2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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飯沼亜紀氏:ここからは、最初に示した3つの要素が欠けるとどんなことが起こるのかを見ていきましょう。まずは組織立ち上げの正当性です。
課題感は先ほど確認したとおりですが、「その課題感を持って組織を立ち上げようとする機運はどこからやってくるのか」という話です。大きく分けてトップダウンとボトムアップの2つの方向性があります。
トップダウンは、トップやそれに近い人たちが組織作りの意思決定をするところから始まるもので、基本的には先ほど挙げたような効率性の課題から来るものと考えて差し支えないかなと思います。それがやはり経営者の視点から見ると、ビジネスの課題だったり組織の課題だったりで出てくるという感じです。
(スライドを示して)ここに書いたように、それ以外の理由で意思決定がされることもあります。
逆にボトムアップでいくと、プロダクトマネージャーとかそれに近いステークホルダーの人たちから「組織作りをするべきである」という声が上がるというケースですね。
トップダウンでもボトムアップでも、立場が違うので課題の粒度が違うこともあるかと思いますが、案外みんな同じような課題意識を持っていることが多いです。こうやって言うとすごくうまくいきそうな感じがします。
しかし、すべての組織の立ち上げは究極的にはトップダウンだなと私は思っています。どういうことかというと、もしボトムアップで組織を立ち上げようとしても、トップに組織が必要だという認識がなければ、それは実現しないことになってしまいます。
つまり、ボトムアップで組織を作る時に最大の困難は、トップの理解が得られないこと。しかも、たとえ理解を得てめでたく組織ができたとしても、トップがその組織を支持し続けてくれない限りは、先ほど触れたとおり作って満足して終わりみたいになってしまうので、本当に大変だというところです。私も過去にこの課題にぶち当たっています。
組織の課題からミッション・ビジョンまで、結局はビジネスの言葉で語った筋のとおったストーリーがないと難しいし、たとえそれがあっても、会社の戦略とか組織構造とか、そういった別の理由で組織の立ち上げに失敗することはあり得るという感じですね。かなりいろいろな壁が立ちはだかる感じです。
じゃあ逆にトップダウンで作られる組織は楽でいいのかというとぜんぜんそうではなくて、トップダウンだから、現場が必要性を感じていなくても組織ができてしまうという問題があります。
先ほど組織の立ち上げの経緯の例をいくつか挙げましたが、例えば「流行っているから(作る)」みたいな。必ずしも明確な課題があるわけではないことがわかってもらえたかなと思っています。
ここで気をつけておきたいのは、組織を作るということは、作らなかった時に得られたはずのものをいくつか捨ててしまうことになるということですね。
私が過去に経験したのは、受託ビジネスを中心に行っている会社で、受託はけっこうプロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーが密接に連携する必要がありますが、プロダクト組織を作って組織が分かれてしまって、連携に綻びがでてきてしまったことがありました。
その会社はもともと「受託ビジネスからSaaSビジネスに切り替えるためにプロダクトマネジメント組織を作りたい」というような相談をもらっていて、「そういうことであれば」ということで協力しました。
だけど、結局受託の案件が手放せなくてSaaSが一向に立ち上がらず、みたいなことが起こり、組織を作ったのにそのメリットは享受できずに、デメリットばかりが目立ってしまうような結果になってしまいました。
なので、立ち上げ時にミッション・ビジョンが重要であるのは当然ですが、それに付け加えてミッション・ビジョンを達成できるように動けるような環境が整っているかも重要になってくるかなと思っています。
次に内部環境について見ていきます。プロダクトマネージャーの教育や評価の話はけっこう組織のかたちに関係なく論争になりますが、組織があると期待が高まりがちかなと思います。ちょっとこのあたりは時間の都合上、いろいろなエピソードは割愛しますが、期待が大きい分、問題も大きくなりがちだと思っています。
あとは、組織にはメンバーの専門性を伸ばすことが期待されるので、当然プロダクトマネジメント組織を作るということは、その組織の中でプロダクトマネジメントの専門性が磨かれることが期待されます。
一方で、昨今はなかなかシニアなプロダクトマネージャーの採用が難しいということがあって、特に組織ありきで組織の立ち上げをすると、メンバーがジュニアメンバーしかいない。教育・評価ができない問題が起こりがちです。
そこで私が経験したのは、他の部署からシニアのメンバー、この時はジュニアでしたが、その人をマネージャーとして兼務させることだったんです。やはり兼務だとなかなか忙しくて全員の面倒を見ている暇がなくて「じゃあもう1人追加しよう!」とプロジェクトマネージャーを追加してという感じで、だんだん組織がキメラ化していくようなことが起こっていました。
気がついた時には、もはやプロダクトマネジメント組織じゃなくなっているみたいな。「これは何の組織だっけ?」みたいなことになっているということがあった。ということで、内部要因としては、まず組織をリードできるシニアなメンバーがいるかどうかは非常に重要です。
あとは、組織内で育成ができないことによって生まれる問題に、メンバーの慢性的なスキル不足があるかなと思っています。多くの場合は単に経験がないだけなので正しくガイドしてあげれば問題ありません。
ただ、その“正しくガイドしてあげる”環境がない中でもがんばっているやる気のあるジュニアメンバーと一緒に働いていてよくあることは、スキルが足りないと、どうしてもその中で自分ができることで価値を出そうとして、結局何でも屋みたいになっちゃうケースです。
正直、私もすごく若い頃はそういう傾向に陥ったことがあります。そうすると、だんだん周囲からの期待も何でも屋的な便利なポジションになってしまって、だんだん本人が辛くなってしまって情熱を失うんですね。情熱がなくなってしまうと、今度はスキルを身に付けようという意識がだんだん薄れていく。この悪循環がだんだん強化されてしまう。
もし評価者もプロダクトマネジメントをよくわかっていないようなケースがあったりすると、「この子はがんばっているから評価しよう」みたいになってしまうんですよね。そうすると、その行動がさらに強化されてしまう。
なので繰り返しになりますが、メンバーが自立できるようにガイドできる人の存在がすごく重要になってきますし、内部にそれができる人がいなければ、外部のコーチなどを活用するのも有効です。
じゃあスキルを身に付けばいいのかというと、それはそうではないというのがまた難しいところです。(スライドを示して)ここにあるように、プロダクトマネージャーはスキル以外にもいろいろと必要なものがあると私は考えています。
ここに「プロダクトマネジメント以外のこともやる気概」とありますが、注意してほしいのは、(プロダクトマネージャーは)なんでもやるというわけではないです。「あくまでプロダクトマネジメントが軸であって、それでもなおプロダクトの成功のために他のことができるのか」という話です。
先ほども触れたとおりで、何でも屋になるのはちょっと違います。結局、何でも屋になると何者でもない人になってしまうので、私はあくまでプロダクトマネージャーはプロダクトマネジメントをするべきだと思っています。
ただ経験上、副業とかで組織立ち上げをサポートすることがありますが、スキルはある程度その時に身に付けさせることはできるんですね。ただ、情熱や気概は本人が身に付けるしかないものなんです。
これも過去の失敗事例でありましたが、組織を立ち上げて、立ち上げられた組織の中で、中の人が日増しに元気を失っていくケースがありました。話をしてみたら、そこにアサインされた本人はプロダクトマネジメントがやりたいわけではなくて、ちょっとメンタル的に苦しくなってしまって、結局いったんアサインを変えてもらっ(てい)たということがありました。なので、スキルとかとは別に本人の意向はかなり重要だと思っています。
最後に外部環境について見ていきますが、外部環境はなかなかコントロールが利きにくい部分があるので、「本当にこれがうまく行かなかったら諦める」ぐらいの気持ちがあったほうが、精神衛生上はいいんじゃないかなと思っています。
(スライドを示して)組織の構造は機能カットや事業カットで、この上のパターンと下のパターンと、それぞれのハイブリッドパターンのようなものがあるかなと思います。(しかし)新しい組織を作る時は、既存の他の組織との整合性にも注意を払う必要があります。
(スライドを示して)例えば、下のようなプロダクトごとや事業ごとの部署が存在していた時に、他の人たちはみんな事業ごとに部署があるので、プロダクトマネジメント組織だけ独立してしまったらすごくやりにくくなると思うんですよね。
あとは「実はプロダクトマネージャーじゃなくてプロジェクトマネージャーの組織が必要だった」みたいな。「本当に必要とされるのはプロダクトマネジメントなのか」みたいな問題は正当性のところでも話をしましたが、外部環境の観点からもそういったことは見たほうがいいと思います。
そうでなくても、例えば会社全体として部署間にすごく距離がある場合とかに、組織を分けると同じプロダクトのために働く人同士の距離感が、別々の組織になってとても遠くなってしまうというようなことがあるので、組織が成功するかどうかは、外部環境によっても左右されるかなと思っています。
あとこれはプロダクトマネジメントをやるにあたって私が常にぶつかる壁なんですが、組織が独立している場合に業務を深く知る人、例えば現場で働く人とか、そういった人がどうしても別々の部署になってしまう。
同じ組織にいる場合と比較して、プロダクトマネージャーとして業務の解像度が上がりにくかったり、仮に十分な解像度を持っていたとしても、なんとなく周囲からのイメージ的に「組織が分かれているから」ということで、ビジネスから遠いところにいるという印象を社内で持たれてしまうというリスクがあると思っています。
プロダクトマネージャーとして、業務解像度は高いに越したことはありませんが、「組織の形態に関わらず、プロダクトマネージャーは個別の業務に誰よりも詳しい」という状況はなかなか生まれないですし、そこを目指すのもちょっと違いますよね。
「あの人は業務をわかっていないから」と言ってくる人がいると思いますが、それは仕方ないとしても、その続きのフレーズに注目してほしいなと思っています。
もし「だから私がサポートしますからなんでも聞いてください」とかの言葉が続くならいいんですが、「だから信用できない」とか「だからこの機能は使えるものにならないんだ」とか、ネガティブな言葉が続く場合は要注意です。こういった発言をする人は、けっこう所属によって壁を作りたがる。「こっち側とあっち側」みたいに境界線を引くのが大好きだったりします。
だとすると、プロダクトマネジメント組織を作るということは、プロダクトマネージャーが結果的に孤立してしまうリスクを高める恐れがあります。なので、面倒ですが仲間意識を持ってもらうということがまずは必要で、その手段として組織を活用するのもありなのかなと思っています。
あと、外部環境は多岐に渡りますが、その中でも他にいくつか重要なポイントを挙げると、とにかくトップの人がちゃんとプロダクトマネジメント組織をサポートしてくれることが重要です。やはり時にプロダクトマネージャーは嫌われ役にならなければいけない。人によってプロダクトマネージャーがブロッカーになっていると受け止めたりすることもあると思いますが、そんな感じで、いろいろな逆風にさらされやすい組織だと思っています。
その時にトップの人が組織を守ってくれるのか、それとも「やはりだめだ」と早々に組織を潰す決断をするのかというところがあります。あと、それ以前の話で風土の話とかがあります。
(スライドを示して)読み上げませんが、ここにあるとおりです。
ここでセッションのタイトルを無理矢理回収しに行きますが、じゃあこんなに大変な思いをして、いったい何が楽しいんだという話です。
これはもう完全に個人の意見ですが、プロダクトマネージャーは結局もの作りが好きな人が多いんじゃないかと思っていて、少なくとも私自身は完全にそのタイプです。「純粋に組織を作るのが楽しい」ということはけっこう大きいと思っています。
ただ、このセッションで一貫して伝えてきたとおり、組織を作る必要性があるのかは完全に場合によるので、組織を作ること自体が目的化しないように注意する必要があります。
もう1つは、純粋に組織に悩む時間がなくなったら、プロダクトに向き合える時間が増える。プロダクトマネージャーとしてこれほどありがたいことはないですね。
やはり立ち上げは単独のものとして考えないようにしていますがど、プロダクトの成功のために組織作りが必要な場合はあるし、実際にそう思って作ってみて、それが期待どおりにハマった時にはやはり組織作りは楽しいなと思います。
最後におさらいです。組織の立ち上げの3つの要素。これらが揃っている必要があります。
繰り返しになりますが、これらの要素がないと本当に呪われてしまうので、ないならまずは作りましょう。組織はそのあとです。または、組織を作らないという選択もあるかもしれません。
(スライドを示して)組織を立ち上げる側としての話を長々としてきましたが、最後に視点を変えて、組織を構成するメンバーとしての一言がこちらです。プロダクトマネジメント組織があってもなくても、どんな組織の一員として働くことになっても、プロダクトマネージャーの仕事は組織の中だけでは完結しないものなので、組織の枠組みを超えて首を突っ込んだり、他の人たちを巻き込む力を身に付けましょう。
以上です。ご清聴ありがとうございました。
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