【3行要約】
・AIシフトの必要性は認識されているものの、トップの号令が現場に浸透せず、組織全体での活用が進まないケースが多く見られます。
・AIシフトがなかなか進まない理由としては、経営と現場の乖離が最大の壁となり、単純なコスト削減目標では推進力が生まれません。
・成功のカギはトップの明確なコミットメント、価値創出を目的とした「行き過ぎるぐらい」の活用、そして何より現場の内発的動機や好奇心を育てることにあります。
どうやってAIシフトをしていくか
大野峻典氏(以下、大野):こんにちは、Algomaticの大野です。前回に引き続き、AI事業に関していろいろ話していく回になっております。
今回は、「AIシフトしていきましょう」「会社全体でAIを使っていきましょう」「チームでAIを活用していきましょう」とか言われていますが、それをどうしていけばいいのか、どんなアンチパターンがあるのかといった話をしていければなと思います。前回に引き続き、kubellの執行役員CSOの桐谷さんです。桐谷さん、お願いします。
桐谷豪氏(以下、桐谷):桐谷です。よろしくお願いします。
AI推進における経営と現場の乖離
大野:「AIシフトしなきゃ」みたいな話って、めちゃくちゃよく聞きますよね。
桐谷:聞きますねぇ。やはりめちゃくちゃ難しいみたいですね。
大野:けっこう苦労されている方々が多い印象もありますよね。やらなきゃいけないって決めているけど、ぜんぜん活用が進まないとか。あれって、どうしていけばいいんですかね?
桐谷:前職も含めてですけど、特に大手の会社さんとか、けっこう大きな会社さんとかといろいろお付き合いさせてもらっている中で、一番よくあるパターンで言うと、経営者の方が「とにかくAIをがんばらないと」みたいな。
AI推進室とか、DX推進室みたいなものが大量にできるものの、現場としては「どうしたらいいかわからん」「がんばったとしても、それがどう評価されるんだっけ?」みたいになるという話とか。
経営と現場の乖離みたいなものと、強制感と、みんなが本当にポジティブに、ピュアに技術を楽しんでいくみたいなところの折り合いがなかなかうまくいかないみたいなことは、よく聞く話かなという気はしていますけどね。
大野:トップダウンで「AIシフトしなきゃ」となりつつも、現場があまり乗ってくれないみたいなイメージはありますね。
桐谷:そうですよね。海外もそうですし、国内もそうだと思うんですけど、社長とか経営陣とかが、最初にいきなり対外的にドーンと発表しちゃうみたいな話とか。
あれって採用目的もあるかもしれないですし、IRの話もあるかもしれないんですけど、僕としては一番は社内へ向けての発信かなと見えているので。「実際に社長はこんな感じで使っているんだ」みたいな話とか。
大方針として、「こういうふうにドラスティックに変えていきます」という意思決定自体をやらず、「現場で詳しい人を集めてなんとかやってくれんか?」となるところは、やはりなかなか成功しない感じがあったりするので。やはりトップの意識改革みたいなものとかは、すごく重要かなと思いますね。
大野:確かに。「AI事業のために、既存人員の50パーセントをAI事業に異動します」みたいなわかりやすいメッセージ……。
桐谷:めちゃくちゃわかりやすいですよね。
コスト削減がゴールになっていると進めにくい
桐谷:僕、これは別の会社さんから聞いたんですけど、一番難しいものとして「既存の人員をどうするんだ」っていう。こういう圧力って、やはり普通に起こるという話があって。
大野:ありそうですね。
桐谷:僕らもBPaaSの事業をやっていたりするので、BPOの会社さんとかとよく話すんですけど、ビジネスモデル的にも、人を削減してAI化していくと人が要らなくなっちゃうとか、効率化すると売上自体がどんどん下がっちゃう構造にあって。
「AI化していくところに対して、インセンティブが乗らないんだよね」というようなことが現場で数字を追いかけている人からするとあって。真逆なことを言っちゃっているので「どうするんだ」みたいなところがあり。
こういう摩擦を調整をしてあげる話とか、評価制度とかインセンティブ設計とか、トップの大方針みたいなものとかをいじらないと、いかに現場でこまごましたものとかをがんばったとしても、正直つながらんなというところはあったりするので、これが一番のアンチパターンかなという気はします。
大野:メッセージを掲げてドーンと送るのも大事だし、今の話で言うと、たぶんそもそもコスト削減を最終的なゴールとしてはいけないみたいなところも……。
桐谷:あー、そうかもしれないですね。
大野:ゴールにしてはいけないというか、進めやすさ的に(そこがゴールになっていると)ちょっと進めづらいかなという気はしますね。
どちらかと言うと、「ボトルネックが解消されました。全体としてスループットが上がりました。でもこちらはまだAIで解けないから、人で解かなきゃいけないみたいなイシューがあるので、ここをやっていたチームはこっちに異動してください」みたいなことが、最も美しいやり方な気もしますね。
だから結局、今の作業というか、「一連のパイプラインにおけるボトルネックはどこで、だからここからは効率化していきましょう」みたいなものがないといけない。「ここだけ効率化したけど、全体のスループットは変わってない」となったら、確かにやることはなさそうですね(笑)。
桐谷:そうなんですよね。なので、オペレーションもそうだし、人員計画も予算の作り方も、上流を全部オリエンテッドなものに思い切り変えていくという意思は、当たり前の話ですけど、意外と難しくてできないのかなというところはあるので。そうやってガラッと変えられる会社って、やはりそういう工夫はしていらっしゃるなという感じはしますよね。
AIを入れることで仕事が増えることも
大野:僕らのサービスとかが本当にそうなんですけど、コスト削減よりも売上アップ、トップラインを上げるみたいなことはサービスの提供価値としてめちゃくちゃ大事なので。
なので導入のタイミングで「今は人がいるから」「その人たちの居場所がないから」みたいなことって、ちゃんとご理解いただけると、スループットは上がっちゃうので、逆に忙しくなっちゃいますみたいな(笑)。
桐谷:絶対そうなんですけどね。
大野:入れると仕事が増えちゃいます。だってお客さんが増えるから、みたいな。アポが取れて商談が取れちゃうと、お客さんが増えるので。もしかしたらCSはもっと忙しくなるかもしれないし、営業でも既存営業は忙しくなるし。なので、そういう分け方は大事かもしれないですね。
桐谷:そうですよね。
“行き過ぎるぐらい”の方が早く進む
大野:あと、アンチパターン的なものって何かありますかね? よくあるミスというか。
桐谷:先ほどのものにもつながるっちゃつながるかもしれないんですけど、メッセージングの話はけっこうあるかなと思っていて。組織って、振り子だと思うんですよね。
なので、あるべきポイントがここ(中央)だとしたら、本当はそこ(中央)に持っていきたくて。今現状ここ(右側)にいるんだという話で言うと、ちょっとずつ(中央に)寄せにいこうとするために、このあたり(右側から中央にいく過程)のメッセージを発したとしても、動かないんですよね。なので、思い切りこっち(左側)のことを言うのがすごく重要で。そうすることで動いて、振り子で進んでいくというか。
ちょっと概念的ですが、メッセージングという強い表現をすると賛否両論あるんですが、わかっている人は思い切りこっち側(左側)のことを言うことで、「振り子をちゃんと調節しているな」みたいなものとかはあるので。キャッチーなものとかコンセプチュアルなものとかは、きれいに作るべきかなという気はしますね。
大野:AI云々によらず、組織運営においてはそうですよね。最適解がここ(中央)だとしても、人間の理解のしやすさって、微妙な解だったりするんですよね。
「なんかいい感じの塩梅でやりましょう」がここ(中央)だとしたら、わかりやすいのはこっち(左右)とか。よくある話で言うと「会社を分社化しましょう」みたいな。
桐谷:ああ、もうまさしく(笑)。
大野:リクルートさんがやっていたみたいに、会社を1つにしましょうとか。ああいうのって、個別最適と全体最適の振り子をしている感じがありますよね。ギザギザしながら前に進めばいい、ということですね。
だからAIに関しても、行き過ぎるぐらいにいったん使う方向にドライブしたほうが、ギザギザな進み方としては早く進むよという話ですね。