【3行要約】・「成果を出さなければ価値がない」という強迫観念に大人自身が蝕まれている現代、子どもたちに真の幸福を教えることは不可能です。
・ジェニファー・B・ウォレス氏は、高学歴・高収入層ほど不安やうつのリスクが高く、「自分は大切な存在だ」という感覚が欠如していると指摘します。
・外向きの評価に振り回されず、内側に根ざした価値を再発見するために、リーダーや親が今すぐ実践すべき「言葉の習慣」とは何でしょうか。
前回の記事はこちら 最初の本の取材を通じて、大人もまた満たされていないと気づいた
Jennifer B. Wallace(ジェニファー・B・ウォレス)氏:では、またメガネを掛けますね。(質問を見て)「『自分は大切な存在だと感じられること』についての発見は、最初の本での気づきをどのように変えましたか」。
ああ、いい質問です。私の最初の本は『
ネバー・イナフ』です。7年前に取材を始めました。そこで私は、若者の心の健康の危機、とくに高い成果を求められる生徒たちに注目していました。2019年には、全米の2つの政策報告書で、彼らは正式に高リスク群と位置づけられました。
設備の整った公立校や私立校に通う子どもたちは、平均的なアメリカの10代と比べて、不安やうつの臨床的な水準に苦しむ可能性が2倍から6倍、依存症の可能性が2倍から3倍高いことがわかったのです。
そこで私は、そうした環境の中でもうまくやれている子どもたちを探しました。そして最終的にたどり着いたのが、「自分は大切な存在だ」と感じられていることだったのです。うまくやれている子どもたちは、自分が大切にされていると感じるだけでなく、自分もまた周りの役に立っていると感じていました。
ただ、その最初の本を取材していた時には、子どもたちの健康にとって、大人自身が「自分は大切な存在だ」と感じられていることがどれほど重要か、私は十分にはわかっていませんでした。
取材先で家族や若者の話を聞き、帰り支度をしていると、親たちが私にこう言うんです。
「私にも、その『何をしても足りない』という感覚があります」と。
大病院で部門長をしている人が、「私は制度に押しつぶされそうです」と言う。金融業界で働くお父さんが、「少しぼんやりしていたらすみません。2年間取り組んできた案件で、昨日大きなことが起きて、しかもそれが自分の案件だったのに、決定のメールの宛先からわざと外されていたんです。昨夜はずっと眠れなくて」と言う。
教育者たちもまた、自分がどれほど感謝されていないと感じているかを、職場で、全国レベルでも地域レベルでも語ってくれました。
つまり私はすぐに気づいたんです。私たち大人が持っていないものを、子どもたちが持てるはずがない。まず私たち自身が、それを体現しなくてはならないのだ、と。
幸福を左右するのは、外向きの価値より内側に根ざした価値である
そして今、その「自分は大切な存在だ」という感覚を弱めているものは、本当にたくさんあります。少し今日も触れましたが、昔は近所の人を知っていました。宗教が万能だったと言いたいわけではありません。ただ、少なくともそこには、人が顔を出すことを期待される場があり、内面的な価値について語れる場もありました。
それから、私にとってもう1つ大きな発見だったのは、価値観が幸福感を大きく左右するということです。
ちょっとだけお話ししますね。私は、これが本当に興味深いと思ったんです。私たちは、世界のどこに住んでいても、だいたい共通した大事な価値観を持っています。
研究者たちは、それを大きく2つに分けて考えます。外に向かう価値と、内側に根ざした価値です。外に向かう価値とは、高い地位の仕事や大きな家、見た目の良さ、人気といったものです。一方、内側に根ざした価値とは、良き隣人でありたい、良き友人でありたい、精神的に成長したい、環境にとって良いことをしたい、といったものです。
そして、この2つは、片方に時間やエネルギーを注げば注ぐほど、もう片方に回せる余地が少なくなる傾向があります。つまり、外に向いた価値や物質的な目標の追求に力を注ぐほど、内側に根ざした価値を大切にする余地は、人生の中で少なくなっていくのです。
そして、ここが重要です。外に向いた価値は、心の不調や依存の問題と結びつきやすい一方で、内側に根ざした価値は、私たち自身や子どもたちに願うような幸福感と結びついているからです。
成果を強く求める環境にいる人たちに、良い価値観がないわけではありません。ただ、彼らが暮らす環境が、常に外に向いた価値観を強く刺激してしまうのです。
だから、最初の本を取材し、それを2冊目へとつなげる中で私が学んだのは、私たちは日々の暮らしの中で、何を大切にするのかを意識的に選び取らなければならない、ということでした。
私たちは、外に向いた価値をあおることで大きなお金が動く文化の中に生きています。見た目や人気を気にさせられ、「こういう条件を満たした時だけ、あなたには価値がある」と思い込まされている。
だからこそ、自分たちの幸福を守るために、内側に根ざした価値を意識して選び取る必要があるのです。
すみません、ずいぶん長い答えになってしまいましたね。では次を見ましょう。
感謝を伝えないのは、気まずさや思い込みも原因になる
(質問を見て)「感謝の言葉を伝えることを妨げる要因として、余裕のなさを挙げていましたが、ほかには何がありますか」。
これについては、とても良い研究がたくさんあります。ちょっとおもしろい研究で、私たちは配偶者よりも空港の保安検査の職員に「ありがとう」と言う可能性のほうが高いそうなんです。
では、何が私たちを止めているのか。
1つ目は、余裕のなさ。2つ目は、「配偶者は、自分がどれだけ感謝しているか、もうわかっているはずだ」と思ってしまうこと。3つ目は、同僚やほかの誰かを褒める時、「そんなことを言ったら、かえって気まずくなるかもしれない」と思ってしまうことです。
こうしたことが、私たちをためらわせているんです。
あるすばらしい研究では、人々に、人生の中の誰かに感謝の手紙を書いてもらいました。手紙を書いた人たちに、「受け取った相手はどう感じると思いますか」と尋ねると、「今さらこんな手紙をもらったら、少し気まずく感じるかもしれない」と答えるんですね。
でも、実際は違いました。人は、感謝の言葉を向けられることを喜ぶのです。「自分は大切な存在なんだ」と思い出させてもらえることを、うれしく感じるのです。しかも、それはそれほど大げさなものでなくてもいい。
人の中に見つけた価値は、言葉にして届けたほうがいい
私は今、それを自分の習慣にしつつあります。あるインタビュー相手は、その人のどこをすばらしいと思っているかを、きちんと言葉にすることを、「その人が生きているうちに花を贈ること」だと言っていました。
以前、南カリフォルニア大学のある教授の投稿を読んだことがあります。少し違ってしまうかもしれませんが、だいたいこんな内容でした。
「誰かの中に魔法を見つけたなら、それを本人に伝えてあげてください。あなたの言葉が、その人自身もまだ見たことのない自分の可能性を開くかもしれない」。
私はこれを、「言葉で相手の存在を照らすこと」だと考えています。もうすぐ母の日ですよね。母親たちが本当に欲しいものって何でしょう。自分は大切な存在だと知ることです。自分たちがしてきたすべてのことに意味があったと知ることです。
だから、少し気まずいかもしれないと思って言葉を飲み込みそうになった時は、ぜひそれを思い出してください。本当に大きな影響があるんです。