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長寿時代におけるAge-Techの役割(全3記事)

育児と介護の“サンドイッチ世代”をテックで救え アメリカで加熱する高齢者支援スタートアップ

【3行要約】
・高齢化社会が進む中でケアエコノミー市場が急成長しています。
・年齢に寄り添うテクノロジーサービス「AgeTech」市場が拡大する一方、子育てと親の介護を同時に担う「サンドイッチ世代」の負担が問題となっています。
・AIやテクノロジーを活用した革新的なAgeTech企業の台頭により、日米の知見を融合させた新たなビジネスチャンスが広がっています。

高齢化社会は「ケアエコノミー」のチャンス

司会:さて、次のセッションを始めましょう。タイトルは「AgeTechとケア経済の台頭」です。
まずは、このセッションのモデレーターをご紹介します。どうぞ拍手でお迎えください。マグニファイ・ベンチャーズの創業者でありマネージング・パートナーのジョアンナ・ドレイクさんです。

ジョアンナ・ドレイク氏(以下、ドレイク):こんにちは。こちらの写真は私と父のジョン・ドレイクのものです。彼はグローバルビジネスの分野で優れた人物であり、私が8歳の時、家族で日本に移住するきっかけとなった人です。

以来、何度も日本に戻っては仕事をしてきました。父は60代前半で物忘れの兆候が見られるようになり、現在では高度な認知症を患っています。今でも日本の思い出は覚えているのですが、短期記憶はすっかり失われてしまいました。常に24時間体制の介護が必要です。

だからこそ、SusHi Techのようなイベントにお招きいただけたことは、私にとってとてもありがたいことでした。このテーマは、私にとって個人的にも、職業的にも大きな意味を持っているからです。

2020年、私たちはマグニファイ・ベンチャーズを設立しました。私はシリコンバレーで何度も企業を立ち上げ、ベンチャー企業を運営してきた連続起業家ですが、ある時、ケアエコノミーという分野に、まだ誰も手をつけていない空白地帯があることに気づきました。

共同創業者のジュリーは、ビル&メリンダ・フレンチ・ゲイツ財団で10年以上にわたり投資家および戦略家として働いてきました。彼女はシリコンバレーの有力なVCに出資する中で、妊娠から人生の最期までのライフサイクルをカバーするベンチャーファームを作るチャンスに気づいたのです。

アメリカだけで930兆円以上の市場

ドレイク:これは、従来のVCや起業家にとって魅力的とは言いがたい領域かもしれませんが、テクノロジーの力が本当に必要とされている分野です。

私たちがマグニファイ・ベンチャーズを立ち上げた2020年当時は、まさにコロナウィルスの流行が始まりつつある時期でした。そのころ、ケアエコノミーという言葉は、ほとんどの人にとって耳慣れないものでした。

そのため、起業家や共同投資家を巻き込むには、大きな啓蒙が必要でした。私たちは、世界有数の調査・戦略機関と連携しました。例えばマッキンゼーや、ピボタルといった持株会社です。

この初期の調査で分かったのは、出産から終末期まで、あらゆるライフステージにおけるケアにかかる支出と労力を合算すると、アメリカだけで6,480億ドル(約100兆円)規模の市場になるということでした。

その後、ボストン・コンサルティング・グループもこの領域に参入しました。彼らは上記の「ケア」に加え、アメリカ国内に5,000万人〜6,000万人いるとされる無報酬の介護者(Unpaid Caregivers)や、正式に認知されていない「グレーエコノミー(非公式ケア)」の存在も含めて試算しました。その結果、ケアエコノミーは年間6兆ドル(約930兆円)規模に上ることが明らかになりました。

子育てと介護を同時に求められる世代

ドレイク:アメリカではこの10年ほど、「サンドイッチ世代(Sandwich Generation)」と呼ばれる現象が顕著です。成人の約3分の2が「自分はサンドイッチ世代だ」と自己認識しています。つまり、子育てと親の介護を同時に担っているという意味です。

この状況は、単なる時間や労力の問題にとどまりません。深刻な経済的負担をも生んでいます。実際、サンドイッチ世代のうち約20パーセントが、子どもや高齢の親を経済的に支えています。このことが、アメリカの家庭の健康に関する深刻な危機を引き起こしています。

それに加えて、燃え尽き症候群にあると言われる42%以上の働く親の人口を考えると、GDPとビジネスへのコストは非常に大きく、約2,000億ドルに達します。

2034年には、アメリカ国内で高齢者の人口が子ども人口を初めて上回る見込みです。にもかかわらず、この現象に対する社会の備えは、まったく十分ではありません。

しかし、ここに一筋の光があります。投資家たちが、この分野において「スケーラブルかつ収益性の高い事業を構築できる」可能性を認識し始めているのです。

50代以上向けサービスが重要な理由

ドレイク:いくつか注目すべき統計があります。まず、アメリカにおける「長寿市場(Longevity Market)」は8兆6,000億ドル規模に達しています。

そして今現在、1ドルあたり56セントが50代以上の人によって使われているにもかかわらず、実際にはこの世代のために設計された製品、サービス、コミュニティは非常に少ないのが現状です。そのため、もし私たちが予防医療やケアの支援を先回りして整備できなければ、社会全体、特にアメリカにおいては莫大なコストを将来負うことになります。

例えば、世界全体での認知症関連コストは1兆3,000億ドルと推定されています。アルツハイマー病の医療費が年々上昇していることも、皆さんご存じのとおりです。

マグニファイ・ベンチャーズでは、創業者とともにテクノロジーを駆使して、ライフサイクル全体をカバーする支援を行っています。具体的には、妊娠期・乳幼児ケア・子育て・家庭のマネジメント・働く親や介護者のための働き方支援・ファミリーフィンテック・社会的サポート・認知症ケア・終末期支援などです。

このようにAge Tech(年齢に寄り添うテクノロジー)や「長寿市場」において、すでに多くの有望な創業者や企業が登場しています。今日はその一部をご紹介します。

注目のAge Tech企業5選

ドレイク:まず紹介するのは、現在は創業中の状態にあるピークヘルス.AIという企業です。非常に経験豊富なバーチャルケア起業家が立ち上げている会社で、AIを活用しながら、個別最適化・予防重視・データドリブンで、しかも一般層にも手が届く価格で長寿支援サービスを提供しようとしています。

次に、サンデー・ヘルス(SundayHealth)。これは、30代〜40代という比較的早い段階から認知症の兆候を発見・診断し、包括的かつ全体的なケアプランを設計・実行する、初の認知機能ケア統合プラットフォームです。

グルーパー(Grouper)は、高齢者の「社会的つながりの維持」に注目したサービスです。高齢者がピックルボール(高齢者に人気のスポーツ)やバードウォッチング、ポーカーなどを通じて、似た趣味を持つ仲間と定期的に集まれるよう支援します。保険適用もされており、医療費削減にもつながるとして注目を集めています。

さらに、パパ(papa)という企業はAgeTech分野の象徴的存在と言えるでしょう。創業者は祖父と離れて暮らすことになった時、「大好きな孫である自分と離れて、祖父はどう過ごすのか」と強い不安を感じました。

彼はFacebookで、大学生やパートタイムの親で、祖父の元に訪問してくれる人を募集しました。その人には処方薬を届けてもらったり、FaceTimeの使い方を教えてもらったりして、祖父が孤独や社会的孤立から救われるようにしました。

こうして、孤独な高齢者をギグワーカーがサポートするオンデマンド型マーケットプレイスが誕生しました。保険適用されており、すでに全米で活用が進んでいます。

マグノリア(Magnolia)という企業もご紹介します。こちらはアマゾン・ケアのチームの一部がスピンアウトして立ち上げた会社です。AIを活用したパーソナライズ型のケアナビゲーションおよび支援システムを開発し、5,000万人〜6,000万人とされる「家族介護者」に向けた支援を展開しています。こちらも保険適用対象です。

アメリカの技術と日本の経験をひとつに

ドレイク:この後、パネルディスカッションとして、日米の連携の可能性についても議論していきたいと思います。私はこの分野において、日米双方の協業に大きなチャンスを感じています。

すでに、アメリカ側では多くの企業・大学が、日本との共同研究や技術連携に取り組んでいます。逆に、日本からは、規制制度やインフラ整備に関して学べることが非常に多いと感じています。特に日本では、政府が介護や福祉のインフラを支援してきた歴史があり、そこから得られる知見は非常に有益です。

さらに、現在では、オーラリング(指輪型のスマートデバイス)やスマートウォッチ、家庭内のモニタリングデバイス、家族介護者による記録や観察といったかたちで、個人の健康に関する膨大なデータが蓄積されています。

AIを活用することで、これらのデータを連携し、医療ソリューションに統合する機会が、今まさに訪れています。アメリカと日本でそれぞれ革新を進めている企業が、互いの市場に進出することで、さらなる相乗効果が生まれるでしょう。

より多くのソリューションを構築したり、コスト削減ツールを使用したり、社会的ケアに対処し、慢性疾患や病気につながる社会的孤立を防いだり、個人ごとの高齢化の過程についても、起業家や投資家の両方から学んだ多くの洞察を共有することができます。

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