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ソニー出身起業家が語る『世界に「窓」をひらいて、好奇心を育もう』(全3記事)

仕事を発展させるのは、一見仕事と関係ない「遊び」 ソニーが持つ技術の可能性を拡張させた「探索モード」

「挑戦・学習・成長を加速させる“場”をデザインする」をミッションに掲げる株式会社ウィル・シードは、人材開発サービスを提供する大手企業の人材コンサルタントとして、研修などを通して組織や人の成長を支援を行っています。本セッションでは同社主催のセミナーより、MUSVI株式会社阪井祐介氏が登壇した回の模様をお届けします。相手と同じ空間を共有しているような次世代コミュニケーション装置「窓」について解説されました。本記事では「窓」につながる「探索モード」について語られました。

テクノロジーに限らない「学び」に仕事のヒントがある

阪井祐介氏(以下、阪井):じゃあちょっと、中身の話をいいですか?

司会者:そうですね。

ここに至るまでに、阪井さんのいろんな出会いとか、あとはテクノロジーに限らない学びというところに、実は「窓」という仕事の活動につながっていくヒントがあるんじゃないかなと思っていまして、ここから先は、そのあたりをおうかがいしてもよろしいでしょうか。

阪井:かなり変わった感じのお話になるかもしれないんですけど、楽しんで進めさせていただければと思います。実は先ほどちょっとお話ししたように、1999年にソニーに入社させていただいたんですけども、本当に生まれてこの方というか、僕自身がまさに常時探索モードみたいな感じの人間で、放浪癖がすごくあるんですよね。それで、これもたぶんソニーに入ってからだと思うんですけど、学生時代の……(笑)。

司会者:すごいインパクトの写真ですね(笑)。

阪井:これ、合成写真と言われるんですけど、本当にマチュピチュの丘の上で、合気道部のメンバーと行って稽古をやった時の写真なんですけど、こんな感じでいろいろ放浪していたり。

実は小さなクラスなんですけど世界選手権にソニーのヨット部として出ていたり、ソニーの合気道部で、この前ちょうど四段をいただいたりということで、いわゆる身体的にどなたかとお会いするとか、それこそ実際にマチュピチュのあの丘の上に立つと、すごく壮大な感覚というのがあるんですけども。

そういうものを大切にしながら、いろんなアクションの判断、軸みたいなものとして、まさに探索モードみたいなものを持ちながらやってきたところがあるかなと思っています。あ、そうか、(自己紹介の特技欄を)四段に変えていないです(笑)。

地の「探索モード」を仕事にもつなげていく

阪井:これは実際趣味の世界でもそうで、実は僕、ソニーを退職しているんですけど、いまだにソニーのヨット部、ソニーの合気道部、この2個の部に所属して活動しているという、ちょっと不思議なモードにはなっています。

やはり部活っていわゆるレポートラインとか、従来のある程度閉じた世界での組織、利害とまったく関係ないところでいろんな方とつながれたり、息抜きというかリフレッシュができるみたいなところで非常におもしろいかなと思うんですけども。そういうところで培ったある種の探求癖みたいなものを、まさに仕事でも展開させていただいています。

もともと通信工学科の出身なので、みなさんが使われている802.11gという無線LANだったり、Bluetoothのチップみたいなやつを2000年頃にケンブリッジへ行って開発したり、けっこうがっつりエンジニアリングをやっていたんですけども。

その中で、旅の中で感じる身体的で豊かな感覚と、デジタルデータの間を埋められないかなみたいなことを考えました。もちろん通信のスピードを上げていくということはそうなんですけども。例えば画像認識で、人の顔って結局目がずれちゃうんですけども、そういうところを画像処理を使って、仮想的に視点の合ったような映像を作る技術開発だったり。

さらにそこから踏み込んで、先ほどのアウラの入り口なんですけども、例えば建築とかデザインとかインテリア、認知心理学みたいな学問を学んでいこうということで、途中でデザインの領域に動いてきたり。

それをさらにソフトウェアとしてテレビの中に、共同視聴ができる機能として実装したり、それが今の「窓」の事業の基になったものなんですけど、遠隔同居システムみたいなものを立ち上げたり、そんなことをやってきているんですね。

なので、まさにもともとの地としての探索モードみたいなものを、そのまま仕事の中でもうまくつなげていくことで、20年にわたって、ずっと「窓」という1つのテーマに関して、社内のさまざまな仕事を、結果的には続けさせていただくことができたというかたちでやってきているんですね。

「人間の心理」をロジカルに扱えたことの良さ

司会者:ありがとうございます。Q&Aの中でも聞いてみたいなと思ったんですけど、デザインだったり、あとは心理学とかそういったことも統合されているんですよね。

阪井:そうですね。一番最初は2003年のコミュニケーションの分析みたいなのをやっていって、例えば、一緒に離れた場所で同じ映画を見るとか同じサッカーの試合を観戦をするみたいなことをやった瞬間に、実はコミュニケーションの密度が一気に上がるみたいな現象が、みなさんも浮かぶと思うんですけど。そういうのは心理学的観点でどういう原理でそうなるんだろうみたいな。

何もなく人と人が会っていると、やれ解像度がどうだとか、目がどうだとかってなるんだけども、ちょっと観点を変えて、同じ興味を持った仲間との場作りみたいなものがちゃんとデザインされることで、コミュニケーションの速度がいきなり変わる、非常に不思議な現象があるんですよね。

司会者:ああ、ありますね。

阪井:そこのあたりから少しずつ研究を始めながら、特にデザインの領域ですよね。建築とかデザインの領域、インタラクションデザインの領域というのは、会社の中で見た時にアプリケーションのUIをデザインするとか、そこの制御を設計するみたいな感じに、どうしても目には見えるんですけど。

その奥にあるのは、やはり人間の心理だったり使い心地みたいな言語にならない感性的な領域を、ある意味ちゃんとロジカルに扱っていくみたいな、そういう領域だったりするので。当時は、エンジニアでそういうデザインをやっている人は相当少ない時期だったので、そのあたりから関われたというのは、結果的にはすごく良かったかなと思うんですけどね。

司会者:阪井さんの中では、そこが必要だとなったきっかけみたいなものだったんですね。

阪井:そうですね。「窓」を作ろうと思った時に、先ほどの電波暗室の話じゃないんですけども、(スライドの)左下に鬼の地獄みたいなところがありますよね(笑)。こんな感じで、本当に電波も音も光もまったく反射しないような、すごく特殊な部屋の中でアンテナとかを作っているんですけど、その部屋に夜な夜な独りでばーんと閉じこもった瞬間に、何とも言えない絶望的な感覚になっちゃうんですよね。

自分の知っている、それこそマチュピチュの体験と、この電波暗室の体験があまりに対極で、そこの間を埋めるものって何だろうと思った時に、建築だったりデザインだったりというのがちょっと見えてきたかなという、そんな感じですね。

一見仕事と関係ない「遊び」がオーバーラップする感覚

司会者:一見関係なさそうなマチュピチュという旅の体験と、ご自身が何も、無空間みたいなところの中にぽんと入った時のあまりの対比に問いが立って。自分の体感覚とか、たぶん感情も含めてですよね。それが変わる理由みたいなところを探り始めたと。

阪井:まさにそうですね。だからそういう意味では、なんかちょっとそういう探索活動。先ほどの旅だったり合気道だったりね。一見仕事と関係なくて「遊びでしょ」みたいな、ワークライフバランス的な感じで分けたやつを、どっちにどのくらいエネルギーを使うかみたいな発想があると思うんですけど。

それがオーバーラップしてくるというか、自分が主体的モチベーションで探索していることは、当然深みだったり発展性とかアナロジーみたいなものがどんどん広がっていくのかなと思っていて、そういうのが仕事にうまくつながっていったのはあるのかなと思いますね。

その流れの中で、ここもつなげてお話しできればなと思うんですけども。これはちょうど2001年に出した資料のチャートなのでめちゃくちゃ古臭い感じなんですけど。

例えばここ(A)に岩田さんがいらっしゃって、ここ(B)に僕がいるとなると、今僕らって音声とか映像でコミュニケーションをしています。もしくはテキスト、こういう資料で、文字でコミュニケーションをしていますという感じになると思うんですけども。

先ほど言った、自分たちが同じ場所にいて、何かしらのセッションをやっているという状況を考えた時に、それこそ五感もしくは五感を超えた第六感的な、共感覚的な部分もあるのかもしれないんですけども、例えば臨場感だったり身体性だったり、非言語的なコミュニケーション。

お互い今、首だけしか見えていないんですけど、「今日はかわいいTシャツですね」みたいな、そういう何でもない話がどんどん広がっていくみたいなこととかもあると思うんですね。

技術と組み合わせることでなくなる、距離の制約

阪井:僕は「やはり『窓』を実現するにはソニーしかないな」と思って入ったんですけども、やはり映像とか音声のクオリティってすごく技術があるんですよね。これはソニーだけじゃなくて、日本の企業はそういうある種の進化した技術はすごくあると思うんですけども。

それを特定の目的のためだけに使ってしまうと、せっかくの技術もあんまり活きないみたいなところがやはりあるのかなと思っていて。そういう意味では、まさに臨場感、身体性とか空間を使って、さまざまな事業をやられている方。例えばスノーピークの山井太会長だったり、あとは日建設計という建築のトップの羽鳥(達也)さんだったり。

介護施設、先ほどのあれですね。おばあちゃんとワンちゃんの出来事が起きた「銀木犀」というすごくすてきな介護施設とのコラボレーションだったんですけど。あと、地域の教育だったり、地域活性のジオパークの活動だったり。

そういう活動をされている方に、どんどん我々の「窓」の技術を使ってもらう。本来だったらここには例えば機密漏洩みたいな話で、本来は絶対他者に出してはいけないみたいなものがあると思うんですけども。

司会者:ありますよね。

阪井:MUSVIの持っている、例えば「いのちをちかくする」というツールだったり技術みたいなのがあったとして、今までは自分が持っているものをそのまま全部事業化するみたいな感じだったと思うんですけども。そうではなくて、「仮にリアルに距離を越えて世界中の80億人が会えるとしたら、何ができるんだろう?」という問いを僕らがいろんな方と共有する。

例えばオフィスを作っている方、街を作っている方、医療・介護、教育、エンターテインメントとかいろんな方にとって、当たり前なんですけど距離の制約ってめちゃくちゃ大きいんですよね。同じ部屋の中じゃないとできないとか、100m離れると使えないとか、5km離れたら……とか。

そういうふうにちょっとでも距離が離れると、今まではいろんな制約を受けて、事業が仕方なく「こういうかたちしかあり得ない」とされていた部分が多々あると思うんです。そういうのを技術と組み合わせることで、例えば先ほどのスノーピークのみなさんと「遠隔焚き火システム」といって、「オフィスの中に屋外のキャンプ場の焚き火の空間をつないでみたら何が起きるだろう?」という、すごく創造的な感覚が生まれたり。

農業のいろんな新しいトライアルを遠隔でコンサルティングをしてみようとか、さっきのクリエイティブの現場に使ってみようとか、多地点のオフィスを作ってみようとか、いろんなことが起きてくるんですけども。

目的を緩やかにすることで広がる、技術活用の可能性

阪井:こういうことにどんどんチャレンジしていくことで、逆にフィードバックがどんどん入ってくるんですよね。そうすると、MUSVIにとっても新しい開発のヒントだったり、もしくはMUSVIと共同研究しているソニーにも、その技術を使ったいろんなフィードバックを出すことができるのかなと。

なので、まさに1つのチャレンジ、知の探索的なモードを持つことで、ソニーが今まで持っていた技術、すごく深まった技術なんだけど、特定の目標にしか使っていなかった技術がどんどん世の中に出ていく、いろんな人が喜んでくれるみたいなことを作れるというのは、けっこうおもしろい効果を生むんじゃないかなと。

こういうところを、やはりR&Dの活動としてソニーの中で、最後はすごくいろんな方とご一緒できたのが、やはりMUSVIにとって非常に大きかったかなと思っていますね。

司会者:ありがとうございます。あえてあんまり「この技術はこのために使うんだ」とか「自社の強みってこういうことには使える」ということにロックさせ過ぎずに、目的をちょっと緩やかにしておいて、ぜんぜん今まで携わらなかったような分野の方々ですよね。

キャンプみたいなところだったり医療だったり介護とか、そういった方とアイデアを出し合うことによって、あった技術がいかようにも発展性が出てくるとか、そのままの技術じゃなくて、またそれをより思いもよらないかたちでブラッシュアップしていけるとか、そういった出会いが探索をするからこそ出てきたということなんですかね。

想像していなかった「自分の作った製品に人が抱きついて泣く」状況

阪井:そうですね。だから、先ほど岩田さんのお話をうかがっていて、ウィル・シードさんが作られている今回の、例えば「QUEST」だったり「SHIFT」だったり「GIFT」だったりという流れも、従来は人材育成のためのプログラムという感じだったかもしれないんですけども、そういうプログラムそのものが、例えば新規事業を生むような何か新しい活動になることも当然あると思いますし。

逆に言えば、この活動を繰り返していくことで、ソニー社員がみんなキラキラしていくというか、つまり「自分の作っている技術がこんなに喜んでもらえるんだ」ということですね。

例えば「窓」で、半年ぶりに介護施設で親御さんにお会いした娘さんが、「窓」に泣きながら抱きついてしまって。たぶん自分の作った製品に人が抱きついて泣くとは誰も想像していないと思うんですよね。

だけど、そういうシーンを見た時に「あれ?」と。まさにこのフィードバックのところなんですけど、「これはもっと、おもしろいことが起きるんじゃないの?」とか、「こういう可能性があるんじゃないの?」みたいなことが生まれることで、越境、探索型のすごくいい経験を得ることができる。

そういうことが、けっこうしんどいことも当然あるんですけども(笑)、そういうしんどいことを乗り越えるような、勇気というかエネルギーみたいなものが、やはり入ってくるのかなと思うんですよね。

なので、最後の(項目の)ところも言ってしまおうかなと思うんですけども。マネジメント視点という意味では、僕はどれくらいマネジメント視点を持っているか(笑)。一応今社長ではあるんですけど(笑)、かなり多動性、企業運営もやっているので、あんまり参考にならないかもしれないんですけども。

まどろみ状態の「越境」の盛り上がり

阪井:1つ、ソニーの時にある種マネジメント的な観点で考えていたことがあります。今回ソニーという会社からMUSVI。僕は完全にソニーを退職して自分で100パーセント立ち上げた会社に、非常にありがたいことなんですけど、ソニーが技術をライセンスしてくれると。実は出資もしてくださっていて。

ただ、いわゆるマジョリティとかそういう連結ではなくて、我々がどれぐらい「窓」という可能性を広げられるかというチャンスをいただいている感じなんです。そこに対して、例えばソニーのまさに卒業生で、SREホールディングスさんだったり、セーフィー株式会社さんだったり、すでにIPOをしてすごく成功されている先輩方が、さらに応援をしてくださるみたいなかたちの構造を今取ってくださっていて。

そこで、我々がこれまで培ってきたノウハウだったり、そういうチャンネルをどんどん加速させることで、例えば医療・介護、地域創生とかオフィス現場みたいなところに、どんどんソニーの技術だったり、セーフィーさんとかSREさんのいろんなノウハウみたいなものをうまく組み合わせてどんどん提供していく、そこのフィードバックをもらっていくみたいなことができるようになっているかなと思うんですね。

「越境」というと2個のバウンダリーという感じがすると思うんですけども、まさにまどろみ状態というか、何がどこなのか。逆にコラボレーションさせていただいた、例えばコクヨさんとか鹿島建設さんとかドコモさんとか、自社で使っていただいているというのもあるんですけど。

同時にMUSVIと一緒に、「じゃあ『窓』を使ったら建築現場はどういうふうにおもしろくなるんだろう?」とか、「通信の5Gの世界はどういうふうに変わるんだろう?」みたいなことが、どんどん盛り上がっていく。そういうムーブメントが今起きつつあって。一見内か外かという感じで考えていると、起きないような関わりをさらに多段化していくことで、言ってみればなんかよくわからない状態になっているんですけども(笑)。

でも、それがネガティブなランダム性ではなくて、すごく曖昧模糊としている中から、次々と新しいおもしろいチャレンジだったり関係性が生まれてくるというところが、今MUSVIが、ありがたいことにちょっと入らせていただいているモードなのかなと思うんですよね。

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