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「日本AI戦略の未来」~グローバルAI競争下での日本の戦略的ポジショニング~(全3記事)

AI時代は企業の“発注力”が重要に 松尾豊氏とデジタル大臣・平将明氏が語る日本企業の勝ち筋 [2/2]

リーダーがAIを理解することの重要性

松尾:ただちょっと、平さんだけレベルが高過ぎてという感じでしたけども(笑)。でもそうやって、リーダーの方にちゃんとAIを勉強してもらうだけで、下の人はすごくやりやすくなるんですよね。

なので、僕は日本の大企業にはぜひそうしてほしいと思います。そうすると担当者が動きやすくなって、それがスタートアップとかと連携して、いろんなイノベーションを起こしていく。

そうすると、実体経済で言えばというか、日本の企業とか、めちゃ強いと思っています。やはりビッグ・テックはすごいんですけど、言葉が良いかどうかわかりませんが、すごく虚勢を張っている。

自分をめちゃくちゃ大きく見せて時価総額を大きくして、投資を受けて、それでなんとか虚勢を張っているうちに実態を作ってやろうみたいなことをやっている。

それに比べて日本は本当にすごくいい会社もたくさんあるんだけど、まったくレバレッジが効いていない。デジタル、AIのレバレッジも効いていないし、市場に対するアピールも効いていなくて、それでもう実力×意地で勝負しているところがあるので、やはりそこが変わってくると、僕は対抗し得るようなかたちが作れるんじゃないかなと思います。

木嵜:その発注講座は誰でも受けられるんですか?

松尾:そうですね。誰でも受けられますので、ぜひ受けていただきたいと思います。

デジタル領域の考え方を組織に組み込む

木嵜:私も企業の立場ですけども、「活用しろ」と言われても最初にどう活用していいかわからないですし、どこの分野で使っていいか、ちょっとわからないんですよね。そういうところもコンサルチックにいろいろ教えていただける感じですか?

松尾:そうですね。あとやはり、日本は文化的に製造業の文化が色濃く残っている。そうするとやはり、確実にやりたいですよね。

だけどAIやデジタルの適用では、ちょっと考え方が違う。ひとまずやってみてうまくいったらもっとやるし、ダメだったらまた違うやり方を考える、みたいな考え方をしないといけない。そんなところも含めて、ちゃんと講義のかたちにしようという感じですね。

木嵜:松尾さんは、いろんなAI人材を見られてきて、育成もされていると思いますけど、どういった人が優秀なAI人材になり得ますかね?

松尾:いや、AIを勉強してくれるとAI人材になるというか、やっていく中で必ず試行錯誤しないといけないし、そうしたことが大事だと身に付いてくると思うんですね。

ただ製造業とか医療とか行政とか、堅い仕事はやはり堅くやらなきゃいけないので。そういったものと、(IT的な考え方で)PDCAを回しながら速くやることの住み分けが大事だと思います。

日本発サブカルの想像力を活かせないか

松尾:ちなみにちょっと話が変わりますけど、先日『攻殻機動隊』のイベントに行ってきたんですけど。まさにサイバーセキュリティ×AIみたいな感じを30年前から漫画で描いていたのは、すごく日本人にとっての資産なはずで、やはり本当は、ああいう世界観を作っていける時代なんじゃないかなと思います。

:『攻殻機動隊』は私が14~15年前に経産大臣政務官だった時に、サイバーセキュリティはサイバー空間だけでとどまらないで、フィジカルなものに染み出してくることをしっかり念頭に置いてやらなきゃダメだよということで、経産省はみんな読んでいて……読んでいてって、私のまわりですけど。

その後、NISCという、National Information Security Center(国家サイバー統括室。2025年7月1日からは名称が国家サイバー統括室、英訳がNational Cybersecurity Office、略称NCOに変更)のポスターも『攻殻機動隊』を使いました。

今、NICT(情報通信研究機構)という総務省の外郭もあるんですけど、そこもいろんなサイバーセキュリティのトレーニングプログラムの中に「タチコマ」が出てくるんです。だから日本人は、イマジネーションがけっこう鍛えられているんですよね。

だって、もう無人のAI自動運転タクシーが、2026年、2027年ぐらいから東京と大阪で走り始めるんですよ。例えば、そういうのをハッキングされたら何が起きるんだとか、イマジネーションを膨らませて、ありとあらゆるところでレギュレーションを作らなければいけない。

だから「×AI」と言うのは簡単なんだけど、エコシステムや組織の体系として、「×AI」をどうビルトインするかが悩ましいですよね。ちゃんと自走するようにしないといけないので。そこはまだ、企業も政府もできていないと思います。

リスクを冒すチャレンジが重要

木嵜:「×AI」は、今もうむちゃくちゃ流行っていますよ。AI企業とかもできていますけど。

3日前にお話を聞いたのですが、チートAIって知っています? 「Cluely」というサービスがアメリカで生まれたんですけど、これが、マーク・ザッカーバーグみたいなことをしていて。

カンペみたいなのが(画面に)バーッと出るんですって。それで、GAFAMの面接を受けた人が受かっちゃったらしいんですよ。それで、大学を退学になっているんです。

でも彼が「カンペAIを営業に使ったらどうか?」みたいなかたちで、すごい額の資金調達をしているんですよね。こういうふうに、「あっ、ここはちょっと倫理的に難しいかも」というところも打破してやる。日本だとなかなかリスクを取りたくない人が多いと思うんですよね。なのでちょっとAIの人材の話をしたんですけど、どうですか? そういうリスク転換みたいなところ。

IVSの「アナーキー感」に期待

松尾:僕はこのIVSは、すごくいい雰囲気だなと思っていまして、だんだんアナーキー感が出ていると言うかですね(笑)。

(会場笑)

木嵜:(笑)、アナーキー。

松尾:いろんな人がいろんなことをそれぞれに好き勝手やって、めっちゃ盛り上がっているのは、僕はすごくいいと思うんですね。

そういう面と、サイバーセキュリティとかAI戦略みたいな。やはりちゃんと順序立てて積み上げないといけないことがうまくマッチすると、非常に戦いやすい土俵で、いろんな人がいろんなことを試してやっているうちに、おもしろいものが出てくる。それがまた世界に羽ばたいていく、みたいになってくるとすごくいいんじゃないかなと思いますね。

木嵜:(『ReHacQ』プロデューサーの)高橋(弘樹)さんが「陽キャの集まり」と言っていましたけど、みなさん勢いがあって「ウェイウェイ」していますもんね(笑)。

:やはりヤバい人の妄想から新しいテクノロジーとか新しいエンタメが生まれてくるので、今のところ松尾さんと我々はいろんなイベントに呼ばれるけど、IVSが一番ヤバい感じがします(笑)。

木嵜:(笑)。いい意味でですね。

同じ土俵に立つ段階に近づいてきた

木嵜:もうそろそろお時間が迫ってきたんですが、日本をAI大国にするということで、未来を考えていきたいんですけど、締めの言葉を一言いただけますでしょうか? 松尾さん、いかがでしょうか?

松尾:そうですね、僕はできないことというか、あまり大きなことは言わない性格なんですけど。やはり今の日本のAIの状況はだいぶいい位置なんじゃないかなと思っています。やはりここ2、3年ちゃんとやってきたことから、すごく(打てる)手が広がっている。

大企業がAIにもっと投資をして、企業自身が伸びていくことと、こういうスタートアップのコミュニティがどんどん盛り上がっていろんなことを提案していくこと。それがまたASEANとかアフリカとかヨーロッパ、アメリカ、海外にどんどん広がって、海外とコネクトしていくことがうまく組み合わさると、相当戦える状況になるんじゃないか。

今まではやはり、日本のデジタルは構造的にというか、平坦の構造として戦える状況になかったと思うので、それがようやく同じ土俵に上って、「勝った、負けた」ができる状況に近づいているんじゃないかなという気がしています。

ですから、IVSに来ているみなさんとぜひ力を合わせて、そういうものを実現できるといいなと思っています。

日本には日本のやり方がある

木嵜:ありがとうございます。平さん、お願いします。

:海外のビッグ・テックの規模は、原子炉を4つ、5つぐらいまとめて計算機能をマシンにぶち込んでシンギュラリティを起こそうとしているので、ここに対抗する必要はないと思っています。

それと、欧米の価値観はAIが生まれた国の文化とか価値観にすごく左右される。やはり一神教の国から出てくるAIは、本当に1つのスーパーAIを作ろうとするんだけど、『新世紀エヴァンゲリオン』の「MAGIシステム」(作中に登場する合議制のスーパーコンピュータ)は昔から分散型なので、分散型でやるとか、大きなモデルを活用しながらその上で動くAIを作るとか。日本には日本のやり方がいっぱいあるんだろうなと思っています。

前回、京都のIVSに経産省の渡辺(琢也)さんが来て、GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge 生成AIの開発力強化に向けたプロジェクト)という政策の話をしていたと思うんです。その後にたくさんのスタートアップのみなさんにも使っていただいております。それも私は所管外だけど、補正とかがあれば拡張したいと思っていますので、ぜひ注目してご活用いただければと思います。

木嵜:お二人とも、本日はありがとうございました。

松尾:ありがとうございました。

(会場拍手)

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