「国家サイバー統括室」を新設
平:これに対しては先ほど言ったように、私は今、石破(茂)内閣で新設されたサイバー安全保障担当大臣になっております。実は日本は通信の秘密があるので、通信データは今まで一切、政府が利用・分析できなかったんですよね。アメリカもイギリスもオーストラリアもやっているんですけど。
しかもアジアからアメリカに行く通信はかなりの部分、特に最近は安全保障上の問題があるので日本を経由しているんですよ。そうするとアジアからアメリカに行く通信、日本を経由している通信を分析できる主権国家は日本しかないんですよ。
その法律を今回、改正した。当然、みなさんのコミュニケーションの中身は一切見ないですよ。IPアドレスやコマンド、ソフトウェアの中身、あとはメールアドレスは見えますけども。それを分析できるようになったので、実は世界のボットネットというか攻撃のネットワークを分析できるようになった。
さらに言うと、この法律は悪いサーバーを見つけて、それがたとえ海外にあったとしても、警察と自衛隊がアクセスして無害化できるところまで作ったんです。
ちゃんとした法律なので、サイバーセキュリティの問題は劇的に解決の方向に向かっている。7月1日に内閣官房に国家サイバー統括室を作って、内閣サイバー官を新設して、私はまた大臣になった。なので、日本はAIをやっている人とサイバーセキュリティをやっている人が一緒なので、これはすごく世界から信頼されている。
電力やデータ利活用に関する動向も加速
平:あとは、「電力は大丈夫なのか?」と必ず言われるので、これはあんまり長くなると時間がかかるから、もうキーワードだけでいきますけど、ワット・ビット連携という政策をやっています。「ワット」が電力で「ビット」がデータセンター。
ワット・ビット連携は、パワープラントとデータセンターの開発を一体的に支援するメニュー。プラス、ちょっとワンピースが足りないと思うので、これは追々発表したいと思います。
3つ目がデータの利活用で、ヨーロッパはGDPRで個人情報をちゃんと守っていて、十分性認定(EU域内と同等の個人情報保護水準を保つ国という認定)は日本も守っているんですね。EUにはデータの利活用に関する法律も別途あるわけですよ。実は、日本にはないんです。
木嵜:そうですよね。
平:やはり日本は、みんなすごく真面目で保守的に保守的にやるので、データが利活用されていない。大企業も出さない。そういうかたちになっているので、包括的に協調分野と競争分野を分けてデータを出しやすくするにはどうしたらいいか。

あとは具体的に、金融とかヘルスケアとか防災とか教育とか、そういうところの分野ごとにデータ利活用の法律を作ろうということで、これも私が担当しているデジタル行財政改革(会議事務局)が内閣官房にあって、そこの部署で議論しています。もう方向性は示されたので、2026年の通常国会に向けて、今、中身を作っています。
なのでサイバーセキュリティも電力もデータの利活用も、一応の方向性は示しているのが現状になっています。
石破政権は“官僚が誰も止めない”からスピーディー?
木嵜:これは動きがすごく速いですね、松尾さん。
松尾:いやいや、速いですね。
平:これ、1人でやっているのがすごくいいんですよね。あと石破内閣のいいところは、誰も止めようとする閣僚がいないこと。
木嵜:あっ、止められないんですか?
平:ぜんぜん止められないですね。「それは平さんだよね」という空気感が共通認識なので。普通は、関係する役所で止められるんですよ。
木嵜:(笑)。止められる。
平:(通常は)経産省とか総務省から「ちょっとちょっと」と言われるんだけど。だから今の問題は、すごいスピードで解決の方向に向かっている。ただ法律を作らなきゃいけない。少数与党ですから自公だけで通せないので、やはり野党の方々にも協力してもらわないと困る。
野党の方々はあんまりデジタルとかAIの分野の人がいないんですよね。なので、そこはちょっとついて来ていただきたい……あっ、こういう言い方はダメだな。これ、『ReHacQ』で流れるんですよね。うまく協力して、日本のためにお力をお貸しいただきたいと思います。
(会場笑)
政策としての継続性を維持できるか
木嵜:松尾さんも、「国の動きとしてはほぼ満点」とおっしゃっていましたけど、平さんに言いたいこととかないですか?
松尾:いや、これはやはり継続性が大事なので……そうなんですよね(笑)。
平:こういうのは、選挙とかでいつ変わっちゃうかわからないんですよ。パンデミックがあって世界がどうなったかというと、民主主義は意思決定や実装にものすごく時間がかかるんですよね。

なので今、国連の国で民主主義の国は少ないんですよね。やはり迅速に動けるほうがいいんじゃないかというのが、我々も今ちょうど参議院選挙をやっているわけで、衆議院もそうだし。アメリカだってそうですよね。バイデンさんからトランプさんに代わって、いろんな方針がブワッと変わりましたよね。
その点、やはり専制的な国とか我々と違う文化の国は、政権交代もないので、5ヶ年計画とか10年計画とか言って真っすぐいく。だから私がいる間はババッとできますけど、松尾さんがよく言うのは「いなくなった後もちゃんとやってくれよ」という話なんだけど、それは国民のみなさんが決めることであって。まぁ、いる間はがんばりますけど。
木嵜:そういうエールを送るという感じですか(笑)?
松尾:いや、そうですね。歴代のデジタル大臣は平井(卓也)先生から始まって、やはり専門性が高い方がずっとやってこられていて、そういう面ではすごくいいなと思います。
負けているからこそ、ミスが許されない
松尾:でも、これも変な言い方をしたらアレですけど、よくわからない人が急に大臣とかになっちゃうと、せっかくここまで作ってきたのにと。これはAIの政策もそうなんですけど、やはり負けている状況からなんとか巻き返そうとしている時に、こっちがミスしちゃダメなんですよね。
こっちが最善を取り続けて、相手がいろいろミスしたり遅くなったりして、それでだんだん戦況がよくなってくるので。そういう意味では、デジタル、AIは本当にいい感じできていると思います。これをぜひ継続したいと思いますよね。
平:これは私もサイバーセキュリティをやっていて、この法律ができたので、日本はサイバーセキュリティ分野ではものすごくチャンスなんですよね。人も集まってくるしお金も集まってくると思います。その時に、サイバーセキュリティの世界はもうAI対AIなんですよ。
ただ日本は、そんな宝の山の通信情報を分析することは一切できなかったんだけど。(今は)当然法律の範囲内でありますが、分析をすることができるようになったわけです。この分野でのサイバーセキュリティ×AIのチャンスが、日本はすごく生まれたと思うんですよね。
あともう1つ、私の懸念を言うと、我々と違う価値観の国から非常に優秀なAI、コストの安いAIが出てきています。これに対して我々はどう向き合うかも考えなければいけない。
AIを単なるQ&Aとかサポートで使っているうちはいいんだけど、重要インフラの制御系に我々と価値観の違う国のAIが入り始めた時に、なかなかこれはしんどい状況なんですよね。
だからそういう、いろんなことを考えてAIの政策をやっていかなければいけないと思うし、さらに経団連(日本経済団体連合会)みたいな大きな企業の人たちがどうやったら動くんですかね、と。松尾さんなんかがいろんなことをやられているけど。
例えば1つは、そういう我々と違う価値観の国から出てきた優秀なAIを、少し封じ込めなきゃいけないとなれば、G7とかが中心に、そういうグローバルサウスとか東南アジアとか途上国に高性能なAIにアクセスできる環境を準備しなきゃいけないと思うんですよね。これがけっこう大変だから、僕はG7で話し合ったらいいと思う。