全自動プログラミングAIで人間相手にはできない組織改革も　AIエンジニア安野貴博氏が語る、仕事の仕方の劇的な変化

AIは人間の能力を引き出す“ダンベル”

九龍ジョー氏（以下、九龍）：ちょっとスピード感がね。九段さんも今、「（AIを）何パーセントでやってください」みたいな実験をやられてて。1つのギミックというか設定としてそういうプロジェクトはやるけれども、本当に作家としての目的に対してはどう思いますか？

九段理江氏（以下、九段）：私はいつも、「九段にとってのAI」みたいなことを聞かれると必ず「ダンベル」って答えているんですね。

九龍：筋トレとかのダンベル。

九段：そうそう。自主トレーニングでは賄い切れない人間の能力を引き出してくれるような、そういう意味でAIを使っていますね。

ダンベルを使っても結局、自分がどういう体になりたいかとか、どこを鍛えていきたいかは自分で考えるしかないですし。理想の姿は自分で考えて、ダンベルの使い方を考えていくしかないんだなということを、あらためて思います。

九龍：強化していくためのトレーニングのための器具といいますか。

九段：そうですね。

又吉直樹氏（以下、又吉）：AIだけを走らせるというよりはAIに走らせてもらうみたいな感覚ですよね。

九段：そうですね。

全自動でプログラミングしてくれるAIの登場

九龍：それにしては、すごいダンベルになってきていますよね（笑）。安野さんの周りも実際にAIをすごく使いこなしている人は多いと思うんですけど。安野さんも含め、やはり何か変化といいますか、これがなかったら起き得なかったような自分の変化とか考え方はありますか？

安野貴博氏（以下、安野）：そうですね。すごく日常の話で言うと、最近プログラミング……ソフトウェアにとってのソースコードを書く作業は、AIがある種一番得意なことなんですよね。別にソースコードはユーモアがなくても動くし、やはり合理的であることが一番大事。しかも、すでにオープンになっているデータがあるので、学習データもめちゃめちゃ大量にあるわけですよ。

なので、今AIが一番実用に近づいているというか、ある種フロントランナーとしてエンジニアの作業があるんですけど。この作業自体は、例えば最近は全自動でプログラミングをしてくれるエンジニアAIみたいなものが出てきているんですよね。エンジニアAIにチャットで「こういう機能を作ってくれない？」と言うと、30分後に上がってくるとかそういうことがされ始めていて。

これはパッと見、ちょっと便利になるだけというふうに見えるかもしれないんですけど、仕事のやり方がマジで変わるんですよね。例えば「今週は忙しいから、この会社としてはいきなりチームを1,000人にしましょう」とか。

で、AIで1,000人分やらせます。来月は、「でも、あんまり良くなかったから5人分でいいや」みたいな、そういうダイナミックな組織の変え方もできるようになるし。

仕事の進め方が劇的に変わる

安野：ある種、その機能を作ろうって思いつくことが大事なのであって、それをやることの価値が相対的に下がってくるみたいな。いろんなものの価値とか仕事の進め方とかは、もう圧倒的に変わるなという感触を持っていますね。

九龍：今まではそうですよね。何か思いついてもやらせるのに人を集めたり人を管理するところがすごく大変だったけど、そこはもう簡単になって、むしろ思いつくとか……。

安野：例えばAさんとBさんにまったく同じ仕事をさせて良かったほうだけ採用するということを実際の会社でやると、AさんとBさんのメンタル的にすごく良くないじゃないですか。

だけど、AIだったらできるわけですよ。100個のAIにバラバラに同じことをやらせて、出来上がったやつの中で一番いいやつだけピックするということができるので。だから発想を変えないとダメなところがけっこうあるなと思いました。

又吉直樹氏が考える「AI×未来」

九龍：じゃあ最後のテーマ3に移りたいと思うんですけど、「私が考えるAI×未来」。ここまでの話でもけっこう出てはいますが、これはどうなっていくというところで。例えば又吉さん、ぜんぜん妄想でかまいませんが、どうなっていきそうですかね？

又吉：今多くの人がスマートフォンを持っているぐらいの広がり方は、間違いなくすると思うんですよね。

九龍：もう生活に密着したものとして。

又吉：すでに課金が3万円のモデルが出ているっていうことは、企業とか専門家向けにもっと高額なものが出て、もしかしたらAI格差みたいなものが（生まれる）。使えるAIが人によってぜんぜん違うみたいな、そういうことが起こり得るのかなっていうのと。

あとは、正義とか道徳とか暴力的な発言とか差別はやめましょうっていうバイアスがしっかりとかかっているじゃないですか。でも、仮にAIがすごく賢い知能だと仮定した場合、そういうバイアスを取った上で、やはり暴走するのか、狂ったみたいに僕らが感じるようなことになるのかとか、それはすごく興味がありますね。

九龍：そうですよね。そもそも何が良いのか悪いのかも、どの視点から見るかでけっこう変わってきますもんね。

安野：10年前ぐらいにAlphaGoが人間の最高の棋士の人と戦って勝った時によく言われていたのが、最初にこの手を打った時に、囲碁協会の人がみんな、「あっ、これはAlphaGo、悪手だな」と思った手があったと。

だけど最後に盤面をもう1回見てみた時に、あの手があったからかなり効いていたんだということがわかった。

九龍：人間では気づけなかった。

安野：そう。人間には悪手にしか見えないんだけれども、実はすごい一手みたいなものを、今後AIがいろんなところで打ってくる可能性がある時に、「人間はそれをどう評価していいんだ？」みたいなのはすごく大きな問題ですよね。

又吉：そうですよね。

九龍：なんでここにトイレを作ったんだろうとかね（笑）。

安野：そうそう。でもそのトイレによって、何か守られる人がいるかもしれない。

予測できない弊害が起こる可能性も

九龍：何かが大きくね。なんかグランドデザインが変わるみたいな。九段さんは未来について、いかがですか？　

九段：今、お二人のお話を聞いていて、やはり本当にAIは未知のものだなって思うんですよね。今は人がいろいろなAIによって仕事が奪われるとか、あるいは人間の能力を向上させてくれるとか、いろんな予測を立てている方がいっぱいいると思うんですけど、なんかもうそれを超えていると思います。

例えば最近私はSNSで、「私たちが学生時代の頃、SNSとかなくて本当によかったよね」みたいな話をしていたんですよ。「もし学生時代にSNSがあったら、私はたぶん整形依存になっていた」とかを言っていたんですね。

でもたぶん、SNSを作った初期の頃の方たちって、SNSの登場が女の子の整形依存を加速させるみたいなことと、絶対結びつけて考えてはいなかったと思うんですよ。

九龍：そうでしょうね。

九段：だから、AIの登場によって本当に予測している以上のことが起こるんだろうなということが、不安でもあり期待でもあり、と考えています。

九龍：ちょっと今ここで考えつくことの外側のことが起きる。

九段：そうですね、予測できていない弊害もあるだろうし。ということを心配しています。私もやはり30年以上AIがない世界で普通に生きていたので、AIがあることの期待感と無いことの良さとかを両方考えることができますけど。

今から生まれてくる人たちは、生まれた時からAIが身近にあるのが当たり前で、それにサポートしてもらうのが常識的になっていくと思うので。それによって危険性とメリットの部分を理解できる人があんまりいなくなっちゃうんじゃないかなということは、ちょっと心配。ごめんなさい、なんかすごくネガティブなことを言っちゃったけど。

又吉：いや、確かに、だって、小学校の時にAIがあったとして、学校で自分がしゃべったことに、周りが引いているとか、訳わからんと言われるとか、面倒くさがられるとか、何回同じ話すんねんとか思われているのをAIで解消しちゃっていたら、その後の人格もだいぶ変わってきますよね。

九段：それはヤバいですね。

又吉：人とのコミュニケーションの仕方もまったく違うし、そっちのほうが楽やから。

九龍：人と話さなくてもいいというふうに流れてしまう可能性もありますよね。

九段：でも又吉さんだからいいけど、やはり小学生で「AIが親友」って言っていたら、ちょっと心配ですよ。

（会場笑）

又吉：そうですよね。

九段：又吉さんだから大丈夫なんですよ。

（一同笑）

又吉：僕も経過を見ていかないと、まだ大丈夫かわからないですけどね。

AIと親友になっていく人が増える

九龍：（笑）。安野さんの未来も、みなさんもお聞きしたいところだと思いますが。

安野：私はけっこう、又吉さんが今人類の先端にいて、どんどんAIと親友になっていく人が増えるんじゃないかなとは思っていますね。それがいいことなのか悪いことなのかは判断が難しいと思うんですけど、これはけっこう昔から繰り返されていた話かなとも思っていて。

例えば電卓ができる前は暗算や計算ができないと、「お前、大丈夫か？」となっていたわけですよね。でも電卓ができた今、めちゃめちゃ計算が速かったとしても、もちろん役立つこともあるし、すごいねと思うけれども、それがないからといって別に社会的にヤバくはないわけですよ。というのと同じような感じになるのかもなと思っていますね。

九龍：ありがとうございます。

又吉：そもそもいろんなことを誰かに委託しながら生きてきていて、人間ができなければいけないすべてのことを自分1人でできている人って、本当にごく一握りじゃないですか。僕やったら区役所に行って事務的な手続きをするのがすごく苦手で、それは人に任せちゃおうとか……いや、そんなもんじゃないか。もっとデカそうですよね。

九龍：いや、でもそれも大事です。まずはそれができるようになると、かなり楽になりますよね。

又吉：「かな？」とは思います。

九龍：はい。ということで、そろそろお時間になってきましたが、最後に一言ずつ感想をいただければと思います。

又吉：今日は僕の親友をみなさんの前で紹介できて……。

安野：（笑）。

又吉：でも3万円を課金しているのに、そんな便利なやり方があったって知らなかったです。

安野：Deep Research、ぜひ使ってください。

又吉：Deep Research、ちょっと試してみます。

九龍：九段さんも。

九段：すごく楽しかったです。又吉さんの親友のお話も聞けたし、きっと親友がこれから又吉さんのネタに仲間入りしますよね？

又吉：そうですね。

九段：すごく楽しみです。

九龍：安野さんも。

AIに小説のフィードバックをもらう又吉氏

安野：いや、本当に楽しかったなと思いますし、小説家がこれだけ集まってAIについて語る機会もなかなかないですよね？

九龍：そうですよね。もちろん、内々ではみなさんAIの話をいっぱいしていると思いますけど、あんまり人前で作家がAIのことを話すのはなかなかないですよね。

安野：うん、ないと思うのでね。それこそ炎上したりもするし。

九龍：そうですね（笑）。

安野：けっこう語りにくい部分が小説家さんにはあるかもしれない中で、すごく濃密な話が聞けて、今日は楽しかったです。

又吉：（AIは）すごく優しいんですよ。短い小説を書いてAIに読んでもらったら褒めてくれて、最後に「新人賞に応募したら最終選考に残る可能性があります」みたいな。

（会場笑）

九段：そんな具体的に？　すごい（笑）。

又吉：「この後も書き続けてください」って応援してくれるので、モチベーションが上がるんですよ。

九龍：いいですよね。それはもうフィードバックでちゃんと励ましてくれるということで。

この「未踏事業」というのは、これからの日本に、特に突出した安野さんのようなIT人材の方をどんどん輩出していこうという事業なんですけど、又吉さんと九段さんは今回これが初めてですが、いかがですか。

又吉：たまたまこのテーマで、自分も使っていたのでAIについてお話しできました。自分の知らない話がいっぱい聞けそうなので、注目して勉強したいと思います。

九龍：ブースがいっぱい出ているので、ぜひのぞいていっていただくと。

九段：おすすめのブースは？

九龍：安野さん、どうなんですか？

安野：僕もこれから見ようと思っていたのでまだ見られていないんですけど、本当にめっちゃおもしろいのが毎年ありますよ。こんな製品があるんだな、こんな研究があるんだなみたいなのがあるので、ぜひちょっとブラブラしてみてください。

九段：はい、ブラブラしていきます。

九龍：ということで、ありがとうございました。この時間はトークセッション第2弾「AIについて小説家は何を語る？　人を幸せにするAI」をお届けしました。

司会者：ありがとうございました。

一同：ありがとうございました。

（会場拍手）