【3行要約】
・日本はAI学習・実装が容易な環境を整備し国際的評価を得ているにも関わらず、国内企業、特に大企業でのAI活用は遅れが目立っています。
・松尾豊教授は国家レベルでのAI戦略を「ほぼほぼ満点と言っていい」と評価しています。
・企業はAI推進法などの国家戦略を活かし、日本独自のポジショニングを確立することが求められています。
IVS2025を締めくくるセッション
木嵜綾奈氏(以下、木嵜):みなさん、よろしくお願いします。これは(IVS 2025の)最後のセッションですかね。
(会場拍手)
木嵜:今回は、「『日本AI戦略の未来』~グローバルAI競争下での日本の戦略的ポジショニング~」というかたちで、豪華なお二人に、お話をいろいろうかがっていきたいと思います。

まず自己紹介をさせていただきます。NewsPicks Studiosの木嵜と申します。よろしくお願いします。
(会場拍手)
木嵜:こちらは『ReHacQ』で流れると聞いています。今日は私がモデレーターをやっていいのかなという気持ちもしているんですが、ぜひよろしくお願いします。
続いて、スライドが変わりますでしょうか。デジタル大臣の平将明さんです。
平将明氏(以下、平):よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
木嵜:最近、「新しい役職が増えた」とおっしゃっていましたが。
平:今、サイバーセキュリティをやっています。日本も国家を背景としたハッカー集団からけっこう攻撃をされていて、年末、飛行機が飛ばなかったですよね(2024年12月26日に発生した日本航空の事件)。年明けもメガバンクがネットバンキングをやられたりして。あと、DMM.comも暗号資産500億円が流れていましたけど、これに対応するすごくマッチョな法律を作りました。
木嵜:マッチョな法律?
平:はい。
木嵜:ありがとうございます。続いて、東京大学教授の松尾豊さんです。よろしくお願いします。
松尾豊氏(以下、松尾):よろしくお願いします。

(会場拍手)
日本はAIの学習・実装がしやすい国
木嵜:ということで、2024年もお二人でここに出られていて、その時はもうちょっと登壇者がいらっしゃったんですけれども。今回は、それぞれ長くお話を聞いていきたいと思っております。
ということでさっそく、AI活用に関して、日本の課題、問題はあると思うんですが、聞いていきたいと思います。先ほど、ちょっと平さんとお話ししましたけども、問題点はもう明確なんですよね?
平:もう結論みたいな話になりますけども(笑)。
木嵜:はい、もう結論を言っちゃいましょう。
平:2025年1年にはダボス会議に、ゴールデンウィークにはアメリカの「ミルケン」というシンクタンクの会議に呼ばれて話をしたんです。
話をすると世界の人も意外と「あっ、そうか」となるんですけど。2024年の続きから言うと、AIに関して、日本は比較的、先進国の中では学習・実装しやすい国なんです。
学習しやすいのはなぜかというと、レギュレーションが比較的ゆるやかだから。ヨーロッパはAIという名の下に包括的な規制を入れています。EUは個人情報保護の時もGDPR(General Data Protection Regulation:個人データやプライバシーの保護に関する規定)という仕組みを作ったら、意外とこれがアメリカのビッグ・テックに対抗するいいやり方だなと気づいて、AIでも同じことをやろうとしたんだけど、うまくいっていない。
今、(アメリカの政権が)バイデンさんからトランプさんに移って、アメリカはもうなんでもありの世界に入っているので、EUはこのまま強い規制を維持すると乗り遅れる。ということで、まだ法律が実装されていないにもかかわらず方針転換したんですね。
海外諸国も日本の状況を注視
平:日本は、自民党のAIPT(AIプロジェクトチーム)を、僕や塩崎(彰久)さんとかがやっていたので、もともと学習しやすい。それは文化庁で整理してもらって、学習は自由。出てくるアウトカムの越境性とかは、「知財の法律に違反したらアウト」と整理をしたんですね。なので学習しやすくて実装しやすい。

実装しやすいのは、人口減少だから。先進国で「AIフル実装だ」と言うと、「AIに仕事を取られる」と、けっこう社会不安が起きたりデモが起きたりするんですけど、日本はそれがまったくないということなので。
この間、新法もできましたけども、まずそのレギュレーションにおいては、EUが方針転換しても米国がバイデンさんからトランプさんに代わっても、日本は何の影響も受けないという現状にあります。
ただ「そうは言っても、実際の現場は平さんが言うようになっていないけどね」「ガイドラインを出して、もうちょっと安心してデータが使えるようにしてもらいたい」とか、そういう話は受けていますけども。
世界的には日本はそう評価されていて、これから新しくAI法を作ろうという国々は、今、「日本の法律ぐらいがちょうどいいんじゃないの?」という空気感になっている。
「国としての動きはほぼほぼ満点」
平:さらに言うと、アジアは今、安全保障の問題とか地政学的とか、経済安全保障もあるし、政治の安定もあるので、各国いろんな問題を抱えていて、なかなかみんな厳しいんですよね。
そういう意味では、日本は比較的そういった文脈からも選ばれる国になっていて、GAFAMプラスOracle(のうちOracle、Microsoft、Google、Amazonの4社)がAIデータセンターに対して4兆円超えの投資が計画されている。
日本もNTTとかソフトバンクとかNECとか、いろんなところがチャレンジをしているのが現状です。課題はまた後にお話ししたいと思います。
木嵜:2024年のセッションでも、ソフトで負けてしまった日本の悲しい現状みたいなお話をされていましたけれども、松尾さんはどのように見られていますか?
松尾:まず前提条件なんですけど、基本的にデジタル全般は、日本は非常に苦しい状況というのがスタート地点。特にインターネットの大きな産業ができているのはアメリカと中国しかないんですよね。

というのが前提で、我々が日常的に使っているいろんなアプリケーションとかiPhoneとかは、基本的にはもう全部海外製という状況からスタートしています。
そういう中で2022年にChatGPTが出てきて、そこから生成AIでモードが変わって、新しい動きがどんどん大きくなってきたわけですけども。
その中で日本は、平さんのおかげもあって、国としての動きはほぼほぼ満点と言っていいかたちでやってきている。それで、GPUも国内に増えましたし、開発者も増えましたし、生成AIの活用もいろいろと進んできている。
EUとは違う道を歩む必要がある
松尾:今回のIVSでもAI関連のスタートアップはたくさんいると思いますけども。やはりこれまでのデジタルの最新技術でこんなことはあんまりなかったので、そういう意味からすると、すごくいいかたちできているとは思います。
ただ、もともと負けていますから、そういう中で「どうやって巻き返していくのか? どうやって戦えるところまで持っていくのか?」というのが大きな課題かなと思いますね。
今回のAI法案も非常に良い法律で、ちゃんとイノベーションを推進する。そのために必要な制度や、リスクにも対応していく。それからAI戦略本部を作って、機動的に動けるようにしていくということで、本当にほかの国の手本になるような法律なんじゃないかなと思いますね。
木嵜:なるほど。先ほどもおっしゃっていたAI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)ですよね。最初、設定としてはどうなんでしょうか?
平:まず、EUがきついんですよ。でも、EUは本当に理念もしっかりしているし、理論も厚みがあるので、インテリの人はついついEUの後を追いたくなるんですよね。
なんだけど、日本はビッグ・テックもないので、そういった中である程度の傾斜をつけないと、お金も人材も集まってこない。そういう意味で、EUとは違う道を歩んでいるということ。
あと、知財・著作権は当然守るんですけども、その守り方も文化庁でガイドラインを作って、司令塔をしっかりつけて課題をわかりやすくしたということですね。