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長寿時代におけるAge-Techの役割(全3記事)

AIで排泄物から健康状態を測定 スマート便座企業のCEOが語る“トイレ大国”日本への進出理由 [1/2]

 【3行要約】
・日本は世界有数の長寿国として知られていますが、介護保険制度の財政圧迫や人材不足の課題に直面しています。
・SOMPO Digital Labシニアリサーチャーの川邊万希子氏と、トイラボCEOのヴィック・カシャップ氏が、日本の高齢者ケア市場におけるテクノロジー活用の可能性について議論します。
・カシャップ氏は、日本文化が健康テクノロジーと親和性が高く、アメリカ以上のビジネス可能性があると指摘します。

日本のケアエコノミー市場の未来とは

ジョアンナ・ドレイク氏(以下、ドレイク):それでは、ここからはすばらしいゲストをお迎えしてパネルディスカッションを始めたいと思います。万希子さん、ヴィックさん、どうぞご登壇ください。
まずはお二人をご紹介します。

川邊万希子さんは、まさにルネサンス・ウーマンです。三菱総合研究所で17年間にわたり、医療・介護政策、高齢化研究、公衆衛生、イノベーションと社会的影響について深い専門知識を培いました。

現在は、SOMPO Digital Labで健康長寿に関するシニアリサーチャーを務めるほか、東北大学の特任教授としても活躍されています。シリコンバレーでも数々のネットワークを築き、さらにヨガの指導や琴の演奏もされているという、多才な方です。

次にご紹介するのがヴィック・カシャップ(Vic Kashyap)さんです。ヘルスケア・イノベーションとAgeTechの最前線で活躍されている起業家です。ヴィックさんはトイラボという会社の創業者兼CEOで、AI搭載のスマート便座を開発し、すでにアメリカ国内の高齢者施設50カ所以上で導入が進んでいます。現在、日本市場への参入も目前に控えています。

ヴィックさんは少しユニークな経歴の持ち主で、大学卒業後すぐにベンチャーキャピタルの仕事に就いたという、非常に稀有な存在です。その後、ヘルスケアSaaS企業を創業し、それをエトナ(医療保険会社)へ売却。また、日本最大級のソフトウェア企業の幹部も務めたことがあります。どうぞ、お二人に大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)

日本は“AgeTech先進国”

ドレイク:今日はインタラクティブなディスカッションにしたいと思っています。会場のみなさんからも質問が出るといいですね。
私の紹介では、米国でのケアエコノミーと基盤不足について状況を説明しました。そこで、この会話を始めるにあたり、日本の高齢者ケアの状況について話し、次に日米の協力の機会について触れたいと思います。

まずは万希子さん。以前、AgeTechは日本では長く存在しているにもかかわらず、起業家や投資家にとっては“セクシー”な分野とは言えない現状があると、ややフラストレーションも込めて話されていました。その点について、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか、またどうすればAgeTechがより魅力的な分野になるか、お聞かせください。

川邊万希子氏(以下、川邊):すばらしいご紹介をありがとうございます。日本の高齢者ケア市場について、私の知見を共有できることをうれしく思います。

まず、日本は高齢社会において本当に顕著な成果を出している国だと思います。日本人の平均寿命は非常に長く、特に女性は87歳前後と、世界で最も長生きです。また、100歳を超える高齢者も現在およそ9万人おり、その数は今も増え続けています。

ただし、健康寿命と平均寿命の間には若干の差もあり、そこが課題でもあります。それでも日本の高齢社会における成果は世界的に見て非常に高水準です。

私なりにその理由を3つの仮説として考えています。

1つ目は、日本では政府がすべての国民に対して医療・介護サービスへのアクセスを保障しており、社会保障制度がしっかり機能している点です。

2つ目は、2000年に導入された介護保険制度の存在です。この制度は、高齢者の「自立支援」を目的として設計されており、「サービスを提供すること」自体が目的ではありません。これは非常に重要な視点です。

3つ目は、医療・介護の現場を支える専門職の方々の献身的な努力があったことです。これにより、現在のような高い成果が実現されていると思います。

高齢化社会の課題にテクノロジーができること

川邊:ただし、課題もあります。介護保険制度が確立された後、官民問わず多くの事業者が参入し、サービス事業所の数は急速に増えました。その結果、供給と需要が同時に増加する一方で、財政状況がそれに追いつかず、介護人材の不足が深刻化しています。

こうしたギャップを埋めるためには、サービス現場にテクノロジーを導入する必要があると考えています。たとえ制度が公的に整っている国であっても、テクノロジーの活用は必須だと思います。

私は今後、日本においてもAgeTechの可能性が広がると見ています。また、超高齢社会が進行していく中で、もはや公共部門だけですべてを担うのは不可能です。したがって、民間企業の役割が今後ますます重要になると考えています。だからこそ私はシリコンバレーに拠点を移し、テクノロジーやイノベーションを積極的に探し、日本の事業に繋げる活動をしています。

今、私が注目しているのは、サービス現場の業務効率を高めたり、高齢者のケアの質を向上させたりするようなソリューションです。これが、現在の私のシニアケア市場における関心領域です。

ドレイク:民間セクターにより多くの機会があるというあなたの言及は興味深いです。私たちからすると、米国では日に日に減少している公的支援のレベルがすばらしく見えます。

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