Rubyの生みの親・まつもとゆきひろ氏が若手エンジニアに贈る、キャリア構築のヒント。35年にわたるソフトウェア開発者としての経験から、「つよつよエンジニア」と呼ばれる存在になるための本質的な考え方を語ります。技術だけでなく、成功への道筋や自分らしさの活かし方など、プログラマーとして生き抜くための実践的な戦略を、ユーモアを交えながらわかりやすく解説しました。
「日本人で一番有名なプログラマー」Rubyの父が語る35年の経験
まつもとゆきひろ氏:こんにちは。まつもとゆきひろと申します。今日は「学生エンジニアの生存戦略」というテーマで話すように依頼されています。私は、まつもとゆきひろと言います。Rubyを作った人として知られています。それで、英語圏ではMatzというふうに言われています。
そのせいもあって、みなさん「Matzさん」と呼んでくださることも多いんですけども、Rubyを作った人ですね。おそらくは、日本人で一番有名なプログラマーだと思います。もちろん私より優秀なプログラマーはたくさんいるんですけれども、知名度という観点から、世界的に非常に著名なソフトウェアであるRubyを作った人ということで知られた分、日本人としては一番よく知られているプログラマーだと思います。
ここで「日本で一番優秀なプログラマー」とかを言えればかっこよかったんですけどね。どうもそうではないみたいですね。Rubyを作ったという多大な経験によって、私は今、松江市に住んでいるんですけども。松江市の名誉市民をいただいております。なかなか、名誉市民をもらっているプログラマーも少ないと思いますけれども。
今日は「学生エンジニアの生存戦略」ということで副題が付いていまして。「Rubyの父が語るキャリアのヒント」みたいなことが書かれています。私も大学を卒業してすぐにソフトウェア開発者、ソフトウェアプログラマーとして働いて、2025年で35年目になるので(笑)。だいぶみなさんよりも先輩な感じがありますね。
その中で、いいことも悪いこともたくさんあったんですけれども。一応、ソフトウェア開発者としては成功しているほうとみなされていると思うので。その経験から、みなさんのお役に立てるようなことを言えるといいなと思って、今日はまとめてきました。
「つよつよエンジニア」と「かけだし」の間にある高い壁
若い人たちにとっては、ちょっと憂鬱なことがあると思うんですね。それは何かというと、「YouTube」とかを見ていると、「つよつよエンジニア」という表現があるらしくて。例えばすごい成果があったりとか、著名だったりとか、経済的に成功していたりとか、そういうエンジニアさんたちがいて。
一方で、特に若い人はそういう自分の成果であるとか、それから経験であるとか、スキルであるとかをそこまで持っていないことが多いので。そうすると、つよつよの反対語は「よわよわ」かと思ったら、どうも「かけだし」っていうらしいんですね。かけだしエンジニアとしては、すごく高い崖の上につよつよエンジニアがいるのを見るような。目の当たりにするようなところがあります。
それを考えると、「できるエンジニアになりたい」という憧れみたいなのがあっても、おかしくないと思うんですね。今日は、つよつよという言葉は、あまり私は馴染みがないので、「ネームド」という言い方をしようと思うんですね。ゲームとかで出てくるやつですね。ネームドって、強敵とか。
ただ単に、ゴブリンとかですね(笑)。そうじゃなくて名前が付いていて、強い。特定の個体ですよね。そういうのがネームドですけども。まぁ、一目を置かれる存在ですね。「ネームドになろう」というのが今日のメインのテーマになります。
「ネームドになりたい」という承認欲求と成功への憧れ
みなさんの中にも、「自分はネームドになりたい」と思っている方がそれなりにいるんじゃないかなと思うんですけども。いや、なっていただいていいんですよ(笑)?
どうしてかというと、例えば、自分はまだ成果を上げていないし知名度もないので、有名なプログラマーと比べて自分は何もできないという劣等感であるとか。あるいは、「いつか彼のようになりたい」「あの人のようになりたい」とか。「こんな成果を上げたい」「いつか一旗上げたい」というような有名になりたい気持ち。
だから、もうちょっと広く言うと、例えば承認欲求というかたちである人も多いと思うし。なんかよくわからないけど、すごく「つよつよになりたい」という憧れみたいなものですね。別の言い方をすると、例えば「成功したい」みたいな気持ちがあると思うんですね。それは誰でも持つ当たり前な感情だと思うんですよ。