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「CTOが変化し、成長するためになにを考えるべきか」(全3記事)

「DXは“CTOだけが”がんばれば済む話ではない」 不要なコストをかけずに「えいや!」といくために大事なこと

株式会社overflowによって開催された、開発組織のあり方について考える1ヶ月「CTOWeek 2023 by Offers」。Week1に登壇したのは、デジタル庁CTO 兼 グリーCTOの藤本真樹氏。CTOという役職との向き合い方や求められる能力について語りました。全3回。3回目は、DXの文脈から考える、CTOの役割について。前回はこちら。

藤本氏がCTOとして当たり前に置いている基準

大谷旅人氏(以下、大谷):CTOとしてのいろいろなトークを期待しているところもあって、その一番上のところで来ている中だと、これはどういうこと? 「当たり前として置いている基準」。

藤本真樹氏(以下、藤本):「当たり前として置いている基準」。当たり前、何の基準なんだろうな。「CTOとしてそのぐらいできるよねー」的な基準ですかね。

大谷:足切り基準?

(一同笑)

藤本:あぁ、そうかもしれない。

大谷:「CTOと名乗るならこれぐらいはしろ」とか、そういうことなんですかね?

藤本:そこはやはり凸凹があるし、僕も当然得意・不得意はあります。今は何が良いかというと、例えばある課題があった時に「多くの会社はこうしているよね」みたいなことをCTO同士で話すのはメチャクチャよくあるけれど、だいたい悩みはかぶるんですよね。

そういったところで、「自分以外の1人、2人はこのぐらいのレベルにはいくよね」という肌感がありますが、それはけっこう個別issueに寄るので、質問に答えるのはなかなか難しいなと思っています。

僕の中で、当たり前として置いている基準は何かと言ったら、CTOの経験があったり、優秀だなと思っている人たちだったらこうするだろうな、これぐらいはやるだろうなとか、口頭やチャットで聞くというところ。当然機密うんぬんは問題外ですが、けっこう大事なのはだいたいこのへんの会社の人だったら、こういうアプローチをするだろうなとか、これぐらいのレベルまでは持っていくだろうなという肌感を持つことです。

なので、当たり前として置いている基準は、僕がよくコミュニケーションを取っている人たちは「このへんまでやりそうだな」というのを僕の中で当たり前として、そこは超えていかないといけない、自分としてパフォーマンスをかけないと、そういう基準だったりします。

それで全部カバーできるかといったらアレですが、繰り返しになりますが、いろいろなイベントやコミュニティがあるので、そういう基準が持てるコミュニケーションが取れるコミュニティに入っていくことが大事だなと思っています。

大谷:なるほど。多くの人と交流を持って、その基準を自ら学んでいくことも必要だったりするんですかね。

藤本:うん、そうかな。

DXはCTOだけががんばれば済む話ではない

大谷:では、また「CTOの視点から……」というのが来ているので、上のほうに行きます。「CTOの視点から見た日本企業のDX化」これも難しいな(笑)。「(CTOの視点から見た日本企業の)DX化にはどういった問題がありますか? また、その問題に対してCTOが果たすべき役割はどうでしょうか? ぶっちゃけた話をうかがいたい」と。

藤本:抽象度が難しいねというのがあるし、これはすごくいろいろなところでいろいろと話されています。1個だけあえて絞って話せば、「間違いないなく、いわゆるDXはCTOだけががんばれば済む話じゃない」ということで、これはもうほぼ全部のケースでそうです。

なので「どういった問題がありますか?」というと、すごいCTOの人がビャンッと行って「DXするぞ!」みたいな時に、CTO以外の人が「DXって何だ?」とかいろいろあるわけです。そこに対してある程度の近いレベルでその責任を持つ人たち、基本的には経営陣みたいな人たちが一定以上のレベルでそこにコミットするかどうかというのは間違いなくあります。基本的に、今までの仕事のやり方や組織のあり方を変えるところが絶対に出てくるので、そこに対して不要なコストをかけずに「えいや!」といけるかどうかというのはやはり大事です。

そうすると極端な話、きちんとそこに理解を持つかどうかはアレとして、スポンサードをしてもらう・し続けるみたいなことができるかどうかは、会社組織、特に大きいところでやろうとする時にすごく大事になると思っています。

果たすべき役割はどうあるかというと、例えば、すごく歴史のある企業の誰かが「もうちょっとここのソフトウェアをきちんとやらなきゃいけないと思うんだよね。内製もしなきゃいけないと思うんだよね。DXしなきゃね」と言ってCTOを呼んできたとします。その時に最初にやるべきは、長い会社なので会社のコンテキストをメチャクチャ知っている人や、いろいろ顔が利く人に、「こうなりたいよね」というゴールの設定と合わせてきちんとアラインしてもらうことです。

「これいいよね」とか「こうなったらいいよね」とみんなに思ってもらわないと話が始まらないので、まず何をすべきといったらそこかねと思っています。さらに言えば、そこで「うん、いいね」となったらいいし、心から「うん、わかる。じゃあやろう!」となったら、たぶんそんなに苦労しないし、そんな問題はありません。

なので、そこに持っていくために、本当に小さなところでサクセスを作ってちょっとずつやっていくのは大事です。ただやはり、最低1人は無条件でスポンサードしてくれる人がいないと、すごくコンテキストが強いというか、歴史ある会社に行くと、けっこうキツイかなと思います。

大谷:いきなり行って崩しに行くのはなかなか受け入れられないと思いますし、やはり関係性作りがすごく重要だというところです。

藤本:関係性はそうですね。もう1個だけあるんですけど、マジで例えば社長なり、権限・影響力が強い人なり、絶対1人はスポンサードしてもらわないとちょっとキツイかなとは思います。

大谷:わかりました。ありがとうございます。

CTOがやるべきことは基本的には経営である

大谷:「CTOの仕事は経営を技術で裏打ちすること、といった表現を複数見ますが、まだよくわかっていないので、思うところをうかがいたい」という質問が来ていますね。

藤本:これは自分で言うのもアレなんですが、こういった感じのことをわりと初期に言っていたのはたぶんですが僕です。いつだったかな。2013年、2014年ぐらいのグリーのブログで「CTOとは何なのか」というポエムを書きました。すごく短くまとめると「技術で経営にコミットすること」ということを書いたのですが、「よくわからない」と言われました。

「それはそうですよね」と思うし、それ自体はぜんぜんOKなんです。だけどこれは何かというと、結局、すごく複雑なことやいろいろな要素が孕むことを、ある程度まとめて短く言えば、当たり前ですがすごく抽象度が上がります。

すごくおこがましい例を言うと、「みんなが知っているE=mc2のような短い公式から無限のいろいろが発生するぜ」とまでは言いませんが、そういう傾向はあると思います。なので、この場で「どういうこと」というのをペラペラとちょっとしゃべって「あ、わかった!」というのは違うというか、僕にはそれはできません。

「未熟ですみません」みたいなところはあるんですが、まず前提として「そういうことだね」とは思っている人もいるし、別にこれが何かすごいことを表している公式というわけではないし、これだけにそこまで囚われる必要はないかなと思うんですけど、まずそこは前提です。

「とはいえどういうことよ?」みたいな話です。繰り返しですが、CTOはCのタイトルを持っている役割として、いわゆるソフトウェアエンジニアやVPoEでもなく、ソフトウェアのアーキテクトでもありません。兼ねていることもありますが、CTOの帽子で何かというところで、やるべきことは基本的には経営であるべきだとは思います。

じゃあ会社経営の中で何を? というと、またこれはすごく長い話になりそうだし、僕もぜんぜんまだまだです。ただ、1個だけ思っているのは、経営者はけっこういろいろなセオリーうんぬんで歳を重ねた人が多かったりするので、本当にこれを学ぶのは時間がかかるなとは思います。

昔から連綿と会社経営があったりして、それこそものすごい論文やノウハウの本があるわけです。だけど、まだまだ成熟しきっていないという意味では、それだけ広い話だし難しい話なので、これは時間がかかるなと思います。

というところで、例えばCEOを考えた時に、彼らは何のプロフェッショナルかといったら会社経営自体のプロフェッショナルで、その中で大きく経営者として絶対にあるのが意思決定です。

もう1つは、今のある状態に対して、アンテナを立てるというか「ここはこうしたほうがいいよね」と(やってみること)。プロダクトの意思決定は降ってきて決めるという話が強いと思うのですが、そうではなくて、今この状態を見て、僕らはここに行きたいから次にここに手を付けてみる。

あるいはみんななかなか手が回っていないけど、ここは絶対に先にやっておいたほうがいいみたいなことです。ネガティブなところで、ガバナンス、リスク管理。テクノロジーのところで、技術的負債に対してどうアプローチするかという話はあるのですが、そういったところをきちんと見つけるのは経営としてはけっこう大事になってくるのかなと思っています。

そこには当然、新しい事業を考えるというのも含まれてはくるでしょう。場合によってはハードウェアもそうですが、僕らのやっている事業の中でソフトウェアを使う・使わないと上手にやるのは難しいので、きちんとテクノロジーのバックグラウンドを持ってそこの質を上げることが基本的にやるべきことです。ちょっとだけ抽象度を下げてみたら相変わらずフワッとした話ではあります。

大谷:いやいや(笑)。僕はそのフワッとしたものを聞きたかったりします。

藤本:(笑)。

「優秀な人がいたらいつでも換わる」の心構えを持ちつつ、仕事にきちんとプライドを持つ

大谷:あと2分しかないので、もう1個しか答えられないかなと思います。これはデジタル庁のところよりも、話が重くなっちゃうかもしれませんが、2番目に出ている「成長企業で長年CTOを務められる上での、環境の変化に対応するために必要な心構え」もお聞かせいただければと思っています。

藤本:(スライドの別の項目について)先に、「次世代のCTOへの交代のタイミングで引き継ぎ方はマジで答えられないな。ごめんなさい」と思いました。これは僕はマジで答えられないなと思いました。たぶんこの方はわかって書いているんじゃないかなと思いつつ、そこが僕はけっこう苦手……苦手というかきちんとできたことがありません。ごめんなさいという感じですが、それはそれとして。

環境の変化は話せば長いですが時間もないので短く言うと、まず1個は言葉で伝えるのは難しいのですが、「自分より優秀な人がいたらいつでも換わるよ」ときちんと思うことだし、自分が役に立っていないなと思ったら、すぐ次に換わるべきです。

先ほども言いましたが、CTOというタイトルをやりたいわけではないし、会社のために「こっちがいい」となったら、そこはより良いアプローチを取ります。「自分ではない人がCTOをやるべきだったらちょっと換わりましょう」という、フラットな心を持ち続けることです。

「それだけだと、ただコミットが薄いだけじゃん」みたいな話がありますが、そうなったらメチャクチャダサいから。僕はけっこう負けず嫌いなんですが、「そうならないようにマジでがんばっておこう」みたいな、ある程度高いプライドを持つ。逆にそうじゃないと、チームメンバーのみんなに失礼だと思います。「これは自分に相応しくないな」とか「これは僕がやらないほうがいいな」と思いながら上司の人がやっていたらちょっとイヤじゃないですか。

大谷:そうですね。

藤本:そういうのがあるので、その心構えを持ちつつ自分のやっている仕事にきちんとプライドを持って、自分に対して「これは納得できるんじゃないの?」みたいなことを考え続ける。その両面をバランス良く持ち続けるのが一番大事かなと思っています。ただ、そう言っていますがそれがベストかはわからないし、今日のテーマに戻りますが、今僕が思っていることで、それ自体は一定なんとかかんとかやってきたわけです。

だけど「これでいいんだ」と思っていてはいけないなと最近メチャクチャ自戒するようにしていて、それこそ死ぬほど優秀なCTOの人がいたら、それに対してどう考えるんだろう、どういう答えや心構えを持つべきだろうというところを考え続けるということです。本当にこういう問い一個一個もそうだし、日々の仕事一個一個に関してもそういうことを考え続けることを大事にしたいなと思っている昨今です。

みなさんがそんな感じで切磋琢磨してがんばっていければと思っています。まとめっぽく話してみました。

「CTOWeek2」について紹介

大谷:ありがとうございます! 藤本さんもご質問にお答えいただきありがとうございました。ということで、そろそろ時間にもなってしまったので、以上をもちまして質疑応答の時間は終了とします。一応予定としては、最後に藤本さんにコメントをお願いしたいところですが、もう藤本さんがおまとめになってしまったので。

藤本:すみません(笑)。

大谷:もういいかなと思いますので、次回のCTOWeek2についても紹介させてもらえればと思います。次回は3月4日の19時より、LayerXのイネーブルメント担当の名村さんをお招きして「開発スピードを落とさないために必要な、イネーブルメント組織とは」という内容でお話いただきます。

ぜひこちらも奮ってご参加いただければと思っておりますので、よろしくお願いします。あと5分ほどありますが、こちらは締めてよろしいでしょうか?

藤本:とりあえず名村さんは僕よりメチャクチャおもしろい話をしてくれると思うので、ぜひぜひ。

大谷:そうですね。藤本さんのお知り合いということで、次回のお楽しみということで、それでは本日はお時間となりましたのでイベントとしては終了とさせていただきたいと思います。ご視聴いただきありがとうございました。

藤本:みなさまどうもありがとうございました。

大谷:ありがとうございました。

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