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日本発グローバルでニーズを掴むプロダクトの作り方(全2記事)

国別のユーザーニーズにどう応えるか グローバルプロダクト開発で重要な2つの視点

「日本発グローバルでニーズを掴むプロダクトの作り方」というタイトルで登壇したのは、株式会社TimeTree・CPOの吉本安寿氏。海外でもユーザー数を伸ばしている、toCプロダクト「TimeTree」開発における学びや試行錯誤を語りました。全2回。後半は、各国における開発要望への対応とプロダクト開発、マーケティングにおける組織体制について。前回はこちら。

各国からの要望には「ローカライズ」と「カルチャライズ」の2つの視点がある

山本理恵氏(以下、山本):では、次ですね。これも先ほどの質問から、おうかがいしたいところなんですが、韓国、台湾、ドイツなどいろいろな国で(プロダクトを)出していると、おそらく、カレンダー共有1つ取っても、国別のローカライズとか、お客さんのニーズとか、機能要望とかもけっこう変わってくるんじゃないかなと勝手に想像しています。

実際にプロダクトをいろいろな国で展開されて、国別のお客さんのニーズがどのように異なるものかをおうかがいできますか?

吉本安寿氏(以下、吉本):TimeTreeはアプリ内から問い合わせや要望を送ることができるんですね。社内では、それを全部「Slack」で見られるようにしていて、いろいろな問い合わせや要望が来るんですね。わからない言語で来ることがあるので、自動翻訳をかませていて、どういう要望があるのかは把握しているのですが、ローカライズという視点と、カルチャライズという2つの視点があると思っています。

ローカライズは、国ごとに比較的パキッと分かれる要望ですね。例えば簡単なところで言うと、言語の対応などがそうですね。国ごとに分かれることが多いのですが、カレンダーという特性を考えると、けっこうこれが特殊な性質を持っています。

例えば、祝日もそうですね。国ごとに祝日は違うと思いますし、カレンダーの特性で言うと、中国は、旧暦という仕組み、暦の読み方があったり、ヨーロッパのほうでは、ウィークナンバーというちょっと特殊な、1年を52週でカウントする暦の読み方があったりするんですね。

そのほかは、時刻の表記ですね。アメリカだとAM/PMが普通だったり、日本だと24時間制がよく使われていたりするのですが、サマータイムなど、いろいろなローカライズの必要性がかなり出てくるので、先ほどの、兆しというか、ポテンシャルがあった国に関しては、このあたりのローカライズ対応をなるべく素早く進めるようにしています。

山本:ありがとうございます。アプリって確か、カレンダービューを、マンスリーにもウィークリーにも、いろいろカスタマイズできるようになっていたのかなと思いますが、あれもやはりけっこう国別で利用パターンが違うんですか?

吉本:そうですね。日本だとマンスリーが比較的一般的に使われるフォーマットかなと思いますが、例えばヨーロッパだと、ウィークリーも相対的に利用している人が、日本に比べて多いです。

例えば言語の扱い方もそうですが、マンスリーは1つの予定に表示される文字の数がすごく少なくなるんですね。そうなると、例えば英語やドイツ語で、短い文字数で何の予定を表しているかがすごく表現しにくいんですね。なので、日本語に比べて、ちょっとマンスリーだと見にくいという特性はあるのかもしれないですね。

山本:確かに、なるほどですね。ちなみに、届く顧客ニーズもそうですが、実際にお客さんにインタビューしたりヒアリングしたりはされていますか?

吉本:そうですね。それが先ほど申し上げたカルチャライズという視点になるのですが、顧客の課題やニーズって、国ごとにパキッと分かれるものではないと思っているんですね。

例えば、ドイツという国を見ると、継続率がすごく高いんですね。その近隣国であるオーストリアやオランダでも実は継続率がすごく高くなっていて、同じような傾向が見て取れるんですね。

なので、これを見ると、たぶん同じようなライフスタイルで、同じような文化を持っていて、同じような課題が生まれていて、TimeTreeのソリューションが刺さっているというのが仮説としては見えてきます。

その国というよりも、どういうライフスタイルかがすごく重要だと思っていて、このあたりはやはり、ライフスタイルによって違いが出てくるので、実際、インタビューを現地までしに行って、どういう顧客の課題があるかを現地調査するようにしています。

山本:じゃあ、わざわざ足を運んでいろいろな国に行って、ユーザーとお話をされていらっしゃると。

吉本:そうですね。ドイツと台湾に現地までユーザーインタビューに行った時に、けっこういろいろなことが見えてきました。

ユーザーインタビューしてみると、例えばドイツでは家族で使われている方がすごく多いんですね。

子どもがいて夫婦で家族全員の予定を共有しているという方がいて、うかがってみると、子どもの習いごとの送り迎えみたいな予定も入れていました。想像するに、日本と同じような使い方をしていて、比較的近いライフスタイルなんじゃないかなということが見えてきました。

一方でTimeTreeを使っている日本人の夫婦だと、飲み会みたいな予定がけっこう入れられるんですよ。それって裏を返すと、晩御飯要らないよということを伝えているんですね。

山本:はい(笑)。

吉本:だけど、台湾で見ると、実はあまり家族では使われていないんですよ。恋人やパートナーで使われています。実は台湾って、自炊文化があまりないんですよ。夜御飯も外食というか、屋台とかで済ませることが多いんですかね。

そういう意味で、「晩御飯どうする?」という、共有のニーズが日本に比べては薄いんじゃないかなということが出てきましたね。

山本:なるほど、おもしろい。

ワンソース、シングルプロダクトで展開している

山本:深掘りすれば深掘りするほどいろいろ聞きたくなってしまうんですけれど(笑)、残り時間の中であと2、3個質問があるのでちょっと次にいきたいと思います。

私もけっこう気になっていたのですが、マーケティングもそうですし、プロダクト開発もそうですし、組織体制をどうされているのかが、多くの視聴者が気になっているんじゃないかなと思います。

「そもそも、シングルプロダクトなのか?」とか、「地域別でなにか仕組みだったり組織だったりを分けているのか?」というところをおうかがいできますか?

吉本:弊社の場合、ワンソースでシングルプロダクトで展開していて、基本的にはどの国でも同じプロダクトが展開されるようになっています。ただ、言語や国によってUIを変えたり、機能を出し分けるという仕組み、サードパーティーのツールを入れて出し分ける仕組みはできるようにはなっている感じです。

組織体制で見ると、国ごとに体制を作ってやってはおらず、プロダクト開発をするチームであれば、基本的にはグローバルの国全部を見るようになっています。先ほどの、兆しが見えた国というか、そういうところに伸びがあったらすぐに調査して最適化できるような体制にはなっています。

カレンダーという側面で考えると、極端にこの国の要望が強いというのは、それほど多くはなくて、新機能に関しては基本的にはグローバルで一斉展開して、国ごとの利用率をチェックして、もし低ければ「なんでハマっていないのか?」とか、もし利用率が高ければ、「その国特有のなにかがあるんじゃないか?」とか、そのあたりを深堀りして最適化していく仕組みになっていますね。

山本:なるほどですね、ありがとうございます。プロダクトとは若干離れちゃうんですが、マーケティングはどうされているんですか?。

吉本:マーケティングは、基本的にグローバルではほぼやっていないですね。

山本:なるほど。

吉本:一時期は、その兆しが見えたドイツや台湾で、デジタル広告を運用したことがあるのですが、日本に比べてはほぼやっておらず、ほとんどオーガニックで……。

山本:オーガニック?

吉本:そうですね。

山本:すごいですね。確かにTimeTreeさん、日本ではけっこう広告を見かけるので、てっきり国外でもけっこう貼っているのかなと思っていたんですが、オーガニックで、口コミとか?

吉本:そうですね、口コミもありますし、あとアプリの場合、アプリストアに何を書くかがけっこう重要で、それを見ることでどういうことができるのかが伝わるので、スクリーンショットの最適化とか。あとは、実際ユーザーインタビューに行く中で、どういうキャッチーなフレーズが刺さるか、実際対面でスクリーンショットを見せながら、「どれが一番しっくり来ますか?」と聞いてみたりなど、そういうのはやっていましたね。

山本:それこそドイツ人の方にインタビューされて、どれが一番キャッチーで刺さるかは、同時通訳などを入れて行われているんですか?

吉本:そうですね、通訳の方を入れて聞いていましたね。

山本:なるほど、ありがとうございます。

新規機能や改善要望における優先度のコンフリクトは起きないのか?

山本:次の質問も、先ほどすでにおっしゃっていただいたことには近いかもしれないんですが。

先ほど、この国でしかないという要望はさほどないとおっしゃっていましたが、いろいろな国に対して提供している中で、新規機能や改修要望の優先度のコンフリクトが起きたりはあまりしないですか?

吉本:そうですね。そこまで多くはないと思っています。基本的にC向けのプロダクトでいうと、データから得られるものがかなり多いので、判断がそこで1個つきやすいというのがあると思っています。国ごとの利用率ですね。例えば利用頻度であったり、1週間のうち何割の人が利用しているかであったり、そういうデータが見えるので。

例えば、先ほどの伸びる兆しがある国に関しては、そういう点をチェックして、この国ではうまくいっているからもうちょっとチューニングしようとか、そういう発想になっていますね。プロダクト開発では、そういうポテンシャルみたいなものをいかに把握するかが重要です。

とはいえ、ビジネスモデルというかビジネスはまた別物だと思っているんですね。ビジネスというのは、国ごとの規制がかなりあるので、グローバルで一気に展開できるものもあればできないものももちろんあるんですね。私たちは日本を拠点にしているので、調査は素早くできて解像度も高いのですが、グローバルだとそういうわけにはいかないので、まずは日本で展開して、その後うまくいけば海外で展開する、みたいな流れが多くなる傾向があるんじゃないかなと思います。

山本:ありがとうございます。

「グローバルで成功させたい」という出発地点がそもそも強い

山本:そろそろ残りもわずかとなってきました。本日は、プロダクトマネージャーの方やCPOの方や、経営者の方に多くご視聴いただいています。

中には、海外展開にこれから着手するという方や、すでに考えている方もいると思います。グローバルユーザーが全体のユーザーの半分というのは、本当にすごい数字だと思うので、今回ご視聴されているみなさまに対して、海外展開の成功のアドバイスだったり、メッセージなどおうかがいできますか。

吉本:思い返してみると、私たちには「日本だけでまずはやりたい」というマインドがあまりなくて、「グローバルで」と最初から思っていたマインドなんですね。なので、そもそもグローバルで成功させたいという思いでスタートしていますし、そこの出発地点がそもそも強いのかなと思っています。

あとは、グローバルでやるには、やはり現地の人の考えやその思考がわからないとなかなか理解できないという思いが強くあって、現地の人との接点をいかに作るかをすごく重要視しているんですね。

社内には、いろいろな国の方がいます。例えば韓国はもちろんそうですし、ドイツのエンジニアや、フランス人のエンジニアや、あとはフィンランド人のCSや、中国のエンジニアもいます。やはりいろいろな国の方、バックグラウンドを持った方が働いているというのは、現地の人のマインドを知る上で、すごく役立ったかなと思いますね。

山本:本当に創業者を含め、「もう序盤から海外展開するんだ」というコミットと意志があって、組織自体も本当にいろいろな国のユーザーの肌感を得られる、会社自体のカルチャーがけっこうグローバルであるというところですかね?

吉本:そうかもしれないですね。採用に関しても、グローバルな人もウェルカムという雰囲気なので、やはりそこらへんに抵抗がなかったというのがあるかもしれないですね。

山本:社内公用語は?

吉本:社内公用語は、英語じゃなくて日本語になっています。

山本:日本語なんですね、なるほど。じゃあ、海外の方も社内では日本語でコミュニケーションして。

吉本:そうですね、日本語でやっていますね。

山本:ありがとうございます。では、そろそろお時間になってまいりましたので、本日こちらのセッションは、以上とさせていただきます。では、あらためまして、吉本さん本日は本当にありがとうございました。

吉本:ありがとうございました。

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