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私たちはどう生きたいか -テクノロジーは私たちを本当に幸せにするのか?(全4記事)

月額980円で“不老不死”になれる時代に 「AI×死後のデータ活用」が揺るがす、死後の在り方

国内外のスタートアップやアーティストが集まる「Tech GALA Japan(テックガラジャパン) -地球の未来を拓くテクノロジーの祭典-」。最先端のテクノロジーをテーマにしたカンファレンスの中から、セッション「私たちはどう生きたいか -テクノロジーは私たちを本当に幸せにするのか?」の様子をお届けします。本記事では、株式会社HEART CATCH 代表取締役 プロデューサーの西村真里子氏、Whatever Co. Producer / CEOの富永勇亮氏、作家の上田岳弘氏が、故人をデジタル復活させる技術について語り合います。

“テクノロジーは私たちを本当に幸せにするのか?”


西村真里子氏(以下、西村)
:(客席に向かって)こんにちは。急遽ですけど、Q&Aを取ってもいいと言われたので、「これは聞きたい」みたいなことがあったら、手を挙げてくれたら私が指したいと思いますので、自分事として聞いていただければうれしいなと思います。

ではさっそく、「私たちはどう生きたいか -テクノロジーは私たちを本当に幸せにするのか?」。テクノロジーが毎日のようにニュースになって、札束が飛び交うような世の中でございます。

私は今回のモデレーターをさせていただきます、HEART CATCHの西村と申します。キャリアの最初はIBMでエンジニアを始めて、その後シリコンバレーのアドビでマーケをやっていました。

自分の会社を2014年に立ち上げた後も、テクノロジーを軸に世の中がどう変わっているのかをずっと追い続けているテクノロジーファンでございます。あと、かつてはプログラミングをしていた人間でして。

今日のセッションの中でも、特に先月行ってきたCESで、AI、フィジカルAI「ロボットまで作っちゃうよ」みたいな話もあったので、そういうところも含めながら、モデレーターをしていこうと思っております。よろしくお願いします。

テクノロジーを表現に取り入れてきた上田氏、富永氏


西村
:一緒に進めていただきますのが、本当に憧れの方でございます。テクノロジーを扱いながら小説を書かれて、芥川賞をはじめ数々の賞を獲っていらっしゃる上田さんです。どうぞよろしくお願いいたします。

上田岳弘氏(以下、上田):よろしくお願いします。

(会場拍手)

西村:上田さんは小説家としての賞を獲っていらっしゃるのもすばらしいんですけども、もともとITの会社を立ち上げていて。

上田:そうなんです。大学を卒業して友だちに誘われ、そのままズルズルと、今、21年目になります。

西村:なのでITとかテクノロジーをビジネスとしても見ているし、それをストーリーとして昇華をさせることもできる。その技を今回のセッションの中でもいくつかご披露いただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

上田:よろしくお願いします。

西村:そして、もうお一方でございますけども、富永〜勇亮~! フゥ~! テンションを変えてみた(笑)。

富永勇亮氏(以下、富永):ありがとうございます(笑)。大丈夫ですか? 開始前にアナウンスしていた司会の人につられていませんか? 

西村:大丈夫でございます。ちょっと私、あの司会があまりにも好きすぎて。あと、勇亮さんのバナーが出てくると幸せになったので。勇亮さんと私の関係性は、実は私がアドビにいた時に……今はみなさんご存じかしら? Flashというテクノロジーが。

富永:ありましたね。

西村:クリエイティブ&コーディングのWebインターフェイスがありまして。私がそのマーケの担当をしていた時から、バキバキとカッコいいものを作っていて。

富永:ありがとうございます。

西村:今はクリエイティブでも、広告的なものとか、ものづくりだけじゃなくて、ビジネス的にもおもしろいものをやっているので。勇亮さん、このプロフィールの中で、最近一番力を入れているプロジェクトは、どれをピックアップすればいいですかね? 

富永:そうですね、最近めっちゃ力を入れているのは、テクノロジーをまったく使ってない、木彫りのパペットを1ミリずつ動かして……。

西村:なんとすてき!

富永:ストップモーション時代劇『HIDARI』という長編映画を、本気で作っています。

西村:え、めっちゃすてき。ワオ。

富永:他には、GeminiというAIを使ったアプリを作ったりとか。

西村:Googleさんの。

富永:はい、そうです。あとは、「らくがきAR」という、2020年に有料アプリで一番売れたARのアプリを作ったりとか、そういうのを生業にしています。『HIDARI』は、AIの進化が進む時代に対するひとつのアンチテーゼとして、人間の手で、本当に1ミリずつ木を削りながら、AIには再現できない表現をどこまで突き詰められるかに挑戦しています。

主人公の名前は「サトシ・ナカモト」

西村:ありがとうございます。そういう意味だと、お二方ともテクノロジーも詳しいからこそ、ストーリーとか、人間的な手触り感みたいなところもやっていらっしゃる、というメンバーで進めていこうと思います。

さて、テーマである「テクノロジーは私たちを本当に幸せにするのか?」のディスカッションに入る前に、上田さんと富永さんのほうから、いくつか視点を投げ掛けていただこうと思います。まず上田さんから、今まで手掛けられた小説とともに教えていただけますか? 

上田:今こちらに映っているものは『ニムロッド』という、第160回芥川賞を受賞した作品です。

西村:すごい!

上田:これは2階の本屋さんでまだ販売していましたので、ぜひ帰りに買っていただけると助かります(笑)。

これは仮想通貨をテーマにした作品です。ご存じの方も多いと思うんですが、仮想通貨って何か物体があるものではなくてプログラミング上の存在なんですよね。それを提唱したのがサトシ・ナカモトと言われています。

この「サトシ・ナカモト」という名前の主人公で、仮想通貨モノの小説を書けるのは、日本人の特権であろうということを、2018年頃にはたと気づきまして、それで書いてみた作品です。

これも仮想通貨を作品に出してみるというよりは、「仮想通貨ってどういうものかな?」と、自分なりに突き詰めて作品の構成に落とし込んでいます。大変お買い得になっていますので、みなさんぜひ、2階に走っていただけると。

西村:すばらしい。私もKindleしか持ってないので、フィジカルなものも。手触り感って大切ですよね。

上田:そうですね。1冊だけありました。

西村:そうなんですね。「なら、私、負けないぞ」みたいな感じで。次をお願いします。

上田:最新作の一つ前の作品なんですが、「Uber Eats」の配達員をしているKと、TikTokerのICOという女の子が主人公の作品です。

こちらも「Uber Eats」、「TikTok」が流行っているから出してみるというよりは、「今の社会において、こういうサービス・システムが出てきたということは、どういう意味合いがあるんだろう?」という興味を突き詰めて、作品に落とし込んでいます。僕の特性を知っていただく意味でも読んでいただけるといいかなと、2作を紹介させていただきました。

社会に定着するテクノロジーと、そうでないものがある

西村:ありがとうございます。ちょっとだけ上田さんにうかがいたいのは、ブロックチェーンとかビットコインとか、キーワード的には馴染みがあるけど、それを小説に変換する時にどういう視点で見ているんですか?

上田:まず、テクノロジーといっても、すべてが流行るわけではありません。逆に言うと定着する以上は、なにがしか今の社会の芯を食っているというところから発想して、どういう存在なのかを見ていくんですね。

西村:なるほど。

上田:例えば、覚えているかどうかわからないですけど、「Clubhouse」なんてものがありましたよね。

西村:ありましたねー。勇亮さん、やってた?

富永:いや、僕は乗り遅れて、怖くて入れなかったです。

西村:そうですか。

富永:コロナ禍で流行りましたよね。

西村:私はコロナ禍で毎日ラジオをやっていましたよ(笑)。

上田:それが今はもう聞かなくなってしまったりとか。

西村:確かに。

上田:そういうのを見ていく中で、「これは芯を食っているな」という僕のセンサーが働けば、「作品にしてみようかな」となるんですね。

西村:でも、上田さんの動きを見ていると、「そのテクノロジー関連のビジネスが伸びるかな」なんて思いながらも聞いています。

上田:でも、半分伸びたあたりから後乗りしているので。

西村:ああ、なるほど。

上田:ただ、残念ながら「Clubhouseはいかねえだろうな」と思いましたけどね。

死後に「復活」させられることを許可しますか? 


西村
:そういう中で新しいものも楽しいなと思いながら創作活動をされている。さてさてそれでは富永勇亮さんからも、先ほど映画も作っていらっしゃるとありましたけど、今回のテーマに近しいかたちで、テクノロジーはどういうかたちで人々を幸せにするの? しないの? お願いできますか?

富永:あらためて、Whateverの富永勇亮です。「Uber Eats」はまさにクライアントで、台湾ではCMとかを全部作ったりしているので、すごく共感する部分が……。

西村:「あるじゃなーい」みたいな感じに。

富永:あるんですけど、今日はすごく大きなテーマですよね。「どう生きるか」なので。

西村:そうですね。

富永:今日はまずみなさんに、このテーマにふさわしい質問をしたいと思います。みなさんは個人データをもとにAIやCGなどを利用して、死後に「復活」させられることを許可しますか? 「許可します」という方、挙手をお願いします。

西村:おお! 半数ぐらいが手を挙げていらっしゃる。さすがTechGALAに来る方々。

富永:おー。けっこう多いですね。

西村:ね。思ったより多い。

D.E.A.D.(死後デジタル労働)という概念


富永
:ありがとうございます。実は私たちは今、死後復活が可能な世界に生きています。近年のテクノロジー、特にAIやディープフェイクなどの発達によって、故人を擬似的に復活させられるようになっています。

中には、故人の発言や顔画像を学習したAIが、故人の顔を勝手に作ってしまうような、肖像権の問題になったりもしていますが、私たちは何でも可能な時代に生きていると言えます。

僕たちは、こういう状況を「Digital Employment After Death」、頭文字を取って「D.E.A.D.(デッド)」、日本語に訳すと「死後デジタル労働」というふうに定義づけています。

西村:すごいですね。「D.E.A.D.」って死かと思ったら、それで「死後デジタル労働」と読む。

富永:そうです。まだちょっと半信半疑の方がいらっしゃると思うので、どんなものが実際あるのか、事例を見ていきたいなと思います。

初期費用10万円以下で“AI故人”が作れる事例も

富永:(スライドの事例を示して)2012年の事例なので、ちょっと古いんですけれども、2PACという亡くなった大物ラッパーがスヌープ・ドッグ(ラッパー。生前の2PACと交流があった)と再会する事例です。ディープフェイクが発達することによって、今後はどんどん死者が復活していきます。

上の段の真ん中は、NHKスペシャルで『復活の日』というテレビ番組がありました。実は私が手掛けたものなんですけれども、出川哲朗さんと、当時8年前に亡くなられたお母さまを技術で復活させて対談するという番組です。その隣は、AIで蘇った美空ひばりさんが紅白歌合戦に出るという事例です。

そして、真ん中の段にきて左ですけれども、アメリカ史上最悪の銃乱射事件と呼ばれているもの(マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件)があるんですけど、当時17歳だった被害者をAIで復活させて、その被害を訴えるプロジェクトが作られました。

そして、真ん中。こちらからはユーザー向けのサービスになります。写真をアップロードするだけで、簡単に動かすことができるサービスが立ち上がり、さらにその右では、メタバース空間上で「Live Forever」というモードを選ぶと、一生生き続けることができるようになってきました。

さらに下ですね。これは『スター・ウォーズ』で有名なダース・ベイダーです。声優の方は93歳で亡くなられているんですが、実は生前に「自分の声を使ってよい」という許諾をルーカスフィルムにしていたと言われています。

そして、我らの手塚治虫大先生は、2020年に『ぱいどん』という新作を、そして2023年には『ブラック・ジャック』の新作も作られています。もちろん亡くなっている方です。そして右下、最後の事例ですけれども、こちらはバーチャルAI故人を、なんと初期費用10万円以下で作れるというサービスがもうできている。

西村:なんと(笑)。

永遠の生は、もはや富裕層だけのものではない?

富永:やはりここに至るまでというのは、全部プロが介在をして、すごく高額なお金、本当に数億円かかるものもあったのが、いまやこうなっているんですね。

西村:すごいですね。初期費用が9万ちょっとで、月額980円を払い続ければ生き続けられるって。

富永:サブスクになっているんですね。

西村:「30年分買っちゃおうかしら」みたいな感じですけども。

富永:そういう時代が来ているんですね。

西村:ここで上田さんに聞いていいですか? 実際にこれを見て、どう思われますか? 

上田:そうですね、僕はよく作中で、不老不死みたいなアイテムというか状況を出すんですけど。人間が一体になって、永遠に生きたりだとか、いろんなかたちの不老不死を出すんですけど、こういうデジタルでの不老不死って、実はあんまり扱っていません。というのも、本当に直近で起こりそうで。

富永:もはやね。

上田:ちょっと手が出しづらいんです。

富永:おっしゃるとおりですね。

西村:少し前まで、トランスヒューマニズムとか死後に自分の肉体も残すみたいなところも含めて、海外の富裕層だけが残せるものという認識だったんですけど、この一番右下は価格もかなり衝撃的で。

富永:いや、まさにそうなんですよ。この時代まで来ているんですよね。これに対して、テクノロジー大歓迎という人もいれば、やはりそうじゃない人もいるんです。例えば、AI美空ひばりさんの事例は、山下達郎さんが「冒涜です」とおっしゃったり、ネット上でたくさんの議論が行われました。

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