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「知的単純作業」を自動化する、地に足の着いた大規模言語モデル LLM の活用(全2記事)

“知的単純作業の自動化”はLLMでどのように可能になるのか 中村龍矢氏が語る、LayerXのAI・LLM戦略

LayerXのAI・LLM事業責任者、中村龍矢氏が語る最新のLLM活用戦略。ブロックチェーンからプライバシーテックを経て、なぜLLM事業に参入したのか。エンタープライズ向け「知的単純作業」の自動化に焦点を当て、LLMのチューニング手法や精度向上の課題、そして求められる人材像まで、LLM事業の最前線を詳細に解説しました。全2回。

LayerXのLLM事業

中村龍矢氏:よろしくお願いします、中村です。私は今LayerXという会社で、AI・LLM事業の責任者をしています。

少しだけ自己紹介をさせていただきますと、もともとはLLMとかがなかった時の機械学習とか自然言語処理のエンジニアをしていました。そこからぜんぜん変わってセキュリティ系の研究を始めて、その中でセキュリティとかプライバシーの技術を使ってエンタープライズ企業さんのデータ利活用を支援する事業を始めて、徐々にR&Dから事業のほうにいきまして、今はLayerXで事業の責任者をしています。

LayerXはですね、知っていただいている方も知らない方もいるかなと思うんですけれども3つ事業があります。コーポレートの業務を楽にするバクラク事業と、アセットマネジメントのFinTech事業、そして今3つ目の事業としてこのLLMの事業を立ち上げています。

LayerXにおいてLLMは、主に2つのかたちで活用しています。まずはバクラクという既存のSaaSの事業においてLLMを使って新しい体験を作ろうというのを1つやっています。一方で、このAI・LLM事業だと、既存のプロダクトというよりはLLMが生まれたというのを前提にして新しいプロダクトを作ろう、新しい事業機会を探していこうというのをやっています。

2023年の4月にLayerX LLM Labsというかたちで立ち上がりまして、そこから段階的に投資を強めていって正式には11月に事業部として発表しています。

今日なんですけれども、3つお話できればと思っています。まず1つ目がLayerXについて、知っている人も知らない人もいると思うんですけれども。あまりLLMをやっている会社というイメージはまだ少ないかなと思っていますので、そもそもどういう背景でこのLLMの事業を始めたのかというところ。もう1個が、具体的に何をやっているかというところですね。

今日はエンジニアの方もたくさんいらっしゃると思うんですけれども、我々の事業活動を通してどういう人がLLMを使いこなせるのかという話を最後にできればと思っています。この事業部で実際に作っているプロダクトは、今日はちょっと時間の関係であまりお話できませんので、そのあたりはまたこのあとの懇親会とかでぜひともお気軽にお話やご質問をいただければと思います。

LLM事業参入の3つの要因

まず最初にこの事業部の背景なんですけれども。事業部としては新しいんですが、実は創業時から存在したチームがいろいろ変遷をして今に至るという感じですね。LayerXは創業初期、ビットコインとかイーサリアムと言われている暗号資産の土台で使われているブロックチェーン技術を使って事業をやろうというので始まった会社で、その事業をやる横でそれに関連するセキュリティとか、プライバシーを研究するR&Dチームがありました。

私はこのR&Dチームの立ち上げをやっていて、そこから2020年にピボットをしていまして、ブロックチェーン事業での気づきを元に、必ずしもブロックチェーンという技術を使わなくてもできることというかたちで新しく事業が3つに分かれていき、ブロックチェーンに関してはR&Dチームと合流して、より尖ったことをやっていこうとなっていきました。

私はこの一番下の線の事業責任者をずっとしているんですけれども。そのブロックチェーンの中でもともと自分たちが得意としていたプライバシーの技術を使ってデータビジネスを支援しようというかたちでプライバシーテック事業になり、そこから今はAI・LLM事業というかたちでLLMの研究チームと合流して事業をやっています。

というところで私はですね、けっこうスタートアップだとアンチパターンと言われがちな、技術から事業を作るという、お客さまの課題とかではなくて技術のほうから事業を作るということをずっとやっています。ある意味では、好きな技術をやるために一生懸命黒字化しようともがき続けた数年間という感じなんですけれども。

その時々……なんて言うんですかね。ブロックチェーンの時は何十兆円というお金が乗っかっているので、それを守ろうという個人的な思いがあってやっていたりとか。プライバシーに関しては現代のインターネットの考慮も数多くの問題の1つかなというところでやっていたりというので、それぞれ社会はこうあるべきかなという中で好きな技術をやっていて、今はLLMも軸に事業をやっているという感じです。

テクノロジーがあってもぜんぜん業務は滑らかに流れない

この中でLLMに改めて参入した背景はいくつかあるんですが。まず、このブロックチェーンとかプライバシーテックの事業をやっている時に、お客さまにいろいろと教えてもらった課題だけど、当時の我々の技術だと解決できなかったものにすごくフィットするからというのが1つ目です。すごく大雑把に言うと、ブロックチェーンの時はエンタープライズ企業の基幹システムとかをブロックチェーンでつないでどうこうというのをやろうとしていました。

システムをつなげることによって企業をまたいでいろんな業務とか、データが滑らかにつながってみたいなことをビジョンとして持っていたんですけれども。結局気づいたこととしては、いくらそういうつなげる要素技術があったところで、データとかビジネスとか、そういうもののフォーマットはバラバラ。そこのバラバラな部分が解決されない限りは、つなげるテクノロジーがあってもぜんぜん業務は滑らかに流れないなというのが、1つ目の発見した課題でした。

その次のプライバシーテック事業においては、プライバシー保護という個人情報、パーソナルデータを守る技術を使って、パーソナルデータを使ったデータビジネスを立ち上げる企業さんを支援するというのをやっていたんですけれども。ある意味、守る技術だったので使い道というか、使い道がないと守る意味がないというので、データそのものの使い道を探すほうにかなり苦労していました。

当時我々が使っていたプライバシーテックの性質として、ちょっと構造化データというのかテーブルにしっかりと入った決済データとか走行データとかじゃないとなかなか扱いにくかったんですけれども。構造化データはエンタープライズ企業のうちの本当に一部だけで、それだけを使ってどうこうというユースケースがしっかりと見つからなくて、なかなか発展しなかったというのが背景としてありました。

というのをやっている中で、お客さまはわりとこういうエンタープライズ企業のデータ活用のミッションを持っている方々だったので、けっこうお客さまのほうからも「LLMとかやらないの?」という話をうかがっていて、こういうバラバラなフォーマットのデータとか、非構造化データを活用という意味でLLMがすごく使えるんじゃないかと、登場した時に思いまして今に至るという感じですね。

なので、今この事業部のお客さまというのは実はほとんどがこの事業を始めてからご一緒しているというよりは、ブロックチェーン事業とかプライバシーテックの時の事業のお客さまが今のLLMでもお客さまになっているというのが連続性としてあります。

バクラク事業の土台

2つ目がですね、バクラク事業の土台というところです。冒頭に紹介したバクラク事業はこういった請求書とか、レシートとか、そういった書類をAIを使ってOCRして、こういう業務をラクに終わらせてしまおうというプロダクトですけれども。ちょっとこのあと紹介する、今この事業部でやっているLLMを使った文書処理というものの原型というかですね、そういうものでまずはユースケース面でちょっとイメージがあったというところ。

あとは、この事業においてはすごく冷静に、いろんな技術選定をしているわけですけれども。LLMではなくてもLLMが登場する前からBERTとか、そういう高度な言語モデルを使っていろいろやっていましたので、技術面に関しても社内でのいろいろな知見があって、ここも1つの土台だったかなと思っています。

最後がですね、LayerXには5つの行動指針というのがあるんですが。そのうちの1つに「Bet Technology」というのがあって、かなり平たく言うとテクノロジーが好きな経営文化、事業の文化というので参入したというのがあるかなと思っています。

技術が好きで、それに毎回飛びついていると毎回バズワードに飛びついている感じにはなるんですけれども、ある意味では好きな技術とかおもしろそうな技術に飛びつくというのは、そこはもう素直にやっていいんじゃないかなと思っています。一方で、そのあとにちょっとR&Dの段階を越えて人を付けて組織化するとか、プロダクトの開発投資するとか、どんどん投資を深めていくタイミングでしっかりと冷静に判断していこうというところがありました。そして、まずはLLMが生まれた時点で経営陣の中でしっかりとそれをウォッチし始めて、それが事業に至るという感じだったのかなと思っています。

個人的に好きな言葉で「素人発想・玄人実行」というんですけど、最初の楽しいとか、技術が好きという気持ちは別に、あまりそこを斜に構える必要はないかなと思っていて、むしろそのあとにその気持ちをどういうふうに事業にするのかというところで、徹底的に冷静にロジカルに投資をしていくのが大事かなと思っています。

LLMを活用した知的単純作業自動化

というところで参入というか、変遷していったLLM事業なんですけれども、今何をやっているかをお話できればと思います。我々のターゲットとしては一言で「知的単純作業」と呼んでいるんですけれども、Wordファイルとか、PDFファイルとか、Excelファイルをたくさん読んで、いろいろ他に転記してみたいなドキュメントワークです。

ちょっとこのあとの次のページにいっちゃいますけれども、銀行とか金融業界はお金を貸すという融資の業務において、例えばそのお金を貸す先がお金を貸しても良いというのを判断するために決算書とかを受領したり、事業計画書類とかを受領したりして、それをいろいろ読み込んで社内の稟議書に書いたりとか、別の契約書のドラフトを作ったりというふうにします。

こういうたくさんの書類を読み込んで別の資料を作るという業務が非常に多いなと思っています。こういうものは例えば今の業務だったら銀行の人しかわからないとか、それなりに専門性もあって集中力もないとできない。決算書を読むってなかなか頭を使うし思考力もいるので知的な業務ではあるのかなとは思うんです。

けれども一方で、その処理を読んでなにか別のものに転記するというのは、もう正解が決まっちゃっている業務なので、速く終わらせるというのはあるかもしれませんけれども、別にそれを使ってクリエイティブになにかをするというのはなかなかない。というところで、単純な業務でもあるというかたちで知的単純作業と呼んでいるんですが、こういう類のものを自動化する上でLLMはすごく相性がいいんじゃないかなと思っています。

銀行以外に弊社の先ほど紹介したFinTech事業、関連会社のアセットマネジメントの事業においても同じようなものがあります。不動産のファンドを運用する時にそのファンドのいろんな契約書を結びますので、それをいろいろと読み込んで、その条件等々を他のシステムに転記をしたりというのが発生していて、こういうのがまさに知的単純作業かなと思っています。

先ほどLLMに参入した背景というところで、非構造化データがうんぬんという話をしましたけれども、こういった決算書とか契約書は基本は書いてある中身の情報は同じだと思うんですよね。売上が書いてあるとか、利益が書いてあるとか。なんですけれども、そのフォーマットというか見た目がそれぞれ違うので、従来のプログラムだとなかなかそれを自動化的に扱えなかった。

同じ情報でも何ページ目に書いてあるかでぜんぜん違ったりしますし、例えばそういった財務系の数字はいろんな言い回しがあって表記ゆれがあったりするため、書類によって言い方も違うというので、普通のプログラムだとなかなかそれを自動的に整理するのは難しかったわけですけれども。LLMを使うと意味を汲み取ってくれるので、意味を汲み取るかたちでその非構造化されたデータを整理することができると考えています。

LLM活用による業務改善

こういった知的単純作業というものにおいてLLMを使うと、すごくシンプルには時間が短くなるのでラクになるということなんですけれども、それを通していろんな副次的なメリットもあります。例えば、こういうドキュメントワークはシンプルに言うと同じようなものの反復作業になりますので、ちょっとつまらないこともけっこう多いかなと思うんです。

けれども、従業員の方がなかなか定着しにくかったりとか、なかなか新しく採用ができないという中で、こういうものを自分たちでAIを使って減らしていくことで、働いている方々の満足度により貢献をするというのが1つあるかなと思います。

もう1個がヒューマンエラーというところで、やはりこういう業務はそれなりに集中力と分析力を扱いますので、最初の5回か10回ぐらい丁寧にやったとしても「これを毎日やるのか」と思うと、どこかで集中力が切れてミスをしてしまったりということがあり得るかなと思っています。という中で、LLMとかAIを使ってそういったミスを減らしていくというところであったりとか。

あとはアルゴリズムを使って処理すると、結果のログが残ります。なので例えば上長の人とか同僚の人が、他の人の作業をレビューしやすくなるというメリットもあるかなと思っています。なので誰かがこの決算資料を読んだからOKみたいな、すごく大雑把なレビューではなくて、システム上でそのログや記録を残しておいてレビューを担保するというのがやりやすくなるかなと思っています。

最後が業務の標準化というところで、こういった作業をある意味1つのアルゴリズムに落とし込むことによって、いろんな人がそのアルゴリズムの土台にできるようになりますので、作業者によるバラツキが減るかなと思っています。特にエンタープライズの企業さんだと異動も多かったりして、担当者が変わってその仕事を引き継ぐこともあったりするかなと思うんです。そういう時にアルゴリズムの土台があると、引き継ぎもしやすくなると思います。

(次回へつづく)

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