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東京都庁でアジャイルを実践するための「都庁アジャイルプレイブック」のご紹介(全2記事)

東京都が初のアジャイル型開発にチャレンジ 新しい取り組みを内部に浸透させるために作成した『都庁アジャイルプレイブック』とは

GovTech東京 エキスパートの杉井正克氏と東京都デジタルサービス局の下家昌美氏が、東京都庁でアジャイルを実践するための「都庁アジャイルプレイブック」を紹介しました。

登壇者の自己紹介

下家昌美氏(以下、下家):よろしくお願いします。では始めさせていただきます。「東京都庁でアジャイルを実践するための『都庁アジャイルプレイブック』のご紹介」です。

アジェンダです。自己紹介、なぜ都でアジャイルを行うか。R4年度の取り組みと、最後はプレイブックのご紹介です。

まず私、東京都デジタルサービス局の下家の自己紹介です。写真は恥ずかしいので、なるべく掲載したくないというところで、ごめんなさい。所属はデジタルサービス局です。アジャイル型開発を知るきっかけですが、家庭と仕事の両立でいろいろとどうすればいいかなと、タスクがいっぱいあるなと。でも全部はこなせないなと考えた時に、新聞のコラムでアジャイルを知りました。

開発ではないですが、ふだんの生活の中でタスクの優先順位を付けて、実行する。これじゃああまり良くないな、と改善を繰り返していくということが、アジャイルの概念を教えてもらった時にすごく興味深かったです。

職員向けのセミナーでアジャイルについて学ぶ機会がありました。都庁で仕事をやっていく上でデジタルは欠かせないものだと思って希望をしたのですが、まさかアジャイルに取り組むことができるとはと若干驚きつつ、2022年度に異動いたしました。それで今に至ります。

杉井課長(杉井正克氏)との関わりですが、我々、都がアジャイル型開発を初めてやるにあたって、やはり悩みとか、都としてどう進めていくのが適切なのかとか、いろいろ問題や躓きがあるたびに、杉井課長に相談をすることで心の支えとなっていただいた感じです。

杉井正克氏(以下、杉井):杉井と申します。あらためてよろしくお願いいたします。私はみなさんと同じようにずっと民間でITエンジニアというか、開発ベンダーをやっていました。2022年11月に東京都のデジタルサービス局に入り、今は2023年9月に立ち上がったGovTech東京という組織に移籍しています。

主なミッションは、東京都と全国の自治体のデジタル化に貢献することです。特に私はアジャイルとクラウドが得意なので、そこをやろうとしています。下家さん(下家昌美氏)がおっしゃったように、2022年の11月から東京都のアジャイルの事業を手伝っており、今回のプレイブックも一緒に作成しました。マイナちゃん派かマイキーくん派かでいうと、マイナちゃん派です。下家さんは何派ですか? どちらのほうが好きですか?

下家:えー? どちらでもないですけど(笑)。

(会場笑)

杉井:はい(笑)。次にいきたいと思います。

下家:すみません(笑)。

都庁がアジャイル型開発に挑戦した背景

下家:続きまして、まずは東京都の概略をお知らせします。人口は約1,400万人で大規模ではあり、日本の人口のだいたい1割を占めています。人口密度も高いし、区市町村も多いです。大規模自治体がある一方で、中小規模の自治体も抱えていたり、小笠原諸島とかをみなさんもご存じかと思うんですけど、もっとも人口の少ない市町村もあります。

何が言いたいかというと、DXを推進していく立場でありながら、多様性のある自治体、区市町村を抱えているので、推進にはそれぞれの環境や人口に応じた細やかなサポートが必要ということです。

なぜ都庁でアジャイルを行ったのか。アジャイル型開発に取り組んだ背景。多くの企業や自治体がそうであったように、おそらくコロナ禍の状況はいろいろなものを大きく変化させたと思っています。

私は何十年も都庁で働いていて、DXやデジタルに本当に縁のない世界で生きてきました。2022年にデジタルサービス局に来た時に、やはり他の組織の人間、これから開発で紹介するメンバーたちと同様に、デジタルサービス局はちょっと異質なんですね。

都庁に長い人間というよりも、元SIerだったり、その界隈のエンジニアだったり、PMをやっていらっしゃった方だったり、そういう方のほうが多くいます。何が言いたいかというと、横文字がとても多いなと感じました。わかる横文字はいいんですが、できるだけわかりやすい言葉で翻訳したいなというのがあって、デジタルサービス局においても一般化していないものは、なるべく横文字は使わないということを個人的な活動にしています。

そんな中で何が言いたいかというと、アジャイルを勉強していく中で講師の方が言われていた「VUCAの時代が顕著になりました」というお話です。VUCAは横文字というより英単語の4つの頭文字をまとめたもので、変動性だったり、複雑性、曖昧性。やはりコロナの状況においては、本当にそれがすんなり私の中に入ってきました。やはりコロナ禍ではサービス提供に迅速性が求められていて、そんな中で都民のニーズに着実に応えなければならない。

(スライドの)4段目にあるのですが、それまでの行政の仕事の進め方は、やはり事業内容をしっかりと固めて予算を確保したあと、翌年度に実行する。私はこれをまったく悪いことではないと思っていて、私が都庁に入庁した時の面接の時でも言っていたのですが、説明責任が一番大事だと思っています。

都民の方、事業者の方からお金をいただいて都政として仕事を進めていくため、しっかりと計画を立てて必要性や実効性、効果について検証した上で組織的に議会の民意を得て実行していくもので、それに対しては必要だと思っています。ただ柔軟に対応できるかというと、やはり社会状況の変化には対応できていない部分が一部あるとは感じています。

開発プロセスにおいてもウォーターフォール型が主流かというと、やはり段階を踏んで確実に開発していくというところで変化に手戻りが発生します。できる限り変化に柔軟に対応しつつ、スピード感を持ってプロダクトをリリースするという面においては、アジャイル型開発は本当にチャレンジ的なものでした。新しい取り組みとしてウォーターフォールもいいけれども、アジャイル型開発も浸透させたいなという思いで進めて参りました。

令和4年度の取り組みを紹介

R4年度の取り組みです。5ヶ月で4件。準委任契約でアジャイル開発に取り組んできました。我々の目指すゴールですが、ポイントとしては準委任契約というところがあります。従来の都庁の契約は、事業者に開発の成果物を納品する義務を課しているわけですが、アジャイル型開発は、ゴールはあってもそこに追加する機能は柔軟に開発しながら変えていくものなのかなと我々は解釈しています。

仕様で書ききれないものは、やはり開発の過程でどんどん変わっていくものなので、準委任というかたちで、エンジニアだったりスクラムマスターの稼働に対してお金を払うというかたちで契約を進めてきました。なので、契約形態としても都庁では新しい。開発手法とともにこちらを浸透させたいと考えています。

庁内にアジャイルを浸透させるためにプレイブックを作成

下家:今回のメインテーマのプレイブックのご紹介です。こちらを庁内に浸透させるために、職員にわかりやすいかたちでプレイブックという事例集も含めたものを作成しました。庁内の職員向けですが、「オープン&フラット」というキーワードがうちの都庁にはあって、なるべくオープンになんでもみなさんに公開していこうという意思のもと、「シン・トセイ」というポータルサイトの中でもご紹介しているので、よかったらご覧ください。

プレイブックの目次です。まずはアジャイル型開発とは何かというところです。次に、実際に職員が開発した事例、これがメインテーマです。その流れを知る方法と、2023年はデジ局のアジャイル型開発といって各組織が自律的にやるのではなく、我々デジタルサービス局がサポートするというかたちで開発を進めています。そのため、杉井課長を始めサポートをいただきつつ、各組織の職員がアジャイル型開発に参加していくという流れにしているので、その方法について説明しています。

各組織、各局と右上に書いてあるのですが、各組織が実際にアジャイル型開発に参加してくれた内容を記載しています。こちらは概要で、例えばデジタルサービス局。うちの局なのですがWebサイトの改修をしています。

あと今は(名称が)福祉保健局ではなくて保健医療局なんですけど。我々の目的は、いろいろな事業担当と開発をすること。

(スライドを示して)例えばここは、動物愛護相談センターといって動物愛護の業務を行っている部署。あとから出てくる環境局は空気汚染対策をやっている部署。あとは教育行政に携わっている部署。本来デジタルに特化した業務をしているかというと、都民の対応や教育に関して学校と仕事を一緒にしているなど、ある意味デジタルとは関係のないところが、業務改善ということで、アジャイル型開発に取り組みたいと参加してくださった。そういったところに意義があると思っています。

(スライドを示して)こちらは動物愛護相談センターで、従来は「Word」や紙で相談対応していたものをシステム化したという事例です。(スライドを示して)こちらは環境局の空気汚染対策。それまでいろいろな指標をマクロで分析していたのですが、BIツールを使うことによってより視覚化して、対策に効果を持ったものを活かしていきたい。視覚化することで事業に活かしていきたいというものを作りました。

(スライドを示して)またこちらは、学校の通学区域を見える化して、教育行政を検討する際に使いやすいものとなるようにシステム化したものです。

「アジャイル開発とは何か?」「なぜやるのか?」プレイブックの注目ポイント

杉井:ここからは私から、全部紹介するのは時間がアレなので、実際のプレイブックの注目ポイントというかたちで紹介いたします。

まずはアジャイル型開発の定義を最初にこういうかたちで。これが最初のページです。ここにいるみなさんもアジャイルを推進されている立場の方が多いと思いますが、開発側の人間はアジャイル開発に馴染み深くなってきたかなと思います。

だけど、そうじゃない方たちに「アジャイル型開発って何なんですか?」みたいにけっこう聞かれると思うんですね。そして説明もけっこう難しいかなと思っています。やはりそういうところに一定の回答をバシッとしたいなと思っていたので、最初にこのページを持ってきています。

「アジャイル型開発ってどのようなものだと思いますか?」というところに対して、我々は「顧客にとってより良いものにするために、見直しすることを躊躇しない開発手法のこと。またそのマインドセット、および価値観のこと」と書いています。これは単純に「繰り返し開発をするんですよ」みたいな、単なる開発手法ではなく、マインドや価値観がベースになっていますよというところ。

行政って、言い方が悪いんですけど丸投げ開発みたいなことがけっこうあります。そういうマインドではなくてしっかり作っていくんですよというところを伝えたかったなと思ったので、このページを最初に持ってきて、こういうメッセージを付けています。

次が、アジャイル型開発に取り組む意義。先ほど下家さんから説明があったとおり、基本的に行政の予算の立て方みたいなところで言うと、ウォーターフォールが主流になるのですが、コロナ禍によりユーザーの体験が悪いところをやはり早くしなければいけない、早く作らなければいけない、より改善しなければいけないというところが、ユーザーの声としてけっこう上がってくる。

ユーザーというか都民の声として上がってくるので、そこにしっかり対応するためにはウォーターフォールだけだとちょっと厳しいかもというところで、選択肢の1つとしてアジャイル型開発を浸透させていきたいという思いで、これも3ページ目ぐらいの最初のほうに載せています。これも「なんでやるんですか?」というところをしっかり伝えたかったので、最初のほうに持ってきています。

「東京都デジタル10か条」を紹介

杉井:次は、「東京都デジタル10か条」を紹介します。当然プレイブックの中にはアジャイルマニフェストというものがあります。こういうページがあって、けっこうポイントを絞って伝えたいなと思った時に、顧客視点というのが必ずあると思っています。IPAが出している『アジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方』にも顧客視点は大事ですよ、みたいなことが書いてあるので、そこからピックアップさせていただきました。

顧客視点という言葉はけっこう大事だなというところと、我々は東京都として良い行政サービスを作るための10か条というかたちで行動規範を定めているんですけど。実はこの1つ目に「顧客視点でデザインしよう」というものがあります。作っておしまいとか、箱物みたいなものを作りがちな行政サービスですが、やはり顧客視点をしっかり持って改善していきたいというところを掲げています。「デジタル10か条 東京都」で検索するとこれも出てきますので、ぜひ見ていただきたいなと思っています。

次が、アジャイル型開発への適合。「選択肢の1つとして」という話を最初にしたかと思いますが、「このプロジェクトではどっちがいいんだっけ?」みたいなところを誰がどうやって判断するのかは難しいと思っています。IPAでけっこう前の2012年に比較表みたいなものを作っていたので、我々もこういったものをちょっとわかりやすく作りたいなと思って、こういうかたちで比較表を作っています。

Bの右側に寄るほうが、よりアジャイルに適合していますよというかたちで書いています。今の我々のアジャイル開発の位置付けだと、けっこうミッションクリティカルなものだったり、大規模なものだったりというところはちょっとまだ難しいんじゃないかという判断をしているので極端な書き方にはしているのですが、こういう比較表を書いて「判断してくださいね」とか「これを考えるきっかけにしてくださいね」というものにしています。

比較するものじゃないなと思いつつも、あったほうがわかりやすいよねという声もあったので作っています。

あとはこの、ひとやすみコーナーみたいなものがあります。けっこうプレイブックはロールプレイングゲーム風に作っていて、「なんでこんなふうに作ったんですか?」みたいなものをちょっと書いています。これはチーム、仲間と旅しながら経験を積みながら目的にちょっとずつ向かっていくことが、ロールプレイングゲームに似ているよねという話。

アジャイルはゴールはないのですが、そういったちょっとずつ進んでいく、経験を糧にして進んでいくというところはゲームと似ているよねというところで、こういうトーンにして作りました。というのを、ひとやすみコーナーで書いています。

(次回へつづく)

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