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Keynote: Jennifer B Wallace(全5記事)

「迷惑をかけたくない」はなぜ危ういのか 人を孤立へ向かわせる関係の変化 [2/2]

「見えていますよ」と伝えることが、人を落ち着かせる

私は一度、それを電車の中で目にしたことがあります。取材旅行の帰り、ニューヨーク市へ戻る電車に乗っていた時のことです。

若い男性が、怒鳴りながら車両に入ってきました。ホームで誰かにひどい扱いを受けた直後で、その相手はもうそこにはいませんでした。でも彼の怒りは消えず、そのまま車内まで持ち込まれていました。

彼は、誰か特定の相手に向けるでもなく、胸を大きく上下させながら、その場にいるみんなにぶつけるように怒鳴っていました。

周りの乗客たちは、座席に体を沈めるようにして、目を合わせないようにしていました。何が起こるかわからないという怖さもあったし、彼の怒りそのものがあまりにも圧倒的だったからです。

その時突然、車掌がその男性に落ち着いて、ゆっくりと近づいていきました。そしてこう言ったのです。

「大丈夫ですか。何か必要ですか」。

すると、その男性の上がっていた肩がすっと下りるのが見えました。彼は安堵したように息をつきました。

それから車掌は椅子を指さし、優しく、乗車券を見せてくださいと頼みました。車掌は体格ではどこをとってもその男性よりずっと小柄だったのに、不思議と彼を落ち着かせる力を持っていました。

なぜなら車掌は、その男性が混乱の中で、その人なりのやり方で、もっとも根本的な問いを発していることを理解していたからです。

「私が見えますか」「私の声が聞こえますか」 「私は大切な存在ですか」。

そして車掌は、やさしさと思いやりをもって、その問いに答えたのです。

「はい、あなたの声は聞こえています」「はい、あなたのことが見えています」 「はい、あなたはここにいていいんです。どうぞ座ってください」。

実は、あの電車での出来事が、私がこの本を書くきっかけになりました。それ以来、私はあの車掌のように生きようとしてきました。出会うすべての人が、心の中で「私は大切な存在ですか」と問いかけている。そんなふうに想像するようにしているのです。


私たちはみな、誰かに「あなたは大切だ」と伝えられる

私たちはみな、優しさと思いやりをもってその問いに答えることができます。

目を合わせることで、「あなたは大切な存在だ」と伝えることができる。感謝の言葉で、「あなたは認められている」と伝えることができる。応援し、支えることで、「あなたは見守られている」と伝えられる。そして、「あなたを頼りにしている」と伝えることもできる。

そして何より美しいのは、誰かに「あなたはこんなにも大切な存在なんだ」と思い出させるたびに、私たち自身もまた、自分がどれほど大切な存在かを思い出させてもらえることです。

本当にありがとうございました。これからみなさまの質問をいくつか受けることができるのを、とても楽しみにしています。もう入力してくださっているといいのですが、少し待ちますね。みなさま、ありがとうございます。

表面的な取り組みと本物の感覚はどう違うのか

(質問を見て)わあ、本当にたくさんすばらしい質問がありますね。「本物の『自分は大切な存在だ』という感覚と、表面的な感謝の取り組みはどう見分ければいいですか」。本当に、とてもいい質問です。

「自分は大切な存在だ」と感じられることは、単なる標語ではありません。実際に感じられる体験です。

では、どうすればそれを生み出せるのか。私は「相手に気持ちを合わせること」という考え方をよく話します。昔のラジオの周波数合わせ、わかりますか。車のラジオのつまみを少しずつ回して、ちゃんと電波を拾うあの感じです。誰かに気持ちを合わせるとは、そういうことです。

その人が見えている、その人を気にかけていると伝えること。あの車掌のように。感謝も、そういうかたちで伝えることができます。そこが違いなんです。


教育者自身が大切にされてこそ、子どもも守られる

(質問を見て)「今の環境の中で、教育者たちに『あなたは大切だ』とどう伝えればいいですか」。はい、これもすばらしい質問です。

私の本には、教育者の立ち直る力を扱った章があります。これは、今まさに最前線で子どもたちを育て、ある意味では地域社会を支えているすべての人にとって、とても大切なテーマです。

研究を通して私がわかったのは、若い人たちが「自分は大切な存在だ」と感じられるかどうかは、その周りにいる大人たち自身が「自分は大切だ」と感じられているかどうかに大きく左右される、ということです。

だから、学校で私たちができる最善のことは、そこにいる大人たちの「自分は大切な存在だ」という感覚を後回しにしないことです。そして私は、学校にいる誰もが教育者だと思っています。警備員も教育者です。食堂で働いている人も教育者です。

その4つの土台に目を向けて、その人たちが、自分は大切にされ、感謝され、支えられ、頼られていると感じられるようにすることが大切なのです。本の中には、そのためのもっと具体的な方法もたくさん書いてあります。

制度や組織も「大切な存在だ」と感じる感覚を育てられる

では次です。ちょっと待って、メガネをかけますね。(質問を見て)「自分は大切な存在だと感じられるように、制度や組織を設計することはできますか」。

はい。まさに今、私が取り組んでいることです。この本では人間関係について多く書いていますが、後半では、そうした感覚を育てるための居場所をどう作れるかについても話しています。

その感覚を育む制度は作れます。実際、従業員が入社した瞬間から、働いている間も、そして退職する時でさえ、自分は大切な存在だったとわかるようにしている企業もあります。自分の意思で去る場合でも、そうでない場合でも、退職時にその感覚が守られることはとても重要です。間違いなくそうです。


頼られすぎて苦しい人は、自分自身も大切な存在として扱うこと

(質問を見て)「多くの人に必要とされすぎていて、頼られすぎていると感じる人には、どんな助言がありますか」。

いい質問です。私は、それは本当の意味での「自分は大切な存在だと感じられること」ではないと思います。本当に大切なのは、自分の必要と他人の必要の釣り合いが取れていることです。

私たちは、リーダーであったり、教育者であったり、親であったり、高齢の親や親族の介護をしていたりすると、自分は周りの人にとってとても大切な存在なのに、自分自身をまったく優先できていないと感じることがあります。

この点について、助言は2つあります。1つ目は、これは私自身も訓練しなければできなかったことですが、私はこれを「自分自身を大切な存在として扱うこと」と呼んでいます。

私は何でも30秒単位でやるんですが、毎日歯を磨く30秒の間に、自分にこう問いかけるんです。「今日は、自分が一番いい状態で、私を頼りにしている人たちの前に立てるようにするために、満たすべき小さな必要が1つあるとしたら何だろう」。

それは姉と45分電話することかもしれない。あるいは、セントラルパークを散歩することかもしれない。私はニューヨークに住んでいるので、それほど大げさなことではありません。

あるいは、おばあちゃんがしてくれるみたいに、自分を甘やかすことかもしれない。私は「自分を母親のように世話する」というより、「おばあちゃんならどう自分を扱うだろう」「何をするかな」と考えるんです。一番心地いい毛布にくるまって、小説を読んで、チョコレートを少し多めに食べるかな、と。

自分に何が必要なのか。結局、これは自分自身を優先する練習なんです。しかも、1日のうちたった30分でもいい。

でも、もう1つ言いたいのは、それを本気で優先してほしいということです。他の人のことが全部片づくまで待たないでください。ちゃんと、自分のための時間を見つけてください。

2つ目ですが、これはメイヨー・クリニックで行われ、その後も同様の結果が確認された研究です。対象になったのは、忙しい医療従事者であり、同時に母親でもある女性たちでした。彼女たちは、幸福感が低く、ストレスが高いと報告していました。

そこで研究者たちは、あるシンプルな取り組みを試しました。12週間、週に1時間だけ集まり、お互いを支え合い、「私は見てもらえている」「私は聞いてもらえている」と感じられる時間を持ったのです。グループは5人か6人ほど。週に1時間、見てもらい、聞いてもらい、大切にされていると感じられる時間です。

すると12週間後、あれほど忙しい人たちだったにもかかわらず、1人も抜けませんでした。ある女性は、「週にたった1時間で、こんなに深い友情が築けるなんて驚いた」と話していました。しかも、ストレスホルモンの値も下がっていたのです。

ここからわかるのは、私たちの立ち直る力は、人との深いつながりや、そこから得られる支えの上に成り立っているということです。何十年にもわたる研究が、そのことを示しています。

もう1つ、こんな研究も思い出してほしいんです。2人の人が坂の麓に立っていて、その傾斜がどれくらいきついかを判断するよう求められました。すると、誰かと一緒に立っていた時のほうが、1人で立っていた時よりも、その坂はそれほど急には見えなかったのです。

人とのつながりは、人生の坂道を少しゆるやかに感じさせてくれる。だから、もし「自分ばかりが求められすぎている」と感じているなら、まず1日に1つ、小さくても自分を優先する方法を見つけてください。

そして、あなたの人生の中で、「見てもらえている」「聞いてもらえている」「気にかけてもらえている」と感じさせてくれる人を、1人か2人見つけてください。あなたが誰かを支えようとしているのと同じように、あなた自身もまた支えられていいのです。

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