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Keynote: Jennifer B Wallace(全5記事)

テクノロジーが進むほど人はなぜ過去を求めるのか 懐かしさの奥にある人間の欲求

【3行要約】
・人とのつながりが希薄になる現代、「自分は大切な存在だ」という感覚の喪失が静かに広がっています。
・ジャーナリストのウォレス氏は、AI化が進む今、「役に立たない」という感覚が大規模に広がる危機があると警鐘を鳴らします。
・個人、組織が今すぐできるのは、日常の小さな行為で「あなたを見ている」と伝えることから始めることです。

懐かしさの正体は、過去そのものではない

Jennifer B. Wallace(ジェニファー・B・ウォレス)氏:みなさま、こんにちは。今日こうして、みなさまと一緒にいられることを本当にうれしく思います。

ちょっとみなさまに聞いてみたいんです。最近、私はあることに気づいていて、もしかしたらみなさまも同じように感じているのではないかと思うのですが。

私たちは今、人類の歴史の中でも最大級の技術革新のただ中にいます。なのに一方で、過去に手を伸ばすことをやめられない。レコードの売上は伸び続けています。固定電話も復活していますし、使い捨てカメラも戻ってきています。今日もロビーでたくさん見かけました。

人々は「昔ながらのピザハット」に行くために、何時間も車を走らせています。これ、聞いたことがありますか。あの店は、1990年代そのままの雰囲気になるように作り直されたレストランなんです。あのランプ、チェック柄のテーブルクロス、それから、覚えていますか、あの大きくて赤くて分厚いカップに入ったダイエットコーク、サラダバー。あの頃のあれこれが、全部戻ってきているんです。

では、この懐かしさはいったい何なのでしょう。私たちは本当は何を求めているのでしょうか。

私は、それは昔の品物そのものではないと思っています。私たちが本当に恋しく思っているのは、あの頃の気持ちなのだと思います。かつては日常の中に自然に組み込まれていた、「ここに自分の居場所がある」という感覚が、今は失われている。その感覚を私たちは懐かしんでいるのです。

水曜日のカードゲーム。日曜の夜の大人数で囲む夕食。毎週同じ場所で会う、いつもの顔ぶれ。あのプラスチックの固定電話で、通知に邪魔されることなく、相手が自分だけに注意を向けてくれていた時間も、私たちは懐かしく思っています。

「よき隣人である」ということが、お互いを気にかけ合うことを意味していた時代も恋しいのです。みんなが自分のことだけしていればいい、という時代ではありませんでした。

私は、私たちが本当に懐かしんでいるのは、「自分は大切な存在だ」と感じられることだと思っています。自分は価値ある存在で、周囲の人たちの人生にも価値をもたらしている。そう感じられることです。


「自分は大切な存在だ」と感じることは根本的な欲求である

ここにいる多くの人は、「自分は大切な存在だと感じられること」という考え方自体は知っていると思います。ふだんからよく使う言葉でもありますよね。

でも、多くの人が知らないのは、「自分は大切な存在だと感じられること」は、実は私たち全員にとって根本的な人間の欲求だということです。私たちは、自分が大切にされていると感じる必要がありますし、自分が周囲の世界に価値を加えていると知る必要があります。

これは、進化の過程で受け継がれてきたものです。ごく初期の祖先にとって、集団の中で大切な存在として認められることは、守られること、生き延びることにつながっていました。反対に、集団から外されること、大切ではない存在とみなされることは、死を意味していました。

その古い仕組みは今も私たちの中に残っていて、私たちの行動を動かしています。だから、自分は大切な存在だと感じられる時、私たちは前向きなかたちで世界に関わります。貢献したくなる。関わりたくなる。つながりたくなる。

でも、自分は大切な存在ではないと感じさせられる時、私たちは苦しみます。不安になったり、落ち込んだり、スマホを見続けて感覚を鈍らせたり、その痛みをやわらげようとして何かに依存したりする人もいます。

また、その痛みが内側に向かう人もいます。自殺願望のある男性たちを対象にしたある研究では、彼らが自分の苦しみを表す時によく使う言葉が調べられました。

「役に立たない」「価値がない」。この2つの言葉は、自分は大切な存在ではないと感じることの重さを、まさに表しています。

これからの時代に問われるのは、人間の欲求をどう守るか

そして今、正直に言うと、私が夜眠れなくなるほど気にかかっているのは、このことです。

近いうちに、その「役に立たない」「価値がない」という感覚が、これまでにない規模で広がるかもしれない。技術業界のリーダーたちは、今後10年のうちに、多くの仕事において人間は必要とされなくなるかもしれないと予測しています。

多くの仕事において、人間は必要とされなくなるかもしれない。想像するのも難しいですよね。だからこそ、私たちは過去に手を伸ばしているのだと思います。

そして私が信じているのは、これから先の最大の課題は、ただ機械についていくことではない、ということです。私たちが急速に作り上げているこの新しい世界の中で、私たち全員が持っているこの根本的な人間の欲求を、どう守るかなのです。

人々がこれからも、自分は大切な存在だと感じ続けられるようにするには、どうすればいいのか。実はその答えは、みなさまが思っているよりずっとシンプルです。

まずは自分の状態を測ってみる

「自分は大切な存在だと感じられること」の力は、私たちを苦しめているものを見極める手がかりにもなりますし、その解決策にもなります。

心理学者たちは、いくつかの率直な質問によって、その感覚を測ります。もしよかったら、紙でもスマホのメモでもいいので、みなさまにも一緒にやってみてほしいんです。

研究では、1から4の尺度で答えてもらいます。1は「あまりそう思わない」、4は「とてもそう思う」です。安心してください。みなさまの点数をここで聞いたりはしません。

では、いきます。
1.あなたは、他の人にとってどのくらい大切な存在ですか。
2.他の人は、どのくらいあなたに注意を向けていますか。
3.もしあなたがいなくなったら、どのくらい惜しまれると思いますか。
4.他の人は、どのくらいあなたに頼っていますか。
5.そして、他の人はどのくらい、あなたを気にかけていることを示してくれていますか。
では、少し時間を取るので、合計してみてください。

もし点数が20点に近いなら、あなたはかなり「自分は大切な存在だ」と感じられているということです。他の人にとって自分には意味があるという感覚が、かなりしっかりしている。

でも、もし点数が低かったとしても、知っておいてほしいことがあります。その感覚は固定されたものではありません。自分は大切な存在だと感じにくくなっている時でも、それを高めるために私たちが実際にできることはあります。


「大切な存在だ」と感じる土台を作る4つの要素

そして、その出発点になるのが、自分は大切な存在だと感じられる土台を作る4つの大事な要素です。順番に見ていきましょう。
1つ目は、自分はちゃんと見てもらえていて、かけがえのない存在だと感じられること。
2つ目は、自分という存在や自分のしていることが、きちんと違いを生んでいると感じられること。
3つ目は、誰かが自分の味方でいてくれて、自分の目標や幸せを気にかけてくれていると感じられること。
4つ目は、自分は必要とされ、信頼され、いなくなったら惜しまれる存在だと感じられること。
この4つは、覚えやすい並びになっています。では、1つずつ見ていきましょう。

日常の小さな瞬間が「見てもらえている」という感覚を作る

まずは、自分はちゃんと見てもらえていて、かけがえのない存在だと感じられることです。

私の研究で一番驚き、意外だったことがあります。人々に「自分が大切な存在だと感じた瞬間を教えてください」と聞くと、誰1人として人生の大きな出来事を挙げなかったのです。節目の誕生日でもない。大きな昇給や昇進でもない。

人々が語ったのは、いつも日常の小さな瞬間でした。病気の時に近所の人がスープの入った鍋を持ってきてくれたこと。仕事で本当に大変な週のあと、同僚が電話をかけてきて様子を気にしてくれたこと。

私が学んだのは、人は特別な場面でだけ大切にされたいわけではない、ということです。何でもない日常の中で、自分が大切な存在だと感じたいのです。

自分は大切な存在だという感覚は、私たちの暮らしの細部に宿っています。私はそれを、ある全国会議で基調講演をしていた時に目にしました。ある男性が同僚たちから表彰されていて、同僚たちは彼の数々の功績を読み上げていました。本人にとって、とても誇らしい瞬間だったと思います。

でも、彼が涙を流したのは、表彰状を受け取ったそのあとに起きたことでした。同僚が演台の後ろから手を伸ばして、大きなエムアンドエムズの瓶を取り出したのです。そのエムアンドエムズは、彼が午後遅くによく食べるお気に入りのおやつでした。同僚たちはそれを見ていて、覚えていたのです。

そのエムアンドエムズは、表彰の盾にはできないことをしてくれました。それは、「あなたのことを私たちはちゃんと知っている」という感覚でした。つまり、「あなたは、その人らしい癖も含めて愛されている」というメッセージだったのです。

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