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“エンジニア力”の本質と鍛え方(全2記事)

「Windowsもインターネットも全然普及してない時からプログラミングに夢中だった」 “まずはやってみる”を大事にする、増井雄一郎氏の原動力とは

変化のスピードが速いと言われるIT業界において、需要がなくならないエンジニアであり続けるために必要な“エンジニア力”とはいったいなんでしょうか?今回は、「トレタ」や「ミイル」をはじめとしたBtoC、BtoBプロダクトの開発に携わり、現在はBloom&Co.でCTOを務める増井雄一郎氏に“エンジニア力”の本質と鍛え方をおうかがいしました。全2記事。前半は、増井氏の経歴と現在の取り組みについて。

エンジニアキャリアのスタートは高校の時のアルバイト

ーーまずは、増井さんのご経歴を教えてください。

増井雄一郎氏(以下、増井):僕は今46歳なんですけど、職歴はもう30年ぐらいで、実は高校2年生ぐらいの時に会計事務所でエンジニアとしてアルバイトを始めたのが最初です。

まだWindowsもインターネットも全然普及していない頃で、プログラムを書ける人が少なかったので高校生でも雇ってもらえて、それからずっとアプリケーションを書く仕事をしています。

高校生でエンジニアを目指すとなると、ゲーム作りたいとか、ホームページ作りたいというのが多いと思いますが、僕はエンジニアとしてのキャリアのスタートが会計事務所だったこともあって、けっこう始めからtoB向けのプロダクトが好きでした。

大学生の時にWebの制作会社をやって、フリーランスに戻った後に、アメリカで起業して、iPhoneのアプリケーションを作る会社をほかの人と2人で一緒に始めました。

日本に帰ってきた後は、しばらくアメリカのスタートアップでリモートで働いていました。その後は「ミイル」という食べ物の写真をシェアする、僕としては珍しくtoC向けのアプリを作ったり、飲食の予約管理をするレストラン向けのシステムを作る「トレタ」という会社を立ち上げたりしていました。

2018年10月かな……トレタを退職をしました。その後toB向けを作っている会社から、いろいろお声掛けをいただいたんですが、その時はマーケティングの勉強をしたいと思っていて、せっかくだからぜんぜん違うところにと思って、Bloom&Co.というリサーチや戦略を得意とするマーケティングアドバイザリの会社に入りました。今はそこでCTOとして働いています。

高校生も40歳も当時はみんなスタート地点がイコールだった

ーー職歴は30年とのことですが、そもそものプログラミングとの出会いはどういったものだったのでしょうか?

増井:中学校では科学部に所属していて、その部室にホビー用のパソコンが置いてあったんですよ。

ぜんぜん部活には関係ないんだけど、部室に置いてあったから触ってみたらおもしろかったので、高校に入る時にパソコンを買ってもらったんですよ。そこからもうドハマりして1日中パソコンをやっているという高校生活でした。

ーーパソコンのどこらへんにおもしろさを感じたんですか?

増井:その頃にはまだインターネットが普及していなくて、毎月雑誌が出ていたんですよ。雑誌にプログラムのコードがそのまま載っていて、それを打ち込むとゲームができるので、自分で打ち込んでいました。僕はゲームがすごく下手なんですよ。ぜんぜんできないんですよ。なので、敵を弱くしたり、自分を強くしたり、自分でプログラムを調整しながらゲームをやったりしているうちに、プログラミングに興味を持ったんです。

高校生の時に近所でレジ打ちのバイトに応募したことがあったんですよね。お店はチェーン店で、店の後ろが本部になっていて、「毎日ファックスで売上が送られてくるから、それを入力するバイトしない?」と言われて、レジ打ちからそっちへ移ったんですけど、その入力するソフトがものすごく使いにくかったんですよ。

なので、ソフトを自分で書いて入力するようにしたら、「顧客管理とか売上管理とかのソフトも作れる?」と聞かれて。「やったことない」と言ったら、「じゃあ、会社でパソコンを買ってあげる。持って帰っていいから」と言われたんですよ。

昔なので、何十万もしたと思うんですけど、けっこう高いパソコンを買ってくれて、本代も全部出してあげるからと言われて、システムを1人で作り始めたのが高2から高3ぐらいですね。

ーーやはり当時としては、すごく珍しい人材だったんですか?

増井:そうですね。まだパソコンが出始めだったので、逆に言うと大人でもできる人がいなかったんですよ。

要するに、そういうことを10年やっています、という人が世の中には存在しなかったわけです。高校生も40歳もみんなスタート地点がイコールだったんですよ。

そんな中で、社長がおもしろいと思ってくれたみたいで、仕事を振ってくれたのが、最初としてはすごく大きかったですね。

「時間を使うことを躊躇せず、やってみること」が大事

ーー高校生で、顧客管理や売上管理のソフトを作った経験がない中、やってみると決断されたのですね。ちなみに最近新しく始めたものはありますか?

増井:この3年ぐらい、コロナ禍で気軽に家から出られないじゃないですか。僕はもともとクラブに遊びに行くのが好きなんですが、出かけられなくなって夜の時間が空いたので、時間を使う先として前から興味のあった3Dプリンターを買ったんですよ。

僕の周りには3Dプリンターを持っている人がいなかったので、Twitterでどれがいいのかを教えてもらって、それを買って、YouTubeで3DCADの使い方を覚えて、自分で物を作って印刷して、ということをやり始めました。

ほかにも、前からハードウェアに興味があったので、回路設計もYouTubeで勉強しました。それでこういう感じの機械を作ったり、自分用にキーボードを設計したり。

(放熱板付きカメラスタンド)

僕、こうやるとちょっと小指が離れるんですよ。だから、ちょっと離れたところに小指のキーがあるキーボードを作りました。これもYouTubeでだいたいを覚えて、わからないことだけをTwitterで知らない人に聞きました。コロナ禍になって時間ができたおかげで、随分いろんなことを覚えました。

(手前: 自分の手に合わせて設計したキーボード)

ーー本当にご自身の興味、関心のおもむくままにいろいろやっているんですね。

増井:そうですね。例えば僕、DJもやるんですけど、DJを始めた理由もおもしろいんです。クラブに遊びに行った時のことをインスタに上げていたら、前職の時のメンバーが、僕がDJをしているんだと勝手に勘違いをしたんですよ。

それで、「テック系の集まりでのBBQをやるからDJをやってくれ」と言われてしまって。「いやいや、DJやっているんじゃなくて、ただ遊びに行っていただけだよ。ちなみにそのイベントいつなの?」と聞いたら、「1ヶ月後」と言われたので、「まぁ、1ヶ月あればできるようになるんじゃないかな」と言って、そこから機材などを買ってYouTubeで覚えました。

ーーDJをやっていないのを「いや、やっていないよ」と言って終わるのではなくて、そこで実際にやってみるという(笑)。

増井:もしどうにもならなかったら、友だちのDJの作ったテープを1本そのまま流して、その振りだけすればいいから(笑)。

増井:「それっぽくだけやるから」と言って、1ヶ月間毎日練習したらできるようになりました。今でもたまにイベントに呼ばれてDJをやっていますし、プロの人の前座でやらせてもらったこともあります。

やはり「やってみる」ということはけっこう大事。時間を使って、手を動かしてみる。「時間を使うことを躊躇しない」ということは大事だなと思っています。

ーー途中で「ちょっと難しいからやめようかな」というのはないんですか? 

増井:とりあえず初めてみるっていうのはあまり難しいことないんですよね。今はYoutubeとかいろいろコンテンツもありますし。難しくなるのはその後ですね。DJも一定できるようになってから、もう1段階うまくなるには、もう少しきちんと本腰を入れなきゃ無理で、それをきちんとやってないなと自分で反省するところはあります。

年を取っても常に新しいことを覚えていけるようになりたい

ーー「やってみる」ことは大事とのことですが、「生涯こうありたい」という理想やロールモデルはなにかありますか?

増井:今のところ、目標としている人やメンターはいないのですが、じゃあ自分がどう年を取っていきたいのかというと、あまり明確ではありません。ただ、常に新しいことを覚えていけるようになりたいなというのは、すごく思います。

2022年は数学を勉強したんですよ。僕、大学は文系だったので、数学をまったくやってこなかったんです。高校も工業高校だったので、製図とかはありましたけど、代わりに数学はほとんどやってこなかったんです。だけど、2022年の後半は機械学習を真面目にやりたいなと思って、予備校の先生が上げている数学の動画をYouTubeでいろいろ見て、微積分とか三角関数とか行列とかを勉強しました。

やってみたら、意外に数学がきちんとわかるようになったんですね。それはすごくよかった。数学がわかるようになったと言うと数学クラスターの人たちに怒られると思いますが(笑)。

式を見てもアレルギーがあまり出てこなくなったので、「新しいことを勉強して、新しいことを覚えていく」ということを、これからも維持していきたいなとは思っています。

ーー学び続ける増井さんの原動力はなんでしょうか?

増井:僕はどちらかというと、作りたいもの、やりたいものが先にあるんですよ。

今回、機械学習を勉強したのは、補聴器を作りたいというのがあったからなんです。僕の婆ちゃんは96歳で耳がかなり悪くなってきていて、既存の補聴器では聞こえにくくなっているんですね。

それを2022年に知って、機械学習を使った新しい補聴器があったら解消できるんじゃないかと思って論文を調べたり、補聴器について調べたりした結果、やりようがあるなと思いました。

初めは、GoogleのツールやAPIでやってみたんですが、それだけじゃやはりどうしようもなくて、それをやるために機械学習が必要っていうのが分かってきました。

機械学習を調べていくうちに1度数学までちゃんと遡ろうと、数学の勉強を2ヶ月ぐらい真面目にやりました。それからあらためて機械学習の勉強も一通り、ある程度真面目にやって、やっと今、新しくスタートしている感じですね。

もっと「お客さま」の方を向いて仕事をしたいと思った

ーーBloom&Co.に入社した理由の1つが「マーケティングの勉強をしたい」とのことでしたが、今までのご経歴からするとこれも新しい挑戦ですよね。マーケティングの勉強をしたいと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

増井:僕は、今までスタートアップをずっとやってきている中で、誰かと一緒に組んでやることが多かったんですね。ドメインナレッジがある人がいて、その人の「こういう問題がある。こんなアプリや仕組みがあったらこの世の中は良くなるのに」というアイデアに対して、「じゃあそれをどうやって形にしてお客さんに届けようか?」と、それを「形にする」部分が僕の仕事だったんですよ。

逆に言うと、今まで僕はそのドメインに対して詳しいわけではなくて、彼が言っていることをどう形にするか? ということが僕の仕事だったんですけど、そうじゃなくて、実際のユーザーのことをもっと知りたいと思うようになっていったんですよ。

今まで僕は、プロダクトオーナーの方を向いて仕事をしていたんですね。正確に言うと、お客さんを向いてというより、プロダクトオーナーがやりたいことを形にすることが僕の使命だったんです。その先にはお客さんはいるけれど、僕はそこまで見えていなかったんですよ。

プロダクトオーナーの先にいる実際のユーザーを見たいと思った時に、意外とユーザーを見るのは難しいことに気がついたんです。

使ってくれているお客さんについては、ヒアリングに行けばいいんです。過去の仕事でも、使ってくださっている方のところにヒアリングに行ったり、1日中後ろをついていったり、いろいろなことをやりましたが、まだ使ってくれていない人たちについて知れるかというと、案外難しい。

そういった未知のお客さんを知りたい時に「どうすればいいんだろうね?」と友人に相談したら、「それはマーケティングのリサーチの分野に入るから、それを勉強をしたらいいんじゃない?」と教えてくれて、それで興味を持ったのが最初です。

ーーマーケティングを勉強することによって、開発に対する考え方は変化しましたか?

増井:今までは、作りたいもののイメージが具体的にある人と一緒にやることが多かったんですよ。「これを作りたい。でもどうやって作っていいかわからない」という感じで、具体的なプロダクトのアイデアがある状況だったんです。そして僕はそのアイデアを「形にすること」が仕事でした。

そうじゃなくて、「誰が困っているのか」とか「何で困っているのか」を僕も考える。解決方法は、もしかしたらITかもしれないし、もしかしたらアナログかもしれないし、もしかしたら本を読むことかもしれない。技術がその中の1つの選択肢としてある中で、もっと課題や人に向き合う。考えて、調査して、ひもといていくということを最初にやるということが、会社に入って4年半経って、やっとわかってきた感じですね。

(次回へつづく)

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