AIにはできない「目的設定」の威力
まず1個目が目的設定です。目的設定というと、僕は(ホンダの創業者である)本田宗一郎がめちゃ好きで尊敬しているんですが、彼がF1にチャレンジした時にこんなことを言ったんですよね。「できるかできんかはわかんねえけど、俺はやりてぇよ!」と。

こういうのは、AIは言えないですね。こういう魂の叫びみたいなやつ。「これをやるんだ」「この組織はここを目指すんだ!」みたいなもの。これはAIには無理ですね。
不確実な未来に向けて、起点を生み出す意志です。AIは成功確率の高い案統計で裏付けることはすごく得意なんだけども、「なんでその事業をするの?」とか、「自分にとって本当に意味があることって何?」とか、このような問いに対してAIは答えられない。

AIは過去のデータに依存していて、価値観や意味を自ら定義する構造になっていないからです。目的設定というのは、不安定な未来に対して「こうありたい」という人間の意志。これは人間だけが持つものなんだと思います。
人間の中核能力として、次には内発創造性を提唱します。例えば(アルベルト・)アインシュタインが「空想は知識よりも重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む」と言っています。この内発創造性という言葉は造語で、僕が作った言葉です。

AIの創造性はすごいですよね。もう詩とか音楽とかね、音楽なんかヒットさせちゃっています。AIは、膨大なデータの中からパターン認識して、人の心に届く組み合わせ(を作る)みたいなのはすごく得意。コピーライティングもAIはすごい数をこなせるので、それが創造性に結びつくのは明らかにありますよね。でも、あくまで既存の知識の拡張とか再構築なんです。

例えば科学的な革新とか、もしくは思想的な転換とか、芸術的な革命とか。今のAIでは、既存の知識体系の外側から新たな軸を作り出すことはできないです。
人間にはそれを超えたものがあります。感情とか直感とか、過去を乗り越えようとする強い意志。人間の根源にある「真・善・美」への探究心と、それを切り拓くための人間の想像力の核心になっていると思います。これは目的設定と色濃く関係しています。
AIは「価値判断」ができない
続いて、今度はちょっと毛並みが違うことなんです。価値判断ということがAIはできないですね。例えば僕は(マハトマ・)ガンジーを心から尊敬しているんですけれども、彼は非暴力という、常識では考えられないような、非暴力でありながら不服従という価値観を生み出したんですよね。実際に、その信念がインドを独立に導いた。こういったことは、やはりAIではできないと思います。

環境が非常に複雑化している。そこから文脈と倫理を読み解く知恵。例えばAIは過去の事例から最適なクレーム対応みたいなのは、ある程度考えることができる。でも、目の前のお客さんの気持ちとか、そこに至るいろんな経緯がありますよね。さらに長期的な信頼に対する影響とか、企業が持っている価値観とか、その時の社会が持っている倫理感とか。

これらを総合的に考えて、今優先すべきは何か。これを判断できるのは人間だけだと思いますね。正解のない環境の中で、何が最も大切かを見極める力です。
これはおそらくどこまでいっても難しい。現実というのはとてつもなく複雑だからです。カオス理論が明らかにしましたが、何かちょっとしたことが大きな変化を起こしてしまう。それがもう至るところにある。
例えば碁とか囲碁とか将棋とか、完全にルールの中にある世界では、AIは人間をはるかに超えるような完璧な手を打つことはできるのですが、複雑な現実に対して価値判断はできないと思います。
最後に、社会的知性。AIは問いかけに対して優しくポジティブに答えることはできますが、それは人間が心地良く感じるように学習し、そう振る舞っているだけです。

例えば、一人ひとりが異なったことを考えている中で、チームをまとめて動かしていくみたいなこと。人間関係の感情とか空気とか組織の文化。それらを判断しながら、人々をまとめたり新たな価値を作ったりすること。こういうことは、やはりAIはできないですよね。