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法と技術の交差点(全4記事)

「プログラムの著作権」に対する日本と海外の考え方の違い 「法解釈の歴史」と「石橋を叩いて渡る文化」が生み出した“グレーゾーン”

「YAPC(Yet Another Perl Conference)」は、Perlを軸としたITに関わるすべての人のためのカンファレンスです。ここで立命館大学情報理工学部情報理工学科教授の上原氏、立命館大学法学部法学科教授の宮脇氏が「法と技術の交差点」をテーマに登壇。次に、プログラムの著作権について話します。前回はこちらから。 ※本記事の内容は、2023年3月19日時点のものです。

運営会社が海外の場合に、どの国の著作権法が適用されるのか

司会者:会場から来ている質問で、先ほど宮脇先生の(話)からもあったと思いますが、学習させること(自体)は合法だと。これは日本の法律(の話)だと思うんですが、AIの運営会社とか著作権者が例えばOpenAIもそうですが、海外の運営者だったり、著作権者が海外の方のWebサイトだったり、イラストレーションだったり(することもあるの)だと思うんですが、「その場合はどういうふうに整理されますか?」という質問が来ています。どうですか?

宮脇正晴氏(以下、宮脇):それはどの国の著作権法が適用されるかという問題で、学習段階(の話)で、日本で学習させていたらたぶん日本の著作権法の問題になるだろうと思います。

ただ、公開していたらそれは基本的には全世界(を対象にしたもの)ですよね。明らかに日本向けのサイトだったらともかく、全世界に公開されていたらそれは日本の著作権法が適用されるとは限らないので、分けて考える必要があります。

司会者:なるほど。そこは分けて考えて、場合によっては日本以外の法律が適用されて権利侵害になることがある。

宮脇:はい。それはあり得ます。

司会者:ありがとうございます。

プログラムの著作権

司会者:「GDPR(General Data Protection Regulation)」の話は後でやりたいので……。「GitHub CopilotはGitHubのAIでコードを書く時の支援をしてくれるサービスですが、ChatGPTと違って、プライバシーを保護したりトークン情報をマスクしたりしていると運営側から説明がありました。アウトプットされるものはそれでもやはり著作権侵害になるのでしょうか? 率直な意見を教えてください」。

(結果として)出てきているもので、けっこう重要なところはマスクされていたり、ある程度プライバシーを保護していても大きいコードの流れは変わらなかったり、大きな要素は変わらないというような話だと思います。

宮脇:コードが著作物になるのは、著作権法上のプログラムが文学作品と同じような扱いになっているからです。なので、大まかな流れとかはアイデアとされていて、それが一致していたからといって著作権侵害にはならないんですね。

個人情報に関する部分はプライバシーとの関係で問題になりますが、著作物かどうかとの関係ではこれも「関係ない」と言えるので、単なるコードの組み合わせなんですよね。

組み合わせに個性があるというか、誰がやっても同じになるかどうかという。誰がやっても同じだったら著作物ではありません。あるいは、ありふれたコードでも著作物ではないんですが、それ以外の表現であれば、コードとしてのできはどうであれ著作物になっちゃう。

権利が認められるのは非常にしょうもない部分というか、些末なところであることが多いんですよね。だから一部マスクされていても、そこが残ってさえいれば著作権侵害はあり得るということになります。

司会者:上原先生、なにかコメントはありますか?

上原哲太郎氏(以下、上原):プログラムの著作権は本当に難しいなと思っていて。というのは、「いわゆる創作物である」というところをどこで訴えるのかと一生懸命考えても、例えばアルゴリズムそのものは著作権にならないんですよね。これはけっこう厄介な問題で、同じロジックで書いて同じようになるんだったら、「やはり著作物は認められないよ」みたいなことがあるんですよね。

どこから先が著作物になるか(を判断する)というのはけっこうしんどいという問題が1つ。あとは、そもそもOSSの文化が「細かいところはみんなでシェアしましょうよ」というものから生まれているという問題もあったりして。そこをキリキリ詰めていくと話が難しくなるというか、OSS文化的にはブレーキになっちゃうので、あまり気にすることはないと言ったら言いすぎかもしれないけれど、問題が深刻化してから一生懸命に考えたほうがいいのかなという気はしますね。

日本でプログラムの著作権が認められた判決

宮脇:日本でプログラムの著作権が最初に認められた判決に、「スペース・インベーダー・パートⅡ事件判決」というものがあります。

当時、著作権法上は著作物の中にプログラム(のこと)は例示されていなかったんですけど、それでもインベーダーゲームのプログラムが著作物だと言った。結局あれは、市販のプログラムを丸ごと複製してゲーム台を作って売っているやつがいたので、それは止めなきゃいけないじゃないですか。海賊版対策をしようと思うと、やはり著作権があったほうがいいんです。

ところが著作権を与えられると、そうじゃない利用も制限してしまうわけですよね。だから、「じゃあ似たようなコードを書くのはどうなんだ」(と)。著作物じゃなかったらぜんぜん気にしないでいいんですが、著作物じゃなかったら海賊版からも保護されませんよねと(なってしまう)。

著作権はプログラムだけじゃなくて、文学作品だろうが彫刻だろうがいろいろなものに与えられるので、それを基準に考えると、やはりある程度の範囲まで権利が及ぶことになるんですよね。でもないと困るという(笑)。そのあたりが非常に難しい状態になっているということですね。

司会者:上原先生はなにか(ご意見ありますか)。

上原:プログラムが著作物として認められてからの流れは、やはりずっと見てきた立場からすると、法律を作る人たちがなんとか既存の著作権への当てはめで理解して法解釈を作ってきた結果生まれた歪みがいろいろなところに出ているように思っていて。

先ほど宮脇先生がお話しされたように、確かに丸コピは駄目だけど、例えばライブラリみたいな部品の組み合わせになった時に、個々のライブラリに著作権が認められないかというと、やはり認められるべきだと思うんですよね。

それをだんだん小さくしていった時に、どの関数のどれくらいのレベルまでが認められるのかというところがボヤッとしたままになっちゃっているのが、このあたりの議論を混濁させ(てい)ると思っています。

このあたり、アメリカはよくできていて。結局、「最後は法廷で戦いましょう」という世界になっているから(笑)。ある程度攻めでいけるというのに対して、やはり我々の国は、石橋を叩いて渡る文化を非常に持っている。なので、特に企業が大きくなれば大きくなるほど、「それは本当に大丈夫なのか? なにかあったらどうするんだ?」みたいな話をすぐにし始める(という)のは、いろいろなところで問題になっています。

たぶんこの手の問題……。Copilotが生み出すコードに対する著作権みたいなものも、そこにブレーキがかかるのを、どうやって「いや、大丈夫ですよ! とりあえず問題が起きてから考えましょう!」とできるのかという問題があるという気がしていますね(笑)。

日本と海外の権利の扱い方とかの温度感の違い

司会者:そのあたりの日本と海外の権利の扱い方とかの温度感の違いみたいなところって、宮脇先生は肌感あったりしますか?

宮脇:アメリカとかは、はっきり許す法律がなくてもチャレンジする人は多い印象があります。機械学習を許す規定はたぶんアメリカの著作権法にないんですが、「フェアユース」という規定があるので、それでなんとかなると思っているからだと思います。

だから、著作権制度が遅れているせいで日本で検索エンジンが育たなかったのかはわからないですが、機械学習に関してははっきり法的に日本は優れているんです。でもMicrosoftに後れを取っているみたいなところもあるので、やるほうのマインドもでかいのかなと。

司会者:これとかはなんか日本ぽいというか、そういう話題だなと思います。

学習元のコンテンツを権利者がオプトアウトする権利について

司会者:「学習元のコンテンツを権利者がオプトアウトする権利とかについて、議論はあったりするんですか?」と。

宮脇:議論は、それこそTwitter上で見たことがある程度で、オフィシャルな場で(あるのか)どうかはちょっとわからないですね。水面下ではあるかもしれませんが、現状はいくら「機械学習を禁止します」と書いていても、著作権法の規定上はできることになります。

上原:検索エンジンの時代は「検索エンジンにインデックスしないでください」という、robots.txtという草の根で生まれて育ったようなものがあるので、あれと同じようなものが遠からずAIの世界でも出てくるかなと。それこそrobots.txtにちょっと拡張して、フィールドが増えたりするようなことがありそうだなとは思います。

司会者:それこそテキストとか、例えばクリエイティブ・コモンズと自分で明記して「こうやったら使っていいよ」とか「複製していいよ」みたい(に第三者に提供するよう)なものがあると思います。そういうものの機械学習版みたいなものが出てくるみたいなことってあるんですかね(笑)? これは雑談というか、僕が今パッと思っただけですけれど。

宮脇:クリエイティブ・コモンズ的なやつという発想は、著作権はデフォルトで全部一式持っているわけですよね。なので、権利者に「これは許すよ」と言ってもらわないと使えないというところがあるんですけど。機械学習の場合は、デフォルトが権利なしなんですよね。

司会者:そもそも権利者にない。

宮脇:だから「やめてね」というお願いになっちゃうということになる。例えば本とかの奥付に「私的複製を禁止します」と書いてあってもできるわけですよ。(私的複製)したからといって著作権侵害にはならなくて。

それはなぜかというと、著作権法で「私的複製を許す」という規定があるし、それが権利者の意思でその権利制限がなくなるというのは、これはこれで酷いことになるので。権利制限規定というのはそういう種類の規定で、契約ではオーバーライドできないということになっています。

日本はかなり思い切って許しちゃったので、曖昧だったらそれは効力があると思うんですよ。けれど、かなりはっきり許しているから判例とかもないので、「こういう場合は実は許されそうだけど許されない」みたいなケースもあるかもしれない。そういうグレーゾーンになってきたら意味があるかなという気はします。

司会者:なるほどです。「規定上はできるけどけっこう心証が悪そうだよな」みたいなコメントが今ツイートでも流れていますが、そういう“お気持ち”的な。コミュニティとのそういう温度感みたいなものと……。

宮脇:たまにネットを見ていても、漫画のトレースとかでえらい炎上したりすることがあるじゃないですか。でもトレースしたから著作権侵害ということはなくて……。構図自体は先ほども言った(ように)アイデアなので、同じ構図の絵を描くこと自体は禁止できないんですよね。

丸写しは駄目ですが、やり方によってはぜんぜん著作権侵害にならないトレースというのはある。そういうものもお構いなしに炎上して、「なんかすみませんでした」みたいなことになったりはするので。社会的な圧力が嫌でやめるとか、そういう判断はあるかなと思います。

最近多い「けしからん議論」

司会者:上原先生。

上原:最近どちらかというと法を先回りした「けしからん議論」がわりと多いんですよね(笑)。

宮脇:そうなんですね。

上原:ええ。特に海外に関しては妙にいろいろなルールがあって、それこそキャラクターの……。キャラクターそのものは実は著作権ではなくて、意匠権とかそんなもので保護されるべきものなんだと思います。

それこそ丸を3つ書いただけで「これはミッキーマウスです」という国がありますが(笑)。こういうちょっと大きな解釈みたいなものが、特に絵画関係の著作物には生まれやすい中で、それをオートジェネレートするようなAIが出てきちゃった。これからAIを育てようという時に、一番不幸なところが一気に育っちゃったような気はしていて、怖いなと思っているんですよね。

司会者:そのあたりは徐々に来たら社会的な納得感も持ちながらインパクトが出てくるけれど、突然ドンとかなり大きいインパクトが来ましたからね。

上原:わかりやすいだけにね。本当に怖いなと思うんですよね。また、絵画みたいにコピーが可能なものに妙に権利をつけようとする、NFTで大儲け(したい)みたいな人たちが暴れると(笑)。(そうなると)かなり話が混濁している気はしています。といって、別に答えがあるわけじゃないんですけれど。

司会者:僕らもこの話をやろうと思っていて、ちょうど会場から(出た)いい質問を出してもらいました。

(次回に続く)

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