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プロダクトマネージャーの仕事の本質と成果を出すための心得(全5記事)

「ユーザー理解が足りてれば意思決定で迷うことはありえない」 課題解像度の低さが生む、プロダクトマネジメントの落とし穴

プロダクトマネージャーに求められる本質、事業成長に貢献するための具体的な心得についてディスカッションをするイベントが、株式会社フライルの主催で開催されました。今回のゲストは、SaaSやアプリ、Web3など幅広い領域で、長年プロダクトマネジメントに携わり、プロダクト開発コミュニティ「PM Club」の運営をしている佐々木真氏。プロダクトマネージャーに必要なスキルや考え方を語りました。全5回。5回目は、PMが事業開発にコミットするために学ぶべきことについて。

プロダクトビジョンを浸透させるために必要なこととは?

財部優一氏(以下、財部):これもよくある質問ですが、プロダクトビジョンや目標の作成・浸透方法について、うかがってもよろしいですか?

佐々木真氏(以下、佐々木):ちょうどこの間、このプロダクトビジョンについてPM Clubで話題になりました。連ツイしたのでTwitterを見てもらいたいんですが、僕は最初は基本的にプロダクトビジョンがいらないと思っている派なんです。プロダクトビジョンは、エンジニア組織が30名以上になったり、人数が増えてきたタイミングで示すものだと思っているので、初期の小さいタイミングだとまずいらないと思っています。

プロダクトビジョンは途中で変えていいんですよ。みんな1回決めたら変えられないと思うからけっこう窮屈なのですが、基本的にはお客さんの課題を解決できることと、その解決策を作ることなので、これを実現するための大事な行動規範をビジョンにするといいんですよね。

だけど、始めからこれを言葉にできるかというと、課題を特定できないと方向性が見えないので、できないんですよね。なのであまりこだわりすぎないほうがいいし、途中で変えてもOKというところがあります。作成方法は、今お客さんの課題を解決できる方向性が見えているのであれば、それを実現するために大事な行動をビジョンに落とし込むのがいいと思います。

例えば、メルカリは「Go Bold」が会社のビジョンで「大胆にいく」ですよね。Googleだと「Don't Be Evil」で「邪悪になるな」です。それを浸透させる方法はPMが言いまくることです。これ以外にありません。打ち合わせの度に、「私たちが目指しているのはこれだよね」とか「これじゃん」と言ってください。もうそこは言うしかないんですね。Slackで毎日言ったり、Slackのスタンプを付けたりするのがおすすめです。

財部:なるほど(笑)。中長期的なゴールを最初から明確にしておくことは難しいけれども、日々の行動指針やバリュー、カルチャーはきちんと方針を決められるよねということですかね。プロダクトビジョンを作るのは、PMFのあとでもいいというイメージですか?

佐々木:そうですね。ニーズが特定でき、売上が立っている場合で、組織が大きければプロダクトビジョンがあったほうがいいと思いますが、それも途中で変わったりします。

財部:ありがとうございます。

実務の優先順位付けができないのは“ユーザーへの理解が足りていないから”

財部:4つ目ですね。プロダクトマネジメントの実務の優先順位付けに関する質問もとても多くもらいますね。

佐々木:なるほど。これもあるあるですね。

財部:具体的にはいろいろあって、意思決定の基準が明確にできていない、納得感がない、営業の人がお客さんの声を重視しすぎる、どれがインパクトがあるのか判断しにくいです。

佐々木:あるあるですね。

財部:負債解消やUX改善などいろいろな粒度がある中でどう決めていけばいいのか。このあたりの優先順位付けをうまくやっていく方法のお考えはありますか。

佐々木:顧問をやっていると、こういうことをメチャクチャ聞かれるんですね。死ぬほど聞かれるんですよ。その時に必ず答えることが、「迷う時点でユーザーへの理解が足りていない」です。ユーザーの理解が足りていたら、優先順位で迷うのは基本的にありえないはずなんですよね。

もちろん、技術的な負債の解消やリファクタリングはしたいから、どちらをやろうかな? というのはありますね。技術的負債は優先順位という系統とは別問題なので、それはもうしょうがないし、どれくらいリスクを負うかしかないんです。要はダウンタイムが発生する確率が2パーセントから5パーセントになるけれど、それをサービスとして許容するかというのは、経営リスクになってくるので、PM1人だけでは実は決められないんですよね。

事業としてその3パーセントのリスクを飲みますか・飲みませんかという話になるんですよ。これはおそらくサービスの規模やユーザー数にもよるんですよね。例えばSlackはハイエンドのプランだと、ダウンタイムに0.何パーセント以下の保証をしています。こういうのはサービスとして言っているかどうかによるもので、ちょっと別の話なのでいったん置いておくとして。

(スライドを示して)ここの他の3つは全部ユーザー理解が足りていないから起こるんです。

僕は悩んだ記憶はほとんどないです。なぜかというと、事業開発を専門に仕事をしている中で、お客さんにメチャクチャ会うからです。それこそ、僕がSaaSの会社を起業した時は、(会社に)人がいなかったのもありますが、本当に2年間で300社ぐらい会っていました。そうすると、お客さんがどこでどういう悩みを持っているかというイメージが全部湧くんですよ。

そうなれば、あとはどこの課題から手をつけようかという意思決定です。意思決定の基準が明確にできていないのは、お客さまの課題の大小が見えていないからですし、営業や顧客からの声を重視するのは、あなたが顧客に会っていないから振り回されているだけだと思います。また、重要な機能が多くてどれがもっとも大きなインパクトなのかも、お客さまの課題の大小が判別できていれば、基本的には「私たちとしてはこっち」となるはずなんですよ。

それがイメージできていないから全部起きているわけで、実は機能の話ではないんですね。本質的には、PM自体のユーザー課題の特定理解度やユーザーの課題の解像度が粗いから起きる現象です。だから会議室でやっても、これは絶対に解決しないんですよ。「お客さまに会いに行きましょう」です。

財部:確かにいろいろ複雑な事情があったり、迷う時もあると思うのですが、そういう時こそ、ユーザーさんに向き合うというか、その課題は何だったっけということから考えるのが重要ということですかね。

佐々木:そうですね。とはいえ、今言ったのは理想論なんですよ。現実問題でお客さんに聞こうとなった時に、どう聞いたらいいのかがわからないというのが、今のPM事業界に起きています。ノウハウがないので、そういうのをQiitaやTwitterやVoicyやPM Schoolでやったりしています。そこは別の課題ですね。現実問題でどう学べばいいのかわからないというのはあります。

財部:ありがとうございます。

PMとして事業開発にコミットするために学ぶべきこと

財部:ではこの一番上の、「事業開発の課題の特定をすることは同じ線上にあると考えていますが、PdM(プロダクトマネージャー)として事業開発にコミットするために学ぶべきことがあればおうかがいしたいです」というのは、いかがでしょうか?

佐々木:これはとてもすばらしい質問ですね。なるほど。おっしゃるとおりで、事業開発はどのマーケットをやるかのマーケットの選定と、その中で自分たちがどう攻めるかという戦術の2つを決めることなんですね。

なので例えば、「人材業界の中にはどういうプレイヤーがいて、そういうところに各戦術でこういうのが必要で、こういうのが必要だからこういうことをやろうね」と考えるのが事業開発で、そういった意味で課題をベースに考えることは似ています。

それがないとマーケットは存在しないはずで、課題の大きさがマーケットの大きさなので、そこは同じです。一方で、例えばPMとして事業開発にコミットするというところでいうと、事業開発領域でもっともやりがちなことはプライシングだったりもします。

あとは事業戦略に紐づいたプロダクト開発の方向性もあって、大きくこの2つかなと思っています。事業開発にコミットするのもそうですが、ただ僕はコミットするという意識はあまり良くないと思うんですよ。なぜかというと、今ご自分で書かれているとおり、ユーザーの課題を特定する行為は、事業開発でも同じく大事なんです。

そうなった時に逆説的ですけど、顧客の課題特定に集中すれば事業開発にコミットしていることになるんですよ。なので、まずはそこをやったほうがいいと思います。そこを特定できた上で、例えばプライシングをやったり、他の競合プレイヤーとどう差別化するのかという観点が考えられると、さらにコミットができるんです。

だけどやはり、すべての起点は顧客の課題を特定することです。それが事業開発的に言うとマーケットになるんですね。プロダクト開発的に言うとユーザーのペインやニーズと言います。多少見方が違うだけで、基本的にベースになるのは顧客の課題なんですね。なので、逆説的にそこだけでいいと思いますし、その先から事業開発も広がると思います。僕が事業開発とPMを両方やれるのはそこなんですよ。「つながっている」というのは、まったくそのとおりで、だから1人でやれるんですよね。

財部:なるほど。ありがとうございます。

PM Clubのミッションは「PMのプロダクト開発の知見をぶちまける」

財部:他にも聞きたいことがいっぱいあるのですが、いったん締めさせていただきます。答えられなかった質問は、フライルも個別の相談会をしているので、ぜひ気軽にお申込みいただければなと思っています。最後に、佐々木さんから紹介してもらって終わりにしたいと思っています。では佐々木さん、よろしくお願いします。

佐々木:はい。僕もPM Schoolをリリースしたらフライルさんをぜひ使わせてください。まだリリースしていないのであれなんですけど。(※取材当時)

財部:どうぞ。ぜひ、お願いします!

佐々木:(笑)。という、うちわネタなんですけど。(スライドを示して)最初に申し上げたとおり、1月24日リリースを目標に動いていて、ありがたいことに個人のお客さまの申し込みと法人のお客さまの申し込みがかなり増えているので、「PM School」と検索してもらうか、このURLを見てもらうとすごく早いかなと思っています。

(スライドを示して)PM Clubはこんな感じで、今は1,500名集まっているところです。プロダクト開発へ関心がある人に向けて、いろいろな取り組みをしています。2023年度以降も、例えばプロダクトマネージャーのスキルを定義するテストや、人材転職支援や、PMのハッカソンみたいなのをやろうと思っています。

PMのプロダクト開発の知見をぶちまけるのがミッションなので、そういったことをやっていきたいです。PMは数が少ないので、「孤独でつらい」と言う人が多いんです。そうなった時に「独りじゃないよ」というのがコミュニティの良いところかなと思うので、(スライドを示して)こんな感じでオフ会もやりますし、サウナ部もあったりします。

僕もPM Clubのチャンネルで、できるだけ答えています。そういったところで興味がある方は入っていただけるといいんじゃないかなと思っています。ぜひ今後もコミュニティやPM SchoolやTwitterを、よろしくお願いできるとうれしいです。

財部:ありがとうございます。メチャクチャ楽しそうですね。

佐々木:(笑)。ちょうど先週オフ会がありました。

財部:楽しそうですね。今日も学びが多かったので、またなにか続編をどこかで企画させていただければと思っています。

佐々木:そうですね! なにかテーマをいただけたらできるだけやりましょう。

財部:ありがとうございます。ぜひ引き続きよろしくお願いします。本日は佐々木さん、ありがとうございました。

佐々木:ありがとうございます。失礼いたします。

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