ログミーBusinessリニューアル記念として、二部構成で開催されたイベント「これからの時代の組織マネジメント:ジョブ型雇用とZ世代のマネージャー登用」。第一部ではジョブ型雇用の理想と現実についてのセッションが行われ、パナソニック コネクト株式会社 執行役員 ヴァイス・プレジデント CHROの新家伸浩氏、自由民主党 衆議院議員の小林史明氏、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授の須田敏子氏の3名が登壇。本記事では、日本企業のためのジョブ型雇用のステップについて議論します。
スキルのない新卒をジョブ型でどう採用する?
藤井創氏(以下、藤井):ありがとうございます。本当は採用・育成についてお話をうかがおうと思っていたんですが、時間がないので1個だけ。今後、新卒や、まだスキルがない方々をどうやって採用していくのか、あるいは育てていくのか。まず新家さんからおうかがいできますか。
新家伸浩氏(以下、新家):今の日本の社会だと、どうしても学校を卒業したらそのまますぐ就職するのが一般的ですよね。これを無理して「すごく高いスキルがないとうちの会社に入れないぞ」ということをやると、実際自社を選んでいただけなくなることもありますので。そうではなくて、やはり社会が変わっていくのと一緒になって会社も変わっていくのがすごく大事だなと思っています。
私も三十数年前に新卒で会社に入ったんですけど、卒業する時に出会ったデンマーク人たちに、「学校卒業したらすぐ会社に入るのか?」と言われました。
やはりほかの国の人たちってそういうルートではなくて、いろんな研鑽を積みながら会社にジョブ型で入っていくみたいな世界観が、もう数十年前からありました。なので日本の社会も、「新卒はみんな一括で就職しないといけないぞ」っていう時代が、ひょっとしたらあっという間に変わるかもしれないと思っています。
そうなってくると、我々企業としても、そういう人をいかにジョブ型的に採るか。そこも徐々に切り替えながら進めていくのが大事だと思いますが、この徐々にっていうのが意外に早いスピードで来るんじゃないかなって思います。
世界的にも珍しい日本の「年齢主義」
藤井:ありがとうございます。須田さん、お願いします。
須田敏子氏(以下、須田):私も、日本はすごく年齢主義だと思います。ストレートに社会に出たほうがいいというのはけっこう珍しい社会です。ストレートではなく就職前にさまざまな経験をしたほうが採用されやすいのが、ほかの先進西洋諸国なのかなと思います。
それと、世界の職業資格大国というとイギリスとドイツの2ヶ国なんですね。なのでこの2ヶ国では一生リスキリングをしている社会で、知識・スキル・経験の見える化が図られていました。
私が取ったマスターコースも、人事の職業資格に連動しています。マネージャーレベルで採用されようと思ったら、イギリスでしたら「職業資格何とかの何とかレベル以上」というようなかたちですね。

職業資格は下のほうのレベルですと座学で取れるんですが、上のほうにいきますと、個別にテーラーメイドにプロジェクトを組んで、成果を出しているか。その仕事でどういうプロセスを踏んで、どういう成果を出すか。もちろんコミュニケーション能力や人間関係能力もみんな入るわけですけども、社会のシステムとしてもそういうものが入っていると。
だから私がいる大学教育も、もっと実践化とかも含めて(やっていきたいと思っています)。企業だけでは変われないところがございますので、ぜひ小林さん、政府のほうでもご協力をお願いいたします(笑)。
大学改革とセットで行う必要がある
小林:そうですね。QAにも「新卒一括採用との関係は?」という話があったんですけども、新家さんがおっしゃったように、けっこう早く来るんじゃないかと思います。
私も新卒採用担当をやっていたので思うんですけど、やはり企業が変わっていくと学生側も就活のあり方がぜんぜん変わってくるのは明らかなんですね。そういう意味では、もう企業は変化し始めている。
社会はどう変化しているかというと、もう人手不足で人の取り合いなわけですね。人の取り合いが起きると何が起きるかというと、一人ひとりの価値が上がってくる。「あなたのこの能力が欲しい」ということが動いていきますから、やはり労働市場の動きによって企業の変化も加速する。お互いに変化がある。
3つ目は、これから政府としても、もっと大学改革とセットでやりたいなと思っています。特に地方の立地政策と一緒になんですけども、例えば熊本にTSMCが来ました。TSMCを誘致しようとすると、「人材供給できるんですか?」と問われるんですよ。なので、大学や高校に新しい半導体の学部・学科を作りますというところでセットでやります。
これをおそらく全国の大学とセットでやっていかないと人は呼び込めないし、企業も呼び込めなくなっていくので、より企業と大学や学校の距離は近くなっていく。ジョブ型雇用を入れた企業さんがコミュニケーションを取っていくと、より専門性の高い人材がほしい。
そうすると別に新卒ではなく、さまざまな経験を積んだ人、もしくは第2新卒をジョブ型で採用しやすくなったりというふうに変わってくるかなと思います。
日本のジョブ型雇用の展望
藤井:ありがとうございます。最後のテーマになるんですけど、「日本型ジョブ型雇用の展望」というところで、日本のジョブ型雇用が将来どうなっていくのか、どういうふうに変わっていくのかについて、まず須田さんからお願いします。
須田:ジョブ型雇用の今後なんですけれども、私もわりと早く進んでくれるんじゃないかなと。急速に転職が進んでいますので、やはり雇用の流動性がすべてを変える気がいたします。
採用、アトラクション、定着(リテンション)とモチベーションの3つが人事の基本目的なんですが、これまでリテンションは特に必要なかった。しかも大企業はいい人をたくさん採用できて、このまま辞めずにがんばって働いてくれるということなので、賃金もなかなか上がらなかったのかなと思います。
でもジョブ型ということで、ジョブの内容と人的要件がこれだけ見える化してくると、お互いに「あの会社のあの仕事はこういうことをやっているのね。じゃあ、私はその会社に行こうかな?」というようなこともできますし。だからジョブ型はわりと早く進むんじゃないかなと思います。
それと、ジョブ型が進むと、今までのお話のように非常にピープルマネジメントがラインに落ちてくるという、ラインの分権化が進みます。なので、ライン管理者になるということは自分のスペシャリティの部分の仕事の時間が減るということですから、個々人がライン管理者として生きていくのかどうなのかというキャリアの選択も、非常に重要になると思います。そして、企業もそういう姿勢をぜひ持っていただければなと思っております。
ジョブ型を入れることが目的になってはいけない
藤井:ありがとうございます。それを受けて新家さんからもお願いいたします。
新家:これも今我々が考えていることの一部なんですけれども、Step2ということで「成長に向けた挑戦」というのを我々は考えています。

ジョブ型を入れることが目的になってはいけないと思っていて。我々はやはりグローバルカンパニーとして、世界と伍していく(同等の力を発揮して渡り合う)ことが大事だなと。ジョブ型は、その1つの基礎作りだと捉えています。
これから働く人の国籍もそうですし、我々自身がグローバルな労働市場にリーチしていくことも大事だと思っていますので、こういったことを日本企業発で、しっかりできるようになっていかないといけない。
我々、子会社でアメリカでやっているグローバルプレイヤーなんですけど、そこの会社は人事のオペレーションがもう全部グローバルになっています。世界中の人を一番安く、優秀な人を獲得するっていう組織能力が意味を持っているということなので。
我々もそこのフィールドに出ていかないといけないと思っていますので、そういったことをしっかりやっていきたいなと思います。
この3年間で約150万人減るもGDPは成長
藤井:ありがとうございます。最後に小林さんから。
小林:もう日本の伸びしろはここにあると本当に思っています。たぶんみなさんの会社の社員さんでも、「もう人口減少するので日本の将来はオワコンだ」となんとなく思っている方々は多いと思うんですよ。
でも、この3年間で人口は約150万人減っているんですが、GDPは550兆円から607兆円まで成長したし、給料も上がりました。それはやはり、企業の努力とみなさんの努力と正しい政策というのがあります。

でも、まだみなさんの会社に眠っている人材はたくさんいらっしゃると思うんですね。その人たちの能力を発揮させることができれば、まだまだ私たちは成長できるし、豊かになれると思っています。
究極的にはジョブ型は、企業と個人が対等になっていくものなんですね。どんな仕事、どんなパフォーマンスをお互いに求め合うのか。その中でお互いが高め合っていくことのほうが、個人も企業も互いに努力して高め合う社会になっていくと思っています。
ぜひ新家さんのさまざまなノウハウもあると思うので後で聞いていただいて、会社の組織、意思決定を動かしていただいて、みんなで社会を変えていけたらおもしろいなと思っております。
「長く働くほど退職金が増える」仕組みの見直しも必要
藤井:ありがとうございます。最後にQAというところで、たくさん質問があるんですが、私のほうで読み上げさせていただきます。「ジョブ型雇用のメリットがある程度統計的に支持されている場合、国の施策(税制優遇)や給与などで後押しできることはないのか? 予定はありますか?」とありますが、いかがですか?
小林:3つあると思っています。すでに1つ、ジョブ型雇用のガイドラインを出して、転換しやすくしました。
2つ目は、リスキリングの政策を大きく転換しています。企業経由じゃないと申し込めなかったんですけど、今は個人の意思で助成が受けられるようにしました。これはかなり大きな転換です。なので、自らキャリアを作りやすくする。
3つ目は、今後は退職金税制の見直しが必要だと思っています。後ろになればなるほど退職金を多くもらいやすいという仕組みは「転職、どうしようかな?」という阻害要因になりますから。なるべくそれが年数にかかわらずフラットになるようにするのが1つあります。この3つです。
新卒から職種によって倍以上給料が違う西洋諸国
藤井:ありがとうございます。次の質問です。「スライドは、日本と普及国を比べると非常にわかりやすく、なんとなく感じていた違和感はこれだなと思う内容でした。ぜひ正しく広める方法、マインド醸成のやり方などを知りたいです」とあります。
須田:日本以外の先進国との比較のスライドですね。いわゆる知識・スキル・経験が見える化しているので、転職もしやすい。
日本では、これまで人的要件がよくわからなかったので、どういうふうにしたらスキルアップになるのか、キャリアアップになるのか、何をしたら転職ができるのかがあんまり明確じゃなかったんじゃないかなと思います。
日本以外の国はみんなこれが見える化しているので、「こういうキャリアを選びたいから、今年、何しようか?」「今年、目標管理で何を目標にしようか?」というようなことを話し合う。しかもそれに賃金がくっついていますから、やはり余計やる気になる。
と同時に、当然新卒採用の時から、職種によって倍以上金額が違うのが普通です。知識・スキル、もちろん経験もぜんぜん違うわけですから。先ほどからお話ししている、日本以外の国はストレートに行くよりもいろんなことを経験したほうが採用されやすいっていうのは、その間に個人でいろんな体験をするわけですね。
その間に知識・スキルをいろいろ習得する。だから大学生も「こういう科目を取っていたらこれくらい(の給料)になるのね」とか。どういったキャリアを選べば給料が高くなるか知っているので、「じゃあ、そっちのキャリアに行こうかな」とか。
やはり大学がちょっと変わらないといけないですね。もっと実践的な学問をやっていかないといけないなと思っております。
ジョブ型が普及した社会で問われる、貧困による体験格差の問題
藤井:ありがとうございます。次の質問に移りたいと思います。
「ジョブ型雇用が普及したとして、教育が同期していなければさらに格差が広がっていくと思いますが、これについてどうお考えですか? 貧困による体験格差については今話題になっていると思うんですが」ということで。まず新家さんお願いします。
新家:やはり、教育の問題ってすごく大きいなと思っていますけれども。一方で、学歴偏重のいわゆる日本の採用だとか人事管理のあり方は、すでに良くないなって思っています。
教育格差を社会的にどうできるかは、私は企業の一担当としてはなかなか語ることはないんですけれども。企業はもっとオープンに、学歴を除いた中で何ができるかっていうことで、しっかり雇用していくことがすごく大事になってくるので、ここには少し活路があるんじゃないかなと思っています。
小林:なので、学歴よりも何の専門を学んで、どれくらいの評価を取ったのかということがやはり評価されたほうがいいですよね。会社で働くって、やりたいこと以外のこともやらなきゃいけない。大学の授業もそうですよね。学びたくない授業もちゃんとパフォーマンスを発揮しなきゃいけない。そういうのをちゃんと評価しますかっていうことは重要になってくると。
今リスキリングの政策も進めていますけれども、ビッグデータをちゃんと取って、「各大学の何学科の何の教科でどう取っている人は、どれくらいのレベルなんだ」というのをちゃんとデータを揃えて見えるようにしています。そういうことを政府としてはやっていくので、採用側も使いやすくなる流れを作っていきたいと思っています。
学歴偏重の採用を変える必要がある
須田:ビジネススクールで社会人相手に教えておりますが、本当に学歴は関係ないです。「難関校以外の大学を出た人が小さなベンチャー企業に行って、30歳くらいですごくできるようになっている」という人、たくさんいますので。ぜひ採用担当の方、学歴は関係なく採ってください。お願いいたします。
藤井:ありがとうございます。「ゼネラリストを育成する教育機関を卒業する人を採用するのに、新卒採用専用のジョブディスクリプションを用意する会社があります。ジョブに取り組むそれなりの専門性がある人には響くとは思うんですが、ゼネラルな学生さんたちにはあまり響かないような気がしますが、そういう理解でよろしいでしょうか」。
新家:そのとおりだと思っていて、やはり一部の尖っている、自分のスキルを持っている方はそれでいいと思いますけど。学校を卒業して入社して会社である程度教育をしていただくことを想定している人が多いので。ここは否定せずに、「じゃあその時にその人たちのラーニングカーブをどれだけ縦に上げていくか」というのは、企業の努力だと思います。
一方で、じゃあ、そういう方法論だけ採るかというと、もう少し多様化して、ジョブで取り組む人にも門戸を開いている。この両方が必要じゃないかなって思いますね。
藤井:今回の部はこれで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。