【3行要約】・日本はIP大国として知られるが、生成AI時代にこの強みをどう活かすかが課題となっています。
・守屋貴行氏らは日本の多神教的文化がキャラクター創造の源泉であり、多様なLLMが共存する未来観を示唆。
・機能面での競争が激化する今、日本の強みを活かすには独自のデザイン性と人間との信頼関係構築が鍵になると提言しています。
前回の記事はこちら IP大国日本で生成AIをどう活かしていくか
小澤健祐氏(以下、小澤):このように、今のこの生成AIが、何かタスクをお願いしたらやってくれるという機能性だけではなくて、(AIと)関係を作っていくためには、まずキャラクターにしたり、そこに人格を付与したり。あとはロボティクスとして、どうやって自然な見た目の設計やデザインをしていくのかみたいなお話をしてきました。
みなさんもぜひこれから生成AIを使う際には、ただ単にタスクとしてではなくて、どんなふうに、どんなデザインをしたら、この日常生活の中にAIが溶け込んでいくのかを、ぜひ考えていただきたいなと思います。ここでちょっとだけ未来の話に視点を広げていけたらと。
今日お二人からもこのいわゆるロボットであったり、IPの領域という日本が取り組むべき領域のお話がありました。じゃあ、まず守屋さん。確か今、世界のIP上位ランキング25位中12個は日本のキャラクターという調査があったんですけれども、まさにIP大国じゃないですか。
日本として、これからいかにここに生成AIをマージしていくのかは、あんまりまだ政府も表に出していない戦略ではありますけど、めちゃくちゃ重要ですよね。そのあたり、ぜひ。
守屋貴行氏(以下、守屋):そうですね。うちとはちょっと見た目とかビジュアルは変わってきますが、『ちいかわ』みたいな、ゆるキャラみたいなキャラクターで、AIで生成してファンを獲得しているキャラクターもめちゃくちゃ多い。まだそんなに認知はされていないんですけど。
あとは海外で3Dに見える生成AIで作られたキャラクターで何百万フォロワーというキャラクターもどんどん出てきて、そこでコミュニケーションをしているお客さんとかもけっこういるんですよね。
これは、日本の専売特許じゃないですけど十八番だったところ。やはり日本がやれるバーチャルヒューマンとかAIキャラクターに、うちは可能性を示しているので、さっきの繰り返しになっちゃいますけど、たぶんこの先、対話するというところが一番大事です。
日本で大ヒットキャラが生まれる理由は「多神教」にある
小澤:ちなみに日本は今まで、なんでこんなにキャラクター作りがめちゃくちゃ上手なんですか? それこそ、『ポケモン(ポケットモンスター)』なんて、今、世界一のIPになっていますよね。
守屋:僕も本当に飲み会とかでついつい言っちゃうんですけど、だいたい宗教だと思っています。
小澤:宗教?
守屋:やはり日本は信仰心が一番根強く深くあるので。
小澤:一神教ではないみたいな?
守屋:ということが、やはり一番大きいかなと思っています。やおよろずの神で、いろんなものに神が宿るという考え方が強い。
小澤:アメリカ人とかは物を捨てる時に、机とかに「ありがとう」と言う日本人が気持ち悪く見えるんですね。
守屋:(笑)。
小澤:日本人は当たり前じゃないですか。「今までお疲れさま」とか言ってから粗大ごみに捨てる。あれを見ると気持ち悪くなっちゃうらしいですよね。
守屋:これを話し出すとけっこう長くなっちゃうので、それぐらいにしておくんですけど。
小澤:でも、もうちょっとだけ聞きたい。
守屋:けっこうここが一番大きいかなと。うちは、VCがKindred Venturesという海外のサンフランシスコなんですけど、IPの話をすると、意外とこの話をみんな理解してくれなくて。「え、どういうこと? どういう考え方なの?」みたいなことを聞かれる。
小澤:やはりそうなんですよね。
守屋:しかもあっちは、まだ数百年の歴史しかない国の中で、ディズニーがあってピクサーがあって、制作会社はあるんだけど。日本みたいにイチから出版会社に応募して漫画家になろうみたいなシステムがアメリカにないから、自分から作家になろうと考える人があんまり多くないと言っていました。
日本はもう、そういう人がいっぱいいるじゃないですか。というのと、この宗教論の話をしたら、けっこうみんな驚いていて。
「やおよろずの神」のようにLLMが多様化していく
小澤:なるほどね。まさにそれこそ、孫(正義)さんが言っているAGI、ASIの世界は、あるっちゃあるんですよ。ただ、もしASI、AGIの世界になったとしたら、「Mi-Mo、いらなくない?」みたいな。
どちらかというと、例えば僕だったら、僕の家の生活を完全に理解してくれながらちょっとだけ欠点もあるMi-Moみたいな存在がいると、それはそれでめちゃくちゃ人生のQOLは上がるかなと思ったりするわけですよね。
そういった意味で言うと、1個のASIとかAGIの時代はあんまり来なくて、どちらかというとやおよろずの神的なかたちで、いろんな特徴を持ったいろんなLLMが多様化していく未来のほうが、けっこうありそうな気はしています。
石川さんにも、ここの意見を聞いてみたいんですけど。まさにMi-Moみたいなものが1個1個、ユーザーのことを覚えていて、そこに特化しながらまたどんどん成長していくという、そういう世界観もありそうですよね?
石川佑樹氏(以下、石川):そうですね。機能性だけ見ると、たぶん1つに統一して安く、機能性に特化したものを作るというのはあると思うんですけど。
例えば人とのインタラクションの部分とか、家庭の中に持ち込むものみたいなところで、結局は何を期待するかですけど。やはり人間自体がものすごく多様なので、どこまでいってもそういうコンパニオン的な文脈においては、多様なものを求めるんだと思いますね。1つだけだとたぶん飽きますし、放っておいてもそういう多様なものを作り出すだろうなと思っています。
日本人の感覚はロボット開発の強みになる
小澤:つまり、あくまでもタスクをやるだけだったら、中央的な1つのAGIみたいなのになれば便利でしょうと。ただそれが今度、家庭の中でもしかしたら家族の一員、もしくはペットのようになっていくのであれば、その考え方だけではないですよねという話なのかなと。
石川:ですね。そもそも、さっきの日本がなぜこういったIPとかそういうものに強いのかで言うと、たぶんこれはロボットにもけっこう使えるところだなと思っています。今ハードウェアで何が起こっているかというと、ロボットとかハードウェアを作るのはめちゃくちゃ大変なんですよ。
一方で、例えば中国とかを見ると、作っている人はめちゃくちゃいるんですよね。工場もものすごくある。
小澤:すごくもう……マラソンからサッカー大会まで、本当に今すごい勢いですよね。
石川:そうなんですよ。もう作っている人はたくさん競争しているので、作るというところはもうコモディティ化し始めているんですよね。彼らが何に困っているかというと、何を作ったらいいかわからないと。
小澤:なるほど。
石川:受け入れられるデザインとかUXとか、次に何を作ったら世界で受け入れられるのかが(わからなくて)、非常に困っている。ただ、Mi-Moとかを見ていただいて、「何じゃこりゃ?」と(笑)。
小澤:(笑)。
石川:こういうものの源泉が欲しいということをけっこう言っていただく。
小澤:なるほど。
石川:僕らは右脳と左脳と言っているんですけど、僕らのAIのソフトウェアの事業は機能的にやると左脳的にやっているんですよ。今回のAIのハードウェアの事業においては右脳的にやるというので。
小澤:わかりやすいですね。
石川:これがけっこう日本の感覚とか、ちょっと言語化が難しいものが伝わるので。僕らはイチプレイヤーとして今やっていますけど、たぶんこういうものを使ったプレイヤーが、もっともっと出てきてもおかしくないから。