2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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安野貴博氏:(スライドを示して)まずStep.1で、みんなの意見を聴くのですが、けっこういろいろなチャンネルを通じて情報を収集していました。例えば「X(旧Twitter)」のAPI、X Developers Proというプランはだいたい80万円ぐらい払うと月間で100万ポストぐらいクロールできるのですが、それを契約して、選挙期間中に都政について呟かれたポストをクロールしてきて、どういった意見があるのかを可視化していました。
具体的には、「Talk to the City」と呼ばれるオープンソースのライブラリがあって、それを用いることですべての何万もあるXのポストを読まなくても、どういう意見がどれくらいの分量出ているかを生成AIを使うことで可視化ができるんですね。例えば、これはXではなく「YouTube」ですが、「NewsPicks」で石丸候補と対談した回があって、それのYouTubeコメントがだいたい2,000から3,000くらい付いていました。
これを全部読むのは非常に難しいのですが、これをAIにかけて、エンベディングと呼ばれる、文章をベクトルの数列に直します。その意味の空間の上に直すことで近い意味の言葉、近い意味のコメントをこのように集約して見ることができるようになります。
こういった仕組みを通じて、ネットやYouTubeやXといったチャネル上でどういうことがどれだけ言われているのかを見ながら、政策を考えていきました。
(スライドを示して)今まではクラスタリングした時に、クラスタリングの塊とはどういう塊なんだろうというのを人間が解釈するのにすごくコストがかかっていたんです。
だけど、今のChatGPTを使うと、その解釈まで全部ChatGPTにやってもらえるようになっています。例えばこの紫色の塊は若者の政治参加について言われている塊で、代表的なコメントとしてはこういうものがあったよみたいなことまで含めて見えるので、大量の情報をまさにダイジェストして消化して把握できるようになってきたかなと思っています。
またネットだけではなくて、物理的にいろいろな場所に行ってインプットをすることもやっていました。(スライドを示して)例えば、日本で最初にできた知的障害児者のための社会福祉施設の滝乃川学園に行ったり、保育園、介護施設、あとは伊豆大島に行って、実際にお困り事でどういうことがあるのかを聴く活動をしていました。
あとは、VRチャットでも街頭演説をしていて、今は完全にメタバース内で授業をやってそれで完結している高校が実際にあるのですが、実際にVRの中で高校生活を送っている学生の声を聴いたりとか。あとは個人的に好きだったねこますさんというVTuberとご挨拶したりということもやっていました。
意見を聴いたあとのStep.2で、みんなでその案を磨く。誰がどういうことを考えているのかを、生成AIなどを使いながら、支援をいただきながら把握したあとに、これをどういうふうに反映させるのか、自分のマニフェストをどのように良くするのかというのがStep.2の段階です。
(スライドを示して)これは私たちが何を使ったかというと「GitHub」です。GitHub上にリポジトリを作り、そのリポジトリの上にマニフェストを置いておいたんですよね。
そうすることによって、ここにいるみなさんだとたぶん馴染み深い方がいらっしゃると思いますが、issueと呼ばれる課題提起を掲示板のかたちで作ったり、あとはプルリクエストと呼ばれる変更提案を誰でも出せるようにしたりしました。
(スライドを示して)これがかなりよく動いて、これは最終的な数字じゃないんですけど、6月21日から28日の8日間で157個もそのマニフェストに対しての課題提起が行われて、69個の変更提案があり、41個が実際に反映されました。
これはたぶん最終的な数値はこの倍ぐらいになっているのですが、実際にすごくたくさんいいアイデアをいただいていました。(スライドを示して)具体的にどういった提案や改善があったかをいくつか紹介します。
1つは所得制限で、教育費の助成に関する所得制限の議論が1つ大きくありました。安野のマニフェストは教育が1つの柱になっています。東京都の教育費は他の自治体の2.3倍ぐらいかかるので、それがすごく親御さんの負担になっている、世帯の負担になっているという問題がありました。
それなら、ここに対して助成をかけようと思いました。それは最初のバージョンでは所得に応じて助成の金額を決めようという話をしていたんですよね。ただ、ここで、ここ(所得制限)に懸念を示される方がすごくたくさんいたので、実際にいろいろ財源や効果を精査してみたところ、やはり所得制限は撤廃したほうが政策の効力が上がるだろうということがわかって、実際に見直しを実施しました。
ただ、GitHubを使っているだけじゃなくて、その議論が荒れないようにChatGPTのAPIなどを叩きながら議論のモデレーションをするものを作っていました。
例えば不適切なヘイトスピーチや誹謗中傷があったらそれはフィルタするようにしていたり、あとは同じような議題が何度も何度も繰り返し上がることがよくあるのですが、そういったものは検知して「こっちでその話はされているよ」というのをモデレーションしたりしていました。
そうすると批判も来て、どういう批判かというと、そのGitHub Actionsの中にyamlがあるのですが、yamlの中にPythonを書きまくっていたら、ポストで「yamlの中にPythonを書きまくるような奴を絶対に都知事にしてはならない」という痛烈なものでした。
「なるほどな」と(笑)。それは確かにということで、プルリクが投げられてすぐに直せました。
その次に、Step.3で、みんなに伝えるというのがありました。これは現在のGitHubは、プルリクエストをマージするとCI/CDが走って、即座にWebサイトは更新されるようになっています。さらにWebサイトだけではなくて「AIあんの」と呼ばれる仕組みを使って、マニフェストをより広い方に伝えていました。
どういうものかというと、選挙期間の17日間は24時間ずっとYouTube Live上に安野のアバターがいて、YouTube Liveにコメントをするとそのコメントに返すかたちで自分のマニフェストについて教えてくれるよというものです。
あとYouTube LiveだけだとYouTube Liveを使わない方もいるので、電話もリリースしました。この特定の電話番号にかけると音で、音声認識と音声合成によって安野に質問ができるよということをしていました。
実績としては、これも16日間でだいたい合計8,600回ぐらい質問に応答していて、これはやはり人間の政治家がめちゃくちゃがんばっても8,600個の質問に回答するのはできないので、それができるようになったのは、ある意味AIによってコミュニケーションが増幅された、サポートされたということかなと思っています。
(スライドを示して)今3つ、みんなの意見を聴く・磨く・伝えるというのを話しましたが、これを高速に回していくことは、実は選挙だけではなくて行政運営に対しても重要な有効な手段だと思っています。実際に行政運営をする時に、有権者が誰が何を持っているのかを解像度高く知ることは、今のインターネットやマイナンバーカードで本人確認しながらみたいな技術を組み合わせることで、より解像度高く、そして速く捉えることができると思います。
超具体的な例でいうと、2020年に東京オリンピックをやりますか? 延期しますか? という時に、今であればマイナンバーカードで本人認証したかたちで東京都がアプリを作って、プッシュ通知でやる・やらないみたいなものを押させれば、誰がどれくらいのことを思っているのかを把握ができるわけですよね。
まぁ、そのとおりに知事が意思決定をするかはまた別の問題だと思うものの、そういったみんなの意見を聴く仕組みはたぶん作れるでしょう。また、みんなで案を磨くというのも、GitHubと同じ仕組みが、より参加者が増えた時にワークするかどうかはさておき、いろいろなモデレーションをかけていくことによって、さまざまな方のアイデアをうまく取り込んでいくことは、これはできるようになると思っています。
みんなに伝えるというところは、AIあんのも今回はマニフェストの政策の話を提供していましたが、それだけじゃなくて、東京都のサービスはこういうものがあるよであるとか、東京都に対して聞きたいこともさまざまあるわけで、この3つは選挙用に作ったもののように見えて、実は政治システムそれ自体にビルトインすると、より良くなるものだと思っています。
最後に1個の気づきをシェアして終わりたいなと思います。「安野陣営の雰囲気が違うな」と、すごくよく言われたんですよね。「なんか政治家っぽくないね」みたいな。あまりその他の候補者のネガティブキャンペーンとかをしないし、なんかこうちょっと雰囲気が違うと言われていました。なぜそんなに違うのかを考えてみたんです。
1つは、主張に、例えばマニフェストに訂正可能性があるからなんじゃないかなと思いました。これは何を言っているかというと、意見を固めて修正せずにアップデートしない前提のブロードキャスト型の選挙では、「それは違うんじゃないの?」という異なる意見が来た時の対応が、それを取り込むという手段がないので、どのように相手を言い負かすかという方向にしか思考が動きづらいんですよね。
一方でブロードリスニング型の我々がやったような選挙では、マニフェストが訂正可能です。そうすると異なる意見が来た時に、それが良ければ受け入れればいい。違えば違うと言えばよくて、わりと建設的な議論に発展しやすい可能性があります。
一見、そのアーキテクチャの違いというか、何回アップデートするかというだけの違いに見えるものが、実は政治家の行動規範を規定しているんじゃないかというのをすごく思いました。
なので今回みたいな、何度も更新できるようなこと、訂正可能性があることを担保することで、より互いに攻撃的にならずに分断を乗り越えて建設的な議論ができる土台を作れるんじゃないかと、私は思いました。
これからどうするんだという話をよく聞かれるので、最後にこれも1個答えたいなと思うのですが、1つは今回我々のチーム安野がやったような双方向型の選挙を未来の当たり前にしたいなと思っています。
なので安野陣営が今回こういうふうにやったよという知見はオープンにしていきたいと思うし、今回作った3つのシステムと3つ以外にもポスターのシステムなどいろいろあるものをオープンソースにして、後の選挙のあらゆる候補者が使えるようなかたちにしていきたいと思っています。
ここにいらっしゃる方は、CTOとかが非常に多いと思うので、もし今のスタートアップが終わって、次に何をやろうと思っている方がいたら、私のおすすめは出馬することですね。ぜひ出馬いただければと思います。一緒に新しい民主主義を実装しましょう。ありがとうございました。
(会場拍手)
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