れるか?」ということと、「タレントマネジメントを入れる以上、人事情報をどこまで可視化するか?」ということ。
それを「じゃあ、どうやってヒューマンロケーション、配置に活かすか?」ということと、「どう育成に活かすか?」ということ。それを「実際にどう配置とか評価に活かせられるか?」っていう評価があって、モニタリングがあって。これをグルグル回るサイクルを作るっていうことをやらなきゃいけないです。だいたい今言ったのはこんな感じですね。
タレントマネジメント導入のポイント
まず経営戦略と人事戦略が連動しています。その人事戦略を基本的に経営戦略と結びつけるために、採用から始まって、配置、評価、モチベーション、育成って、ずっとこうやってグルグル回って企業の目標を達成する。簡単に言うとこういったことをベースにさせるのがタレントマネジメントです。
人材の調達とか育成、配置、定着っていうことを、あとで出てくるリーダー人材候補の育成とか、人事戦略、経営戦略によって、タレントマネジメントの目的とか目標っていうことが出てきます。何度も言いますけど、経営の目標を達成するためのタレントマネジメントで、人事管理システムではありません。
給与管理システムもまったくありませんので、そこはちょっと間違えないようにしていただきたいなと思います。
じゃあ具体的にどうやったかというと、これは私の前の会社なんですけど、例えば個人に異動希望を書かせます。この異動希望は、今すぐ、2・3年後、5・6年後で複数箇所書かせます。それを基本的にはなるべく経営のニーズとマッチさせるようにすることが大事です。

あとは長期のキャリアプランというのがあって、ご本人が「10年後、20年後に何をしたいのか?」ということもデータに入れます。定量評価・定性評価ってありますけど、いわゆる年間の評価とか、こういったものは定量評価です。定性評価っていうのは、例えば自由回答みたいな感じです。
上司とかHRBP(ヒューマンリソースビジネスパートナー)っていうのは、そういった方々を入れた、人物の評価というのを定性面に入れて、基本情報を。例えば「この人は介護が必要だ」とか「お子さんが病院に行っていて、異動は難しい」っていう、こういったことを全部加味して、最終的な配置の検討、調整、決定を行うということですね。
これが経営戦略がちゃんと結びついているかどうかです。横軸を見ていただくと個人、上長、本部長、人事部、TOPなんですよ。だからTOPまでタレントマネジメントシステムを使ってもらわなきゃダメなんです。人事部だけのものではないんです。
第5希望まで「異動希望」を聞いて組織とのマッチ率を高める
異動希望は基本的には、「こういう狙いで考えたらどうかな?」と思うんですけど。異動希望を聞かないタレントマネジメントシステムだったら、別に入れなくてもいいです。異動希望を聞いて、それが個人と組織のマッチング率を高めることが当たり前の時代になってきました。「長期キャリアプランというのは、基本的にやはり考えなきゃいけない」って、今言ったとおりです。
それで、今やった人物情報、人物評価というのは定性面、定量面、HRBPの情報とかも入れて取り組んでいくということですね。営業とか生産とかの部門の人事を、部門の人たち、部門長と一緒に考えてやる。
基本的には人事部に所属している人事のプロの方々が、部門の人事をサポートするという人がHRBPです。これに基づいて配置を基本的に行うんですが、例えば「大阪に行きたい!」とか、そういうのではなくて。「いすゞとかだと、どういうことを聞いているか?」というと。
例えばカゴメの場合ですけど、第1希望から第5希望まで聞いています。組織は基本的にいすゞをベースに考えているんですけど。「今すぐだったら第1希望は生産部の1係の生産工程に行きたい」とか、「第二希望としては生産技術部がいい」とか。
5年後だったら「タイの現法の法人の生産部長になりたいです」とか「本社の経営企画室をやりたいです」とか「人事HRBPをやりたいです」とか、組織じゃなくて職務で基本的に見る。これはジョブ型に通じますからね。ジョブ型を入れると、何でも解決すると思われていたら困ります。
ジョブ型を入れたほうがいいケースと、入れないほうがいいケースがありますが、あくまでジョブ型をベースに考えた場合っていうのは、職務です。仕事は基本的にそこに報酬をくっつけるので、仕事で見ることは大事ということですね。その時に、過去のキャリアとか、長期プラン、今申し上げたこととか、組織別の職務要件とかスキルの管理とか。
やはり大事なのは「サクセッサーのCDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)」ですね。この設計がちゃんとできるかどうかで、これが会社主導であり、本人の希望を交えた、サクセッサーのいわゆる後継者育成のCDP設計をするにあたって。狙いとしては上に書いてあるように、長期のキャリアを設計することで事実的成長を促進する。
今「キャリア自律」という言葉が安っぽく使われている
今キャリア自律っていう言葉が、安っぽくいろんなところで使われていて、僕はちょっと腹立っているんですけど。本当はそうじゃなくて、キャリア自律は「本当に本人がこの会社にいてハッピーかどうか?」ということが、言えるかどうかなんですよね。
一番わかるのはエンゲージメントサーベイ。それを見ていただけるとわかるんですけど、エンゲージメントサーベイを上げるためにこれを入れるものじゃなくて。何度も言いますけど個人と組織とのマッチングですね。希望のマッチングを行って、本人がやりたければキャリアを歩むようにしてもらうことが大事ですね。
例えば、将来。カゴメでもいすゞでもやっているんですけど、「今の所属はどこだけど、ターゲットはどこまであるか?」っていうと、20年後には生産本部の生産担当のEVP。これは常務なんですね。これぐらい目指したいと。人物の見立て、これはだいたいHRBPの見立てなんです。(スライドを示して)「卓越した経営センスを持ち……」ってすごいですね。
こういう人がいっぱいいたら、もう会社は万々歳なんですけどね。それでキャリアプランとしては生産開発系の仕事が多いから、1回他部門でタフアサインメントをやらせて、できれば早めに部長級を経験させたい。今は課長クラスの人なんですが、課長クラスの人が10年、20年後にどんなイメージかをちゃんと考えて、本人の希望と考えて作る。
これをサポートするのがタレントマネジメントシステムなので、何回も言いますけど、人事管理システムとはまったく違うものだとご理解ください。