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組織のパフォーマンスはこれで大きく変わる ~「承認」が人を動かす~(全3記事)

“つい何でも話したくなってしまう人”は、何が違うのか? 組織のパフォーマンス向上につながる、適切な「承認」のやり方

あいさつや声かけなど、「私はあなたの存在をそこに認めている」ということを伝える行為・言葉のことを指す「承認(アクノレッジメント)」。今回は、『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』著者・鈴木義幸氏が、組織とアクノレッジメントの関係について解説します。本記事では、「リクエスト」と「指示」の違いや、チーム内で承認を増やす重要性などを語りました。

「頭のざわつき」を減らすためにもクイックレスポンスが重要

鈴木義幸氏(以下、鈴木):(チームの中で承認を増やすためのポイントの1つが)「クイックレスポンス」。Slackなのか、Teamsなのか、メールなのか、来たものに対して速く返す。これも非常に重要なアクノレッジだと思うんですね。

送り手は、送って返事がないと「どうしたんだろうか?」となる。そういう具体的な言葉になってないかもしれませんが、「自分の存在について、ちゃんとこの人は認識してるんだろうか?」と、頭をざわつかせるわけですよね。

頭をざわつかせてる間、微妙に仕事に対するエネルギーが、ゼロコンマいくつかも知りませんけど減ります。やはり頭のざわつきは減らしておいたほうがいいですから、クイックレスポンスしたほうがいい。

日常的に、大企業のCEOと言われるような方々とコーチをしたりしてお付き合いさせていただいてますが、CEOってとんでもなく忙しいわけですよ。でも、レスポンスが速いですね。

僕の感覚では、上のほうの人ほど……と言うと、「じゃあ部長が遅いのか」ってなりますが、そうじゃないんです。レスポンスが速いからCEOになったわけじゃないでしょうけど、まあ速い。驚くほど速いですね。

なんだかんだ言って、トップに立つというのは、人心掌握という意味で能力を発揮されてきた方だと思うので、どこか身についてることなのではないかなと思いますね。

それから「任せる」なんていうのもアクノレッジ、存在承認です。だから、「任せたよ」と言いながら、途中で「ああでもないこうでもない」と口を出すのは、ちょっと存在非承認っぽいですよね。

上司には「アクノレッジする側」としての役割がある

鈴木:それから「憶えている」。今ちょっと思い浮かんだ田中角栄……は古すぎますが(笑)、思い出しちゃったので。彼って小学校しか出てないんですよね。小学校しか出てない彼が、どうやって東京大学を出ている官僚と関係構築したかという逸話がありまして。

当時、田中角栄さんが初めて大蔵大臣になった時に、順番に(官僚を)自分の部屋に呼んだらしいんですよね。呼ぶ前に、課長レベル以上の人たちの顔と名前を全部憶えておいて、会った瞬間に「おっ、鈴木くんだろ。頼むぞ」と。もう、これで官僚たちは参っちゃったらしいですね。

でも、いっぱい覚えたので、時に名前を忘れちゃう人もいるわけじゃないですか。でも、そこが田中角栄さんのすごいところです。「君、名前は何て言うんだ?」なんて聞いて、「佐藤です」って言うと、「バカ、それはわかっとるわ。下の名前は何ていうんだ?」なんていうふうに言ったという逸話があるくらい。

名前だけではないですが、そのくらい自分のことについて何か憶えているというのは、非常に重要な存在承認になるんだろうと思いますね。

それから、昨今はいろいろ言われちゃいますが。もちろん、ちゃんとTPOに合った言い方や誘い方を間違えなければいけないんですけど、声をかけてもらって、人から誘ってもらって「一緒に行こうよ」というのは、アクノレッジメント、存在承認だろうと思います。

これだけじゃないですが、基本的に上司という役割を担った以上は「アクノレッジする側」として自分をアイデンティファイしたほうがいいです。「いったい俺のことは誰がアクノレッジしてくれるんだよ」というのは、ちょっと脇に置いておきます。

10人部下がいるとして、それぞれの方の今の承認不足・充足レベルはそれぞれでしょうけど、ゲームを減らして全体のチームのエネルギーチャージをして前に進めるために、「上司の役割は存在証明をすることなんだ」と決めて、やっていただくのがいいのではないかと思います。

自分のことをつい話したくなってしまう人の特徴

鈴木:もちろん、基本的に存在承認は言葉でしてるんです。でも、そもそも「存在が存在承認になっている」人っているんですね。

100歳以上生きた人のことを「センティナリアン」と言うらしいんです。アメリカのあるラジオ放送局のプロデューサーが、「100歳以上生きた人は、そうでない人と比べていったい何が違うんだろう?」と非常に興味を持って、なんらかの特徴を引き出したいんだということで、センティナリアンにインタビューをさせてもらったんですね。

ところがインタビューをしていたら、自分がインタビュアーであるにもかかわらず、センティナリアンの前ではいろんなことをしゃべりたくなった。「いったいこれはどういうことなんだろう?」と興味を持って、心理学者とプロジェクトを組んで、その秘密を解き明かそうとした。

そうしたら、要するにセンティナリアンになると、自分の利のために人をコントロールしようとしなくなる。つまり、ゲームが少なくなるんですね。自分を承認させようといろんな振る舞いをすることが少なくなって、ゲームが減って、周りの人や目の前の人を肯定する・受け入れる。だから、おじいちゃんやおばあちゃんは、マインドがそうなるらしいんです。

センティナリアンの前に立つと、なんか受け入れられているような気がしてしゃべりたくなってしまう。それは「あなたのことを受け入れてるのよ」と言ってるわけでないんですね。そういうノンバーバルな雰囲気をまとっている、つまり存在自体が人を存在承認している。目指すのは、そういうところなのかなと思います。

100歳までいかなくても、そういうものを表に出せるようなものの見方、考え方、とらえ方、人間に対する哲学みたいなものを、リーダーとして持ちたいなと思います。

承認ばかりすると、弊害は起きるのか?

鈴木:このあとはみなさんからご質問をいただいて、それにお答えする時間にしたいと思います。

司会者:それでは、今日ご参加のみなさまより事前にいただいていた質問から、いくつかピックアップをします。1つ目が「『承認の安売り』が行われている姿をたくさん見ます。相手になかなか結果が出ない場合でも承認し続けるべきなのでしょうか。承認ばかりしてしまうことの弊害について教えていただきたいです」というご質問です。

鈴木:ありがとうございます。おそらく今の質問を理解しますと、安売りで承認ばかりしていると、相手が停滞してしまうのではないか? ということだと思います。それは、今日講演の中でお話をした、結果承認と存在承認の違いを明確に認識されていないことによって起こることではないかと思っています。

私の友人の野球部の監督の例でも話しましたように、「それでいいんだよ」という褒めるメッセージを送り続けてしまうと、人によっては「あ、これでいいのか」となって、なんとなくそこで満足して成長意欲が微妙に停滞することはあるかもしれません。

でも、存在承認は結果承認ではないです。あくまでも相手の存在に対してストロークをかけていって、相手のエネルギーをチャージしていくような行為ですね。例えば親・上司によっては、相手の存在を否定することによって「存在そのものを認められたい」というエネルギーの向上を狙って、存在を否定している方もいるんですよね。

これはあまり良質なエネルギーがその人の中に貯まるとは思えないので……。もちろん、それが爆発的な、コンプレックス的な行動の発露を生むことはないわけではないですが、長い目で見るとその方はいろんな問題を起こす可能性があるので、絶対にやめたほうがいいと思います。

司会者:鈴木さん。(質問の)後半の「承認ばかりしてしまうことの弊害」についてはいかがでしょうか?

鈴木:存在承認をたくさんすることの弊害は、原則ないと思います。ただ、先ほどお伝えしたように、結果承認をしすぎることの弊害はたぶんありますね。

「リクエスト」と「指示」の違い

司会者:続いてのご質問です。「フィードバックも『相手のために行う』という意味で、一種のアクノレッジなのではないかと思いますが、どのような違いがあるのでしょうか。アクノレッジだけでなく、フィードバックやリクエスト、時には指示命令も必要だと思いますが、鈴木さんはどのように使い分けていますか」というご質問です。

鈴木:ありがとうございます。おっしゃるように広義と言いますか、全部アクノレッジに入ると思います。フィードバックをするというのは、相手をしっかり見ていて、相手に成長してほしいという思いがあって、そこに向けてストロークをかけていくわけです。ですから「フィードバックをする」というのは、存在承認の中に入ってくると思います。

「リクエスト」と「指示」は違うわけなんですが、ちょっと簡単に説明すると、指示というのは基本的には「上位者が下位者に対して、組織というものを背景に持ちながら命令すること」ですよね。

一方でリクエストというのは、上位者だからするわけではなくて「一個人である私から、一個人であるあなたに対してのメッセージ」なんですね。「私はあなたにこういうことをしてほしいんだ。それはあなたの成長のためであったり、あなたが結果を出すためにこういうことをリクエストしたいと思っている」ということなんです。

だからリクエストというのは、例えば「部下が上司に対してリクエストをする」という表現も成り立ちますよね。でも、「部下が上司に指示をする」はないわけです。

そう考えると、私からあなたへのメッセージ、アイメッセージと言われるものは、基本的にすべて存在承認と言われるもののカテゴリーに入ってくる。そういう意味では、指示が(アイメッセージに)入らないとは言いきれませんが、アクノレッジメントの範疇には入ってこない。

原則、私からあなたに対するアイメッセージ、「私メッセージ」が存在承認の中に入ってくると思いますので、フィードバックとリクエストは存在承認に入るだろうと思います。

ネガティブフィードバックによって得られる効果

司会者:鈴木さん。後半の「アクノレッジ、フィードバック、リクエスト、指示命令の使い分け」についてはいかがでしょうか?

鈴木:どういうふうに使い分けているか……。「使い分けている」という意識は日常的にはないですね。ただ、社内にマイスター制度というものがあります。

1対1で先輩のエグゼクティブコーチが、まだエグゼクティブコーチをやっていない人に対してメンター的に関わっていって、エグゼクティブコーチとしての能力を高める。私も何人かマイスティーを持って関わってるんですね。

相手のマイスティーが、エグゼクティブコーチをできるようになるために基本となるのは、フィードバックとリクエストと、ここで言っているアクノレッジメントと言われるものです。適宜……と言っちゃうとあんまりお答えにならないので、ベースはアクノレッジメントですよね。しかも、その関わりの初期はアクノレッジメントの量をすごく多くしますよね。

例えば、エグゼクティブ・コーチングを大企業のCEOの方にする時に、事前にメールでのやり取りから始まるわけですよ。当然、そこでいきなりフィードバックなんてしないので、アクノレッジをさせていただくことをかなり意識します。

だからその方に関する記事も読みますし、「こんな記事を読みました。これを発信されていることについて、私はこんなふうに思いました」とか。初めてのセッションで1時間あるとしたら、55分はアクノレッジメントを中心にしているかもしれませんね。でも最後の5分は、必ず明解にフィードバックをその人にする。

フィードバックは、必ずしもポジティブなものとネガティブなものがあるわけではないんですが、少し言いにくい、一般的にはネガティブフィードバックと言われるものを、大企業のCEO・トップに対して必ずする。

なぜかというと、それをすることによって「なんでも言いあえる場なんだ。なんでも言いあえる関係なんだ」ということを作りたいというのもありますし、最後は必ず「来週までにこういうことをぜひやってきていただきたいと思います」というリクエストをします。

リクエストすることによって、「私はあなたの成長や成功を心から応援しています」というメッセージにもなるので。大企業のCEOとセッションをやる時には、そんなふうに意識して使っています。社内でも、「この人をあるところに向けて育成したい」という時は、似たような整理をしているかなと思いました。ありがとうございます。

相手の長所に目を向けるためには

司会者:それでは続いてのご質問です。「どうしても欠点やミスに目が行きがちです。いかにして長所に目を向け個性を尊重することを、当たり前にできるでしょうか」というご質問です。

鈴木:ありがとうございます。欠点を見抜くことができるというのはすごい長所だと思いますので……というのは、アクノレッジメントですね(笑)。

基本的には、その方の欠点を見出すことができるとしたら、その方の欠点とあなたが認識されたものが、いかにその方の仕事や人生にとってプラスに働き得るかを考えて、その方向から伝えてみるというのはアクノレッジと解されるものになる可能性が高いですよね。

常にコインの両面なので。例えば「仕事が遅い」と思ったとしても、見方を変えると、ひょっとしたら「仕事が丁寧」「一つひとつ大事に『こと』を扱っている」「お客さまを丁寧に扱っている」ということかもしれないじゃないですか。

もちろんそうじゃない時もあるかもしれませんが、もしそのようにとらえ方を変えることができるとしたら、時には「非常に丁寧に仕事に向かっているね」と言う。

「仕事に丁寧に向かっているね、だからそれでいいんだよ」って言ってるわけじゃないんですが、そういうメッセージとしてパスする。もちろんそのあとには、リクエストを伝えたりするということが出てくるかもしれませんが。

いずれにしても欠点と言われるものは、とらえ方を変えて伝えることによって、相手からすると「アクノレッジをされた」と認識されるような言葉として結実させて、伝えることができるのではないかなと思います。本日はご視聴いただきまして、ありがとうございました。

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