2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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――まず、森山さんの職務について教えていただけますか?
森山:スマートニュースにはさまざまな組織がありますが、僕はエンジニアリング組織に所属する「テクニカルプロダクトマネージャー(別名Tech PM)」という職種で、「SmartNews」の広告プロダクトの1つである「SmartNews Dynamic Ads」のプロダクトマネジメントをしています。“Technical”は、より技術的専門性が高いプロダクトを専門に扱うという意味です。
SmartNewsって、お客さまから見るとニュースアプリなんですけど、システム面から見ると、複数の大きなプロダクトが組み合わさって出来ているんですよ。
例えば、FacebookやTwitterと同様、広告のレコメンドをいかに最適化できるかは、SmartNewsの継続的なニュースのデリバリーを支えるために重要です。
Dynamic Adsは、広告効果を最大化するためにAIが最適な組み合わせを選んで自動的に切り替えます。つまり、見る人によって異なる広告が表示されるわけです。Eコマースの商品がカルーセル内に複数表示されるショッピング広告がその一例です。
森山:必要なことをやっているうちに、あとから「僕がやっている役割はどうやらプロダクトマネージャーというらしい」と認識するようになっていったんですよね。
自分でWebサービスを開発していた時期があって、その時は見よう見まねでAWSのセットアップ、データベース設計、バックエンドとフロントエンドのコーディングまで、その時々に応じて必要なことをやっていました。
――著書の『Work in Tech!ユニコーン企業への招待』の中でも、就活サービスをリリースした経緯を書かれていましたが、なぜ作ろうと思ったのですか?
森山:当時、就活の選考プロセスを飛び級できるサービスが世の中にあったら、就活生にとって便利だと思ったんですよね。
自分が就活生だった頃を振り返ると、1個目の内定が出てやっと素になれるというか、本当の意味で「自分は何がしたいんだっけ?」と考えられるというか……そうなるまでは受験と同じで、偏差値のレースに巻き込まれている感覚があって。
その後、社会人1年目でリクルートの人事採用担当として働いていたんですが、その時にちょっとした発見があったんです。
採用担当者って、選考中の学生に他社の内定が出たと知ると、動きが変わるんですよ。それが採用したい学生であれば、その人を口説ける社内の人との面談を急いで組んだりする。
動きが変わるということは、誰も表立っては言いませんが、「内定」という情報にはある種の価値があって、学生にとっては「資産」だと思ったんです。もちろん、内定している期間限定ですけど。
だとすれば、学生が内定を1つのきっかけにして、ほかの会社の役員や社長に会いやすくなったり、海外の大学のように長い選考プロセスをショートカットできる、つまり「飛び級」できる仕組みがあったら、学生にとって便利なんじゃないかなと、当時の僕は思ったんですね。就業機会の最大化にもつながるぞと。
とはいえ、半分くらいの企業は嫌がるだろうとも思いましたけど。
――プロダクトをリリースして、反応はどうでしたか?
森山:ものすごく褒められたり、逆にものすごく怒られたり、賛否両論でした。企業の方から「ふざけるな!」と目の前で怒鳴られられたこともありますし、「これはすごく画期的だ!」と励ましてくれる会社さんもいて、学びが多かったです。
例えば、サービスをご利用いただいたある外資系企業は、社会人は知っているけどBtoBのビジネスをしているが故に学生には知られていない。それでいて会社は、1人か2人のリクルーター担当と極めて少ない予算で、効率的にバイリンガルの学生に会わなきゃならない。
彼らからすると、採用説明会を開催して大量の母集団形成をして、そこから優秀な学生を確率的に探す時間も、ましてやお金もないわけですよ。そういう、既存のマッチングのやり方に課題を感じている会社が使ってくれたりしました。
すでに他社内定が出ている優秀な学生に効率的に会えるなら、自分たちは「実はこんなことをやっていて、この分野で世界トップシェアだよ」と話をすれば興味を持ってくれるし、選ばれる自信があったからでしょうね。
ただ、サービスとしては明らかに失敗です。ニッチなプロダクトを作って、人事界隈で「なんだあれは?」とちょっと騒ぎになり、学生さんも一部は使ってくれたけど、所詮そこまでという感じでした。
――突き詰めていくと、プロダクトマネージャーの仕事って、なんだと思いますか?
森山:ある意味、プロダクトマネージャーの仕事って、失敗することなんですよね。たくさんの失敗を致命的ではないかたちで、なるべく速く経験することなんですよ。
正直、打率2割もあればかなり優秀なはずです。ほとんどの施策は、事前に期待したほどの変化やインパクトをサービスやプロダクトにもたらすことができません。なので、大袈裟でもなんでもなく、プロダクトマネージャーの日常は「ほぼ失敗の日々」という気がします。
――そんな日々の中で、プロダクトマネージャーが特につらさを感じる瞬間ってどんな時なのでしょうか?
森山:プロダクトマネージャーに限らず、人間がつらい時って「ジレンマにさいなまれている時」だと思うんですよね。僕はそのジレンマを、「単純なジレンマ」と、「二重三重のジレンマ」に分けて考えています。
前者の単純なジレンマは、良いジレンマです。例えば、単純に広告費をかければユーザー数は増えるけれど、短期的に集めたユーザーは、あまりアクティブにサービスを使ってくれなかったり。かといって、広告を打たないと、少ない既存ユーザーだけで縮小均衡していく。あちらを立てれば、こちらが立たず、といった典型的なジレンマです。
でも、これはある意味で、悩みがいがある課題です。現代においては誰もが、このジレンマに見える状況を、創造的に解決することを期待されているわけですよね。
例えば、試行錯誤の末に新たなユーザー獲得のやり方を発見して、それが今までのアプローチよりも効果が高いとなったら、数字で結果も見えてうれしいはずです。これは、僕からすればいいジレンマ。解決しがいのある、いいつらさです。
でも、組織の中では、このシンプルなジレンマに取り組めないことも多いんですよ。例えば、「こういう新しい手法を試したい」と提案した時に、「それは別の部署の承認が必要だから、◯◯会議に通してくれ」とか言われて、そのための資料を作らないといけなかったり、膨大なリソースをそこに取られたりするケースもあります。
組織内の権限や力関係など、本来解くべき問題とは別のジレンマが複雑に絡み合って、「二重三重のパズル」みたいになってしまう。これを僕は「デッドロック」と呼んで明確に区別しています。組織内にこのデッドロックを放置すると、本来取り組むべき課題と向き合う時間が減り、優秀な人材ほどやる気をなくしたり、会社に対するエンゲージメントが下がって離職につながるので、僕はこれは「悪いつらさ」だと思います。
――では、プロダクトマネージャーとしてやっていくおもしろさはどこにあるのでしょうか?
森山:それはやはり、時々、思いついた施策が当たるからです(笑)。
10本に1本。10本に2本もあったら多いほうなんですが、事業を構成しているさまざまな数値がいい方向に動くアイデアを、自分が着想する場合もあれば、ほかの人が持ち込んでくれる場合もあって、どちらでもいいんです。
僕らプロダクトマネージャーの役割は、誰かが得た着想をきちんと形にするところまで持っていくことであって、その施策でプロダクトが明らかに改善していることが数値で見えればうれしいし、ニヤニヤできるんですよね。
逆に、そういった喜びがたまにはないと、プロダクトマネージャーは仕事としてきついんじゃないかなと思います。
――プロダクトマネージャーという役割を森山さんはどう考えますか?
森山:定義が揺れていますよね。プロダクトマネージャーはミニCEOと言われたりもしますが、まだ日本においては定義が曖昧な気がします。
ただ、僕は割とシンプルに、プロダクトマネージャーとは「製品開発責任者」のことだと思います。
ただし、SmartNewsというサービスひとつ取ってもシステム的に見たら巨大で、ニュースのレコメンデーション、広告最適化の仕組み、クーポン、雨雲レーダー、チャンネルなどさまざまな機能やプロダクトの組み合わせです。そして、それはもう、開発責任者が1人で見きれる規模ではなくて、だからこそ役割分担しているんですよ。
社内には複数のプロダクトマネージャーがいて、分割された自分の裁量範囲において製品開発の責任を負っているし、物事を決める権限も持っています。逆に、プロダクトについての意思決定権がなかったらプロダクトマネージャーとは言わないと思うんですよ。
ミニCEOとも呼ばれるプロダクトマネージャーの役割が実際のCEOと違うのは、プロダクトマネージャーは「人の問題」には責任を持っていないということです。持っていたとしたら、シリコンバレーでいうところのプロダクトマネージャー本来の役割定義からは少し逸脱していると思いますね。
試行錯誤の歴史の中で、Googleなど巨大テック企業が、あえてプロダクトマネージャーの責任範囲から人に対する責任を剥がしたんですよ。メンバーの採用、育成、評価までプロダクトマネージャーが考え始めちゃうと、身動きが取れなくなってしまうので。そこはピープルマネージャーに託して、プロダクトマネージャーはとにかく良い製品をユーザーにどう届けるかに集中できるように工夫してきたはずなんです。
(次回へつづく)
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