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スペシャルオープニングセッション :「AX時代」目前。ソフトバンクが描くビジネス変革(全5記事)

実質的な賃金上昇になる生成AIでの業務効率化 現場がサボりやすい世界を作るための日本語LLMの必要性

SoftBank World 2024では、ソフトバンクが注力する、AI時代の基盤となる次世代社会インフラの構築に向けた取り組みなどを紹介しました。『「AX時代」目前。ソフトバンクが描くビジネス変革』と題した本セッションでは、株式会社圓窓代表の澤円氏、Gen-AX代表の砂金信一郎氏、ソフトバンクiPaaS事業開発本部の平岡拓氏が登壇。本記事では、現場がサボりやすい世界を作るための国産LLMの重要性について語りました。

澤円氏が「コロナ禍になって1ヶ月で辞表を出した」理由

瀧口友里奈氏(以下、瀧口):澤さんは、メタ思考を手に入れるきっかけは何かあったんですか? 

澤円氏(以下、澤):これはもしかしたら、僕にもともと備わっている1つのアンテナの特殊性なのかもしれないけど、僕はグレートリセットに敏感で、その瞬間にわけもわからず動く、程度の良いアホなんですよ。

瀧口:グレートリセットというのは、時代の大転換に敏感になるということですか。

澤:そうですね。その時にじっくり考えないので、アホなのですぐ動いちゃうんですね。それこそインターネットが登場したら、バカ高いパソコンを買って、その時点で契約し得る一番高い回線を契約して、ローンをヒイヒイ言いながら返して、毎日ネットサーフィンをしていたんですね。だけど、当時はそれで十分だったんですよ。

それ以降、ネット回線には常に投資をするし、何かリセットがかかったぞといったら、とりあえず飛びつくんですね。例えばクラウドが来ている時に、「じゃあクラウドを仕事としてやってみよう」かもしれないし。あるいは、例えば東日本大震災の時には「あ、これはクラウドを使ってリモートワークを徹底的にやってみよう」と思ったり。

あとはコロナの時には、当然「リモートワークでいろんな価値発信をしていくぞ」と思うんだけれども。さらに、一気にキャリアも変えてしまったほうがいいと思って、こともあろうに会社を辞めちゃったんですけど。コロナ禍になって1ヶ月ですぐに会社に辞表を出して。辞めたのは何ヶ月か後なんですけど、自分のキャリアそのものをアップデートしちゃったんですね。



瀧口:なるほど。

澤:世の中のルールが大きく変わった瞬間は、自分の振る舞いをどう変えても正解になりやすいと思うんですよ。過去の延長線上でずっとやっていくのが常識だとなると、そういうのは本当に狂人扱いされるかもしれないけど、ガチャガチャっとしたリセットの後って、どこにプロットしても正解にしやすいと思います。

砂金信一郎氏(以下、砂金):逆にそのままでいることのほうがリスク。

澤:そのとおり! 過去がずっと安定しているんだったら、そのまま居るのはある意味最適解になると思うんですけど、これだけ変化が毎年のように(あると)、そういうふうにはなかなかいかないので。

国産LLMは必要か?

瀧口:まさに今、挑戦することが良い環境にあるということですよね。では続いてのキーワードを見ていきたいと思いますが、平岡さん、気になるキーワードはありますか?

平岡拓氏(以下、平岡):そうですね。僕はちょっとソフトバンクらしく、国産LLMのところ。

澤:おお、いいですね。

瀧口:「国産LLMは必要か?」というテーマですね。

砂金:ソフトバンク側で言うと、元LINEで一緒に仕事をした仲間でモデルを作れる能力を持った人たちは今、SB Intuitionsという会社にいて。日本語データを集めた上で、フルスクラッチで自分たちの技術でLLMを作ろうということをやっています。

結果、本当に日本語の機微がわかるというか。他の英語圏の言語を中心として作られたものと違う振る舞いにチューニングしていますと。

一方で、(澤氏とは)一緒にいた仲ですけど、元Microsoftの澤さん的に、英語圏のみなさんで、GPUのリソースとか、かけている電力とかお金で言うと、ものすごいものを作っているわけじゃないですか。それと対比させて、「日本語のLLMって日本で作るのって必要?」という話って、ちょいちょい言われるんですよね。これってどう思われます?

澤:僕は先ほど第1次産業革命の話をしましたけど、1次・2次って、日本ってうまくやったんですよね。第1次産業革命の織機は、豊田自動織機ができたりとかね。あと、それこそ第2次産業革命の主役って車ですけど、車に関しては日本ってトップ・オブ・トップだったわけで。

第3次産業革命であるインターネットでコケて、その時(の原因)が、僕は「言葉」だと思っているんですね。

砂金:なるほどね。

澤:まず、英語のドキュメントを読める人が極端に少ないとか、日本語が処理できないんだったら使いたくないとか、日本語に対してものすごく執着をし過ぎたところがあるんですよね。なので、必要か・必要じゃないかっていうと、本当に大局で見ると、「そんなこと言ってないでさ」と本音では言いたいんだけど。

とはいえ、日本人にとってハードルを下げるためには、やはり(日本語のLLMを)作らなきゃいけないのが実態なのかなと思いますよね。

砂金:これは僕、Microsoftの時にAzureのテクニカルエバンジェリストとして、けっこうがんばりましたよね。

澤:うん、がんばった!

(一同笑)

AWSも「本屋のサーバーなんかいらない」と突き返されていた

砂金:そこそこがんばって、日本でIT業界の中でクラウドが当たり前に使えるような状況になるように、なんとかがんばりました。当時競合だったAWSの小島(英揮)さんとはたまに一緒に仕事をしますけど。彼は当時、AWSが銀行に提案に行くと「本屋のサーバーなんかいらない」と言われて、突き返されるところからずっとやっていたんですけど。

結果、IT業界という状況においては、クラウドがあることが前提で、「それを使ってクイックにいろんなシステムを作りましょう」となったんですけど、ちょっとがんばりすぎた反省があって。これはGoogleもAWSも、みなさん含めてですけど、外資系のみなさんが圧倒的じゃないですか。

国産クラウドでがんばってくれるみなさんもたくさんいらっしゃるんだけれども、日本の中で大規模なクラウド環境を構築して、安定運用をして発展させる技術が失われた原因の一部を作ったんじゃないかと。

なので、今回は外資系側にくみするのではなくて、道具としては使うのかもしれないけれども、日本側で努力するのを、ソフトバンクで、生成AIのターンではやろうかなと。

私はSB Intuitionsの所属にはなっていないけれども、彼らがやっていることはすごくリスペクトをしているし。いざ状況が変わって、ゲームのルールが変わった時に、そんなに昔ほどGPUも電力も要らなくなった。でも、作り方はやはりすごくコツが大事で。

OpenAIなのか、Metaなのか、Googleなのかがすごいのを作れるという時に、いや、実はSB Intuitionsがその作り方、秘伝のタレみたいなことを理解して、技術を理解しているということがすごく大事だろうし。

周辺でBtoBやBtoCの事業をやっている我々からすると、中身自体を、モデル自体を、いざ何となれば作れるという人たちが身近にいると、その周辺の技術レベルってちょっと上がるんですね。

「国産じゃなくてもいい」という結論になっても、挑戦は無駄にならない

砂金:あのターンに借りてきた部品をパクって使っていますみたいな話じゃなくて。いざとなれば自分でも作れるんだが、今は他の会社の道具を使ったほうがコスパが良いとか、性能が良いみたいな話になっているんだけど。

作り方自体は知っているし、技術も理解した上で、「BtoCではこういうエージェントを作ろう」「BtoBではこういう業務から始めよう」みたいな。だいぶ思考が深掘りできるんじゃないかなという観点においては、要る派なんですよね。

でも、わりと世の中的には「いや、そんなに投資したってさ、回収できるの?」という話とかもある。ただ、インターネットで失われた何十年でいうと、ここはちょっと張っておかないとマズいなと。

澤:いや、絶対張っておいたほうがいい。もしそれが最終的には「国産じゃなくてもいいよね」という結論になったとしても、絶対無駄にならないので。やらなかったら、失敗もできないですから。

瀧口:それは、ノウハウの蓄積だったり人材の育成という面で、深いところで将来的に回収できるんじゃないかっていうことですよね。

砂金:そう思います。

みんなが仕事をサボれるような働き方

澤:あと、ネクストステップの選択肢が絶対増えますからね。あるのとないのは、ぜんぜん違う。ここの中にも「生成AI新規事業」とありますけど、最終的には、ソフトバンクオンリーではなくて、すべての企業、すべての産業において、新規事業って生命線ですから。新規事業を生むために、今ないカードを作っておくのは絶対条件だと思うんですよね。

平岡:僕もどっちかというと、味方の肩を持つわけじゃないんですけど、1人のエンドユーザーとして肯定派の人間で。

というのは、例えば僕は、最終的にみんなが仕事をサボれればいいと思っているんですけど、仕事をサボれるか・賃金を上げるかのどっちかにしてくれと思っているんですよね。そうじゃないと、効率化したのに潤うのが株主だけって、ふざけた世界じゃないですか。僕はそういうのが嫌いなので。



瀧口:働き方自体を豊かにしたいと。

平岡:はい。だから、Twitter(現X)でバズった時は、「AIを使ってこっそりサボったとか言うな」という発信をしていたんです。だって、スライドも「5日かけて作りました」と言って、実は3時間だったとしたら、実質的な賃金上昇みたいなものじゃないですか。全部つまびらかに話すからには、賃金を上げてくれっていう。僕はそういう現場主義の主張を持っているんですけど。

現場がサボりやすい世界を作るためのLLMの重要性

平岡:特に日本の現場の人が仕事で楽になるためには、絶対にLLMのクオリティが重要なんですけど。本当に、外資系のLLMがクオリティにおいて日系LLMに勝てるかは、ちょっと個人的には気になっていて。

だって、例えば日本語は、たぶんグローバルで見ても言語の中でちょっと特徴的で。漫画やアニメに代表されるように、同じ言葉とか同じ漢字にいろんな読み方があったり、「大丈夫です」という言葉に1,000個くらいの意味があったりするじゃないですか。

たぶん、日本語ってアメリカよりも含みの多い言語設計になっている気がするんですよね。その分、詩みたいなものとか、五・七・五、川柳、俳句とか。ああいう嗜みが栄えたのも、日本語っていう言語の特異性がある気がしているんですよ。

そうすると、同じような学習のメカニズムで、英語の精度を出すプロセスと日本語の精度を出すプロセスが本当に同じなのかと思った時に、日本語に特化したLLMみたいな学習プロセスがあることは、僕は結局、現場がサボりやすい世界を作る上で、こっちがいい場合もあるなと思って、そのポテンシャルに個人的には期待をしています。

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