【3行要約】・eスポーツ選手の給与は月数万円から年俸数千万円へと急激に上昇し、新たな職業選択肢として注目されています。
・業界関係者によると、2019年頃の平均月15万円が現在は月50万円に上昇。
・スポンサー企業も多様化が進んでいます。
前回の記事はこちら ここ数年でeスポーツ選手の待遇が激変
高島稜氏(以下、高島):市場の大きさみたいなところの一つの指標で、プロeスポーツ選手の給料というか、どのぐらいのサラリーがもらえるのかというところの近年の変化を、中野さんとmittiiiにすごく聞きたいなと思ったんですけど。
中野さん視点で、初めてプロeスポーツ選手に給料が発生したのって、記憶する限りだと何年の時ですか。
中野サガット氏(以下、中野):自分がじゃなくて? 業界でですよね?
高島:中野さんご自身でも、チーム運営する中で選手に払った記憶があるタイミングでも。
中野:2019年にこのeスポーツ業界でチームの仕事をスタートしました。要は日本一になってから約20年ぐらいはもう趣味程度でしかゲームしていなくてほぼ引退していたので、それからになるんですけども。
自分としては2019年以降なんですが、おそらくお金が発生し出したのは10年ぐらい前かな?
高島:2015年ぐらいですか。
中野:そのぐらいかなと思っていますね。格闘ゲーム畑で、業界でも有名なのは、日本で最初の格闘ゲームプレイヤーの梅原(大吾)さんという方なんですけども。彼がプロゲーマーになったのはたぶん十何年前かな。まだ15年経っていないぐらいなので、やっぱり最近ですよね。
高島:その頃って、月いくらとか年いくらとか、どのくらいの金額感だったんですか?
中野:その頃は僕もeスポーツ業界にいなかったので、正直「どれぐらいもらっているんだろう?」と客観的に見てた側なんですけども。
自分がチームをやり出して(給料を)払い出した時は、やっぱり専属のプロ選手をチームの中に所属させようということで、過去の戦歴とかフォロワー数とか、そういったものでけっこう適当につけていました。生活もしなきゃいけないだろうかなということで、「これぐらいかな?」というところでやっぱり10万円だったり15万円だったりは出していましたね。
高島:そうですよね。FENNELも2019年ぐらいから会社が立ち上がっているので最近ではあるんですけど。やはりそれまでのeスポーツって、とりあえず月1~2万円とかで、しかもその1~2万円も未払いが発生するみたいな。
最初の給料は5万円、mittiii氏が語る成長の実感
高島:法人としてやっているeスポーツチームなのにそういうことがあって、業界のレピュテーションが下がるみたいなのが当たり前だったかなと思っていて。それこそmittiiiは何年に選手を始めて、初めにもらった給料はいくらだったの?
mittiii氏(以下、mittiii):金銭的にお金をもらって活動をし始めたのは、17歳の時でしたね。
僕は、今24歳なので、だいたい7年前にお金をもらって活動し始めました。活動のスタイルは、神奈川県の大きな一軒家に男5人がボーンとぶち込まれて、1部屋に2人寝泊まりするみたいな感じで、リビングにパソコンが5台並んでます。そこで毎日毎日ゲームをするかたちで、生活費として僕は5万円いただいていましたね。
今、レピュテーションが下がるというお話があったと思います。ちょっと良くないとは思うんですけど、当時の僕たちからしたらフルタイムでゲームができて5万円をもらえて飯も食えて、なんて幸せなんだと(思っていました)。
そういう生活を1年くらい続けました。そこから僕の給料の推移を言うと、一気に上がったというのもあれですけど、5万円から20万円もらえるようになったんですね。
FPSは高水準、ジャンルで異なる報酬のリアル
mittiii:ここの給料の推移の仕方、やっぱりeスポーツはけっこうおもろいなとは思うんですけど、ゲームのタイトルによって給料の水準が違うんですよね。それこそ中野さんは格闘ゲームをやっていると思うんですけど、僕はFPSタイトルです。
今の格闘ゲームの給料水準はわかんないんですけど、eスポーツプレイヤーが選ぶゲームタイトルによっても給料の水準はけっこう違っています。日本だとFPSってたぶん、他のゲームと比べるとかなり水準が高いほうだと思います。19歳の時に20万円くらいもらって、そこから倍になって。
今はプロを引退しちゃってコンテンツを作る側になったのでまたプロゲーマーとは違う推移の仕方をしていました。
高島:選手時代に最高でもらった年俸はどのぐらいですか。
mittiii:月60万円ですね。もう何年前だ?(笑)。
高島:3年前。
mittiii:FENNELにいた時なので(笑)。3年前、21歳の時に720万円の年俸をもらってました。
業界の急成長、選手年俸は“億”を超える時代に
高島:ちなみに僕が知っている範囲でも、業界の中の給料相場がものすごく大きく推移しています。
2019年ぐらいの時、『VALORANT』というRiot Gamesがやっているシューティングタイトルの日本人プロ選手の平均が月15万円ぐらいだったのが、今だとアベレージで50万円ぐらい。トップ選手は年俸2,500万円とか3,000万円とかいっているんで、そのぐらいの変化がここ4年ぐらいで一気に起こっている。
ちょっとどこのチームとかは言えませんが、先ほど話に出た『ストリートファイター』のようなタイトルでも、一部のトップ選手は億レベルの契約金をもらってプレイしています。
やっぱり選手の金銭感覚も変わっているなと思いますし、もらえる金額が単純にもう違いすぎる。しかも、インフルエンサーとしての配信活動だったり、クリエイターとしての活動で固定給と同じぐらいの給料も発生するので、やはり2020年ぐらいからのサラリーのインフレみたいなものは、ものすごくこの業界で起こっているなぁと思っていますね。
中野氏の初代賞品は自転車、賞金の変化が象徴するもの
おりぴぴ氏(以下、おりぴぴ):ありがとうございます。ちょっとお給与とはずれるかもしれないですが、賞金もね。それこそ中野さんが初めて日本一になられた時、賞金として何をいただいたと思います? 何をいただいたんでしたっけ。
中野:えっとね、まず『ストリートファイター』の話をすると、今『ストリートファイター6』がめちゃくちゃ流行っているんですけど。
今年(2025年)3月に、僕が32年前に優勝した、国技館で世界一を決める大会があったんですね。そこで優勝した翔(かける)くんという選手の優勝賞金が100万ドルだったんですよ。約1億5,000万円ですね。
約32年前、同じ場所で僕、日本一になったんですけども。もらった賞金は0で自転車1台だけだったという。
高島:(笑)。
中野:それぐらい30年で変わったということですね。
おりぴぴ:選手にとってはお給料だけじゃなくて賞金もけっこう収益の一つかなと思うんですけど、そういったところも、ここ10年~20年でそれだけ大きくなっているんですね。
中野:そうですね。今はもう賞金が出て当たり前になっていますよね。僕の場合は、お金のためという気持ちは一切なかったので、今って優勝してお金もらえるんだという感じですね。
おりぴぴ:そうですね。
賞金は夢とブランド価値を示す“象徴的存在”に
高島:やっぱり賞金自体がチームや選手個人にとってはものすごく大きな収入源や夢をかけるだけの価値がある目標にはなっているんですけど、企業にとってものすごく大きな収入源かというと実際はぜんぜんそんなことはなくて。FENNELだと売上の5パーセントいかないぐらい。賞金の売上はそんなもんです。
サッカーみたいに、勝利だけをすれば放映権でどばっともらえるとか、賞金がどばっともらえるというわけではないんですが、賞金の規模感が大きくなることによって、若者からの求心力が生まれたり、社会的な地位がかなり高くなって、そこに対して絡んでくれる企業さんとか、そこから生まれていくビジネスのほうが、会社にとってはかなりインパクトが大きいという現状にはすでになっています。
だから賞金額は、収入源というよりはやっぱりいかにeスポーツを大きいものとしてちゃんと社会に見せれるかみたいなところのテーマとして重要かなというのが、僕の所感ですね。
企業参入の波が広がるeスポーツ業界
おりぴぴ:なるほど。ありがとうございます。そうですね。賞金だけじゃなくていろいろな収入源があると思います。それこそ私は、ふだんオーストラリアに住んでいるんですけれども、オーストラリアだと、大手のスーパーマーケットや銀行といったあまりゲームとは関係ないような会社も参入しているのが当たり前になってきています。
日本も最近クレジットカードの会社だったりが入っていると思うんですけど、日本ももっと「ちょっと畑が違うかも」と思うような会社を巻き込んでいけるような市場になればいいなぁと思います。
高島:それこそ中野さんのやられていたチームには、どんな企業が初めにスポンサーとしてつかれたんですか。
中野:京都で起業した時、京都eスポーツ協会というものができたばかりで。僕は最初「会長をやって」と言われたんですが、断ったら「副会長をやってくれ」と言われて、副会長をしばらくやっていたんです。
そこの協会もあってですが、京都の名だたるメディアですね。KBS京都さんとかFM京都さん、α-STATION(FM京都の愛称)とか京都新聞さんとかJ:COMさんとか、メディアの方々にけっこう協賛していただきましたね。
高島:メディアの方々って、どういう目的で(スポンサーに)つかれる感じだったんですか。
中野:おそらく京都でeスポーツに関わる施設をちょうど作ったというタイミングもあったと思います。やっぱりeスポーツがトレンドになってすぐのタイミングだったので、各メディアさんも、eスポーツというトレンドに乗っかりたいという思いがあったのかなと思っています。
高島:mittiiiも個人でスポンサーの企業がついていると思うけれど、どういうジャンルの企業が多いですか。
mittiii:自分についていただいていたり、個人だったり、チームだったり、もうありすぎて正直パッと浮かんでこないというのが、そのままの感想だなとも思うんですけど。
最近は水のスポンサーにもついていただいたり。それこそ電子タバコもありました。本当にいろいろな領域のスポンサーについていただきました。ブランディングや認知を取りにいくという部分を考えているところもありますし。あと純粋にシナジーがめっちゃあるよねという。
お菓子なんかもそれこそ「inゼリー」とかは(ゲーム中も)手を汚さないよねみたいなところがあるので。本当にいろんなところについてもらいました。
採用目的でeスポーツに注目する企業が増えている
高島:イメージ的に、2019~2021年ぐらいはやっぱりeスポーツとそのまま相性がいいゲーミングPCとか、PCゲームをプレイするためのデバイス系とかのジャンルがメインだったかなと思っていて。
2022年ぐらいからmittiii含むストリーマーの台頭があって、ゲーム配信者ってものすごくtoCプロダクトと相性がいいので、そういうところで電子タバコとかお菓子とか、栄養剤とかドリンク系もすごく増えたなって思います。
直近ここ2年間ぐらいで、toB向けの会社さんもスポンサーでかなり入ってきてくれているなと思います。僕らだとこれはtoCになっちゃいますけれども、松井証券さんなど証券系とか、今後は保険とか。BtoBだったとしても、若者・Z世代向けにどんどん採用力強化していきたいという目的で、オールジャンルスポンサーが入ってきているなと思います。
唯一難しいのは、お酒系ですね。やはりゲームパブリッシャーの規約的にお酒は入れないみたいな。そのあたりも、最近はだんだん緩くなってきて、そういう企業さんがガーッと入ってきています。
収益構造の変化により販管費をまかないきれない時代の終焉
高島:どうしてもPC系やデバイス系のスポンサー収入だけだとやっぱりチームの販管費をまかないきれないというか、どうしてもそこだけだと守り切れなかったみたいなところが、オールジャンルの企業参入でスポンサーの単価も上がってきています。
それこそ今、年間3,000万円とか5,000万円とか、大企業側からしたらめちゃくちゃ安い金額感でやれるようになってきていて、今、eスポーツチームは収益でもちゃんと販管費が回るようになってるなという感覚はありますかね。
おりぴぴ:そうですね。ありがとうございます。eスポーツ選手は、選手でありながらインフルエンサーでもあるというところで、広告としての価値だったり、一緒にエンタメを作り上げていくようなかたちでいろいろな企業さんに参入いただいていると思います。