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濱口秀司(全5記事)

イノベーションでは日本人が最強--ただしフレームワークとマネジメントを克服すれば

「働き方と学び方」の研究開発を強化することを目的に設立した「WORKSIGHT LAB.(ワークサイトラボ)」に、USBメモリなどの発案者であるの元パナソニック、Ziba戦略ディレクターの濱口秀司氏が登壇し、イノベーションを生み出すための方法論を教えます。本パートでは、クリエイティブ職に携わる人々を悩ませるマネジメント層の説得方法について濱口氏が解説します。会社組織がもつ構造的な問題のひとつであるコミュニケーションギャップを埋めるために覚えておくべきルールを紹介しました。

バイアスを壊すフレームワーキング

濱口秀司氏(以下、濱口):次に3番目いきます。イノベーションを実現するための課題、これですね。

バイアスを壊すっていうのわかったんですけれども、壊し方です。どのレベルで壊すかと、どのくらい壊すかというのがやっぱり問題なんですね。一番冒頭に申し上げましたけれどもちょっと壊し方が弱いんですね。フレームワークがちょっとちっちゃいんです。

フレームワークが問題です、これは。プロセスは受け入れるんだけれどもフレームワーキングを少し覚えないといけないと。

フレームワークっていったい何かというと目的と範囲と切り口が組み合わさったもんです。何か絵で書いてあるかもしれないけど、何のためのものなんですか。これは、この市場を理解するためのものです。もしくは、ビジネスモデルです。

何か目的があって、範囲っていうのはどの範囲まで考えたらいいんですかと。で、その範囲の中でどう物事を考えたらいいんですかっていうものなんですね。例えば、新しいバイアスを見つけて壊していこうという作業の時に、目的をさわるというのはすごい有効なんですよ。

どういうことかというと、ここにある問題、例えば「この机のここの角を丸めたらいいよ」っていう問題、目的ありますよね。そうすると美しくなる。でも、その先は、例えば、精神的にも気持ちいい、もしくは安全だ、もしくはそうすると売れるみたいな。実は高い目的があるんですよね。

で、通常ブレークスルーをしようと思うと、自分たちが今固着してしまって悩んでるところよりも、1歩とか2歩高いところの目的を設定すると全然違って見えるという手法があります。ただし、上がりすぎるとだめですよ。上がりすぎると組み立てていったら社会平和のためみたいになるから、社会平和で机の問題は解決できないんで。

でも、1歩か2歩上に上げると、これはテクニックとして有効です。

「目的・範囲・切り口」をズラす

で、切り口、これはさっき見ましたよね。例えば、さっき僕が組んだみたいに、実はそれはサイズとモビリティみたいな切り口で全然違って見えてくる。プレゼンで僕デモンストレーションをよくやるのがこれですね、範囲。

範囲ってちょっとわかりにくいんで、こういうのがあります。

範囲があります。写真ですね。ぱっと見たときに、ああ、きれいな山と川が流れていると、広いスコーピングです。ああきれいだなと、絵はちょっと汚いですけどね。

次に、ぎゅっと寄ると。こんど狭いスコーピングですね。川を拡大したらと。で、濱口が手を振っとんぞと、楽しそうやなと。で、これが狭いです。

ちょうど真ん中あたりに行くと実は滝があったと。実はこいつは喜んでいるんじゃなくて叫び声を上げていると。

この時点で何もかも変わりますよね。目的変わりますよね。「救え!」みたいな。切り口も変わりますよね。これ実は全部繋がってるんですね。目的と範囲と切り口は繋がっているんです。

実は、これを触っていって、少し高めのやはり目的。もしくは広めのスコープっていうので探っていくというのが実は日本人が弱いんですよ。いろんなベンチャーというかIT関係もいたんで、いろんなベンチャーがきて「濱口さん」と、「すごいイノベイティブなもの考えましたと。見てください」と、見るんですね。

これ何かというと「Twitterと連携して」とか、「Facebookのアプリです」みたいな。それちょっと小さくないかと。やるんやったら例えばTwitterと戦ったりしないのっていう、そのレベルでやっぱりスコーピングが弱いんですね。弱いというか、自分が楽しいものを作ってしまって、大きなスコープのもので戦おうという発想がやっぱり少ないですね。

ヨーロッパとかは多分侵略をやって、侵略やった後に100年ぐらい稼げるような深いフレームワークを用意したりするんですけども、それに慣れてないだけです。これは練習すればできます。これが問題1ですね。

Dellが起こしたイノベーションとは

フレームワークを、できるだけ触って、今、我々が考えてるフレームワークよりも高いところに持っていった状態でバイアスをたたき潰すと、これがあるとかなりイノベーティブになりますね。で、もうちょっとだけ深い話をすると、イノベーションをどこで起こしますかと。

「どこで起こすんですか」「いろいろ範囲ありますよね」と。実はですね、いろんな見方があるんですけれども、こういう範囲が設定できます。こっち人(スライドの右側)でこっち会社(スライドの左側)ですね。

僕がよく言うのはBTCビジネス、テクノロジー、コンシューマーと、イノベーションいろんなところで起こしているんですよ。

産業資本主義を引っ張っとったんで間違ってる人はよく、イノベーションとはテクノロジーイノベーションであると。真ん中であると、それはね昔は正しかったです。そこで新しいことをやったら、それを装置に入れて工場に入れてアセットにするとライバルと戦えると。それは正しかったんですね。

ひとつおもしろい例はですね、例えば1980年代に、コンピューターとコンピューターテレグラフの市場を見たときに、イノベーションの数がもし測れたとします。

そうするとね、こうなってるはずなんです。実際は測ったんですけど、僕。こうなってるんです。

これ何かっていうと、ほとんどのイノベーションは、CPUの速さだとか、インタフェースが優れてるかどうかというところのイノベーションで、顧客体験は別にコンピューターだと、もしくはビジネスモデルを作って出すだけだと、別にユニークなものはないんですよ。ひたすらすごいイノベーションはテクノロジー周りで起きていたんですね。1980年。

で、82年か83年に、変なやつ出てきたんですね。それではDellです。今ちょっと元気なくなってますけど、Dell出てきたんですね。Dellが何をやったかっていうと、あいつらCPUなんか全然作ってないですよね。何やったかというと一番左端でビジネスモデルですわ。

買っていただいたらクレジットカードで先にお金くださいと。作る前からお金よこしてくださいと。運転資本率がマイナスになるようなムチャムチャ酷いモデルです。先に金をよこせと。

次にそれ実現するために、サプライヤーと繋がるという、ビジネスモデル側のイノベーションをやっているんですね。

加えて今度こっち側(コンシューマー側)、顧客体験としてパソコンはWebでカスタマイズして注文できますという。

次に名前ですよね。Dellという自分の名前をつけてるんですよ。パソコンですよ当時。もうなんかスーパーコンピューターみたいなやつに「山田」とかつけてるようなもんですよ。それはイノベーティブですよね。

これは実は端と端、みんながやってないところをやったんです。これ何か示唆してますよね。

AppleはBTC全部を組み合わせて顧客体験をつくった

まず、イノベーションを考えるときに、みんなが頑張ってるとこだけやっていいんか? と。もう1個目の示唆はもう産業資本主義は終わってしまって、あちこちでイノベーションをやらないといけないゾーンが広がってるっていう話ですね。

Appleが何に強いかっていうと、いろんな強さはありますよね。

でもこのチャートで見ると、あいつら全部やっているんですよ。ビジネスモデルからプラットフォームから、ソフトウェアもやっているし技術的にもなんかやっとるし、顧客エクスペリエンスからやり倒してるんです。それ全部組み合わしてエクスペリエンスを作ってるんですね。

これは何を意味してるかというと、先ほどの日本人議論でいうとちょっと辛いです。なぜかというとフレームワークに弱いですよね。技術のとこだけでイノベーションをしてくださいって誰かがフレームを与えといてくれたら、イノベーティブなんですよ。だから強かったんです。ところがその蓋をパーッと空いちゃって、技術だけじゃなくて、顧客体験とかビジネスモデルも全部組み合わせちゃって戦わないといけなんですよって。全部OKですよと。

ゼロからフレームワーク考えてくださいって言われてるのと一緒なんで、実は日本人にとっては、今やばい状態なんですね。

でも、グッドニュースはイノベーティブなことを考えるプロセスには信用性が高いと。要はフレームワーキングだけしっかりしておいたら勝てるっていうことです。それがこの議論ですね。

なぜ管理職には話が通じないのか?

最後の議論にいきましょうか。次ですね、不確実性が高くなるんで、すごいものを思いつけば。何が起きるかというと、マネジメントの問題が起きるんですね。普通数字で取り扱いたい人は取り扱えなくなると。こういうチャートを書きましたね、先ほど。ストラクチャード・カオス。これね、違うふうに使いましょうか。

会社の中での人口分布を見た時にどうなっているか、ストラクチャードに考える人。カオティックに考える人。もし人口分布がこのチャートのままだったらラッキーですよね。クリエイティブな人がいっぱいいると。実際はね、そうじゃないんですよね。こうなっちゃってんですよね。

何かというとスーパーコンピューターみたいに考える人って1,000人に1人か1万人に1人しかいないですよね。何かこれってこの問題ってどうやって解決したらいいんですかって聞いたら「それは雲である」みたいな、わけのわからん禅問答みたいなこと言う人いないですよね。

大体何となく、すごい構造、ちょっと構造的に考えるの、理屈っぽく考えるのが好きな人と、何となく直感で、フワッと考えるのが好きな人とに分かれるんですね。で、やばいのはですね、マネジメント層は左に行くんですよ。再現性を求めてるんで、かつ数字で見たいんで左側に行くんですね。

で、クリエイティブな人たちは、右側に行くんですよね。これね言語が通じないです。例えば、クリエイティブな人がこんな感じの物ですって持っていったら、マネジメント層が何て言うかというとそれいくら儲かるのと、数字で問うんですね。これね、深い問題ですね。

例え真ん中に、すごくストラクチャード・カオスが得意な人がいても、結局ストラクチャード・カオスな状態で数字を取り扱ってないんで、マネジメント層とね、話がつかないんですよ。

イノベーションをマネジメントするために必要なこと

これは深い問題です。例えば今言った言語が通じないんで、マネジメント層がクリエイティブな人間と話すときには、数字で追わないとか、クリエイティブな人がマネジメント層と喋るときには、とりあえずストーリーっぽく喋るとかですね。いろんなルールがありますね。

それとか、例えば、生々しい話なんですけど僕のクライアントでP&Gがあるんですけれども、P&Gの中でパンテーンという部門がありますよね。

パンテーンの部門で、マーケティング戦略会議があるんです。で、6つのマーケティングのイニシアティブが半年にわたっていろんなプロジェクトをやって、パンテーンの社長と役員がいる前で6つのプレゼンをするんですよ。

その中身はいえないんですけれども、これ面白いんですよ。1個目プレゼンしますよね。その途中で「これが未来のユーザーのインスピレーショナルカラーです」みたいなの出てくるんですね。マーケティングですよ。仮に、それがパナソニックだとしましょ。まずその瞬間に役員の皆様が「えっ?」ってなるんですよ。一応紳士なので「うーん?」だけですけどね。

次の2番目のプレゼンテーションで今度ビデオが流れるんですよ。これは、未来の例えばこの国のマーケティングの、こういう感じのイメージで、みたいな。なんかよくわかんないんです、女の人が歩いているだけで。その時点で、パナソニック旧松下電工ですね。やめてくれと。おれは理解できないからと。

これね、P&Gのパンテーン部門は6つともずーっと聞いてるんです。これ、明らかにわかっとらんと思ってるんですけども、フンフンと言いながら聞いてるんですけど、すごい面白いですよね。

何かというと、こっち側にいる人(構造化の側にいる人)が超インスピレーショナルなものを、OKですと。僕は聞きます、私なんですけども女性だから。私は聞きますという主張なんですね。これはこっち側の人にとってすごく良いメッセージですね。例えば、こういうふうに組織を組んでってるんですね。

これ一例なんですけれども、要はよくわからないものをどうやってコミュニケートさせて決めていくかという、今までは数字とか論理だけで語れたもの。PL計算して、もしくは将来のキャッシュフローを計算してディスカウント・レートで割戻して、ネット・プレゼント・バリューは20億円ですっていう、その計算ではない物を取り扱えるようなマネジメントスタイルを作らないと、実はイノベーションってマネジメントできないんです。これが2番目の問題です。

見たこと、聞いたことのないものをバイアスを壊してつくる

まとめるとですね元のチャートに戻って、イノベーションというのは見たこと聞いたことがなくて、実行可能で議論を生むと。おもしろいのは実行可能であるというとこばっかりみんな話すんですね。こんなのどうでもいいです。もう慣れてるんで普段から実行可能なものをチェックする機能はあるんで、そんなのセルフで勝手に動かしてりゃいいです。

問題は見たこと、聞いたことのないものをバイアスを使って潰して作ることですね。もう1個は作り上げたあと不確実性が上がっちゃうんで、組織の中でどう受け取るかです。ただこのチャートの上でプロセス全体は日本人としては最強です、世界の中で。ただ、この上と下の問題を解決すればいいということですね。ということで、結論はですね、この通りです。

日本人最強ですね。以上です。

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