「これだ」というきっかけは、好きなことを届けたいという気持ち
個人開発自体に対しては、「本当にやってみたいな」とか「やると勉強になるんだろうな」という気持ちをずっと持っていたのですが、「これだ」というきっかけがありました。興味はないけど儲かりそうなことをやるというよりかは、自分が好きなことを求めて届けるものを作りたいなと思ったんですね。
妻は麻雀を打てるんですが、雀荘へ行った時に、ノーテンリーチをやらかしちゃったんですよね。本人がちょっと気まずそうにしているのを見て、「そういうところを学べるようにしてあげたい。リアルで打つのが怖くならないようにしたいな」みたいに思ったのが原体験になって、麻雀初心者のレベルアップや啓蒙に着目しようと思うようになりました。
実際、麻雀学習コンテンツっていっぱいあるんですが、実は超初心者向けって読み物が多くて、「このセグメント、超初心者×実践型って意外とないなぁ」みたいなところで「よし、これでいこう」みたいな話をしていました。
AI開発のコツは「要求の言語化」と「スコープの縮小」
実際作り上げる部分を言いますと、みなさんはAIを触っているのであまり言及する必要もないのかもなと思いますが、やはり要求をいかに言語化するのかというところや、作業スコープを小さくするところがコツかなと思います。
AI開発は、やっている中でだいぶうまくなっていったなと思う部分があります。自分はClaude Codeを使っていたのですが、CLAUDE.mdを育てる意識がめちゃ大事だなと思いました。
動作チェックの観点を出力させるとか、レビューの観点。「このコードにしている理由は何ですか? 他の選択肢もあったけど、それを排除した理由は何ですか?」と聞いて、自分で説明させるところを充実させることでだいぶ楽になったので、そのあたりはTipsみたいな話ですが、やりながら学んだこととしてありました。
「AIが作ったコードがぐちゃぐちゃ問題」はスコープ管理で向き合う
あとは、よくある「AIが作ったコードがぐちゃぐちゃ問題」みたいなものは私も経験しました。管理画面で問題を修正できる機能を使っていたのですが、バグっちゃって、意味がわからないフォーマットに問題が変換されることがありました。やはりスコープを小さくして、きちんと確認できる粒度でやることが大事だな、と学びながらやっていました。
これは開発している時に情緒を壊された図です。管理画面を作ろうと思ってやってみたら、土曜日の1日ぐらいでぱっとできちゃって、それに感動しているツイートなんですけど、その2週間後ぐらいに管理画面が爆発してぐちゃぐちゃになって、「AIは信じられない」と感じ、情緒を壊されながら前に進んでいった感じです。
ユーザーの声に触れると、自信に変わる
最後に「作ったものを届けよう」という話ですが、ゼロイチで初めてアプリを出す時は、すごく不安になるなと実感しました。体験して初めて思うことってあって、「これを出して(ユーザーは)喜ぶのかな?」とか、「どうなんだろう?」みたいな気持ちで、ずっと無限に動作チェックをしたり、細かい修正ばかりして、いつまでも出さないみたいな状況でした。
そんな中で、やはりユーザーの声に触れることで、自信を持てました。麻雀のプロが大阪にもいて、その勉強会に参加して、勉強をしに来ている人たちに触ってもらうということを飛び込みでやってみました。
アプリのApp Storeもわかっていないおばあちゃんが、「何これ」とすごく楽しそうに触ってくれているのを見てすごく感動して、「あ、笑ってくれている人がいるんだ。自分はこういう人に使ってもらいたいと思ってこのアプリを作ったんだ」という確信があって、それをもってリリースをしました。1次情報は大事だなと思ったエピソードですね。

実際リリースしてみて、正直バズったとか、めちゃ流行っているとかではないのですが、「こういう人に届けたかったんだ」みたいな人からの熱いコメントをいただいて、胸が熱くなりました。

ここまでがやったことレベルの話です。お客さんと話して作るものを考えて、みんなで作ってもらうというプロセスと、ふだんの実務のプロダクトマネージャー業と比べると、本当に手を動かすし、自分が話を聞かないと絶対に1次情報が入ってこないという環境でものづくりをしてきました。
個人開発で得た「学び」と「成長の壁」
学びや成長の壁みたいなところで、どうだったのかをおさらいしていきます。まず第1に思うのは、やはり仕事でやるのとは、また別の筋肉を使ったということです。
タイミーは、やりたいことはありつつ、ある程度大きいお客さんには既存の仕組み・体験もあるので、まったくゼロから、「何のためにどんなものを作るんだ」と考える機会って、実務では今はそんなにはありません。そんな中で、いわゆるゼロイチ、プロダクトのあり方みたいな大きな話を考える機会を得られたのはおもしろかったです。

また、届けるというところですね。アプリの認知がされると、意識せずとも勝手にダウンロードされますが、物はそこまで弱くないと思うのに、届かないみたいなことを実感しました「魅力的品質とは何なんだろう?」とか、「刺さるメッセージングはどのようなものなんだろう?」とか、そういったところでの力不足を強く感じる結果になって、良い機会だったなと思いました。
また、これは作り始めた時には想定していなかった学びですが、「1人で物を作る、自分で考えて決めるってどういうことなんだろう?」とすごく実感する機会がありました。会社で仕事をしていると、周りにはエンジニアやメンバーがいたり、営業の方から要望があったり、プロダクトの戦略や目標があったりして、なんとなく拠り所になるものがあるんですよね。
私は「慣性」という表現を使いますが、「こういう方向なのかな」とか、「こういう話をすると、なんとなく答えが出るんじゃないかな」みたいな、そういう環境にいるんだなぁ、ということを、すごく自分1人で開発に向き合うことで感じることがありました。

個人開発においては当然他に誰もいないわけですから、「ユーザーはどんなものを求めているんだろう」とか「どんなものならばそれが伝わるんだろう」みたいなところを、自分でキャッチアップさせる必要がありますし、自分で考えて決めないといけません。
これがけっこうおもしろかったというか、1人で物を作るからこそ、得られた苦労もあったかなと思います。そう考えると、けっこう大胆なことも個人開発においてはやりやすかったところがありました。
作ってから触ってみて「ぜんぜん違うわ」と思ったら、バッと全部壊して作り直したりもしました。実務の場合、やるべき時は当然やるべきですが、それを切り出せるだろうかというと、難しいこともあるだろうなと思ったり。
細部の挙動についても、自分の持ち物ゆえかはわかりませんが、「もっとこうあるべきだろう」みたいな、ものすごいエゴやこだわりを発揮する機会が多かったです。「実務でそこまでこだわっているだろうか」とか、「そこまで考え抜いているだろうか」みたいなギャップが、孤独ゆえに明らかになりました。
実務へ引き戻すと「我が子のかわいさ」で向き合えているかが問われる
翻って実務に置き換えると、「自分の」というところを(スライドに)強調して書いているんですが、「我が子のかわいさのレベルで、タイミーというプロダクトに自分は向き合えているんだろうか」みたいなことを思ったり。
あとは、プロダクトマネージャーは、人を説得して、人に動いてもらってやる仕事ではあるのですが、「着地や合意の得やすさみたいなところがバイアスになって、丸い判断をしていないかな」みたいなことや「1人で物に向き合う、1人で考える、真に自分の頭で自分の得た情報で物を考えるってどういうことなんだろう?」というのを考える機会がありました。
これは当初想定していた守備範囲の話とはぜんぜん違うのですが、個人開発で自分でやるからこそできた学びかなと思います。
PMは大変だからこそ、成長機会を意図して作る
まとめに入っていこうと思います。キャリアの話ですが、やはりPMのお仕事はいろんな職責があって、曖昧性も高く、やるべきことが多く、また本当に大変なお仕事だなと思います。また、それに対応するためにも、たくさん成長して変化していく必要があるというのもお話ししたとおりです。
そんな中で、書籍を読んでみるとか、1人で物を作って向き合う、個人でプロダクトのすべてに向き合うという経験は、すごく強力な成長の機会になると思うというお話をしました。
個人開発はハードルが高いと思われがちですが、生成AIの力によって、ハードルがめちゃ下がっています。自分は3ヶ月ぐらいかかってしまったのですが、簡単なものならば、週末の2日ぐらいでだいたい動かすところまで作れたりするので、スコープなどやることを絞れば、誰でも作れるかなと思います。
重く始めず「素振り」で試すのもおすすめ
最後に、ひととおり個人開発の話ばかりしてきたのですが、ぜひ実践に移っていただけるとうれしいなと思って、おまけを作ってみました。自分もたまにやっていることですが、あまりハードル高くモノを作らずに、素振りしてみるのも非常にお勧めです。
私は今回、リリースした話をしたのですが、これの裏にはリリースしていない、作ってみたけどしょうもないなと思って消したものもいっぱいあって、そういったものをなんとなくためておいて、ペライチのページを作ってみて、駄目だといって潰すみたいなことをたくさんやるのもめちゃお勧めだなと思います。
もし「話がおもしろかった。やってみよう」と思った方がいれば、ぜひやってみていただけるといいかなと思います。私の発表は以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)