【3行要約】・AIに完璧を求める風潮がある中、あえてバイアスを武器にするスタートアップの戦略の可能性も示唆されています。
・LINEヤフー株式会社の山内智氏は、日本はアニメや漫画の影響でAIとの共存に対する文化的リテラシーが高いと語りました。
・企業は「悪いバイアスより良いバイアス」を活用した価値創造が求められます。
前回の記事はこちら スタートアップなら“バイアス上等”を狙う
國本知里氏(以下、國本):今、むしろバイアスを作ったほうがいいみたいな話も佐々木さんからありましたが、今日、スタートアップ側の人もいらっしゃる中で、佐々木さんのようにプロダクトを作りたいといった時に、バイアスとどう向き合うのかみたいなところも、みなさんこれからけっこう悩まれるだろうなと思っていて。
そのあたり、佐々木さんはこれからのAIに対するデザインといいますか、UI/UXも含めて、どう思われますか?
佐々木雄一氏(以下、佐々木):そもそもバイアスありきのデザインにすべきだと僕は思っていて。まず人間の期待値コントロールが大事です。なぜか人間はAI100パーセントから入ってしまうんですけど、そうじゃないというところを正面から見据えた上で、それを許容するデザインにする。
弊社の場合だと「AIのキャラクターを作ります」なんですけど、そのキャラクターにかわいさみたいなものを与えておいて、「別に間違ってもいいよね」っていう世界観の中にあえて収めにいっているみたいな。それは先ほどのUIとかUXの工夫の中に活きてくるのかなと感じます。
UI/UXに関してはこういったことがまずあるのと、あとはスタートアップなので、逆にバイアス上等で、積極的に中央値じゃないところを狙っていこうぜっていう、思想的なところもありますね。とんがってなんぼだと思っていて。僕の分野はとんがり過ぎているので、もうちょい人が来てほしいんですけどね(笑)。
日本はAIへの文化的リテラシーが一番高い国
國本:確かに大手のAI会社だとバイアスを作らないって今なっているからこそ、スタートアップの戦い方としてはバイアスを作りまくるみたいな。
佐々木:そうです。僕がよくイメージするのは、世の中は四角だと。四角の箱があったとして、OpenAIとかは真ん中のマスの部分を丸で取りにいきます。そうすると角が必ずできるので、そこをいかにとんがって狙いにいくか。そういう世界だと僕は思っているので、そういうとんがり方をしていきたいなと思っていますね。
山口有希子氏(以下、山口):それが日本の戦い方のような気がしますよね。だって、OpenAIとかベースのところは全部ビッグテックがやっている中で、日本がどういうアプリケーションをAIで作っていくかとなった時に、ちょっとユニークとか、おもしろいとか、独自のものじゃないと生き残れないってところもすごくあるんじゃないかなと思ったりするんですけど、どうでしょう?
山内智氏(以下、山内):フワッとしたことを言うと、日本にはアニメもあって漫画もあってなので、AIへの文化的リテラシーが一番高い国だと思っていて(笑)。
山口:『ターミネーター』じゃなくて『ドラえもん』ですよね。
山内:そうそう。佐々木さんのやられているビジネスについて、我々はめっちゃすんなり聞くじゃないですか(笑)。それはもう頭にそういうドラえもんとかがいるからであって。
そこでできることってすごくいっぱいあると思う。コンテンツ産業の中でもできるだろうし、そこから派生するAIエージェントにそういうコンテンツ的な要素を持たせるみたいな部分も当然あるんだろうしっていうのは、日本的だなと思っています。
佐々木:確かに。
『ドラえもん』も『鉄腕アトム』もAIと共存している
佐々木:大手企業はリスクとかを見る側面が必ずあります。それは日本の企業ももちろんそうですし、OpenAIとかも何やかんやリスクサイドを見る。企業が大きくなったら発生するもの、気にするものが必ず出てきます。
スタートアップはその意味で言うとリスクに対してはチャレンジできる立場であるっていうのは間違いなくあるので、そのリスクに対してのチャレンジ度合いをしっかりやっていきましょうっていうのは、まず1個ある。
あと、そういう文脈で、日本のポジティブなところを見つけていく作業には、必ずそこに良いものを得ると思っていて。
今もおっしゃっていただいたようなアニメとかの話ももちろんあるし、さらに進めると、AIとかロボットとの付き合い方の中でアメリカの映画を見てみると、『ターミネーター』も『マトリックス』もそうだし、だいたい人間を滅ぼそうとするAIに人間が戦いにいくっていう。
山口:怖いですよね(笑)。
佐々木:どっちが勝つかみたいな、そういう勝負なんですよね。一方で日本のアニメとかを見ていると『ドラえもん』だし『鉄腕アトム』だし、結果共存しているみたいな。
國本:確かに。
佐々木:そういう土俵が実は日本にはあって、そういうところから生まれる。マスになるのかどうか、ガラパゴスなのかまったくわからないけれども、そういうAIの使い方もあるよねっていうところを正面から育てていくのは、おもしろいんじゃないかなと思うんですよね。
山内:『攻殻機動隊』っていうのがあって。好きな人は多いと思うんですけど、押井守時代(『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』)に語られていることのほうがよっぽど(今より)10年、15年先の話をしていると思っていて。それを後からのんびり見ているなっていう気分でやっています(笑)。
あれは哲学的な問いもすごく多くて。「じゃあ人間は最後どうするんだ?」みたいな問いもすごくあるし、それを見ていればそんなにびっくりすることはないかなと思います。
國本:ありがとうございます。
価値創造をしないと企業は生きていけない
國本:今スタートアップ的な戦い方の話もあったんですけれども、山口さんの視点で言うと、大手としては逆にこれからバイアスを活かすみたいな戦略とかの可能性ってあったりされるんでしょうか?
山口:どうなんでしょうね。大手企業として、バイアスとかの前に、そもそも企業として本質的にいろいろなAIを経営の中に入れていく動き方をもっとしなければいけない。
私は2025年にダボス会議にも行っていたんですけれども、そこで議論されていたのは、AIを導入する、導入しないとかじゃなくて、導入して何の価値創造をするか。生産性向上じゃなくて価値創造をするところにチャレンジをしないと、企業は生きていけないっていうことがすごく論じられていて。
価値創造を考えた時に、先ほどの何が本当にその企業でユニークなことなのかという話にもつながると思うんですよ。
國本:確かに。
山口:他社との差別化を図れるものを作れるかって、すごくチャレンジじゃないですか。そのチャレンジをしていくことが本当に重要になってくる。
新しいことにチャレンジをすることって、大企業は図体が大きくてなかなかできない。だからこそベンチャーと連携して、新しいアプリケーションについて先頭を走っていけるベンチャーのいろいろなソリューションとかを使わせていただきながら(チャレンジしていく)っていうことがすごく重要なんじゃないかなとあらためて思っています。