日本がヘルスケア分野のリーダーになるべき理由
カシャップ:(少し冗談混じりに)アメリカ人として、アメリカ人をちょっと茶化してもいいですか? アメリカ人って、古くから存在するものをちょっとおしゃれにすれば「新しい」と思い込むところがあるんですよね。長寿に関する今のムーブメントも、そういう面があります。
ドレイク:本当にそのとおりです(笑)。
カシャップ:例えば、寿命を延ばす手段として科学的に証明された数少ない方法は、「カロリー制限」と「断食」なんです。これは東洋で古代からずっと実践されてきたことです。
(日本語で)「腹八分目」や「お風呂に浸かる習慣」など、そうした暮らし方が、今になってようやく西洋で「新しいヘルスケア」として注目されているわけです。

私としては、こうした“新しいようで新しくない”ことに対して、少し懐疑的に見ています。結局、多くのものが営利目的で注目を集めているだけに過ぎないとも言えるかもしれません。
だからこそ、私は長寿分野で、日本こそがリーダーになるべきだと思っています。でも問題は、アメリカの「シャイスター(詐欺まがいの人)」たちが、物事にうまく飾りをつけて大きな注目や資金を集めてしまうことです。本当に、私がそういう人たちを支援していないことを祈ります(笑)。
テクノロジーが生活空間に溶け込むようになる
ドレイク:今一番熱いテーマは「AI × 長寿」だと思いますが、あなたの会社はこの分野でどうポジショニングしているのか、ビジョンを聞かせてください。
カシャップ:私たちが描いている未来のビジョンは、スマートフォン中心ではなく、『アンビエント・コンピューティング(環境に溶け込むテクノロジー)』の世界です。
この20年間、スマートフォンは私たちがインターネットやコンピューターにアクセスする主要な手段でした。しかし、これからは私たちが意識せずとも自然にテクノロジーと関わる世界へとシフトしていくと考えています。これは新しい哲学ではありませんが、私たちがその実現のために開発している方法は、かなり革新的だと自負しています。
私たちは「これからの医療の多くは、病院やクリニックではなく、家で行われるようになる」そして家の中で最もプライベートな空間、すなわちバスルームが中心になると考えています。
生活データの活用で「医療の再定義」が始まる
カシャップ:例えば、尿・便・呼気・薬など、あらゆる健康データがそこで検知・追跡され、テレヘルスと統合されることで、「スーパーパーソナルな健康管理」が可能になると考えています。
私たちは今、トイレの便座からスタートしていますが、最終的には家全体を舞台にした医療の再定義を目指しています。
ドレイク:あなたの会社は、このビジョンについてすばらしい記事でも取り上げられていましたね。『ウォール・ストリート・ジャーナル』だったか、『ワシントン・ポスト』だったかは忘れましたが、「医療スパのような未来のバスルーム(未来の在宅診療空間)」について書かれていました。
その記事では、例えば「鏡に話しかけると医師が映り、皮膚の異常を診断してくれる」といった未来像が紹介されていました。さらに、体重計に乗ると、姿勢の変化やバランスの崩れを検知して、必要な専門医を呼び出すトリガーになる。そのようなすばらしい未来は、どれくらい現実に近づいていて、また費用的にはどうなのでしょう?
カシャップ:すばらしい質問ですね。私たちはNIH(米国国立衛生研究所)や複数のバスルームブランドから資金提供を受けており、現在この最先端技術の実装に取り組んでいます。AIの進化を考えれば、これはそう遠くない未来だと思います。
高齢者はテクノロジーに疎いという誤解
カシャップ:現実世界とソフトウェアを結びつけた時、テスラのような企業が示してくれたように、10年前なら不可能だった洞察が今では可能になりつつあります。そしてこれは、高齢者にとって特に重要な話です。
多くの人は「高齢者はテクノロジーに弱い」と思いがちですが、実は違います。問題なのは「テクノロジーが彼らの生活に自然に溶け込んでいない」ことなんです。私たちの哲学では、「テクノロジーは存在を忘れられるくらいシームレスであるべきだ」と考えています。
私たちが開発している「トゥルー・ルー」では、ユーザーは何も操作する必要がありません。何も覚える必要がないし、ボタンも押さない。ただ、座るだけで良い。それが、本当に高齢者にとって普及するテクノロジーの条件だと思っています。
川邊:まさにそれが私が「トゥルー・ルー」を好きな理由です。私の日本での経験では、新しいテクノロジーを導入するとなると、介護施設の管理者もスタッフも全員がトレーニングを受けなければなりません。そうなると、導入にすごく時間がかかってしまいます。
でも「トゥルー・ルー」のように、トレーニング不要で直感的に使えるテクノロジーであれば、すぐに導入できて、結果的に高齢者のケアの質が向上します。
「人生の質を高めるイノベーション」の実現へ
ドレイク:では、最後にいくつかライトニング質問(即答形式)にいきましょう。まずは、寿司の食べ過ぎで水銀中毒になるか心配すべきでしょうか?
カシャップ:いいえ、大丈夫です(笑)。
ドレイク:ベイエリアまたは東京で、お気に入り、おすすめの寿司屋はありますか?
カシャップ:わからないです(笑)。
川邊:ベジタリアンなので私も特におすすめはないです(笑)。
ドレイク:SusHi Tenchなのに(笑)。それでは、AgeTech分野で、最もエキサイティングだと思うAI活用は?
川邊:私はフランスのスタートアップが開発したAI搭載のヒューマノイドロボット「ミロキ」が好きです。これは介護スタッフの負担を大きく減らせるからです。
ドレイク:いいですね。カシャップさんのお気に入りは?
カシャップ:「トゥルー・ルー」。ぜひ一度調べてみてください。
ドレイク:なるほど、ご自身のプロジェクトの紹介も抜かりないですね(笑)。今は斬新すぎるけれど、5年後には当たり前になっているであろう技術は?
カシャップ:間違いなく、“グラス(眼鏡型デバイス)”です。これからはスクリーンを見つめるのではなく、グラスを通じてさまざまなことに関わる時代になります。
ドレイク:最後に、お二人から一言ずつお願いします。
川邊:「高齢化」はもはや社会課題ではなく、経済課題だと思います。そしてこれは、国境を越えて解決すべきテーマです。
カシャップ:私たちが今取り組んでいること、そしてこの会場にいるみなさんと一緒に、人生の質を高めるイノベーションの実現です。この会場にいらっしゃるみなさんと共に、より良い未来を築いていけたらと願っています。
ドレイク:「高齢化を“セクシー”にする」ことが、私たちの次のチャレンジかもしれませんね。なぜなら、そうなれば初めて消費者の支持と資金が集まりますから。
それでは、登壇者のお二人に大きな拍手をお願いします。ありがとうございました!