2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「生成AIで推し活が変わる!?人間に残されたエンタメの可能性は?」のセッションの模様をお届けします。本記事では、AIに奪われる領域・人間に残される領域について議論しました。
瀧口友里奈氏(以下、瀧口):ここでぜひうかがいたいのが、先ほどのストーリーの話です。「AIにどういうストーリーを持たせるか」「いいストーリーとは何か?」という話を、ストーリーテリングのプロとして樹林さんにぜひうかがいたいです。
樹林伸氏(以下、樹林):そうですね。僕の感覚で言うと、まずはストーリーを読んだ時に共感を持てることが大事だと思うんですよ。僕のやり方ですが、それである程度うまくいっているので、たぶん芯を食っているんだろうとは思っているんですが、まず共感。プラス、意外性です。
瀧口:「共感」と「意外性」。
樹林:両方を満たすものが売れるんですよ。
瀧口:共感でき、かつ意外で驚きがある。
樹林:意外でもあるってことですね。共感ばかりを追っかけてもダメで、意外性ばかりでもダメですね。両方うまく入っているのがいいんですよ。例えば『金田一少年の事件簿』だったら、実はキャラクターにそれが入っているんですね。
「スケベでしょうもねえな。こいつオレよりばかなんじゃない?」「うちのクラスにいそうなやつだな」みたいな。でもそいつは天才で、トリックを明かしたりする。これは意外性の部分じゃないですか。
瀧口:なるほど。じゃあ、AIを使ってそれを作れるか。
樹林:まあね。だから「共感を持てて、意外なキャラクターを作って」という言い方で(ChatGPTに)聞いてみたらどうなるか。
瀧口:「何が意外か」という前提との差分だと思うので、前提がしっかりわかっていないと意外性も作れないんですね。
樹林:そうそう、意外性って意外と難しいんですよ。意外じゃないものを知り尽くしているから意外性が出てくるわけであって。
瀧口:そうですよね。
明石ガクト氏(以下、明石):なるほど。
瀧口:そこをどう知り尽くすことができるか。
樹林:そのへんは、まだAIは少しできていない感じ。
瀧口:ストーリーテリングのお話ですと、樹林さんはものすごく取材をしていらっしゃるじゃないですか。
樹林:そうそう。僕、めちゃくちゃ取材するんです。
瀧口:そういうところからリアリティが生まれるんでしょうか。
樹林:取材は、10やって使うのは1とか2ぐらいなので、もしかしたらその部分は必要がなくなってくる可能性はありますよね。
取材の代わりをやってもらうというか、AIに(情報を)集めてきてもらって、あとは僕らがセレクトするだけになったら、だいぶ仕事は楽になる気はする。でも、人間が取材しないと出てこない何かがあるんですよね。
瀧口:そうですよね。取材対象が、AI相手にどこまで話したいと思うか。
樹林:そう、やっぱりほじくれないんですよね。だいたい「実はここだけの話なんだけど……」がおもしろいんですよ。
瀧口:それをポロッと話してもらえるかどうか。私自身もインタビューの仕事をさせていただいている時に、なるべく「ここだけの話」を言ってもらえることがインタビューの価値だと思うので、そこがAIにどう置き換わるかなとは思いますね。
樹林:いずれ何か変わってくるだろうと思うけど、今エンターテイメントの世界では、AIは「補完」で非常に使われていると思う。今まで人の手を煩わせて、お金もかかって難しかった部分を埋める作業ですね。
今でも普通に使われていますが、もともとモーフィングという技術があったじゃないですか。僕が最初に見てびっくりしたのは、マイケル・ジャクソンの『Black or White』という曲のPVです。黒人になって、白人になって、女になって、おっさんになって、男になる。ばーって繰り返すじゃないですか。
瀧口:すごいですよね、あのPV。
明石:うにょーんって変わる。
樹林:そうそう。あの間をつないでいたのはモーフィングですね。あれができることによって、アニメーションだったら1枚1枚全部セル画で描いていたものが、ここからここまで全部ばーっとつながってしまうわけですね。こういうのは本当にエンターテイメントの世界を楽にしてくれたし、コストダウンしてくれましたよね。
これが、ChatGPTみたいな生成AIでもっと楽に使える。あれって命令を与えるのがすごく楽じゃないですか。そうするとさらに(ハードルが)下がってくる。
そうは言っても、モーフィング技術もけっこうお金がかかるし大変な作業だから、大きい会社がやる仕事ですよね。だけどChatGPTで遊んでみて、「これはもしかすると、そのレベルのことがほとんど個人でやれるようになるんじゃないかな」と思いましたね。
そうすると、今までできなかった人たちが手を出してくる。つまり、才能を持っている人たちの発掘の場になっていくだろうなと思う。
明石:確かに。
瀬口:なるほど。
明石:今のモーフィングの話で言えば、すでにAIが盛んになった後、めちゃくちゃ作業が早くなっています。この変化は確かに起きていて、今はAdobeがAI補完機能みたいな機能をめっちゃ開発しているんです。
すごいのは、例えばイラストを描くとかですね。それこそマイケル・ジャクソンのCDジャケットで、マイケル・ジャクソンが寝ているジャケットがありますよね。あれの(背景に何も)映っていない部分を勝手に補完して作ってくれるんです。
(今までは)レタッチとか、CGをやる人が時間と予算をかければできたけど、これがワンクリック、ワンプロンプトですぐにばっとできてしまう。
Epic GamesやFounders Fundから投資をされている、Wonder Dynamicsというアメリカの会社がすごいんですよ。モーフィングが発展して、例えば僕が歩いている映像があれば、僕をCGの3Dのキャラクターに置き換えることができるんです。
だから極端な話、VTuberとかの3Dデータがあれば……例えば、あすか会議の壇上を横切るシーンを撮れば、横切っている人をVTuberにすることができてしまうんですよ。
僕は、樹林さんの作品をすごくたくさん読んでいます。その中でアニメ化したもの、ドラマ化したものはあるけど。
樹林:だいたいしてるんですけどね(笑)。
明石:(笑)。(作品自体は)良いしファンはいるんだけど、映像化までは行かなかった名作って世の中にたくさんあると思うんですよ。そういうものもどんどん映像化、動画化されていくことも起きるのかなと思って。
だから、クリエイターエコノミーをめちゃくちゃ助ける、エンパワーメントする存在なのかなという気はすごくしていますよね。
瀬口:お金の制約、時間の制約から解き放ってくれるんですね。
樹林:そう。お金・時間の制約。
樹林:あと、売り方を考えてくれそうで期待していますね。当然僕らは売り方まで考えてやっていた時期もあって。もともと僕は編集者だから、いまだに「こうやったら、こういうお客さんに売れるんじゃない?」ということを考えてしまうんですけれどもね。
でも、そういうアイデアは数値化されやすい部分もあるから、AIはすごく得意なんじゃないかなと思う。安くて影響力のある売り方を教わるというか、そういうのはやらせてみたいなと思いますけどね。
エンタメの世界だと、本当に「売る」が難しいんですよ。いいものを作るのももちろん大変だけど、どうやって売っていくかもすっごく大変なことですよね。
偶発的に売れるものも世の中にいっぱいあるんですが、それを必然として売るようなアイデアというか、方法論をAIがアドバイスしてくれるようになったら、これはまたおもしろくなってきますよね。
瀧口:必然として売れるアイデアね。前田さん、ここまでどうでしょう?
前田裕二氏(以下、前田):今のお話をうかがって、物語にも種類として2つあるなと思いました。要はストーリーテリングというか、人間が作ったある種架空の物語というか、フィクション的な物語というか。
たぶん樹林さんがやられている領域って、本当は存在しない、新しい自分だけの世界観を作るところだと思うんです。もう1つはリアリティというか、樹林さんという一人の人生も1つの物語だと思うし、明石さんも瀧口さんもそうだと思うんですよ。
AIはどっちの物語をサポートするのが得意かで言うと、当然、まずは前者が得意なんだろうなと思っています。僕がすごく好きでよく読む『SAVE THE CATの法則』という本があります。ハリウッド映画の過去50年分ぐらいの脚本をすべて分析して、10個の型に分けて、「この型にはめ込んでいけば人は心が動く」と。
これはたぶん良し悪しがすごくあると思うんです。でも少なからず、人の心が動くものはある程度類型化できるし、科学にできる方向性がある。そことAIの親和性は、良くも悪くも高いんだろうなって思っています。
瀧口:一説によると、音楽は一番類型化しやすいと言われていますよね。
前田:音楽もそう。あるコードをみなさんが「うわ、好きだな」と思う時に、実は別のところで聴いた音楽とまったく同じコード進行だったりするのは、よくあることです。それも同じことだと思うんですよね。
樹林:音楽は特にそうですね。
明石:すみません。今、音楽の話が出たので。うちはTikTokの動画やエフェクトをよく作っているんですが、楽曲がキモです。クライアントワークの場合、オリジナルで曲を作らないといけないんですよ。こういう言い方をするのはあれだけど、「高えな」とずっと思っていたんです(笑)。
なんで「高えな」と思っているかというと、すぐに類型化してしまうんですよ。TikTok上で動画が伸びるような曲はだいたい一緒なので、「この間の案件の時に作った曲とだいたい一緒だね。でも払うんだな」と思いながらいつも払っていた。だから今はAIで作ると、会社としてはそこのコストがごっそり利益になる。
樹林:10円ぐらいでできてしまうわけですものね(笑)。
明石:そうです。でも裏では、その会社でやっていたクリエイターの人は、どうしてもどんどん稼ぎが減っていってしまうじゃないですか。その認識もしている。でも、これは僕らにとってもそうです。
明石:最初に「動画エディターとかがいなくなる」と言ったけど、僕らの仕事は、2022年のままでやっていたら3年以内に絶対なくなるんですよ。だから変わっていかないといけない。
そういう意味で、いろんなクリエイターの人も生成AIの影響からは逃れられないから、今はすごく「変わらなきゃな」というおもしろさがあるなと思っています。
瀧口:それを「おもしろい」と捉えていらっしゃるところですよね。
明石:だって「おもしろい」と思わなきゃ。ここにいちゃダメですよ。ここはリーダーシップを試す場なのでね。
瀧口:変化を楽しむことですよね。
明石:ええ。
瀧口:ちなみに「動画編集者の方々は要らなくなる」とガクトさんはよく言っていらっしゃいます。じゃあ、そういう方々はどういう仕事に転換していくのかも、ぜひ。
明石:樹林さんが最初に「(AIは)トリックをまともに考えられない」とおっしゃったけど、本当にそうですよね。「それっぽいもの」ではなくて、「絶対にこうでなければいけない」という、絶対的なものをちゃんと決める立場にならないといけない。
明石:クリエイティブの世界だと、クリエイティブディレクターと言われる人の下に、エディターやフォトグラファーとか、いわゆるパーツを作る人がいるんですね。楽曲も、言ってしまえば「パーツ」ですよ。「こういうクリエイティブを作る上で、こういう音楽がいい」みたいな。
そういう全体の世界観を決めてディレクションする人と、まさにそれを体現する人。BiSHみたいな、生身のストーリーを持っている人は代替不可能だから、みんながそうなっていかないといけない。これはなかなかしんどい時代だね。
瀧口:今日のお話をうかがっていて、クリエイターの方の「これが好きだ」という気持ちとか、ともすると反対に「これは嫌いだからあんまりやらない」というものって、AIにはないと思うんですよね。ガクトさんは「『何が好きか』の部分は『世界観』」とおっしゃっていましたが、人間はそういう部分をどう作っていくかですね。
明石:確かに。
樹林:感動、怒り、涙とかって、たぶんAIは概念としてしか理解できていなくて。それを本当に感情に取り込んで、涙を流したりする人間の感性でしか出てこないものってあるんだろうなとは思うんですよね。
AIがいろんなところに侵食……僕はあんまり侵食するとは思ってないんだけど、(これから)世に出てくる人は、そこがうまく使える人ではないかなと思います。
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