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プロダクトオーナーのための、ふりかえりが日常に溶けるチームのつくりかた(全4記事)

みんなで取り組み、みんなで楽しみ、カオスも変化も歓迎する ”ふりかえり”で毎日変化を起こし続けるチームビルディング

「スクラムフェス仙台」は初心者からエキスパートまでさまざまな参加者が集い、学び、楽しむことができるアジャイルコミュニティの祭典です。ここで登壇したのは、森一樹氏。ふりかえりを日常とするチームができるまでを「プロダクトオーナー」という観点でふりかえり、それを再現するために必要だった要素について話しました。全4回。3回目は、チームが変わるまでのステップについて。前回はこちら。

カオスも歓迎 まずはやってみてどんどん変化を受け入れる

森一樹氏:次のフェーズですね。チームが変わるまでです。3人でやってきたチームが徐々に大きくなっていきます。事業ができ始めてからチームが変革しているわけです。メンバーも若手が4人入ってきて、マーケティング担当のメンバーも2人入ってくれたり、デベロッパーとして2人入ってくれたりしました。

ただ、チームメンバーが増えた時にカオスが生まれます。どうしても生産性が下がってしまうとか、話が伝わりにくいとか、いろいろあります。そこは、「私たちは事業としてもわからないことをやっているんだし、カオス歓迎じゃん」ということで、チームメンバーが増えることを歓迎するわけです。増えることによって生まれた変化を、そこを大事にしていく。

あとは、ちょっとこれはやりすぎだったかなと思うのですが、当時は3時間スプリントになっていました。2日間のスプリントが1日スプリントになって、半日ごとに回すスプリントが3時間スプリントになっていってという感じです。

3時間スプリントにいきなり入ってもらって、プランニングをやって、実際に開発して、ふりかえりするぞ、というサイクルに入れて、「モブワークでドライバーやってみて! みんなでナビゲーションするからさ」と、使ったことのないツールを使ってもらって、みんなであくせくしながらやっていました。

入ってもらった直後のふりかえりなのですが、「3時間スプリントに入れるとは思っていなかったけど、できた」みたいな。これはけっこう「いや、無理でしょ!」と思っちゃうんですよ。「そんなのいきなりできないでしょ」と。まずは準備してから、と思うのですが、やってみたほうが早いです。3時間とか1時間程度は、失敗しても痛くもかゆくもないじゃないですか。

なので、まずはやってみる。そこからどんどん変化を受け入れて、どうしていくかを考えるというのも、チームに対してすごく重要なことだと思います。やはり「バックログのタイトルを見ても、内容がスッと入ってこなかったです」などと言われることもあります。「なるほど。チームとして、書き方はちょっと修正しなきゃいけないね」となります。入ってきてくれたからこその気づきですよね。そういったカオスも歓迎します。

マインドセットと行動を変容させるための取り組み

そういうことをしながら、チームの中で心理的安全を作るのもずっと続けています。常に、最初からやっている実験を率先して行っています。毎日30分のラーニングセッションの中で新しいことにチャレンジしたり、3時間スプリントにしたりするのも実験ですね。楽しんでやっています。「やってみようぜ。ダメだったら2日に戻せばいいじゃん」という感じです。

ほかにも、その頃は手法をいろいろ試してみようという話もしていたので、ふりかえりチートシートを使って毎回違う手法にチャレンジしていました。そうやって、新しいことを始めるということをチームの中で推奨して、「途中で放り投げても良い」とけっこう頻繁に言っていたと思います。

メンバーが増えたからこそ、ふりかえりの中でやることとして対話を増やしたんですね。お互いの感情や価値観を共有するやり方を取り入れました。ふりかえりの中ではくだらないことを話してもいいんですよ。デイリーハッスルという手法で、日常で感じたちょっとイラっとしたことをみんなで共有するのもふりかえりの中でやっています。そういう動きをしながら、みんなで話をして、お互いのことを知り合おうとしています。

ほかにも、マインドセットと行動を変容させます。組織全体をアジャイル化していくというところで、いろいろなことをやってきています。例えば、チームでイベントに参加します。これは私が率先して「よし、行こうか。そこの時間はスプリントを止めるから」と言ってみんなで参加します。参加しながらみんなでモブブロギングしたり、あとはエクストリームなプラクティスを真似たり、きょんさん(kyon_mm氏)の15分スプリントの話もあったので、「3時間だけど15分は1回ぐらいできるんじゃない?」というので試してみたり。試すのはありですよね。

セッションの休憩時間にみんなでDiscord上で集まってふりかえりをしたり、そういったことをしていたわけです。そうするうちに、チームでイベント登壇もしました。(スライドを示して)これは「Scrum Fest Mikawa」ですね。2年前の三河の時に初めて登壇をして、そこで「オキザリス」という名前が生まれたのです。

チーム名を付けたいよね、と。きょんさんのチームとか、及部さん(及部敬雄氏)の「Silver Bullet Club」とか、カッコイイチーム名が付いています。「私たちもなにかチーム名がほしいよね」と言って、ようやくここでチームとしてまとまった感じがします。

ほかにも、行動変容として自分たちのメタ認知も必要だと思っていて、チームを公開します。チームの活動でふだんのスプリントをどう回しているのか。「来てください! 見学していいですよ」と公開して、200人ぐらいに来てもらっています。いろいろな人にフィードバックをもらって、コメントをもらって、「わたしたちのチームはこうなんだ」というメタ認知をして、さらに理解を深めています。

毎週のスプリントでワーキングプロダクトを必ずリリースしていた

そういったところでいろいろなプラクティスをして、もう1つ、毎週のスプリントで必ずワーキングプロダクトをリリースするというのを必達目標としていました。私も過去に経験しているのですが「今週はリリースをしなくていいや」「お客さまに届けなくてもいいや」と思っていると、やはりなぁなぁになっちゃうんですよ。ダラダラやっちゃうんですよ。

でも、絶対に届ける。お客さまにフィードバックをもらうために、新しい事業を前に進めるために、絶対になにかしら作るぞと、2日間の中で全力で考えるわけです。なので自ずとバックログが細かくなります。ちょっとずつフィードバックをもらえるかたちになります。うちのチームも、当初はスプリントレビューに30人ぐらいの社内の関係者や知り合いを呼んで、「興味があったら来てね。フィードバックをください」と言ってやっていました。

今は数人残っているだけですが、その残っている数人は2年前から来てくれています。私たちのチームのファンになってくれて、事業にぜんぜん関係ないのですが、私たちのチームに毎週フィードバックをくれるという関係性が作れています。

こうしたことをする時には、方向性・方針がないとつらいんですよね。どういう順番にプラクティスをやっていくのか、どう進めていくのかに関しては、(スライドを示して)このチームビルディングチートシートを使ってチームビルディングをしています。チームを作る時に、まず目標・目的を整えます。これはインセプションデッキなどありたい姿になります。あとは多様性も大事だと思っているので、多様性を認め合えるために常に会話をして、お互いのことを知り合ったりスキルマップを作ったりします。

ほかには、関係の質を高めるために、ふりかえりの中でお互いに感謝を伝えることも意識的にみんなで行っていました。また、チームの文化を作るという点で、やっとむさん(安井力氏)が作った心理的安全性ゲームをやったり、DPA(Design the Partnership Alliance)というふりかえりのプラクティスでチームのルールを決めたりしています。自律をしていくためにふりかえりをずっと続けています。

合言葉は「チームのために、事業のために」 ふりかえりによるオーナーシップの醸成

こうした方向性を持ちながら、方向性をチームに見せてどこが足りないか、どこからやろうかと話をして、ちょっとずつ前に進んできました。こういうことをしながら、新しい仕事にチャレンジしていくわけです。やはり事業貢献をしなければいけないですからね。ようやくここらへんから「Miro」が出てきます。

Miroの国内展開を見据えて、まずは社内から始めようということで、社内でいろいろなサイトマップを作って「Miroの使い方はこうですよ」「こうするともっと良いやり方ができますよ」などとやりました。あとは各チームとのタイアップで価値を創発したり、「aslead」を使って事業全体のブランディングやマーケティングなどを私たちのチームでやりました。

「ちょっと今は事業で稼げていないので、そこで食わせてください」とやったり、ホームページのSEOをやったり、Miro以外の代理店ビジネスを始めてみたりなど、チームを存続させるためにいろいろと手を変え品を変えやってきたというのが現状です。

そんな中で、みんなで楽しむことがすごく私の中では大事だと思うんですよね。楽しむことです。事業を楽しむし、新しい事業を作ることもみんなで取り組んでみんなで楽しむ。ふりかえりそのものも楽しくやる。チームの活動やふだんの活動自体も楽しくやる。この3つですね。変化を楽しむところで「カオスを受け入れましょう」という話をしましたが、3時間スプリントから1時間スプリントになりました。(スライドを示して)このシャープはスプリント番号です。

30分スプリントになり、15分スプリントになり、15分スプリントは確か2日間ぐらいで終わりました。合わなかったです。やってみたから「合わない。じゃあ30分のほうがいいよね」と、戻れたんですよ。やってみないとわからないことがあります。そうして私たちの中にもプラクティスが生まれていきました。

本当にふりかえりを楽しむためだけに生まれた「Blokus」というボードゲームがあります。陣取りゲームですね。KPTを書いていくので陣取っていってください、というものです。「埋めた者勝ちです」みたいなことをやったりしていました。そうやって、チームと事業のための対話の時間として、ふりかえりを最大限に有効活用するわけです。合言葉はやはり「チームのために、事業のために」です。ふりかえりを通じてオーナーシップを醸成させていくというのが、チームの中期段階です。1年前ぐらいですかね。

顧客が増え、メンバーが増え、話す時間が減り、チームが崩壊

そのあとに何が起こったか。チームが壊れました。うまくいっているチームだと思っていても、やはりチームが壊れる瞬間があります。何が起こったかというと、ありがたいことにMiroの代理店になってから、お客さまがメチャクチャ来たんです。当初は5人で回していたのですが、ぜんぜん回らなくなりました。

そこで、新規メンバーを入れましょうとなりました。今もいてくれている3人、全面的に入ってくれたメンバーは全員非エンジニアです。エンジニア組織の中に営業メンバーとして入ったわけです。あとは一時的に手助けしてくれたメンバーがいたり、私たちのチームの活況な様子など「私たちのチームは今はこういうことをやっているよ」と他のチームにも言っていたので、「ちょっと手助けするよ」とジョインしてくれたメンバーもいました。

チームが壊れやすい状態になって、全員の稼働が上がって残業も増えてチームが崩れます。それまでずっとモブをやっていたのですが、分業になりました。あとは話す時間も減ってきているので、意見が食い違うんですよね。常に、お客さまとの打ち合わせの次に他のお客さまとの打ち合わせのような状態になっていたので、ディスコミュニケーションが生まれやすくなって、精神的な余裕がなくなって、厳しい言動をお互いにし合っちゃったりとか。

エンジニアリング経験のないメンバーが入ってきているので、今まで使ってきた用語がぜんぜん伝わらないんですよ。そこをどうするかという状況で、チームがけっこう崩れてギスギスした状態になってしまいました。事業としてはお金を稼げているかもしれないけれど、チームが崩れる瞬間は来るんだなと思っています。

相互理解に必要なのは結局「ふりかえり」

じゃあどうしたかというと、やはり結局ふりかえりなんですよね。ふりかえりでここを立ち直らせていく。どういうことをやっていたかというと、その頃は短時間で30分スプリントとか1時間スプリントとかになっていたのですが、ふりかえりの中で雑談するわけです。「NDAめんどうくさいよね」という話とか、(スライドを示して)滝川さん(滝川陽一氏)がこうやってタスクを書いていてくれていますし、全員バラバラのことを書いています。

雑談としてきちんと立ち止まって話す場として、こういう相互理解のための短時間のふりかえりをずっとやっています。私が3時のおやつで「からむーちょおいしい」と言ったら、「+コーラ」と来て、どんどんゼロカロリーとかモンスターの話になっていって、どんどん発散していきます。チャットで書きながら、みんなふりかえりの中で雑談しているわけです。

4、5分雑談して仕事に戻りましょうという感じで、1時間に1回止まる感じですね。お互いを理解しながら、週1でのふりかえりをずっとやっています。これはMiroを使って、いろいろなテーマでやってきました。チームのメタ認知で私たちのチームに当たり前になっていることは何なのかという話をしたり、私たちの未来をどうしたいのかという話をしたりしました。

あとは、チーム・事業でチームや事業の問題を取り上げます。「クネビンフレームワーク」はみなさんご存じですか? クネビンフレームワークの表の上に付箋を貼って、私たちの事業はここがまずいのではないか、ここが良くないのではないかといった話をします。(スライドを示して)ほかには、ロケットという手法なのですが、チームとしてのゴール像とそこに対しての障害はなんだろう? という話をしたり、本当になんでもありでざっくばらんに会話します。

これを見てわかると思うのですが、ふりかえりがもうテーマから入っているんですよ。何を話したいというところがあって、そこからふりかえりの中で「じゃあそれだったらこの手法がいいかもね」と私が言うこともあれば、「この手法をやってみたいです」から始まることもあります。いろいろなやり方があって、手法にはこだわらず、あくまでテーマトーク。どういうことを話していきたいかを大事にしています。

ふりかえりだけは必ずして、毎日変化を起こし続けている

(スライドを示して)ほかにもMiroにはこういう金魚釣りのようなものがあるので、付箋にテーマを書いて、釣り上げたこのテーマについて話そうか、とやります。あとは「RetroCycle」という新しいふりかえりのツールが出てきたから1回使ってみようかという話もしました。ほかにはインプロがそのチームの中で流行っていたので、「じゃあインプロっぽく付箋禁止・文字を書くの禁止・絵を描くだけで表してください。今週どうでしたか?」という話をして、「この絵は何?」といった会話をしたりしていました。1年間のふりかえりもやっていますね。

ここまでMiroでずっとやってきていますが、毎週行ってきたことをMiroで可視化して、あとで遡れるようにするのはけっこう大事です。年間のふりかえり、1Q(第1四半期)のふりかえり、3ヶ月単位のふりかえりをする時に、過去にどういうことを話していたかをすぐにたどれるのはけっこういいです。

おもしろかったのは、「あまり最近KPTをやっていないから、今週はKPTをやろうか」と言ったら、入って4ヶ月ぐらいのチームメンバーが「ケプトってなんですか?」と言ったんですよ。入って4ヶ月のメンバーが。ふりかえりといえばKPT、というところはすごくみなさん印象強いと思います。これはけっこう衝撃的で、手法にこだわらずきちんと話ができていたのかなと思っています。KPTについては、日本で一番有名な手法なんだよときちんと教えてあげました。

ここからはネタです。シュワちゃんのふりかえりをしたりとか、私がいない間に「どぶ掃除」というふりかえりをしたりとか。あとは「コミュニケーションがちょっと最近うまくいっていなくない?」という話があって、コミュニケーションをどうすればいいかという話をしました。感情にフォーカスし、今はどう感情が揺れ動きましたか、というふりかえりをしたり、本当にいろいろなやり方をやってきたというのはここまででわかると思います。

実は手法の内容については、1手法1分ずつぐらいで、私とKANEさん(金山貴泰氏)が「XP祭り」で話しますので、興味があれば聞いてください。ふりかえりだけは必ずして、厳しい状況から抜け出すために毎日変化を起こし続けています。それが(ふりかえりが日常に)溶ける前段階だったのかな、という気がします。

(次回へつづく)

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