2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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――プロフェッショナルなプロダクトマネージャーと言った時に、森山さんは何を想像しますか?
森山:優秀なプロダクトマネージャーがいないと、開発プロジェクトがどうなってしまうのかをイメージしてみましょうか。
まず、最初に何が起きるのかというと「Visibilityの欠如」です。
優秀なプロダクトマネージャーがいないと、開発チームが何をやっているのかよくわからなくなってくるんですよ。経営や他の部署から見た時にブラックボックス化してしまって、そのチームが何をやっていて、いつ、どんなものを出してくるのかが見えなくなります。どのくらいのコストを何にかけたのか、どういう成果が得られるかもわからないし、スケジュールもわからない。
この時チームの内部で何が起きているかというと、エンジニアたちが各々に作りたいものを作っていたりします。
経営目線で見た時のVisibilityも下がるし、逆に、その開発チームから見た時の経営に対するVisibilityも同様に下がるので、会社が何を重視しているのか、温度感がわからない。
チームがどこに向かっているのか、何に貢献しているのかもわからないので、メンバーがシラけたり、もっと酷くなると「あのチームは、いったい何をやっているの?」と相互不信になります。一定規模の開発組織に優秀なプロダクトマネージャーが不在なままだと、そういったことが容易に起こるんですよ。
例えば、数年前、AIがバズワードだった時期に、経営から「AIを使った業務改善を推進して欲しい」というオーダーが降って来るケースがあって。
でも、当時は経営も含めて社内の人材のほとんどは、Machine Learningを扱えるエンジニアが何を言っているのかわからず、途方に暮れたはずです。
そこに優秀なプロダクトマネージャーがいたら、インターネットに関わる技術用語だけでなく、アカデミックな領域の概念を、きちんとビジネスの現場とつなげて翻訳できるので、結果的にチームが開発したものが何に寄与したのか明確になったはずです。
これが僕が言う「Visibility」です。
優秀なプロダクトマネージャーがいないと失われる要素の2個目が、「Autonomy」です。要は、開発チームに所属するエンジニアが、自律的に動けているかどうかです。チームにプロダクトマネージャーがいたとしても、真にプロフェッショナルでない場合、全部自分で決めたがったり、自分でなんでもコントロールしたがったりするんですよ。
本来ならエンジニアに任せるべきところを、自分で抱え込んだり、エンジニアが自分を飛び越えて別の部署とコミュニケーションするのを嫌がったり。
でも、大事なことは、経営課題の解決のために、プロダクトマネージャーだけでなく、エンジニアたちも自らアイデアを起案して、それがスピーディに試されていくことなんですよ。
情報を極力オープンにしてフラットな状態にしつつ、経営がエンジニアが何のために何をやっているのかよくわかると同時に、エンジニアも経営のことが見えていて、自律的に改善に向けて取り組んでいる状態。
これを僕は「Autonomyが高い」と呼んでいます。
これは、ガチガチにチームを成果に向けてマネジメントするのとは違うんですよ。
大事なことはおさえつつ、適度に判断をお任せできると、チームのVisibilityが高いだけでなく、エンジニアたちも自律的に動いてKPIを動かし始めます。緊張感がありつつ、楽しく問題解決に没頭できる、Autonomyの高い開発チームを作れるプロダクトマネージャーは、真にプロフェッショナルだと思いますね。
そして、優秀なプロダクトマネージャーが開発チームにもたらす3つめが「Discovery」、すなわち「発見」です。
1つめの「Visibility」を担保し、2つめの「Autonomy」まで開発チームにもたらすことができても、チームが必ず陥るのが「部分最適」「過剰最適」です。
今ある枠の中で改善を積み重ねるのはもちろん素晴らしいのですが、実はまったく違うところにプロダクトを進化させる機会があるかもしれません。そこに、ふだんとは違う視点で提案して、開発チームに不確実性を持ち込んでいくのが「Discovery」ですね。
まとめると、プロフェッショナルなプロダクトマネージャーが活躍していたとして、その人が急にいなくなったら、最初にDiscoveryが失われて新しいことをやらなくなり、そのうちにAutonomyが暴走しはじめて制御できなくなり、Visibilityが失われてチームが何をやっているのかがわからなくなり、混沌とするんじゃないかなと思います。
森山:結局いろいろな人の言葉を知らなきゃいけないんですよね。
――言葉ですか?
森山:プロダクトマネージャーは、翻訳者みたいなところがあって。それは英語も含んでますが、それだけじゃないんですよ。経営者が使っている言葉や、エンジニアが使っている言葉も、ある程度理解できなきゃいけません。あるいはセールスとか、他部署の人が使っている言葉、思考プロセス、考え方も理解しないといけないし、何より理解しないといけないのは、お客さまですね。
プロダクトを取り巻くさまざまな人たちと多様な接点を持って、その人たちが何を考えて、どういう言葉を使っているのかに精通するのは、プロダクトマネージャーにとって一番大事なことだと思います。
――ブログや著書にも、イケてるプロダクトマネージャーは、「複数の問題を一気に解決できる」と書いてありますが、この考えに至った経緯やきっかけはどのようなものなのでしょうか?
森山:これ、僕が定義したわけじゃなくて、「マリオブラザーズ」の生みの親である任天堂の宮本茂さんの言葉の引用なんですよね。
僕も昔は、問題点をリストアップして、解決策を並べて、会議で「P0」「P1」とかプライオリティをつけて、それが仕事だと思っていた時期もありました。
ただある日、「本当にこれでいいのかな?」って、疑問を持ち始めたんですよね。
なぜなら、結果的に重要な施策ではなく、やりやすい施策から実行されていくからです。時間がかかりそうだけどうまくいったらインパクトが大きそうなことにはリソースを割かれず、短期でインパクトが読めそうなものばかりを開発していたんです。
僕は前職で検索精度改善のチームを持っていましたが、そこに危機を感じて、検索の裏側の仕組み、システムごと入れ替えたことがあるんですよ。
ゼロから組織作りを始めて1年以上かかりました。最初の半年はエンジニア組織を立ち上げなきゃいけなかったので、その時期はプロダクトマネージャーからエンジニアリングマネージャーに職種転換して、採用に専念しました。
一番意識をしたのはあの時かな……。このままだとシステム的に限界があるのは目に見えていたんですよ。当時は1つの巨大な検索インデックスを、サーバーの中に入れてトラフィックを捌いているような状態でした。
でもユーザーはどんどん増え続けていて、サーバーへのリクエスト数も年々増えていたのでコストがどんどん上がっていて。ある時期を越えると、別の大きなマシンを横に立てて引っ越さないといけない。ちょっとしたアルゴリズムをテストするのにも、1ヶ月かかるみたいな状況でした。
本当は、1〜2週間でABテストして結果を確かめたい。でもそれが当時の仕組みだと根本的に無理だと気づいた時、検索システムの裏側の仕組み自体を丸ごと、分散型の検索エンジンに切り替えることを決断をしたんですよね。
システム全体の移行は本当に大掛かりですし時間もかかりますが、結果的にはいろいろな施策をよりスピーディに試せるし、仮説と実験の検証スピードが速ければ、複数のエンジニアが同時並行で実験できて、チームの活性化にもつながる。
あとは、分散型の検索にするほうが、長い目で見てトータルコストが安くなるという試算もありました。プロダクトマネージャーたるもの、小粒な改善施策の積み上げばかりでなく、腰が重くても、複数の問題を一気に解決するような重要施策に集中すべきというのは、あの時期に一番学べたことかもしれません。
――メルカリやスマートニュースでプロダクトマネージャーをしてきた森山さんから見て、気になる他の企業やプロダクトはありますか?
森山:個人的に気になるのは、世界的に急成長中の某動画配信プラットフォームですかね。
――どういう点で、気になっているのでしょうか?
森山:シリコンバレーには、開発組織をどうマネジメントすれば良いのかという基本思想があるんですよ。
それは「創造性を発揮できれば、良いプロダクトは生まれる」という思想です。Googleが発見した「心理的安全性の確保」や、創造的な業務に時間を割くための20パーセントルールも、どうやったら人の創造性を引き出すことができるかという問いに対するつの答えです。
ところが、その企業の中の人の話を聞けば聞くほど、創造性を発揮させる方向とは真逆のことしかしてない感じがするんですよね。シリコンバレー流では良いとされてきた創造的な組織や企業のカルチャーづくりのセオリーが、どうやらそこでは当てはまらない。
例えば、1つの機能開発要件に対して複数のチームが同時に開発して社内で競争したりするらしいんですよ。その中で一番いい数字を叩き出したチームだけが残り、あとは解散になるみたいです。
――なかなか(笑)。
森山:すごいですよね。日本だとほとんど考えられないです。
ただ、それと同じことを他社が真似して良いプロダクトが出てくるのかというと、それはわからないですね。創業経営者が天才的だっただけなのかもしれませんし。
僕の中で、そこの説明がまだ、上手く説明できないんですよ。
――日本でもプロダクトマネージャー的な仕事をしていた人は前からいたとは思うのですが、PdMやPMという明確な名前がついておらず、境界線が曖昧だったという印象があります。
一方で、海外にはもっと前からプロダクトマネージャーというポジションがあって、役割定義も確立していたと思います。「プロダクトマネージャーを採用したい」という話はよく聞くので需要はあるのに、日本にはまだ足りていないというイメージがあるのですが、そこはどう思いますか?
森山:個人的には日本独自の「PdM」という表記はやめた方がいいと思っています。グローバルだと「PM」ですし、長期で見ればグローバルに表記が統一されるはずなんですよ。だから、こういう表記方法のガラパゴス化は長期で見ると良くないと思っています。
あと、プロダクトマネージャーに期待すべき役割象が、会社によって違うんですよね。そこがもっと揃ってくるといいなと思っています。
プロダクトマネージャーというと「なんでもできる人」みたいな神スペックを期待しがちだと思うので。
個人的にもそういう課題感があるので、今日みたいな取材を通じて、プロダクトマネージャーの仕事や役割についてお話できるのはすごく意義があると思っています。
――将来、こういうことをやりたい、これを目指したいみたいな目標はありますか?
森山:プロダクトマネージャー、特にTech PMと言われている領域を、もっと極めたいです。
僕の場合、たまたま今の状況に流れてきちゃったんですけど、プロダクト開発の業務については現場での叩き上げと独学で身につけてきました。
だから、今になってきちんと学びたい意欲が出てきて、海外のコンピューターサイエンスの大学院に行きたいなって思っています。
今一度、土台の知識をしっかり固めて、この領域をもっと深めていきたい。コンピューターサイエンスは奥が深すぎて、しかもどんどん変化していくので、一生極めることなんてできないでしょうけど、知的好奇心だけはとにかく満たされます。
そのためには、より高度な技術的知識も必要だし、英語ももっと流暢に話せるようになりたいです。
もっとネイティブとガンガン議論しながら、パパッとプロトタイプを自分で作って、ほらこんな感じとか見せてやっていきたいですね(笑)。
※このインタビュー後、英国ヨーク大学大学院のMaster of Computer Science and Artificial Intelligenceに合格。働きながら修士課程に進学予定。
――最後にお聞きしたいんですけれど、森山さんにとってプロダクトマネージャーとはなんでしょうか?
森山:プロダクトマネージャーは、僕にとっての天職だと思います。
あとは、役割からしてちょっと「アメーバ」っぽいというか。先ほど「プロダクトマネージャーとはこう」とできる範囲で定義はしたんですが、それでも、今このチームにはここが足りないと気づいたら、必要に応じてその役割を補えるのも、実はプロダクトマネージャーの醍醐味なんですよね。
僕はプロダクトマネージャーだったけど、自分がやるべきだと信じたことのためにチームの組成が必要だったから、EM(エンジニアリングマネージャー)になったという話をしました。あの時期は、半年間プロダクトのことは一切やらず、ひたすら優秀なエンジニアを採用するために時間を使っていました。
それって本来の職域とは違うはずなんです。でもそこを必要に応じてはみ出して行く。いったんその欠けた役割を担って、また戻ってくればいいだけの話ですから。
そのように自ら判断して動けるのは、ミニCEOと言われているプロダクトマネージャーだけなんじゃないかなとも思っています。
なので、プロダクトマネージャーは、いつもキリキリしていてはダメなんですよね。ちょっと暇なぐらいがいいですね。
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