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個人開発ヒットメーカーに聞く、プロダクト開発のこだわり(全2記事)

【個人開発者に聞く開発の美学】「プロダクトのアイデアは日常に対するポジティブな不満から」 「質問箱」「ココスキ」開発者が贈る、個人開発のアドバイス

個人開発によって生まれたプロダクトにはどのような思いや情熱が込められているのか。「個人開発者に聞く開発の美学」は、さまざまなプロダクトを開発している個人開発者に、これまでの経緯を振り返っていただき、開発に対するこだわりを深掘りしていくインタビュー企画です。 今回は、「質問箱」「ココスキ」など、数々のプロダクトをヒットさせてきたせせり氏にこれまでの個人開発を振り返りながら、それぞれの開発に対するこだわりや開発の裏側などをおうかがいしました。全2記事。

アイデアは日常に対するポジティブな不満から生まれる

ーーアイデアって、どこから生まれるんですか?

せせり(以下、せせり):日常に対する不満ですよ。

(一同笑)

すべてに対する不満。

ーーマイナスのところから生まれる感じなんですか?

せせり:いや、どっちかというと、「もっとこうしたら良くできるじゃん」みたいなポジティブな不満ですね。クレームではなくて(笑)。

ーー違和感に気づいたとしてそのままにする人とそれをなんとかしようとする人がいるわけじゃないですか。

せせり:います、います。

ーーそこの違いって、なんで生まれるんでしょうか?

せせり:意識の問題だと思いますね。例えば、電話番号って覚えようと思わないと一生覚えられなくないですか? どっかのタイミングで、「よし、がんばって覚えよう」って一瞬思うだけで覚えるじゃないですか。それだけだと思うんですよ。

「それに気づこう」とふだんから思っているか、「まぁ、いいや」ってあまり考えずに生きているか。

1度癖をつけたら、もうずっとそうだと思うんです。千原ジュニアさんのお笑いに関する本の中に、常にどうしたらボケられるか、ツッコめるかを考えていると書いてあって、それと似ているなって思うんですよ。

なんか、「あれ、なんかちょっとおもろかったな」みたいなものってあるじゃないですか。でも、別にそれで過ぎちゃうじゃないですか。やはりそれを心に留めておいて、どうしたらもっとおもしろくできるかなってずっと考える人がいいよね、みたいなのと似ていますね。

ーー「もっとこうしたら良くできるじゃん」と気づいた時に自分でやろうと思う人と、誰かに頼もうという人がいると思います。せせりさんはできたからやったんでしょうか、それとも、自分がやらなきゃと思ったのでしょうか?

せせり:どうだろうな。できたからもありますし、若かった頃は、けっこうアクティブというか、いわゆるなんでもやるタイプだったので、「やってみっか」って感じでしたね。

できるけどやれないことっていっぱいあるじゃないですか。例えばなんか、ナンパって僕やったことないんですけど。

(一同笑)

「こんにちは」って言うだけじゃないですか(笑)。でも絶対できないんですよ。だから、できない人の気持ちはすごくわかるんですよ。

なんだけど、できるだけ、やらない理由をなくしてなんでもやってみるといいかなと思いますね。

個人開発でお勧めする3つのもの

ーーちなみに個人開発ではこういうのを作るのがお勧め、とかあるんですか?

せせり:お勧めなものは3つあって、1つがメディア、もう1つがツール系、もう1つは、誰かに要望されて作るものなんですけど。

メディアっていうのは、ブログとかですよね。あれは、Googleからの検索で勝手に引っかかるので、やればやるだけどんどんどんどんPVが積み上がっていくものなので、一番コツコツ型ですよね。個人開発と言うかは微妙ですけど。

ツール系とSNSに関しては、みんな、掲示板を作りたいとか、それこそネクストTwitterを作りたいとか、やるじゃないですか。でも、基本的に無理なんですよ。

Twitterを始めたとするじゃないですか。「登録者8人です」と書いてあるTwitterに登録しますか?

ーー登録者が8人なら登録しないですね。

せせり:そう。やはり人がいないと始めないんですよ。黎明期の頃は、それこそ作れば勝手に人が来る状態だったんですね。でも、今だともう競合が大きすぎるので、それこそTwitterを作っても絶対無理だし、「Instagram」を作っても無理なんですよ。

例えば、ぬいぐるみだけのInstagramとか、猫とか犬、ペット用のInstagramとか、そういうふうに細分化していって、どうにか集めようとみんながんばっているんですね。だから、もうそもそもそういうSNS系は厳しいんですよ。

じゃあ、個人開発者が何を狙うかというと、ちょっと前まではTwitter連携アプリだったんですよ。ツール系ってよく言われるやつですね。「診断メーカー」ってやったことありますか?

ーーよくTwitterで見る、オリジナルの診断ができるやつですよね?やったことあります。

せせり:あれって、一定クリックして、「これ出た、おもろ(※おもしろい)」で終わるじゃないですか。裏に何人の人がいるかって関係ないんですよ。

例えば、「文字数カウント」で調べたことはないですか? あれ、何人が使ったかとか考えたことありますか?

ーーそういえば、何人が使ったかを考えたことはないですね。

せせり:そう。ツール系って1億人使ってようが自分しか使ってなかろうが、使う時のモチベは変わらないんですよ。しかも、そのツールが必要であれば絶対使うんですね。だから個人開発の時は、メディア系かツール系が良くて。

あとは、人に要望されて作るのがいいです。僕が最初に作った「TmBox(※すでに閉鎖)」というサービスとか、「ココスキ」もそうですね。

ココスキは、VTuberさんに依頼されて作ったんですけど、最悪そいつは使ってくれるだろうという気持ちで作れるのでいいですね。

ーーココスキもかなり話題になりましたね。残念ながらリリースからけっこうすぐサービスは終了されたのかなと思ったんですけど……。

せせり:あれは内部的にYouTubeのプレイヤーを使っていたので動画を読み込むんですが、6時間のライブ配信とかから一部分だけを読み込みたくても、6時間の動画をもろに読み込むんですよ。それを何回もループするので、めちゃくちゃYouTube側のサーバーに負担がかかっていたんですね。

だからちょっとこれは怒られるぞと思って(笑)、YouTubeの企画だったこともあったので、「やめましょう」と僕から言いましたね。

ーーなるほど、そういう裏側があったんですね。

せせり:あれもたぶん、月間で1億とか行ったと思うんですけどね。

アイデア自体に価値はない どんどんパクればいい

ーー結局、自分でやってみて、すごくバズっていろんな人が使ってくれても、なんかそういうものが関係して残念ながらサービスが終了、みたいなことは、個人開発だとけっこうあるあるなんですかね?

せせり:あるあるじゃないですかね。 あと、パクられるとかもあるあるです。アイデアに価値はないんですよ。ぶっちゃけ、アイデアなんて誰でも考えつくものばかりなんですよ。だから、どんどんパクっていいと思います。

それこそ質問箱も、たぶん「○○箱」みたいなのが、死ぬほど出たと思うんですよ。でも、別に僕はそれに対してネガティブな気持ちはぜんぜんないんですよ。それによって、どんどんみんなが活発化していって、1周回って、いろいろ技術が増えたりとかするじゃないですか。それでいいなと思っているので、もうどんどんパクればいいと思います。

ーーパクられて悔しいという気持ちはないんですか?

せせり:ないですね。

100万ダウンロードされるアプリを作るには?

ーー例えば、今個人開発をしている人、もしくはこれからしようと思っている人に「100万ダウンロードされるアプリを作って、お金を稼ぎたいんです。どうすればいいですか?」と聞かれたら、どんなアドバイスをしますか?

せせり:さっき、人はあまり使われていないサービスを使いたくないって話をしたじゃないですか。それって大人だけなんですよ。

中高生とか、子どもはぜんぜん違って、あまりそういうのを関係なく使ってくれるんですよ。時間が無限にあるので。極論、アプリが20個あったら全部ダウンロードしてくれるんですね。

コスパ、コスパって生きている大人たちは醜いけど子どもは違うんですね。

(一同笑)

大人は口コミとかで自分の人生を決めちゃいますけど、子どもたちは、ちゃんと自分で選んでくれるから、ダウンロード数を今から急に増やしたいなら、子ども向けがお勧めですね。

とはいえよくわからないものを作っても続かないので、純粋に自分が欲しいものを作ってサーバーの費用ぐらい回収できたらいいなというぐらいの気持ちでやるのがお勧めです。

ーーなるほど。絶対に儲けてやるぞ、という気持ちよりは自分が好きなものや欲しいものを作ることがお勧めなんですね。

最低限のクオリティを超えることを意識してほしい

せせり:あと、個人開発をやる上ですごく難しいのが、ネタがめちゃくちゃいいのにデザインがあまりにも微妙すぎて使われないとか、不親切すぎて使われないというパターン。で、ちょっと小ぎれいにできる人に真似されて終わるみたいな。さっき言ったパクられるというケースですね。

YouTubeとかでもあるじゃないですか。企画めっちゃおもしろいのに動画がダラダラ長くて微妙で、それを大物YouTuberがいい感じのテイストでパクってそっちがバズるみたいな。

Webサイトでも、自分の中で最低限これぐらいのクオリティはないと使わないなという基準がみんなあるんですよ。だから、そこは超えなきゃなというのは、ちょっと意識してほしいですかね。

若い人たちの現状を知らない人の言うことは聞かないほうがいい

せせり:もう1個、アドバイスがあります。最近個人開発を始めた人に対してであれば、僕みたいなおっさんの言うことは聞かないほうがいいです(笑)。

(一同笑)

僕みたいなおっさんは自分たちの時代の感覚で語るから今の若い人たちの現状をぜんぜん知らないんですよ。だから僕の言うことをそのまま聞いてもあまりメリットはないので、話半分に聞いといたほうがいいよって……この話もそうですが、常にそう思っていますね。そういうことを言うから、いつもTwitterで怒られるんですけど。

(一同笑)

だからリアルを知りたいなら、同接(※同時接続者数)3人の高校生配信者の配信とかを見たほうがいいですよ、本当に。

だから、しいて言うならそういうことを僕はしていますね。中学校、高校の時にやっていたようなことをあえてやってみる、みたいなのはしていますね。

1度泥くさいことをやってみるのも悪くない

せせり:みんな泥くさいこと忘れちゃってね、AIになんかやらせたりしていますけど。

(一同笑)

その泥くさいところを1回やらないと、なんでAIが便利なのかわからないじゃないですか。

これってたぶん「洗濯を手でやれ」みたいな話と似ていると思っているので、もうけっこう老害な発言ではあるんですけど、でも、それをやることによって、どれだけ便利かわかるし、「あれ、もしかしてこういうほうがいいんじゃないの?」みたいなのが見えてくるんですよ。

洗濯機だけ見ていてもわからないので、1個あえて泥くさいのをやってみる。昔のインターネットって、画像を開くのに1分、2分待ったりしたじゃないですか。

そういうのを経験しているから、今のJPEGとかの、劣化するけど軽量な画像が出てきたのがわかっているけど、それだけ見ると、「なんでJPEGなんて存在するの?」ってなっちゃうじゃないですか。

画像が重いというかね、3分ぐらいかかって、ちょっとずつ、ちょっとずつ出てくるから、長ぇなあと思って待つんですよ。

でも、今ってあれじゃないですか。「ギガが減る」とか、そういうのも意識されるようになってきているので。

そういう時に、もしめちゃくちゃ高圧縮な画像を開発していたら、もしかしたら取り入れられていたかもしれないじゃないですか。

ーーそうですね。

せせり:1周回ってくることってぜんぜんよくあるので、1回泥くさいことをやってみるのも悪くないよって思います。

ーー今のお話を聞いていて思ったんですが、不便な環境であると人は工夫するじゃないですか。

せせり:そうそう、それそれそれが言いたかった。

(一同笑)

ーーだけど、整えられた環境が当たり前になると、戻ったりあえて苦労したりするハードルが高いと思うんですよね。

せせり:今だと、ポケベルで待ち合わせとか絶対できないですもんね。子どもの頃は家の電話で、「明日何時待ち合わせね」ってやっていたじゃないですか。今絶対できないですもん。

個人開発はコスパのいい趣味

ーー個人開発に挑戦したいと思っている人に、メッセージがあればおうかがいしたいなと思います。

せせり:コスパが悪すぎるのでやめたほうがいいよって思いますけどね。

ーーやめたほうがいい、という回答がくるとは思わなかったです。

せせり:もうずっと言っているんですよ。個人開発で成功した人って何人か僕も知っていて、もちろんみんな実力はあるんですけど、どうしても運の要素が大きいんですね。

個人開発やった人って、何人いるんだっていったら、すごくいっぱいいるじゃないですか。だから、「みんなやったほうがいいよ。夢のある職場だよ」みたいなことを言うのは、なんか無責任だなっていつも思っているんですよ。

すごく現実的な話をすると、自分の中では「もしかしたらバズるかもしれないし、いろんなことが勉強になるし、最悪就職もできるからコスパのいい趣味だよ」ぐらいですね。

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