2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
リンクをコピー
記事をブックマーク
藤井創氏(以下、藤井):最後に、2人のほうからそれぞれ質問があればもらえるとありがたいです。最初は竹迫さんから江草さんになにかあればお願いします。
竹迫良範氏(以下、竹迫):江草さんは日本全国とか海外出張とかもあったりでいろいろなコミュニティに参加されていると思うんですが、東京とそれ以外の地方とで、感じるものとかってありますか?
江草陽太氏(以下、江草):東京ではわりとありふれているものでも、地方では喜ばれるみたいな感じはやはりありますね。そういう意味では、オンライン、インターネットが主流になった今でも、情報の供給量は東京のほうが多いというか……。特に難しいことの情報は東京のほうが多くなってしまっている感じはありますね。それが地域のスキル差みたいなものに間接的に影響している。そういう状況にあるというのは、すごく感じます。
竹迫:ありがとうございます。僕自身は2年前に東京から千葉の田舎に引っ越したんですが、東京にいた頃は、だいたい30分電車に乗れば、誰ともすぐ会って話ができたり、どこにでも行けたんですけど、地方に引っ越すと、誰かに会って話すとかもやはり数時間とか半日かけて行かないといけないし、場合によっては泊まりも必要なので、相当気合いが必要になってきているんだなというのは確かにありますね。
江草:先ほどの勉強するスキルみたいなものの差が、地方に行けば行くほど生まれてくるんだろうなという気がします。東京だと、ぼんやりしていても、言われたことをそのまま鵜呑みにしても、わりといろいろな情報が入ってくるのでそれでなんとかなるのが、地方ではそういうインプットがやはり少なかったりとかする。
でも、勉強するスキルさえあれば、そういう情報って別にネットにないわけではないので。地域では格差が生まれやすいのかなという感じがします。
竹迫:なるほど。わかりました。受動的ではなくて、やはり主体的に動ければ、地方でも……。今は学習機会も増えているし……。
江草:そうですね。いけると思います。
竹迫:ありがとうございます。
藤井:なるほど。仙台に引っ越した私の知り合いのエンジニアが、勉強会がそもそもないと言っていて。コロナ前のオフラインが主流だった時も、「勉強会そのものがないから自分で主催するけど、エンジニアも集まってくれない」みたいなことを言っていた方もいたので、そういうのもあるのかなと思いつつ。
(それとは別に)島根のほうに私も取材に行った時があって、島根は“IT県”みたいなところで、地方自治体もけっこう力を入れていたりしているのかなとか思っていて。格差はありつつも、地方でもエンジニア人材を欲してているところはやはりあるのかなと思いましたね。
竹迫:そうですね。島根で開催しているRubyのプログラミングコンテストは毎年やっていますし、小学生、中学生とかも応募したりとかしていて、そういったところでは裾野が広がっているのかなと。
藤井:そうですよね。さくらインターネットさんも北海道にデータセンター、サーバーがあるので、あちらにもそれなりに人材が必要なのかなとか思ったりはするんですが。
江草:はい。あと全都道府県でイベントをやったり……。JANOGが地方で開催されたら一緒に「さくらの夕べ」を開催するとか、地方に行ってさくらのイベントもけっこうやっています。地域で勉強会、あるいはイベントをやることでどういう感じなのかを知る機会はあるわけなんですが、地域でやると、(その土地のエンジニアの)参加層が厚くなるということになるので、やるといいんだろうなと思っています。
藤井:ありがとうございます。
藤井:じゃあ逆に、江草さんから竹迫さんに聞きたいことはありますか?
江草:竹迫さんは高専の先生とかをやっていると思うんですが、エンジニアから教員になってみて、実際に教育の現場とかで感じることとか、「ほかの科目もある中で、技術系の授業や教育をするとなんか違うな」「同じだな」とか、「ほかの科目が技術系にも応用できるな」とか、なにか感じるところがあれば聞きたいなと思っていました。
竹迫:ありがとうございます。僕は今、高知高専と都立産技高専で、新しいIoTセキュリティみたいな授業とかをやっています。そこで感じていることとしては、学校の学習時間って増えないんですよね。なにかを減らさないと新しいことって教えられなくて、「なにを教えないか」ということを取捨選択しないといけない時代になっています。
ロシア人の知り合いのハッカーに聞いたんですが、最近のロシアは、ロシア文学を学校ではもう教えていないらしいんですよ。上の年配の人とかは知っているロシア文学を、今の小学生、中学生とかは知らなかったりしていて。僕らも『ごんぎつね』とか、小学校の頃にいろいろ学んだと思うんですが、ああいうのが通じなくなっていく時代もくるのかなと思っていますね。
その中で、高専みたいなところでは、電気・電子の工学の授業の中で(インターネットにつながる機器の)IoTを絡めることで、プラスアルファのセキュリティみたいな(知識を教える)ことがしやすくなっているんですが、そうじゃないところは、なにかを捨てない限りは新しいものは入れられないので、教えない選択をけっこうしないと難しくなる。
江草:難しいですね。国語とかは小学校からすごく時間をかけているのに対して、プログラミングとか技術系の授業って、ちょっとだと当然身につかないので、その時間を増やすことがないと無理だろうなと思っていました。
でも、先ほど言ったAIになにか指示するとか、新しいことを考えるとなると、自分が技術をやっているにもかかわらずアレですが、国語とか文化とか教養のほうが必要になる時って後々どんどん出てくるので、(プログラミングとか技術系の授業の時間を)捨てるのはもったいなとも思う一方、でも時間を取らへんかったら身につかへんしな、どうしたらいいんだろうなと思いました。
竹迫:そうなんですよね。昔調べたんですが、数学力じゃなくて国語力ができる人のほうが、コンピューターに指示を出して働かせられるので、優秀なプログラマーになる率が高くて。コンピューターの気持ちになってちゃんと指示を書けるかが大事だったり、コンパイラの気持ちになれるかどうかもけっこう大事だと思います。
藤井:なるほど(笑)。
竹迫:小学校の国語の試験とかで、「作者の気持ちになって答えなさい」という問題があって、「いや、僕は作者じゃないから絶対わからないよ」とか僕も言っていたんですが、でも、他人やコンピューターの気持ちを推測できて、それに対してどうコミュニケーションを取っていくかということはいろいろな分野でやはり必要だから、僕は国語力は絶対に必要だと思っています。
江草:授業の時間は増やせないんですかね? やはりそれは無理なんですかね?(笑)
竹迫:それは無理ですね。カリキュラムの中で奪い合いをしないといけないので。
江草:そうですよね。
藤井:なんかつらい……。プログラミングするにも、ゲーム作るにもアプリ作るにも、プログラムの知識はもちろん必要だけど、それ以外のところからヒントとか着想を得たり、いろいろなところから得られた知識で作っていたりすることが多いので、それが逆になくなっちゃうと(作ることは)できるけど、発想に結びつかない。
最初の話に戻りますが、江草さんが言っていた「何が問題で」の「何が」みたいなところの発想の仕方とかもあまり身につかなくなって、「ゲームは作れるけどそこまで」ということが出てきそうな感じはありましたね。
竹迫:小学校の図工の時間を使って、プログラミングで自由な作品を作るとかはありだと思っているんですよね。中学校になれば技術・家庭科みたいなものがあって、その中でプログラミングをすることも一部あったり、ラジオを作ったりとかはすると思うんですが。それ以上増やすのは、なにかを削らない限りは難しそうだなと思っています。
江草:ありがとうございます。
藤井:確かに今、小学校のプログラミングの時間って、たぶん2時間ぐらいしかないんですよね「それで本当にプログラミング思考って身につくの?」みたいな(笑)。時間の問題はあるなと思っています。ありがとうございます。
(次回に続く)
関連タグ:
「求められるのは“自分で考える”能力」「学び方を学んでいることが重要」 江草陽太氏・竹迫良範氏が考える、今のエンジニアに必要なこと
「流行ってるから、あの人が良いと言っているから」だけでは良くない エンジニアに必要な“自分の意志で技術に触れて理解する”こと
10年後もエンジニアとして働くために今できることは何か? 「AIに指示する側」を目指すために“居心地が悪いところに行く”必要性
「数学力が高い人」より「国語力が高い人」のほうが優秀なプログラマーになる率は高い “コンピューターの気持ちによりそう”ための国語力の重要性
新しいことを学ばない人は「楽になる」成功体験を持っていない 江草陽太氏・竹迫良範氏が語る、学習のモチベーションを維持できる理由
2024.10.29
5〜10万円の低単価案件の受注をやめたら労働生産性が劇的に向上 相見積もり案件には提案書を出さないことで見えた“意外な効果”
2024.10.24
パワポ資料の「手戻り」が多すぎる問題の解消法 資料作成のプロが語る、修正の無限ループから抜け出す4つのコツ
2024.10.28
スキル重視の採用を続けた結果、早期離職が増え社員が1人に… 下半期の退職者ゼロを達成した「関係の質」向上の取り組み
2024.10.22
気づかぬうちに評価を下げる「ダメな口癖」3選 デキる人はやっている、上司の指摘に対する上手な返し方
2024.10.24
リスクを取らない人が多い日本は、むしろ稼ぐチャンス? 日本のGDP4位転落の今、個人に必要なマインドとは
2024.10.23
「初任給40万円時代」が、比較的早いうちにやってくる? これから淘汰される会社・生き残る会社の分かれ目
2024.10.23
「どうしてもあなたから買いたい」と言われる営業になるには 『無敗営業』著者が教える、納得感を高める商談の進め方
2024.10.28
“力を抜くこと”がリーダーにとって重要な理由 「人間の達人」タモリさんから学んだ自然体の大切さ
2024.10.29
「テスラの何がすごいのか」がわからない学生たち 起業率2年連続日本一の大学で「Appleのフレームワーク」を教えるわけ
2024.10.30
職場にいる「困った部下」への対処法 上司・部下間で生まれる“常識のズレ”を解消するには