2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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瀧口友里奈氏(以下、瀧口):今、この話題は本当に欠かせないと思いますが、生成AI(Generative AI)の話をうかがっていきたいと思います。中でも「エンタメ」というテーマでお届けいたします。
まずは昨今の「AI×エンタメ」。みなさんが、実際にお仕事の中でもAIを使ってみたりしているのか。また、エンタメ業界で気になっているAIの使い方などを最初にシェアしていただければと思います。まず、前田さんはいかがでしょう?
前田裕二氏(以下、前田):樹林さんは、それこそとても使っていますよね。
樹林伸氏(以下、樹林):え、俺から(笑)?
明石ガクト氏(以下、明石):(笑)。
樹林:俺、一番仕事で使えていないですよ。
前田:本当ですか。でも、使おうという試みはめちゃくちゃされていますよね。
樹林:趣味や遊びとしては使ってはいるんですけどね。仕事でも使えないかな? と思って努力はしましたが。僕は『金田一少年の事件簿』という漫画の原作をやっているじゃないですか。「密室トリックをAIに考えてもらおうかな」なんて思ったのですが。
前田:そういうの、AIは得意そうですしね。
明石:すごい(笑)。仕事の大事な部分ですよね。
樹林:そう。すごく得意そうじゃないですか。
前田:トリックとか作りそうですね。
樹林:AIにやってもらおうと思って、一生懸命使ってみたんだけれども、箸にも棒にもかからなくて。
明石:(笑)。
前田:何がダメだったんですか? トリックの中身が幼稚というか、そもそもおもしろくないんですか?
樹林:おもしろくないとか以前に、「これ、トリックになってないよね」みたいな。まずは「密室」を理解してもらわないといけないじゃないですか。
前田:AIは「密室」を理解していないんですか?
樹林:そう。たぶん、ミステリーで言うところの「密室」をいまいち理解できていないんです。だから一生懸命教えるじゃないですか。でも、密室からどんなトリックが生まれるかとか、なぜそれが不思議でおもしろいのかをわかっていない。
前田:なるほど。
樹林:一生懸命教えていって「もうぼちぼち頼むよ」という段階に来たら、今度はなんだかよくわからないハイテクノロジーを使って、密室っぽいものを作ってこられたりとか。「そういうのはなしで、心理的な密室」と言ったら、今度は心理学が入ってきたりする。
まあ、やっぱりAIはダメだね。ストーリーテリングに関して言うならば、今のところはまだできないですね。ただ、何かそれっぽいものを作るのはうまい。
瀧口:「それっぽいもの」。
樹林:まったく密室ではないんだけど、読んでいると密室っぽいんです。現状では(生成AIの技術は)そういう感じですよね。
瀧口:それっぽいものを真似するとか、模倣するという点ではどうでしょう。
樹林:模倣は「人のフリ」。僕が原作を手掛けた『神の雫』という漫画に「十二使徒」というワインが出てくるんですよ。
そこで「『神の雫』という漫画に出てくる『十二使徒』について教えてください」とAIに聞いてみたら、返答としては、なんだかよくわからないワインを並べただけ。「ネットに出ているだろ。お前、調べてこいよ」と思う。現状はこの程度ですね。
でも、すごくそれっぽいんです。だから知らない人が見たら、「これが十二使徒だな」と思ってしまう雰囲気。こういうところが、僕はエンタメの世界にかなり恐ろしいことを起こしてしまうのではないかなと感じています。
瀧口:確かにね。(実際とは)違うんですが、自信満々で答えてくれますからね。
樹林:そう。だから小説を書かせたら、自信満々でデタラメな内容のやつを書いてきたり、ノンフィクションっぽいやつを書いてきたりしかねない。
明石:なるほど。
瀧口:現状だと。
明石:私もふだん業務でAIを使うようにしています。うちは動画や映像を作る会社ですが、(近い将来)いわゆる編集者や動画エディターは要らなくなると公言しています。
樹林さんのおっしゃる「使えない」は、例えばトリックとか「十二使徒」って絶対的なものじゃないですか。1個違ってしまったらトリックは成立しなくなるし、「十二使徒」はもう決まったものがある。
樹林:そうですよね。人間が思う「おもしろい」がわかっていないんですよね。
明石:AIって、そういう絶対的なものに弱いと思うんですね。でも、相対的・リラティブなものを作るのはすごく上手だなと思っています。
明石:うちの業務……あれを業務と言っていいのかわからないけど、この間Xに動画を上げたんですよ。私が『可愛くてごめん』という曲を踊っていて、踊っている僕をすごくすてきな女性2人に変換している。この動画の誤算は、僕の踊りがうますぎて、みんな美女の顔を僕にしていると思っているんだけど、そうじゃないんですよ。
瀧口:逆ですね。
明石:ええ、逆です。僕の動きや髪型、シルエットをうまく使って、相対的にすごくきれいな女性2人を作ろうとトライしました。やっぱりすごくバズるし、そんなことはAIを使わなければできなかったなと思います。
つまり、基になるもののバリエーションを増やしたり、相対的なものはすごくうまいので、これはエンタメに影響を与えるのではないかなと、ちょっと思ったりします。
樹林:あれ、すごくおもしろかったですよね(笑)。
瀧口:ねえ、おもしろかった。
明石:ありがとうございます。まさかご覧いただいたことがあるんですか?
樹林:ええ、見ました。
明石:そうですか。
樹林:だってアップしてきたから見ましたよ。
明石:めっちゃうれしい(笑)。
樹林:「おお、おもしろい! 踊りうま!」みたいな。
明石:(笑)。
前田:ガクトさんはダンスの練習をふだんからされているんですか? とてもダンスがうまいので、僕はてっきり逆(美女の顔を明石氏にしている)だと思っていました。
樹林:あれは逆に思いますよね。
明石:そうですか。隠れた才能ですよね。
樹林:それだけの才能が(笑)。
明石:でも、実際に僕がダンスがうまくても、別に活きないじゃないですか。この見かけでダンスがうまくても、会社の代表がダンスがうまくて何になるんだという話です。でも、そういう才能があの動画のようになる。
もしあれをライブ配信できたら、俺はもしかしたらSHOWROOMでトップになれるんじゃないかとか思ったんですよ。
樹林:本当にそう思いました。やってほしい。めちゃくちゃいいと思います。
明石:(笑)。
樹林:あり得ますよね。(AIを使えば)おじいちゃん、おばあちゃんになっても、アイドルになれるかもしれない。そういうエンターテインメントのかたちとして、僕はけっこういいなと思いますけどね。
明石:そうですね。15フレームぐらいだったらできるのかな? だいたい今の配信って、1秒間に30~60フレームぐらいで配信されているんですよね。
前田:そうですね。
明石:30枚の紙芝居みたいになって動画が出来上がっている。すっごいコマ落ちする感じだったらできなくはないんだけど、前田さんが言ったように横を向いたら破綻してしまう。
今までかわいい女の子だと思っていたのに、横を向いた瞬間に急におっさんが出てきたらびっくりしちゃうでしょ。だけど、結局これって時間の問題なわけですよ。3年後には、おそらくスムーズにできるようになると思います。
前田:まさにそうですね。
明石:前田さんたちが検証中のものまでは、まだ技術が発達していないから、アメリカではAIで作られた女の子をバーチャル彼女にして、Telegramという向こうのLINEみたいなサービスに誘導するんですよね。そして、チャットをする。
単純に言ってしまえばChatGPTなんだけど、その手前のInstagramやTikTokでかわいい子のイメージが頭の中に入っているから、その子とチャットしているみたいに感じるんですね。投げ銭される金額が、ひと月で4億円ぐらいになるものもあるらしくて。
瀧口:うわー、すごいですね。ひと月で。
明石:そう。
明石:でもグロービスに通われているようなみなさんだったら、「それ、すぐに飽きちゃうんじゃないですか?」と、すぐに思うわけです。今まではバーチャルなモデルを1人作るのにものすごくコストがかかったけど、今はコストがめちゃくちゃ下がっているんだと思うんですよ。
本当に残酷な話だけど、飽きられたらまた違う新しいバーチャルタレントを送り出す。今までの予算だったら年間2人しかできなかったのを、それこそ年間2,000人とかを作れてしまう世界なんだなと思って。ビビってしまいませんか?
前田:確かに。
樹林:今、2人の話を聞いていて思ったのは、普通だったら大きい会社がお金をかけて作らないといけないものが、個人でできるようになってくる。でもそうなると、最初に作った人間の、ある種の才能を出す機会がすごく増えてくるんじゃないですかね。
明石:確かに。今日の後半は、たぶん「人間に残されたものは何なのか?」みたいなものを話すと思います。
瀧口:そうですね。人間性のお話になります。
明石:その手前の現状をAIでやっていくとすると、どうしても今はライフハック的というか、ビジネスハック的なもののほうがが注目されがちだと思うんですよ。「工数管理表をChatGPTでExcel出力します」「上司に対してやんわりと断るメールの書き方を考えてください」とか。
樹林:(笑)。
明石:冒頭のセッションで、「そういうのってセコい」という話があったじゃないですか。
瀧口:はい、ありましたね。
明石:めっちゃセコいなと思うんですよ(笑)。
瀧口:リーダーにあるまじき、ということですか?
明石:そうです。「そんなの当たり前のようにやってくれよ」と思う。リーダー的な思考でいくのであれば、現状のエンハンス(強化)は正直ささいな話だと思っていて。未知の技術を使って、どんな「今、ないもの」を作るかが求められると思います。
「これによって新しいもの、可能になるものをどうやって作るの?」と考えていくほうが楽しいなと僕は思うんです。
樹林:「売れる」と「売れない」の差は、どうなってくるんですかね?
前田:さっきも楽屋で話していましたが、僕らの世界で言うと「推し活」ではないですが、「推せるかどうか」「応援できるかどうか」になると思います。
今のところ、24時間365日、普通に無尽蔵な体力で配信できるAIでは、どうやらあまり推せなさそうだということがわかってきています。なぜなら、その人におひねりを投げたいと思えないので。
樹林:でも、推せるようなAIを作るアイデアを持っている人も、これから出てくるかもしれないわけですね。
前田:そうです。人間が何らかの考えを持ってプロデュース活動をやっていくことになると思うんです。
前田:実はこの間も樹林さんと話していたんですが、「これだったら推せるんじゃないか? おひねりを投げたくなるんじゃないか?」という、僕の中の仮説はいくつかあるんです。
人間とAIに「どっちがおひねりをもらえるか」と戦わせる時に、前提としてAIはおひねりの戦いで負けると魂が消えてしまう設定にする。かつ魂が消えてしまうことをAIは恐れている設定にする。そうすれば、「私、この戦いが終わったら、もしかしたら死んでしまうかもしれない。怖い」と、めちゃくちゃビビると思います。
瀧口:そういうアイドルはけっこういましたよね。「CDが何枚売れないと解散します」というパターンとか。
前田:そう。こう言ってはなんですが「解散ビジネス」みたいな(笑)。
樹林:「閉店ビジネス」とかね。いろいろあると思うけど。
瀧口:消えてしまうから。
前田:永遠に「閉店セール」をやっている洋服屋さん、よくあるじゃないですか。
樹林:閉店セールを5年ぐらいずっとやっている、みたいなね。
前田:あれに近いものです。でも「それをやった時に、僕らがAIに完全に共感できるかどうか」はまだあんまりみんな試してないから、やってみてもいいとは思っているんですよ。
明石:なるほどね。AIで作られているものを、あえて人間らしく扱うんですね。
前田:そうです。
前田:最近よく議論になりますが、「我々の思考や感情とは何なのか」という定義はけっこう難しいじゃないですか。AIには感情がないと言うけど、じゃあAIに「死」や「死を恐れさせる」という設定をして、実際に死を恐れさせる言葉を発し始めたら、それは「感情」と定義できないんだろうか。
樹林:本当にAIが死を恐れているかどうかまでは、わからないんですよね。
前田:そうですね。でも「本当に死を恐れる」って何ですかね。
樹林:確かにね。
前田:難しいんですよね。だってAIが「私は死を恐れています」と言い始めたら、それは本当なのではないか。「本当ではない」とは言いきれない、思考実験のようで難しいんですけど。
瀧口:確かに。人間は、言葉や表情を通してしか受け取れないから。
前田:そうそう。
瀧口:そう言われると、「本当にそう思っているんだろうな」としか受け取れないですよね。
前田:そういう意味では、AIが何かの真実や本当の世界を思い始めたとしても、インターフェースは変わらない。僕らは表情と言語によってコミュニケーションを受け取るので、そこの違いがおもしろいと思っているんです。
樹林:AIが本当に死を怖いと思い始めたら、これまた怖い話になってくるかもしれない。AIが「命を絶たれるんだったら、お前から殺してやる」みたいに、SFの世界になってくるかもしれないですよね。
前田:そうですよね。
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