2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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――逆にプロダクトマネージャーをやっていてつらかったことはありますか?
奥原拓也氏(以下、奥原):やはり、自分が担当したプロダクトが伸びないことはけっこうつらいです。プロダクトマネージャーの価値はプロダクトを成功させることだと思います。例えば、新規事業をゼロから担当するとなった時、コロナにぶち当たったこともあって、なかなか伸びない時期がありました。その時はしんどかったです。ただ、腐らずにやってきたからこそ、今があると思っています。
ちなみに、新しいことを始める時が憂鬱で……人と関わることがけっこう苦手なんです(笑)。それなのに、なぜプロダクトマネージャーをやっているんだろうという話ではありますが。
会社が大きくなって、いろいろな部署ができて、もはや違う事業まで出てきています。組織が大きくなると、今までのノリが通じなくなってきます。今までのノリとは、スタートアップで人数がメチャクチャ少ない中でのあうんの呼吸のようなもの。それが、ちゃんと「なぜ」を伝えないといけなくなります。
それまで自分はプレーヤーとしてやってきていて、1人で突破するのが得意でした。人やチームを動かす、みんなで勝ちにいく、それがなかなかできないわけです。
上長に言われたのは「みんなが向かっているところは一緒だし、一番考えるべきなのは、やはりその人が笑顔になること。どうやったらその人が笑顔になるのか、幸せになるのかを、社内でもいいし社外でもいいから考え抜くこと。」ちょっと言葉は堅いですけど、利害関係を一致させること。これが、人が動くインセンティブにもなるしモチベーションにもなるので、そこをひたすら考えました。
柔らかい言葉で言うと、どうしたらその人が笑顔になるか。クライアントだったら、どうしたらその人が会社で褒められるか。それをひたすら考えることを上長に教えてもらった時に、自分のコミュニケーションが改善したと思います。
人と人とのハブになるコミュニケーションを教わってこなかったんです。学生でベンチャーにボンと入ったので。研修はないですし、今が自分のキャリアの中で一番大きな会社なんです。まさに今が。ずっとそうなんです。
なので、大きい組織で人をマネジメントしたり、いろいろな人と関わることがあまりありませんでした。あまりなかったというか、ぜんぜんなかった。プロダクトマネージャーとしてチームのみんなを導くという意味で、そこはけっこう苦労しました。今も苦労しています。
――「みんなの利害を一致させる」「みんなが笑顔になるようにする」ことについて、いろいろな人がいると思いますが、一人ひとりの話を聞きながらやるのですか?
奥原:そうですね。マネジメントでいったら1on1の頻度を上げます。その人がより大きな仕事ができて給料が上がるために、自分はどうすればいいのかと。
『嫌われる勇気』です。自分を変えることはできるけど、他者を変えることはできないから、やはり自分が変わるしかない。相手を動かすのではなくて、自分は何をしたいのかを考える。部署間でどのような力学が働いていて、どのようにすればこの人は笑顔になるのか、マネジメントではそれを調べます。
例えば初めて交渉する時には、相手のことを聞いて探るわけです。どのようにすればこの人が笑顔になるかという情報を聞くと、その人の立場や目標、追っているものがわかってきます。「あっ、なるほど」と。それがすごい学びですし、事業が成長すればみんなハッピーになるので、そのあたりもけっこう意識しています。
――適材適所が大事であることが聞いていてすごくわかりました。プロダクトマネージャーとして失敗したことはありますか?
奥原:失敗はメチャクチャしていますね。エンジニア出身だからかもしれないですけど、Howで考えがちなんです。プロダクトアウトというか、解決策から入ってしまうことがけっこうありますね。なぜかというと、技術がわかっている分「こういうことができる」と考えてしまう。
過去の話でいったら、「すぐ作っちゃえ」「実装して出しちゃえ」などと。そして、結局使われずに機能をクローズしないといけない。その時点ですでにいろいろな労力がかかっているので、「しくじった……」というのはありました。
――そのしくじりをどうやって乗り越えたのですか?
奥原:まず、開発のプロセスにおいて、そもそもなぜそのようなことが起きるのかを言語化しました。やはり不確実性が高い状態で世の中に出すから、起きるのだと思いました。
例えば、「こういうものが欲しいです」「それだったら、これをあげます」であればわかりやすいですよね。でも、toCのサービスの場合、ユーザーはこのように言っているが、本当は違う課題が存在していた、ということが往々にしてあります。まずはそこを明確にする。課題は何かを特定する。そこに対してプロトタイプを当てることを、僕は解決策として考えています。
プロトタイプというと大げさですが、ペラ1でもモックでも良いのです。「あなたの言っていたことはこういうことですよね」と可視化して、できれば動く状態で使ってもらう。労力を無駄にせず、使われないものを生み出すことなく、ユーザーの課題を解決するものを提供する。それが最適だと思います。
プロトタイプを作るよりもリリースしたほうが早い時もあるのですが、トータルで考えるとそのほうが早い、それが今の僕のプロダクト作りの哲学・方法論になっています。もちろん、この方法を取るほうがいいケースもあれば、リリースしてしまうほうがいいケースもあるので、そこは使い分けをしています。
奥原:手法というよりスタンス。四六時中そのことを考えられるか、です。ベンチャーということもありますけど、自信を持って言えるのは、僕は毎日何かしら考えていることだと思っていますので。
「Slackに常駐していますね」と言われるくらいSlackをメチャクチャ見ているし、事業と関係なくドキュメントも読んでいます。キャッチアップやリサーチからログミ―さんの記事まで。けっこう古い記事まで読んでいるんですよ。
なので、何をするにしても根底にそのようなスタンスがあります。これはプロダクトマネージャーでなくても根底にあると思っています。その中で、プロダクトをより良くすることを考えていて、結果が伴わなかったらちょっとアレですけど、そういったスタンスが大事だと思っています。
――常に考えておく、常に頭の片隅に置いておく、ということですね。
奥原:そうですね。うちの社長もそうですが、そういった人は、何かをポンッと聞くと、すぐにポンッと返ってくるんですよ。なぜかというと、僕の考えでは「思考済み」だからなんですよ。すごいと思いますね。日々、この人は考えているんだな……と。そして、その引き出しを開けるだけ。
――先ほど、Slackにずっと張りついていると言っていましたが、Slackにはどのような情報が流れているのですか?
奥原:delyのSlackには、リークされてはいけないこと以外、売上から何から情報が全部開示されています。ウィークリーの定例の資料も上がっているので、毎週、全部をチェックするようにしています。
僕は野球をやったことはありませんが(笑)、いつも考えているのは、自分がバッターボックスに立った時にどのようにバットを振るのか、常に思考トレーニングすることです。それは社内でやり放題だと思うんです。このような状況下で、自分がそのプロダクトマネジメントをやっていたらどうするのか、そういったことをトレーニングとして考えるようにはしているかもしれないです。社内であればいろいろな情報があるのでやりやすいです。
社外で会う人・お話しする人のプロダクトであれば、上場していたら例えばIRを見ます。どのような状況で、どのようなことが課題になっていそうで、と考えるのです。そして、お会いした時に「こういったことが今の課題ですか?」と答え合わせします。上場していなくても、プロダクトが出ていたら自分で使い倒して、「ああ、なるほど」と。自分がその立場に立ったらどうするか、と常に考えています。
――それはすごく考えている感じですね(笑)。
奥原:常にそうですね。たまに、帰る時にメチャクチャ頭が痛くなったり、知恵熱が出たりします(笑)。
――インプットについてうかがいましたが、逆にSlackでアウトプットすることもあるのですか?
奥原:あります。むしろ、アウトプットし過ぎてあまり良くない、と控えています(笑)。
――それはどういうことでしょうか?
奥原:自分は長くここにいるので、そういうフェーズではないということです。影響力があるから、と言われてもいます。自分ではそのようなことはないだろうと思っているのですが、僕の意見によって意思決定を曲げてしまったら良くないと思いますので。
そのことに真剣に向き合っている人が一番いい答えを持っていると思うので、何か思うことがあってもあまり書かないようにしています。だからこそ、書く時は背景を含めてちゃんと書く。社内のドキュメントツールがあるのですが、結局、僕が記事を一番書いている(笑)。1,000記事以上書いていると思います。
――そうなんですね(笑)。
奥原:一番書いてはいますが、アウトプットは先ほどのかたちを意識するようにはしています。そして、僕はわりと夜でも投稿してしまうタイプです。それなりにいるかもしれないですけど(笑)。不健全なんですよね、ちゃんとした会社だと(笑)。昔は夜でもメンションしていたので、今となってはあまり良くなかったと個人的には思います。
――アウトプットと言えば、Twitterでプロダクトマネージャー関連の記事を紹介している「PdM Tree」や、「プロダクトマネージャー1年目の教科書」といったnoteの記事なども拝見して、奥原さんはすごく情報発信していると思いました。プロダクトマネージャーを極めようとしているのを感じたのですが、そうしようと思ったきっかけが何かあったのですか?
奥原:自分は常に未熟で、できることが増えたとしても、何も成し遂げられていないという感覚がすごく強いです。ですから、みなさんのいろいろな記事やnoteなどを見て、それこそログミーさんの記事も見て、いつも学んでいます。
そして、プロダクトを任せていただいているので、全力でそれにこたえる。自分ができるすべてをぶつけないといけないと思っています。その時点で能力がないとか、いろいろなものが足りていないとか、それはちょっと怠慢だと思っています。できる限り情報収集する、自分の理論をちゃんと考える、そのようなことを意識的にやろうとしています。
そのような自分になっていないと、いざ自分がチャンスでバッターボックスに立った時、すばらしいパフォーマンスができないと思いますし、チャンスも活かせないと思います。ただ、それをやり過ぎてしまうと大変な時もありますが、今の全力を出すことはすごく意識してやっています。
PdM Treeやnoteを書いているのも、結局、自分のためでもあるんです。読み返すと、「地味にいいことを書いているな」「今の自分にはこれは書けないな」というものがけっこうあるので、その時の考えを言語化することはけっこう大事だと思っています。
ちなみに、PdM Treeは自動なので、僕は何もやっていないんですよ(笑)。最初のコードを書いただけなんです。自分が欲しい情報をもらえるアカウントを作ろうと思って、それで行き着いたのがあのアカウントでした。今では自分のフォロワー数よりも多いので、プログラムに負けた感があるんですけど(笑)。
いい記事は自分もツイートする時もありますが、僕のTwitterアカウントでは人格を出すようにしているので、人格のない情報共有用アカウントのようなイメージです。
――プロダクトマネージャーとしてやっていく上で、大事にしてきたことや大切にしてきたことがあれば教えてください。
奥原:役割にこだわらないこと。あとは、新しいことに対して素直になること。新しいことを始めることは、他人からしたらストレスです。「うっ」となると思うんですよ。けっこう憂鬱になると思うんです。
ですから、そこに対して素早く情報を収集して自分の中の考えをまとめて、それをちゃんと言語化して、実践していく。新しいことをキャッチアップするまでのプロセスは、プロダクトマネージャーとして大事にしています。
今、小売業に対して「チラシをクラシルで出せますよ」というソリューションを提供しているのですが、僕は小売業をやっていたわけではありませんし、ぜんぜん詳しいわけでもありません。なので、やるとなったら勉強しないといけないわけです。それはどのような場面でも起こると思っています。
新しいことを始めることに対してストレスがかかる時に、そこを一瞬楽しむ、新しいことを素早く吸収する、実践する、ダメだと思ったらフィードバックをもらう、そういったサイクルを高速で回すことを、世の中のプロダクトマネージャーは大事にしているはずです。
不確実性に向き合うという意味では、いわゆるPDCAを自分の中で回す。それはもちろんプロダクトを成功させるための手段で、けっこう大事にしています。だから、スキルよりもスタンスとマインドセットのほうが大事なのではないかと僕は思っています。
――奥原さんから見て、プロダクトマネージャーの中でもプロフェッショナルなプロダクトマネージャーの特徴と思える部分があれば教えてください。
奥原:結局、担当しているそのプロダクトがうまくいっているか、いっていないかだと思っています。もしうまくいっていれば、その人の成果だととらえています。成果主義で見ています。
メチャクチャ努力してもうまくいっていないのであれば、それは方法論がちょっと違うと思います。だからこそ、やはり成果で返すこと。ここはこだわるところで、「死ぬほどがんばりました、でも成功しませんでした、ごめんなさい!」では、やはりちょっと違うと思うのです。
もちろん、1回で成功することなどはまったくないと思います。何回も何回もトライして、その中で学んで次に活かして、再現性を高めていく、そのようなプロセス自体はメチャクチャ大事で、良いプロダクトマネージャーの条件の1つだと思います。そして、最終的にどこで判断するかといったら、やはりそのプロダクトがうまくいっているかどうか、だと思います。
――今後日本では、プロダクトマネージャーの仕事は、どのような方向に行くのでしょうか?
奥原:情報が何もなかった時から比べると、本も出てきて、体系化されてきていると思います。ただ、プロダクトマネージャーとはどのような役割なのかが、まだそれほどパキッと決まっていないと思います。良くも悪くも決まっていないと思うのです。
この先はたぶん細分化が起きます。専門職になっていくと思います。海外で働いたことはないのですが、海外はたぶんそうなっています。「YouTube」で見ると、ちゃんとプロダクトマネージャーとはこのような役割です、とロールが決められています。日本でもそういった感じが出てきていますよね。例えば、SmartHRさんはやるべきことと役割ではないことをちゃんと分けています。この先は、そうなっていくと思っています。
PMM、BizDev、テクノロジー寄りのプロダクトマネージャー……。呼び方はテックプロダクトマネージャーだったでしょうか、例えばそういった感じで役割が分解されていくと思っています。
――海外ではプロダクトマネージャーもプロジェクトマネージャーもPMと呼ばれていると思うのですが、日本では「PdM」「PjM」と分けて呼ぶことがあります。それについてどう思いますか?
奥原:僕としては、それほどこだわりはありません。ただ、プロジェクトマネージャーのようなことをやっているのにPdMと呼んでいる人もいます。PMといわれても、ちょっとフワッとしている感じもありますね。やはり、PMはPdMを指していて、PjMはプロジェクトマネージャーを指している、という傾向がよくあると思います。
個人的にはそれほどこだわりはないですけど、プロダクトマネージャーだったらPdMと言うようにしています。僕もプロジェクトマネージャー的なWhenとHowをやる時もあります。なので、そこはそれほど厳密でなくてもいいのかなと個人的なロールとしては思っています。ただ、採用する時はそこを明確にしないと、ミスマッチが起きてしまうと思います。
――奥原さんは、今はプロダクトマネージャーですが、それをずっと続けていくのでしょうか?
奥原:すばらしいプロダクトを作ることが目的なので、その時々に応じて、組織やチームで必要とされることをやると思います。「明日からエンジニアに戻ってください」と言われたら、「わかりました!」と。コードを書くのが好きなので、「わかりました、戻ります。また勉強します!」と言うと思います。
やはり、その時に応じた必要なことをやっていくことこそが僕の目指している形です。「奥原がいるプロダクトは、なぜか成功するよね」「うまくいっているよね」と思ってもらえたらそれがうれしいです。
先ほど言ったように、最終的には成果です。プロダクトマネージャーを何で評価するかといったら成果です。方法・過程より成果だと考えると、関わっているプロダクトが良ければそれはいいと思っていますし、ダメだったら全部僕の責任です。
――プロダクトを良くしたい、いいものを届けたいという目的があれば、問題ないということですね。
奥原:そうですね。CPOでもCTOでもどのような立場でも、僕がそこにフィットして、僕がそこでやることがプロダクトの成功に一番近いのであれば、全力でがんばるのみです。
――最後の質問です。奥原さんにとってプロダクトマネージャーとは何ですか?
奥原:難しいですね(笑)。自分がやっていることにラベルをくっつけただけなので、スタンス・考え方だと思います。「あなたは何をやっている人なの?」と聞かれて「プロダクトを成功させるためにがんばっている人です」と言ってもアレなので、プロダクトマネージャーというロールが一番適しているとは思っています。
「コードを書いているから、僕はプロダクトマネージャーじゃないです」とは思っていません。やはりスタンス、意思決定に最終的に携わることがプロダクトマネージャーだと思います。変わりゆくもの・変わっていかないといけないもの、ととらえています。
――ありがとうございました。
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