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田中安人×齋藤太郎「課題は”妄想”で解決できるのか?」『妄想力』(日経BP)刊行記念(全4記事)

戦後初の上場企業の倒産を乗り越えた「妄想力」 吉野家CMOの田中安人氏が語る、リーダーに欠かせない「未来の着眼点」

『妄想力 答えのない世界をつき進むための最強仕事術』の刊行を記念して開催された本イベント。『妄想力』著者で、グリッドCEO/吉野家CMOの田中安人氏と、『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』著者の齋藤太郎氏の対談の様子をお届けします。本記事では、逆境でメンバーを守るために、リーダーに求められるスキルについてお伝えしました。

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顧客の「青臭い言葉」を磨き出す

齋藤太郎氏(以下、齋藤)僕の話ばっかりになっちゃって、こんなんでいいんですか?

田中安人氏(以下、田中):ぜんぜん。僕は「こうだったらいいな」を常に探していて、妄想と言っているんですけど、太郎さんにとって「こうなったら最高だな」ということは、今何かあるんですか。

齋藤:そういう意味で言うと、僕も妄想というか「これから世の中がどっちの方向にいくんだろう」とか、「今困ってることが、どういうふうに変わったら最高かな」と、いつも考えてるほうだと思います。

特に僕らは世の中全体の課題も解決したいし、クライアントが抱えてる課題もいっぱいあるじゃないですか。もう1個僕が幸せな理由は、クライアントだけが金儲けする仕事をあんまりやってないからというのはあります。社会を良くする企業のお手伝いをさせていただいていて、そのクライアントが課題を解決することで世の中がハッピーになることが多いので、やっててすごく楽しいです。

田中:めっちゃ幸せですね。

齋藤:自分だけが儲かりたいみたいなクライアントには、「お前しか儲かんないじゃん」「それって別に世の中は幸せになりませんよね」みたいなことを言っちゃいますね。

僕らが仕事を一生懸命やる意義を、クライアントにも問うというか。「かっこよくブランディングして、採用をうまくいかせて儲かりたいんです」みたいな社長さんとか、たまにいるんですけど。そんな時は「そうですか、がんばってください」と流しちゃう(笑)。

田中:そういう(世の中のために、と思ってる社長)って、1,000人に3人ぐらいしかいないんじゃないかなって僕はいつも思うんですけど。100人に3人ぐらいですか?

齋藤:そんなことないと思いますよ。やはりキャッチボールをばーってやっていくと、(社長の「世の中のために」という信念が)磨かれて出てくるんですね。その青臭い言葉を磨き出すところは、けっこう大切にしてるかも。

企業のポジショントークに切り込む「質問力」

田中:じゃあその質問力が優れてるっていうことか。

齋藤:優れてるとは自分では思ってないですけど、こっ恥ずかしいことを聞いてる可能性はけっこう高いですよね。わかりやすく「ユーザーを増やして売上を伸ばして、資金調達をうまくいかせて上場させたいんです」とか「売上を前年比何パーセントアップさせたいんです」みたいな話からはじまることはあるんですけど。

そんな話を受けて、「あなたの会社が儲かるのはわかるけども、それで世の中にはどういうメリットがあるんでしたっけ」みたいな話は、けっこう聞きます。

田中:ここ(『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』)の質問力にあると思うんですけど、「それってじゃあ何が良いんだっけ」というのと一緒ですよね。

齋藤:そうですね、それはけっこう聞くようにしてます。例えば僕は海外にしょっちゅう行ってるので、海外に行ってライドシェアのUberやLyftを使うとものすごく便利なんですよ。

この先自動運転とかいろんな世界がある時に、ライドシェアじゃないけども、日本はタクシーアプリのGOがありますよね。GOの会長さんは日本交通の会長でもあるので、タクシー業界と蜜月のつながりを持って今サービスを作ってきてるんですけど。

その会長さんにも「自動運転になった時、タクシーじゃなきゃいけないんでしたっけ?」みたいなことは、僕は平気で聞きます。

田中:あの立場の人に対して。

齋藤:はい、聞きます。「それってポジショントークじゃないの?」という話に対して普通に聞きます。だけどそれに対してはちゃんと答えてくれたから。

田中:受け止めてくれはするんですね。

齋藤:ちゃんとコミュニケーションをとって、「別に世の中が便利になることを遅らせようとしてるわけではない」「自分たちが作ってきた産業を守りたいからやってるわけじゃないよ」という話を聞かせていただいて、自分自身が納得してから考えるようにしてます。

「センスがダサい」社長のいいなりで作られた広告の多さ

田中:俺もそんなかっこええ対応してみたいんですけど、それは人によるんですかね。さっきの話みたいに、ちゃんと受け止めてくれる人に言ったら(いいんですかね)。言って相手にされへんかったら、もうそれまでというか。

齋藤:この仕事をずっとやってると、広告を見ただけでそこの社長のキャラクターとかわかったりするんですよ。特に(会社の)ホームページに「社長のあいさつ」みたいなのがあるじゃないですか。昔、校長先生の話とか学校の言葉って「どうせ誰かが適当に書いてんだろう」と思って、そんなに一生懸命読まなかったんですけど……。

田中:「ちゃんと写真の位置とか文章の内容を見たら(会社のことが)全部わかる」と、アメリカのコンサルの本に書いてありました。

齋藤:そうなんですか。やはりそこに書いてあることって、自分で書かずに誰かに書かせたとしても、最終的には社長がチェックしてるはずなんです。だから社長のあいさつって、本人が「何を大切にしてるか」がけっこう真剣に込められてるケースが多い。

だから僕も、会社のホームページにある自分の話や「会社がこうである」ということは、誰かが書いたものをそのまま出すことは絶対なくて、最終的には自分が書きます。そこはやはりすごく大事なので。

広告も、ものすごく金をかけて出すじゃないですか。それで広告がダサい会社の経営者は、だいたいセンスがダサいですね。「いいからやれ」とダサい社長が言って、指摘するのが怖くて周りが何にも言えないまま世の中に出てるものは、めっちゃあると思います。

サントリーさんはそこの目線がものすごく高い。僕らが何か指摘をした時もちゃんと議論をして、外のプロの力を借りて「世の中全体では何が響くか」を信じてやってくれてる感じがする。だから僕らプロもやりがいがあるし、一生懸命玉の投げ合いができる。

だからdofが作ってるものは「いや、そんなんじゃ絶対響かない」みたいなやり取りを何度も繰り返した上で世の中に出てます。うちはないけども、見てるとまぁ半分以上は「お金をもらえるから、言われたとおりやっておこう」という仕事なんじゃないですか?「いいからやってよ」「わかりました」みたいな仕事が(多い)。

前代未聞の「ヤオハン」の倒産で気づいた、「妄想力」の重要性

田中:それはありますね。僕は妄想が重要だと思っていて、太郎さんは未来のビジョンなのかな。これは原体験とかあるんですか? 僕はあるんですけど。

齋藤:お、それを聞かせてください。

田中:僕は先ほど申し上げたヤオハンが倒産した29歳の時に、経営企画のメンバーで、代表解任動議をやって会社を分割して……。アジアで倒産した時って大変なんですよね。バイヤーは自分のテーブルに不渡手形が入っていたりするので、けっこう命を狙われるんですよ。命からがら、なんとか彼らを帰国させるみたいなことを29歳の時にやっていました。

「少数精鋭」という言葉があるじゃないですか。全世界の5万人を守るために死ぬ気で仕事をしていたら、愚直な人間が少数精鋭になったんです。戦後初の上場企業の倒産なんて概念にないから、トンネルの出口もわからないんですよ。誰も経験したことがないことに対して、その少数の経営企画のメンバーでなんとか出口を見つけようと日々奮闘した時に、本当に妄想しかないんですよね。

トンネルの出口なんてわからないんですけど、全世界の5万人を守って、負債をちゃんと完済するみたいなストーリーを作ったんです。

妄想ってすごく大事で、愚直な人間が精鋭になった姿を見た時に、リーダーとしてトンネルの出口になるビジョンを描かないといけない。この時の経験が、けっこう(妄想が大事だということの)原体験だなと思います。さっきの(太郎さんの)「仲間を守らないといけない」という言葉は、僕はリーダーとしてけっこう近いなと思っています。

未来を創る「好奇心」は人間にしかないもの

田中:僕があえて「妄想」という言葉を使っているのは、日本人にとって「妄想」ってけっこうネガティブな言葉じゃないですか。日本人は真面目なので、人間の能力は無限にあるのに、教育で制限をかけられているなと思うんですよね。

もっと言うと、お金って色がないのに、「お金はきれいに使わないといけないよ」と。親が良かれと思って、色のないものに色を付けちゃっているんですよね。太郎さんもけっこう近いことを書いているんですけど、そこを制約なく考えてみるのはめちゃくちゃ大事なんですよね。

この間、サントリーの新浪(剛史)さんも言っていたんですけど、「過去はAIに任せたほうがいい」と。(未来を創る)好奇心は人間にしかないものだから、キャップ(制約)を外して太郎さんのあるべき姿(を追求する)。僕は世の中を良くする。

本にも書きましたけど、例えば「街が暗いから、明るいほうがいいよね」って電球ができたり、世界の人と(話す手段として)手紙しかなかったところを「直接話したいね」と言って電話ができたりしたのは妄想じゃないですか。

僕は女子十二楽坊を日本で売り出したり、レアル・マドリードを来日させたりした時に、「そんなことできるわけねえだろ」ってみんなに言われました。サッカーや音楽の敏腕プロデューサー全員にできないと言われたんだけど、それは20世紀のプロデュース(のやり方だから)で、僕が21世紀のフォーマットに持っていったら成功したんですね。

その時に「そうか、そうか」と。新しいフォーマットを作ることは過去の人にはできないので、未来の着眼点というか、メタ認知みたいなこと(が必要)なんですよね。キャップを外して人が見ていない風景を見ることの大事さを、倒産の時からけっこう経験して。それが女子十二楽坊とかレアル・マドリードにつながったと思います。

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