2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
顧客中心のプロダクトリーダーシップ(全1記事)
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Ken Wakamatsu氏(以下、Wakamatsu):タチアナさん、自己紹介をお願いします。
タチアナ・マムート氏(以下、タチアナ):こんにちは。グローバルプロダクトリーダーのタチアナ・マムートです。これまで「Salesforce Lightning Experience」「Salesforce IoT Cloud」「Amazon Web Services」や「Honeycode」などの革新的なプロダクトに携わってきました。
米国や西欧州で人気のソーシャルネットワークである「Nextdoor」のような既存のプロダクトの変革にも携わってきました。最近ではPendoで、まったく新しい「Pendo Adopt」という新製品の構築を手がけています。
Wakamatsu:プロダクトマネジメントに携わる前の話を聞かせてください。
タチアナ:私は、人自体や人が欲することに興味があったのでプロダクトマネジメントに関心を持ちました。未来はどこに向かっているのか、私たちはどう未来を創造していくのかに関心があります。私は人類学者です。カリフォルニア大学バークレー校で人類学の博士号を取得しました。
人類学の研究を通してわかったことがあります。それは、人がテクノロジーを応用して世界を変えていくことで、文化や社会が変わっていくということです。テクノロジーで世界のどこがもっとも変わったでしょうか? どのような文化が形成されてきたのでしょうか? その答えはデジタル製品です。もちろん、世界を変える非常に重要なハードウェア製品もありますが、マーク・アンドリーセンの言うように「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる」のです。今の技術的製品は、デジタル体験やソフトウェア体験が考えられて作られています。
人類学で博士号を取得したあと、私はイノベーションとデザインの世界的企業IDEOで働きました。IDEOでは、数多くのグローバルチームを率いて、グローバルプロジェクトに携わりました。金融関連ではVISA、医療業界ではジェネンテック、投資関連ではブリッジウォーター・アソシエイツなどとともに、文化と未来を見据えたプロジェクトに関わってきました。
これらは非常に大規模なデジタル製品開発プロジェクトです。こうしたデジタル製品開発で役に立ったことの1つが、人類学の知識です。テクノロジーやテクノロジープロダクトマネジメントにおける課題の多くは、実は技術的な問題ではなく、人間の問題です。そのため、顧客が何を重視しているかを理解することが大事です。それを考えて社内でチームを編成しなければなりません。
プロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニア、マーケター、営業担当者などでチームを作り、お客さまが求めている製品体験を実現する必要があります。
結局のところ、プロダクトマネジメントの問題はすべて人間の問題だと私は思います。お客さまが求めるものを作るためにどう人材を集めるかが重要です。そういう考えのもと、私は製品部門を率いています。製品イノベーションにも同じことが言えます。製品イノベーションでは、適切なソリューションを設計する上で顧客のメンタルモデルや文化的枠組みを理解することが重要です。
Wakamatsu:Pendo Adoptについて教えてください。
タチアナ:Pendo Adoptは、Pendo Engageと同じバックエンドで構築されています。Pendo Engageは、高い実績のある製品開発・製品管理・製品分析ツールです。どの機能が導入・使用されているのかなど、製品に関する分析内容をプロダクトマネージャーが確認できます。ユーザーが困っている時に開発者に相談することなく、ガイドやツールチップを作成することができます。つまり、完全にノーコードのガイド&ツールチップビルダーです。
これと同じコアテクノロジーを使って、従業員のデジタルワークプレイス体験を管理するものを作りました。これはプロダクトマネジメントの人の部分と同じですよね。プロダクトマネジメントの人の部分であり、Engageで解決しているジョブや、プロダクトマネージャーが行っている業務とは根本的に異なるものになるのかを考えました。
そこで、クレイトン・クリステンセンの「ジョブ理論(Jobs to Be Done)」に立ち返りました。さらに『Competing Against Luck』という本も参考にしました。これは、すべてのプロジェクトマネージャーに読んでもらいたい1冊です。「顧客がするべき仕事をこなすための製品を作る」ということを理解しなければなりません。デジタルワークプレイス体験で重要なのは、組織内の主要なワークフローを効率的に管理することです。
1つのビジネスクリティカルなワークフローで、通常は複数のアプリケーションが使われています。例えば、設計を考えてエンジニアリングチームがコーディングを開始できるようにする時には、「Figma」などを最初に使うことになります。そこからユーザー検証などを行うユーザーリサーチプラットフォームに移行します。そして、その結果を「Confluence」や「JIRA」に取り込みます。
そこでエンジニアがコーディングを行います。このように、1つのワークフローで複数のアプリケーションが使われます。Pendo Adoptはビジネスクリティカルなワークフローなので、人が何をしているかを理解するのに役立ちます。アプリ内メッセージやガイドを提供することで、従業員がその時に何をすべきかを把握できます。
Wakamatsu:とても複雑そうですね。それを実現するためにチームでどう連携していますか?
タチアナ:新しいことを始める時は、プロダクトリーダーとしていくつかのことが必要です。プロダクトビジョンについて考えなければなりませんし、そのビジョンをどう伝えるかを考えなければなりません。プロダクトビジョンの実現に大きな役割を果たすチームの構成についても考えなければなりません。人を雇い、適切なチームを編成する必要があります。
また、適切な仕事がこなせるように、数多くのプロセスやツールを用意する必要があります。プロダクトビジョンの構築の際には、先ほどのジョブ理論を使います。重要な意思決定を行う際には「SPIDER」アプローチを活用しています。自分たちが置かれている状況において、どのような意思決定が必要なのか? その意思決定に関わる人は、どのような人か? を考えなければなりません。
最終的な意思決定者は誰で、その意思決定を後押ししているのは誰かなどですね。解決策を構築するためにどのようなアイデアがあるのか、どのような決定が推奨されるのかを検討します。また、なぜそのアイデアに決めたのかを説明する必要があります。最後にロールアウトプランを作成します。どのような期間に何を進め、どのような人が関与するのか考えます。
ビジョンを定義する時には、さまざまな人からいろいろなアイデアが出されますが、そのアイデアを採用するかどうかを決めるプロセスを、組織が持っていないことが多々あります。ビジョンに関して意思統一を図り、それに向かって足並みを揃えるためのプロセスが必要です。
ビジョンを構築してすばらしいアイデアも出たのに「他に優先事項があるから」と、1年保留になったりする場合がありますよね。イノベーションなど、特に組織にとって大きな話の場合は、決定する内容を明確にする必要があります。ビジョンを策定して、それを進めるかどうかを決定します。進めることになったら、今度はそれをどう人に伝えるかを考えなければなりません。そして、それを発表するための対外向けイベントを開きます。役員会でもカンファレンスでも、発表の場はいくらでもあります。
どのような場であれ、発表してそれを人に伝えると社外の人に対して責任を負うことになるため、社内でその決定を明確にすることができます。外に向けて発表することで、社内での理解を明確にするというのが2番目のステップです。
次にチームをどう組織するか考えます。製品部門の人はたくさんのアイデアを持っているので、アイデアを出すのは簡単です。プロダクトリーダーとして一番難しいのは、そのアイデアを実現するための一連のステップを考え、それらのステップを正しく実行していけるように適切な人材を配置することです。これがプロダクトリーダーの一番の難関です。
次に組織設計を考えます。ビジョン実現に向けてリスク回避するため、細かくステップ1、ステップ2、ステップ3と決めていきます。例えば、Pendo Adoptの製品ビジョンには3つの側面があります。
1つ目は、デジタルワークプレイスのような優れた分析を行うことです。2つ目は、ビジネスクリティカルなワークフローに関して、組織で何が起きているのかがわかる優れた分析を行うことです。3つ目は本当にごくシンプルなアプリを作ることで、アプリケーション横断的なガイドや、ツールチップを構築する経験です。こうした3つの大きな分野があります。それぞれに対してチームが必要なので、最低でも3チーム必要になります。各チームが、私の指導のもと、それぞれの分野の中でどのように進めていくかを決めます。その中で一番難しいのはどれでしょうか?
当然一番難しいものは実装も困難で、構築に一番長く時間がかかります。Pendoのインフラや使えるテクノロジーを考えると、ガイドビルダーの実装がおそらくもっとも困難でしょう。なので、まずその部分から着手しました。「Braintrust」という人材探しのWeb3プラットフォームで、フリーの設計チームを雇いました。
ガイドビルダーのチームを編成しながら、フリーの設計チームを雇い、そのチームと連携しながらガイドビルダー体験の開発と設計を進めました。その間は、エンジニアリングリーダーとも連携していました。まず1つのチームを揃え、そこから次のチームを編成して、また別のチームを編成していくという流れです。
一番難しいものを特定して、まずそれに着手して軌道に乗せたら2番目に実現が難しいものは何かを特定して、チームを編成してスタートさせます。つまり、順序を決めてその順序に沿って各チームを組成していかなければなりません。
すばらしい製品チームを編成する時に、導入しているアプローチがあります。私はそれを「3分の1ルール」と呼んでいます。例えばチームに9人のプロダクトマネージャーがいるとします。そのうち3人はエンジニアリングなど、なんらかの技術的バックグラウンドを持つ人を揃えます。別の3人は、ビジネス面でのバックグラウンドを持つ人にします。起業家やコンサルタントの経験のある人や、MBAを取得している人などです。
残りの3人はもっとも重要な役割を果たす社会科学者です。心理学、社会学、人類学などの学位を持っている人です。冒頭でも言ったとおり、一番難しい問題は人の問題なので、人の専門家をチームに入れる必要があり、社会科学の分野に精通した人が必要です。誰でも人の考えやメンタルモデルについて語ることはできますが、社会科学という実際の学問が存在するわけです。
私が毎日iPhoneを使っているからといって、iPhoneアプリの開発者になれるわけではありません。毎日社会の中で生活しているからといって、社会的・文化的メンタルモデルを引き出す方法はわかりません。この3分の1が、製品チームに欠けていることが多々あります。この3分の1が揃っているからこそ私のチームは他と比べて優れていますし、しっかりと成果を出せています。
次に構成を考えますが、これらの人は特定の分野を極めたT型人材です。技術系の人は技術に深く精通しています。ビジネス系の人はビジネスに精通しており、社会科学の人たちはその分野の専門家です。ですが「T」のかたちが表すように、他の分野にも非常に興味がある人たちです。同僚から学ぶことに意欲的で、常に同僚からフィードバックを得たいと考えています。
プロダクトリーダーとして私はこのような人を雇い、ミーティングをアレンジします。その際、お互いにいろいろな意見を交換します。技術者向けの製品ミーティングでは、社会科学者やビジネス系の人からの意見が聞けるようにします。社会科学者やプロダクトマネージャー向けのミーティングでは、技術者やビジネス系の人からの意見が聞けるようにします。
そうやってチームを構成して正しい方向に導き、それぞれが自分の専門外のことも見逃さないようにしています。
Wakamatsu:プロダクトマネージャーの育成についてお聞かせください。これまでの話は継続的な学習にも関連することですし、プロダクトマネージャーに共通する要素ですよね?
タチアナ:おっしゃるとおりですね。プロダクトマネージャーが学習して高めていくべきものが2つあります。1つ目は、専門的な能力の開発です。Google、Salesforce、Amazonなどの大企業でない場合、プロダクトマネージャーとしてどう専門的な能力を高めたら良いでしょうか?
大きな企業には、プロダクトマネジメントトレーニングなどが用意されています。Amazonでは、毎年製品関連カンファレンスが開催され、プロダクトマネージャーが自分の能力を高めることに取り組んでいます。プロダクトマネジメントのリーダー向けトレーニングが本当に充実しています。そうしたトレーニングで学んだことを活かして、私は自分自身のカリキュラムを構築しています。プロダクトリーダーとして、そうしたツールを提供することは重要です。
社内でそうしたものがなければ、外部組織をいろいろと利用しましょう。「Mind the Product」はおすすめです。グローバルなカリキュラムが充実しています。「Product School」にもすばらしいカリキュラムがありますし、「Reforge」にはすばらしいコミュニティもあります。プロダクトリーダーが参加すべきすばらしいカンファレンスも多々あります。
私はプロジェクトマネージャーたちに、毎年1~2回はプロダクトマネージャーを対象としたカンファレンスに参加することを推奨しています。プロダクトマネジメントにおいて、他社が行っていることを学ぶのはとても重要だからです。テクノロジー企業のプロダクトマネージャーは多くのことを期待され、多くのことを任されます。ですが、数はいつもエンジニアのほうが多いのです。
(一同笑)
タチアナ:多くの企業で、エンジニアとプロダクトマネージャーの割合は10対1や20対1です。エンジニアリングを含む研究開発部門は比重が大きいんです。それに比べて、製品プロセスの比重は小さく、研究開発組織にはそれほど製品担当者がいません。なので、少なくとも年に数回は他の製品担当者に囲まれた環境に身を置くことが重要です。そういう場所であれば、製品開発や製品プロセスについて議論することができます。
自分が苦労していることに他の人はどう対処しているのかなど、いろいろとインスピレーションを得ることができます。
もう1つは個人的な成長です。私たちプロダクトリーダーは未来を創造しています。最近は多くのプロダクトリーダーが疲れきっているのを目にします。自分たちが構築しているものや自分たちの仕事が、人間としての自分の価値観とどう一致しているのか、それを理解していない人が多いからです。プロダクトリーダーには、自分が尊敬できる人を見つけてもらいたいと思います。
組織内で尊敬できるプロダクトリーダーがいれば、その人と話をすることで自分を高めていけるでしょう。「日々の業務に懸命に取り組んではいますが、悩んでいることがあります」「自分が作っている製品に、自分の価値観が合わないんです」など、そうした問題にうまく対処しているプロダクトリーダーに相談できるのが理想です。
社内にいなければ社外で探しましょう。過去にプロダクトリーダーだった人がメンターになってくれるかもしれません。私たちは自分たちが構築するものに関して、多くの意思決定を行っています。誰かから命令を受けて、それをうまくこなして満足する側の人間ではありません。未来をかたち作るというこの仕事において多くを背負っています。
そのため、自分の仕事に満足しなければなりませんし、自信を持って意思決定を行わなければなりません。「これが自分たちの社会にとっても、顧客にとっても正しいこと」だと、堂々とエンジニアリングチームに伝えなければなりません。加えて、それを信じる必要があります。それを信じるためには、自分たちの価値観と一致させる必要があります。
「重要なことに取り組んでいて、それが人としての価値観とも一致している」という思いに到達できるよう、支えてくれる人を見つけることが非常に重要です。
Wakamatsu:最後に日本のみなさんにメッセージをお願いします。
タチアナ:私は日本が大好きです。日本は何十年にも亘ってテクノロジーの未来を形成してきた国です。大学時代には禅宗の僧侶のもとで修業したこともありますし、日本にはお寺巡りで何度か行ったことがあります。日本のプロダクトマネージャーは、日本市場だけでなく、世界の舞台でイノベーションを起こせる可能性を秘めています。日本のプロダクトマネージャーのみなさんにもグローバルな市場にもっと共感してほしいと思います。
日本にはすばらしいイノベーションが数多くありますが、その多くが日本だけにとどまってしまっています。それを世界に披露してください。そのためには、私たちが人中心のグローバルな設計やインサイトを日本のプロダクトマネージャーの方々に伝えなければなりません。そうすれば、多くのすばらしいテクノロジーが日本だけでなく世界を席巻するようになっていくでしょう。
Wakamatsu:とてもためになる話でした。ありがとうございました。近いうちに日本でお会いできるといいですね。
タチアナ:ぜひ日本に行きたいですね。その時にお会いしましょう。
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