
2025.02.12
職員一人あたり52時間の残業削減に成功 kintone導入がもたらした富士吉田市の自治体DX“変革”ハウツー
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ーーその後、リーガルテックの領域でMNTSQを創業されていますね。また違った領域に踏み込まれたなと思うのですが、リーガルテックにフォーカスしたのはなぜでしょうか?
安野貴博氏(以下、安野):リーガルは領域としてはぜんぜんコールセンターと違うんですが、実は技術的にはけっこう似たようなことをやっているんですよ。自然言語処理なんですよね。
人間の書いた普通の文章を読んであげて処理をするというのが自然言語処理なんですけど。
「BEDORE Conversation」も、チャットという短文ではあるんですけれども、チャット形式の日本語を読んで、答えの日本語を返す。「MNTSQ CLM」ではそれが契約書になります。
2018年の末くらいに創業したと思うんですが、その頃は、もうちょっと複雑な文章からもいろいろな情報を読み取ることができるようになってきていたので、「じゃあ、契約書でやってみよう」というところでしたね。
契約書っていくつかの意味でいいんです。1つは、きれいな日本語で書いてあるんですよね。チャットと比べると主語・述語がきちんとしているし、未定義語があんまりないんですよ。文章の中で、「甲はこういうことで、乙はこういうことだよ」と書いてくれていますし。
あとは、「第1条、○○。第2条、○○」という感じで、すごくきれいな意味のまとまりごとにモジュール化されている。これは実はすごく自然言語処理との相性が良い。
一方でマーケット面を見てみると、それをやっている人たちの時給は3万とか5万とか。わりと付加価値がつけやすい分野だなと思いました。
ーーそしてまた、作家の活動に戻ると。
安野:すみません、忙しくて(笑)。
ーー(笑)。『サーキット・スイッチャー』を執筆したきっかけをおうかがいしたいなと思っていて、どういった経緯で執筆されたのでしょうか?
安野:まず執筆のきっかけとしては、星新一賞を取った時に、贈賞式に早川書房の編集者の方がいて、「おもしろかったから次はぜひ長編書いてハヤカワの賞に応募してくれ」と言われたというのがありました。
自分ではおもしろいと思っていたんですけど、ほかの人にもおもしろいと思っていただけるんだなと思って、「よし、やってみよう」と。
「じゃあ、何を題材にしようかな?」と思った時に、AI開発するってけっこう簡単に言うけれど、いろいろな倫理的判断を実はやっているところがあって、そのあたりがこれからすごく大事なテーマになるだろうなと思って、それをすごく扱いたいなと思ったんですね。
でも当時はAIってあまり身近じゃなかったのでわかりやすい題材がないかなと探しました。自動運転車は、実はすごく生活にも身近で影響がある話なので、自動運転車のAIの話を書いたという感じですね。
ーー執筆していく中で、「特にこれは大変だったな」みたいなことってありましたか?
安野:何が一番大変だったかな。わりと、展開を考えるのは好きなんですよね。
AIサスペンスものではあるので、AIを使って悪いことをするやつが出てくるんですけど、真面目に仕事をする中でも「この技術ってどういうふうに悪用できるかな?」といろいろ妄想していたので、それをうまく作品の中に入れることができたのはすごく楽しかったです。
大変だったのは、やはり初めての長編というところで、文章力がまだまだ自分にないと思っていたので、文章を磨くことにすごく時間を使った記憶がありますね。
ーーその後、「ロンドンの美大で絵が下手すぎて死にそうになるが画像生成AIのおかげで卒業」と書いていただきました。ここでまたモチベーションがマイナス40パーセント下がっていますね。
安野:そうなんですよ。
ーーロンドンの美大で何をなぜ学ぼうと思ったのでしょうか?
安野:いくつか理由はあるんですけど、ビジネスとAIの中だけにいたし、東京でずっと働いていたので、その環境に自分が過剰に最適化されているなという感じがしたんですよね。
最適化するとパフォーマンスは上がるんですけど、ほかの環境もいろいろ見ていかないと、先細りというか、どんどん閉じていくなという感覚もあって。
機械学習にも「Exploration or Exploitation」というトレードオフがあるんですよ。Exploitationは、自分の知っている知識を活用してよりリワードをたくさん取ろう、稼ごうみたいな感じですね。Explorationは、もうちょっと探索しようと。世の中はどうなっているのか知識をいろいろ蓄えにいこうというのがあって。
同じ時間を使う中でどっちに振るかというのがけっこうトレードオフだと言われていて、それまですごくExploitation側に振っていたので、Explorationをしようと思って、ロンドンの美大に行ったという感じですね。
ーーなるほど。「画像生成AIのおかげで卒業」というのは?
安野:デザインとイノベーション寄りのコースだろうと思ってロンドンの美大に行ったら、意外とファインアートの色が強い学科でした。
同級生も各国の美大卒エリートみたいな人たちばかりで、当然むちゃくちゃ絵が描けるんですよね。
授業中に横を見たらものすごい絵画作品をラクガキで書いていたりしていて、「これがラクガキなんだ、すごいな」みたいなことを思ったんですけど。まぁ、ヤバかったと(笑)。1人だけなにも描けないやつで、「なんか英語もよくわかってねぇし、大丈夫か?」みたいな感じだったんです。
ただ、ちょうど、「Stable Diffusion」とか「DALL·E」とか「Midjourney」とかが公開されていった時期で、そういうものをうまく使うことで、自分でもある程度面白いアウトプットが出せることに気づきました。例えば課題で、「明日までに、とにかくたくさんアイデアスケッチを描いてこい」みたいな課題があった時に、周りが5、6枚くらいしか描いていない中、200枚くらい持っていったりしていました(笑)。
ある意味、お題を解釈して、アウトプットを作るという作品制作の過程の中で、絵を描くというのは、実はその一部ではあるんですよね。
その一部のところをAIに頼ることで、自分みたいな人でもアウトプットが出せるなと気づきまして、実践しながら試行錯誤をしていた感じですね。
本当にこの留学は、授業を聞くのも、文字起こしAIと翻訳AIを使い、物を作るのも画像生成AIを使い、実際に物を書くのも、「Grammarly」などの文章校正ツールを使っていたので、AIによってかなりサポートされた留学の第1世代みたいな感じでしたね。
ーー絵自体を画像生成AIで描いたというのは、大学としても、「別にいいよ」という感じだったんですか?
安野:もちろん、ポンと生成AIで絵を出しても評価はされません。なぜこれを作ろうと思って、なぜこの手法を選んで、それによって実際どれくらいのものができたかという全体がないといけない。
そういう意味での全体設計はいろいろ考えていました。もちろんAIをあまり評価しない人もいるんですけど、「それでもこれは評価すべきだね」とおっしゃっていただいたことは多かったです。
ーー「岸田総理の前でディープフェイクのモノマネを披露」と書いていただきました。日本も今AIというところでけっこう盛り上がりを見せていますが、安野さん的に、ここはまだ課題だなと思っていることがあればおうかがいしたいです。
安野:個人的には日本政府の動きは遅くないと思っていて、そういう意味では悪くないなと思っています。これからの課題というところで言うと、やはり大きく勝っている企業を日本国内に作れるかどうかというところだと思っています。
今AIで世界をリードしているのが、OpenAIとかGAFAとか中国の企業とか、そういったところが多い中で、日本発のグローバルに勝てるAI企業を生むことができるのかどうかはすごく重要なポイントになってくると思うんですよね。そこをまだ作れていないというところと、それを作るためにもうちょっとできることはありそうだなとは思います。
ーー具体的にできそうなこととは何でしょうか?
安野:AI企業と言う前に、そもそもITスタートアップを作る土壌としてやはりエンジニアの数と質は、もうちょっと上げられる余地があるんじゃないかなとは思います。
今でもいいエンジニアさんはいるんですけど、まだ増やせると思いますし、良い方でも大企業にずっといる方が多い……別にそれはそれでいいとは思うんですが、もうちょっとその人たちが流動化して、勝ち得る会社に行きやすくなるといいなと思います。
(次回へつづく)
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