【3行要約】 ・日本のAI戦略は政府主導で進む一方、その予算は米国ビッグテックの投資規模に圧倒的な差を付けられています。
・東大の松尾豊氏は「民間企業のAI活用が鍵」と指摘し、平将明大臣はサイバーセキュリティ、電力問題、データ利活用の3課題への取り組みを説明しました。
・両氏は政策の継続性の重要性を強調し、民間企業がAIを付加価値につなげ再投資する好循環の構築が、国際競争力向上の鍵だと訴えています。
前回の記事はこちら 米国ビッグテックのR&D投資は桁違い
木嵜綾奈氏(以下、木嵜):松尾さん、今おっしゃっていたように、「ここまで行政ががんばっているのに、企業が……」という話があったじゃないですか。企業のAIはどう見られていますか?
松尾豊氏(以下、松尾):そうですね。まず今、平さんがおっしゃったあたりのことは、やはり大変だと思うんですけども、それをすごく着々と進めておられるなと。
あとサイバーのあたりもちゃんとやっていかないと、後々困りますし。しかもそれをその場で、反射神経だけで解決しようとすると変なことになるので、順序立ててやらないといけないんですけども、そういうところがちゃんと進んできているのはすごくいいと思います。
あと、日本はやはり企業が国とか自治体とかを見るので、国がそういうことを率先してやっているのはめちゃくちゃいいお手本になると思います。スタートアップにしても、行政に売り込むのはけっこう大変なわけですけども、そういった場を活用できるのはすごくいい。
僕が日本のAI戦略について思っているのは、今、米中がAIの世界の中心になって最先端の技術を引っ張っているということ。例えば米国の2024年のビッグ・テックのR&D投資は、合計すると34兆円ぐらいなんですね。
木嵜:34兆円?
松尾:1社当たり5兆円とか10兆円を投資しているわけですよ。これはめちゃくちゃな金額で、日本の大企業でも売上5兆円、10兆円みたいなところはありますけど、R&Dの投資ですからね。

日本政府はAIに対して非常にポジティブで一生懸命がんばっているとはいえ、2024年度のAIに関する予算は、全部合わせても2,000億円以下なんですね。これは1パーセントにも満たないんですよ。そうすると、投資の規模が100分の1でどうやって勝つんだということになるんですけども。
日本の民間企業がAIに投資する意義
松尾:どうしないといけないかというと、基本的にはやはり民間企業がちゃんとAIに投資をして活用して、付加価値につなげていかないといけない。
日本企業の中で、やはりデジタル、AIが進んでいないがゆえに非常に効率が悪いとか、本来の力が発揮できていない企業はすごくたくさんあるんですよね。

だからこそ、ビッグ・テックもそうですし、海外から日本で売上を上げようというAIの企業は非常に多いんですけども。やはり、そこの伸びしろが非常に大きいということです。
ですので、やはり日本企業がきちんとAIを活用して、それを売上、利益につなげて、そこからまたAIに再投資していく。そういったループを作ることができると、(米中と)同じ構造ができるので、戦いの土俵に乗れるはずだと。
そういう意味でも、このAIの活用をどう進めていくか。そのためのデータ整備やサイバーセキュリティの仕組みは非常に重要だと思いますね。
3つの課題:セキュリティ・電力・データの利活用
木嵜:はい(平氏に手を差し向ける)。
平将明氏(以下、平):日本はAIを学習しやすく実装しやすい国で、安全保障上も地政学的にも政治の安定的にも、選ばれる国になりつつあるという話をしましたけども。

そうすると、海外の投資家とか、よくわかっている人からいくつか指摘される(ことの)1つが、松尾さんが言ったサイバーセキュリティなんですね。最先端のAIは、やはり最先端のAIチップをちゃんと入手できるかどうかがものすごく大事です。(最先端のAIチップを)渡せる国と渡せない国があるんですよね。渡せない国にはそもそも輸出もしないし、スペックの落ちたGPUしか渡さないんです。
「じゃあ、信頼される国はどこなの?」というと、まずファイブ・アイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる、機密情報を共有する国際的な枠組み)みたいな、情報のインテリジェンスを一緒にやっている国とか。あとはドイツや日本、韓国とかがセカンド・レイヤーぐらいになるんだけど。
日本はすごく信頼されている国なんだけど、一番の問題はサイバーセキュリティ。最先端のチップをあげて、日本は人員が優秀でものすごくいいデータもいっぱい持っているけど、「それですごくいいモデルを作って、敵対的な国にパクッと取られちゃったらどうするんだ?」という話があるんです。それで、まずはサイバーセキュリティが問題だと。