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NASA式プロジェクトマネジメント(に基づいたJAXA式マネジメント)(全2記事)

世の中の体系化された「プロジェクトマネジメント」には、宇宙開発分野の失敗が役立っている

毎回1つのテーマに絞り、テーマに対してのLTを行うTechDLT。「プロジェクトマネジメント・プロダクトマネジメント」をテーマにした「プロジェクト/プロダクトマネジメントについてLT! TechDLT Vol.7」に登壇したのはJAXA宇宙科学研究所の三浦氏。まずは、ロケット打ち上げにおけるプロジェクトマネジメントの大きな方針について話します。

世の中の「プロジェクトマネジメント」などの言葉の源流は「NASA式プロジェクトマネジメント」である

三浦政司氏:最初は「NASA式プロジェクトマネジメント」をちゃんと自分で勉強して体系的に紹介できたらとチラッと考えていました。でもそこまでいけなさそうだったので「NASA式プロジェクトマネジメント」に基づいた、私自身がJAXAでしている組織マネジメントについて、かいつまんで紹介できたらと思っています。

基本的にJAXAのプロジェクトマネジメントは、NASAのプロジェクトマネジメントに基づいているんですね。今日はこのプロジェクトマネジメントや、特にプロジェクトマネジメントと関わりが深いシステムズエンジニアリングみたいなところを紹介しようと思っています。

そういったものは、いろいろな分野に先駆けて、非常に複雑なものを扱ってきた宇宙開発分野を通して発展してきたという歴史があります。なので、そもそも世の中のプロジェクトマネジメントとかシステムズエンジニアリングという言葉の源流をたどっていくと、NASA式プロジェクトマネジメントに行き着きます。

そういう意味でも、世の中のみなさんと同じように「JAXAもこのNASA式プロジェクトマネジメントに基づいています」という言葉を意味合いとしてタイトルに込めています。

三浦氏の自己紹介

自己紹介します。私は三浦といいます。このコミュニティでは何回か発表させていただいています。ふだんはJAXAで研究者をやっているんですが、同時に自分と仲間たちで立ち上げた株式会社レヴィという会社でビジネスもやっています。

これまではレヴィの仕事の話で発表することが多かったんですが、たまにはJAXAの仕事の話でも発表したいと思って、今回は紹介できることがないかなと考えてまとめてみました。

ですが、いざまとめ始めると「これって外に出していいのかな?」とか「これを言ってあとでJAXAから怒られないかな?」とかがけっこうたくさんあって、結果的にはすごくかいつまんで紹介するような感じになってしまいました。すみません。

ディスカッションというか、Q&A形式でもっとちゃんとお話できたらと思うので、資料自体は非常にかいつまんでいます。(スライドを示して)(私の)専門分野はここに書いたようなことです。

相模原の宇宙科学研究所には実物大のロケットの模型がある

(私は)ふだんJAXAで働いています。JAXAの中でも大きな事業所がつくばと調布と相模原にあるんですが、僕がいるのは相模原です。相模原にある宇宙科学研究所というところで働いているので、もし機会があれば(セッションを)見ているみなさん、あとは今日の(他の登壇者の)2人とかもぜひ遊びに来てもらえればと思います。

相模原の宇宙科学研究所には、実物大のロケットの模型が置いてあります。(スライドを示して)模型と言いましたが、実は外側は本物です。作ったけど飛ばなかったロケットをそのまま展示品に使っていて、ちょっとおもしろいので、ぜひ機会があったら見に来てください。

(スライドを示して)この写真でいうとこのあたり(写真右側の窓を示して)かな? 3階のこのあたりに自分の研究室があって、そこで研究開発に取り組んでいます。

(先ほどのスライドの)横倒しになったこのロケットはM-Vロケットというものですが、(M-Vロケットという言い方ではなく)「はやぶさ」と聞くとみなさんよく知っているんじゃないかと思います。M-Vロケットは知らなくても、はやぶさは知っているかと思うんですが、はやぶさの1号機ですね。はやぶさ2ではなく、はやぶさ1の打ち上げはこのM-Vロケットで行っています。いつも通勤するたびにそいつを見ているような感じです。

このM-Vロケットの後継機にイプシロンロケットというものがあって、今はこちらが運用されています。

イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗

もしかしたらニュースとかで見た(方もいる)かもしれないんですが、2022年10月、このイプシロンロケットの6号機を打ち上げたんですが、残念ながら失敗してしまいました。

ロケット自体、1本何十億円もします。あとは荷物ですね。荷物のことをペイロードと言うんですが、ロケットはそれを地球の周りをぐるぐる回る軌道上に届けることが役割です。打ち上げが失敗すると、荷物ごとおじゃんになってしまうわけです。

今回の荷物にはJAXAが作った人工衛星も入っていたし、民間企業が作った人工衛星や、あとは高専衛星といった全国のいろいろな高専の学生さんが作った人工衛星なども入っていました。

今回はその打ち上げが失敗、特に「指令破壊」という結果になったんです。これは要は、安全のためにこちらから自爆信号を送って空中で爆破させるんです。そうしないと、意図しないところに飛んで行ってしまって非常に危ないので、「自爆しろ」という(指令を出す)判断をしたわけです。

なので、載っている荷物も全部粉々に爆発してしまったんですね。そうすると、何年間もかけてやってきたことがこの一瞬でパーになってしまいます。

ロケット打ち上げにおけるプロジェクトマネジメントの大きな方針

先ほど言ったとおり、ロケット自体が何十億円で、もちろん荷物もそれぞれ何百億円とかそういったスケールのお金をかけて作っています。要は何が言いたいかというと、基本的には失敗できないわけですね。失敗したくないので、プロジェクトの確実性を非常に重視します。

一方で、宇宙まで行くためのものなので、真の意味で宇宙の環境で事前に物事を検証したり、本当に動作するかを検証したりすることは難しいです。

あとは、打ち上がっちゃったあとに何か不具合とかが起こっても、あとから直すことができません。例えばソフトウェアなどであれば、セキュリティとかいろいろ大変な部分ももちろんあるでしょうけれど、Webサービスとかはあとから直すこともできるじゃないですか。

宇宙機に関しては、打ち上げたあとは人間の手が届かないところにいるので、あとから直すことはできないです。プロジェクトを進めて(その)最後に打ち上げるわけですが、そこに至るまではわりと極めて慎重派になるわけですね。

なので、プロジェクトマネジメントの大きな方針としては、いわゆるガチガチのウォーターフォールでゲートを設けて、それぞれのゲートで必要な情報をそろえていって、必要な検証が全部終わっているかを厳しく審査して、ゲートを通してフェーズを移行させていきます。

最初のフェーズがどんどん移行していって、最後に打ち上げオペレーションというフェーズに入ることができるわけです。それぞれのゲートで要求の洗い出しや設計、そして検証に抜け漏れがないかをかなり厳しく審査していきます。そういったスタイルの開発です。

人間の知恵として方法論を蓄積し、その蓄積が体系化されて世の中に役立っている

このロケット1本に、数え方にもよるんですが、どのくらいの人数がプロジェクトに関わっているかというと、それこそ数千人から、例えば事務の方とかも含めると数万人です。そのくらいの人数でロケット1本を作っているわけです。

なので、役割や責務や人のリソースのマネジメントも非常に巨大になります。何も考えずに「あなたはこれをやって、次にこれをやって」といって、最後に出来上がったものをがっちゃんこすれば飛ぶかといったら、そんなのではぜんぜんうまくいきません。

極めて大人数ですごく複雑なものをどう作ったらいいかというのは、いろいろな失敗を重ねながら「こうやっていくとうまくいくよ」という方法論として、人類の知恵として蓄積してきています。

そういった蓄積したものから、今のプロジェクトマネジメントとかシステムズエンジニアリングみたいなかたちで体系化されて、世の中で役立っているわけです。その蓄積フェーズのところで、こういう宇宙開発みたいな分野がそれなりに寄与している歴史があります。

(スライドを示して)そういうこともあり、NASAではプロジェクトマネジメントとかシステムズエンジニアリングとかの知識・知恵を体系的にまとめて、ハンドブックみたいなかたちで発行しています。同じように、JAXAもシステムズエンジニアリングや他にもプロジェクトマネジメントみたいな言葉で、体系的に整理した資料を公開しています。

JAXAで公開しているWebサイトの資料の公開ページに行くと、プロジェクトマネジメントやシステムズエンジニアリングに関して「JAXAはこうしていますよ」みたいなことがよくわかる資料を公開しています。

とはいえ、NASAの資料は全部英語ですので、見てみたい人がたくさんいる一方で、なかなか読めない状況もあると思います。

これはJAXAじゃなくてレヴィの話になるんですが、私がやっている会社では、このNASAが公開している『NASA Systems Engineering Handbook』を平易な日本語に直して薄いブックレットにまとめたかたちで配布しているので、よかったらダウンロードして利用したり、チラッと見たりしてもらえればと思います。

ちょっと宣伝を挟んじゃいましたが、今日はレヴィで公開している『NASA Systems Engineering Handbook』を和訳した資料をちょっと使いつつ、「JAXAもしくはNASAでは実際にこうしているよ」ということを、体系的というよりかは部分的にピックアップして紹介したいと思います。

(次回に続く)

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