【3行要約】・完璧に見せようとするほど人とつながれない――そんな「完璧主義の孤独」が多くのビジネスパーソンを悩ませています。
・研究者ウォレス氏は、社会的完璧主義の高まりを背景に「自分の不完全さを見せることこそが、深い人間関係を生む」と指摘します。
・分の「ぐちゃぐちゃした部分」を人に見せること、そして相手の小さな瞬間に気づくことが、本当のつながりをつくる第一歩です。
前回の記事はこちら 完璧さではなく、不完全さが人をつなげる
Jennifer B. Wallace(ジェニファー・B・ウォレス)氏:でも、現代社会には難しさがあります。私たちの文化は、本来の自分のままでいることを、これまで以上に難しくしています。
研究者たちはこれを、「社会から求められる完璧主義」と呼んでいます。社会は私たちに、欠点のない存在であることを求めていて、ある見た目で、ある水準で成果を出して、そうして初めて価値があると認められる、そんな思い込みが強まっているのです。
何十年も前に、神学者ヘンリー・ナウエンは、この圧力の奥にある信念について警鐘を鳴らしていました。私たちの内側にある本当の自分だけでは足りない、という信念です。
彼はそれを、「社会の3つの大きな嘘」と呼びました。
私は、自分が持っているもので決まる。
私は、自分がしていることで決まる。
私は、他人が私をどう思うかで決まる。
私たちは知らず知らずのうちに、こうした嘘を吸い込んでしまいます。
もし私が持っているもので決まるのなら、もっとたくさん持たなければならない。もっと物を集めなければいけない。大きな家が必要だ。高級車が必要だ。いい腕時計が必要だ。
もし私がしていることで決まるのなら、もっと成果を出さなければいけない。もっと達成しなければいけない。いつまでも生産的でいなければいけない。次の目標をずっと追い続けなければいけない。
もし私が他人にどう思われるかで決まるのなら、私は完璧でいなければいけない。でも、ここに問題があります。完璧主義の仮面の裏に隠れている人と、本当に深くつながることはできないのです。

つるつるした面に付箋を貼ろうとしたことはありますか。私はあります。でも、すぐに滑り落ちてしまう。付箋には、少しざらついた面、何か引っかかるものが必要なんです。
人間関係も同じです。私たちのぐちゃぐちゃした部分、整っていない部分を人に見せた時にこそ、相手はそこに結びつき、つながることができるのです。研究者たちは、これにも名前をつけています。「美しい不完全さの効果」と呼ばれるものです。
私たちは、人から注目される価値を持つためには、どれだけ完璧でなければいけないかを過大評価しています。そして反対に、自分の欠点や内側のぐちゃぐちゃした部分が、どれほど自分を本物らしく見せ、人との距離を縮めるかを過小評価しているのです。
ですから、自分はちゃんと見てもらえていて、かけがえのない存在だと感じるために、大事なのはこういうことです。
自分自身もその感覚をもっと持ちたいなら、人を自分の内側に入れてください。本当のあなたを見せてください。あなたの人生の、少し整っていない部分ものぞかせてください。
そして、誰かに「自分は大切な存在だ」と感じてもらいたいなら、まずはその人をよく見ることから始めてください。午後3時にその人が何に手を伸ばすのかに気づくこと。そして、その人がエムアンドエムズを好きだということを覚えておくこと。
人が自分は大切な存在だと感じられる土台は、こういう小さな瞬間の積み重ねで作られていくのです。
感謝と承認は、自分の存在の意味を証明してくれる
そして次に来るのが、自分という存在や自分のしていることが、きちんと違いを生んでいると感じられることです。
私たちはみな、自分という存在や自分のしていることが何か意味を持っている、という社会的な証拠を求めています。そして、その証拠を与えてくれるのが感謝や承認です。
では、なぜ私たちはそれをもっと感じられないのでしょうか。なぜ私たちは、人にもっと感謝の言葉を伝えないのでしょうか。私は、その理由は多くの人が限界までいっぱいの状態で生きているからだと思います。
今、私たちには本当にたくさんの情報が押し寄せています。ニュース、仕事、締め切り、通知。その一方で、たくさんのことを外に出すことも求められている。やることリストをこなし、ただ1日を乗り切るだけでも、私たちは自動運転のような状態で生きるしかなくなってしまう。
でも、ここで大事なのは、自動運転のような状態で生きていると、見落としてしまうということです。誰かが自分を認めてくれている合図も、自分が誰かに「あなたを認めている」と送れる合図も、その両方を見逃してしまう。
職場は、人を消耗させる場所にも支える場所にもなりうる
このつながりの断絶が最もはっきり表れるのが、職場です。本来、職場は「自分は大切な存在だ」と感じられる力を生み出す場所になりえます。なのに、しばしばその逆をしてしまっている。
今、ギャラップの調査では、従業員の70パーセントが仕事に対して気持ちが離れていると答えています。70パーセントです。
私の研究でわかったのは、多くの人は怠けているから気持ちが離れるのではない、ということです。自分のしていることが何か違いを生んでいるとは思えないから、気持ちが離れていくのです。
一歩引くことは、一種の自己防衛になります。ある種の対処の仕方なんです。自分の存在が見えていないように感じさせる場所にエネルギーを注ぎ続けるよりも、努力を引っ込めてしまったほうが傷つかずにすむのです。
でも私は、これをうまくやれている職場も見てきました。感謝や、「自分は大切な存在だ」と感じられることを、きちんと機能させている職場です。
例えば、ウィスコンシン州フィリップスにある工場を訪れた時、私は思いがけないものを見ました。そこで働く人たちが、自分は職場でとても大切にされていると感じていて、そのおかげで長い勤務のあと家に帰っても、パートナーや親に対して「一番いい自分」でいられると話しながら、涙ぐんでいたのです。
自分の仕事が誰の役に立っているかが見えることが大切
その工場の管理職が、従業員に「あなたは大切だ」と伝えるためにしていたシンプルなことが1つありました。
製造現場のすべての作業台に、その場所で作られている部品の説明カードが置かれていたのです。そこには、その部品が最終製品のどこに使われるのかが書かれていました。さらに、そのカードには、その製品をいつか使うことになる人の写真と物語も載っていました。
その物語のカードは従業員に、「自分たちはただ部品を作っているのではない」「他の誰かが生活を懸けて頼っている」「自分たちは意味のあるものを作っているのだ」と強く思い出させていたのです。
私は、創造的な仕事をするチームでも、技術系の起業家でも、金融の幹部でも、教育者でも、いろいろな場所で「自分は大切な存在だ」と感じられる職場を見てきました。
業界が違えば抱えるプレッシャーも違います。でも、そうした組織はみな、同じ根本的な真実にたどり着いていました。従業員が「自分は大切な存在だ」とわかっている時、人はより一生懸命働き、忠誠心を持ち、自分の役割により多くの力を注ぐのです。
価値を認められていると感じることは、仕事への関わりを生みます。そして、仕事への関わりの深さは、生産性、革新性、利益を予測するうえで最良の指標の1つです。
つまり、「自分は大切な存在だ」と感じられる文化を作ることは、従業員のために正しいことというだけではありません。ビジネスとしても理にかなっているのです。ただし、職場で感謝されることが大切だとしても、それだけでは十分ではありません。
重要なのは、努力の先にある結果まで見えること
私たちには証拠が必要です。自分のしていることが、本当に何かを変えているという証拠が必要なのです。
そして私は研究を通して、どれほど「意義ある仕事」に見える職業でも、この点は同じだと感じてきました。そこで私は、間違いなく社会のためになっている仕事に就いている人たちに目を向けました。
例えば消防士です。彼らは燃えている建物に飛び込み、私たちを救うために命を懸けています。だからこそ、自分たちの仕事の意味を強く感じているはずだと思いますよね。ところが、サウスカロライナ州の消防署長グレッグは、意外なことを教えてくれました。消防士であっても、自分たちの仕事の意味を疑うことがあるのだ、と。
どうしてそんなことが起こるのか。私はそう尋ねました。するとグレッグは、ある出来事を話してくれました。
新人だった頃、彼と仲間たちは交通事故の現場に呼ばれたそうです。若い女性が車内に閉じ込められていました。グレッグは事故車の中へ飛び込み、入り込める隙間を見つけて中に滑り込み、自分の重い防火コートを彼女にかけました。ガラス片や破片から守るためです。その間、仲間たちは救助器具を使って彼女を助け出そうとしていました。
グレッグは彼女のそばに付き添い、揺れのたびに彼女を落ち着かせながら、「必ずここから出します」と声をかけ続けました。
そして彼らは、実際に彼女を助け出しました。その後は救急隊が引き継ぎました。グレッグたちにわかっていたのは、そこまででした。
そのあと彼女がどうなったのか、彼らにはわからない。自分たちの働きは本当に何かを変えられたのか。彼女はまた歩けるようになったのか。無事に退院できたのか。
グレッグは、自分たちの努力の先にある結果から切り離され、その結末を知らされないことが、燃え尽きや、時には冷めた気持ちさえ生むのだと話してくれました。
だから、グレッグは消防署長になると、それを変えました。救助のその後を追跡する仕組みを作ったのです。自分たちの働きで命が救われたのか、誰かの苦しみがやわらいだのかを、消防士たちに知ってほしかったからです。
グレッグは、とても大事なことを知っていました。重要な仕事をするだけでは足りない。自分の仕事が本当に違いを生んでいると、私たちは知る必要があるのです。