2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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――プロダクトマネージャーカンファレンス2021の際にプロダクトマネージャーの育成・成長のお話をされていてましたが、プロダクトマネージャーの育成・成長が難しい理由が少しわかった気がします……。
山崎:トレーニングはできると思います。ですが、やはり難しいですよね。普通のことを普通にやったら普通になるっていう話なので。いわゆる王道を全部勉強して、王道どおりできるようになった。それは王道を使いこなせる人としてはすばらしいと思うし、その能力も必要です。8割はその能力が必要なので、土台にはなるんですよ。
だけど、最後の2割のイノベーティブな行動ができないと普通で終わる可能性が高いという話です。少なくとも強い競合には勝てない。強い競合にはそういうイノベータータイプ、2割を使いこなす人たちがいるので、そういう人たちに王道だけで勝とうと思ったらまず無理です。
――「プロダクトマネージャーは増えたほうがいい」と言われることもありますが、これまでのお話を聞くと、意図的に増やすこともなかなか難しいようにも感じます。
山崎:私はプロダクトマネージャーは増えたほうがいいと思っています。増やすべきだとも思っています。この話は、いわゆる起業家育成みたいな話と近いと思います。
プロダクトマネージャーのイノベーターとしての本質的な性質は、起業家とほぼ一緒。起業家の中でも、基本的には二番手戦略で、売れているものを真似して作って商業的には成功する人はいるし、それもぜんぜんありだと思います。
その一方で、ユニークな新しいサービスを作っていく起業家もいます。世の中を変えていくような起業家はたくさんいたほうがみんなの生活が豊かになるので、多いほうがいいという話はその通りだと思います。
日本でもいろいろな団体や、場合によっては政府、行政がイノベーター人材を増やすための施策を数年前からやっています。そういった流れが今、プロダクトマネージャーにも起こっているということなのかなと思っています。
一方で、プロダクトマネージャーと起業家は似ていますが、違った側面もあります。プロダクトマネージャーは、最終的にはプロダクトを作らなければいけないという意味で、ビジネスに加えて、テクノロジーやデザインを深く理解している必要があります。
未来を予測し、ビジネスを理解し、テクノロジーやデザインを使いこなすみたいな話なので、まあまあ大変ではありますよね。だから簡単ではない。だけど必要かどうかというところに立ち返ると、絶対必要だし、増やしたほうがいい。文明の進化のためには、プロダクトマネージャーはたくさんいたほうが絶対いい。
逆に、これまでもそういう人たちが文明を作ってきたという話かもしれません。前半の話にあった、自動車や電車、エアコン。コンピューターもそうですし、そういったものがたくさんあるから、今の豊かな我々の生活が成り立っているわけです。
――確かに、プロダクトマネージャー一人ひとりでも考えることはさまざまだと思うので、多ければ多いほど、よりよいアイデアが生まれそうですね。
山崎:そうなってくると、じゃあどうやって増やしたらいいの? という話になりますよね。今のところの私の答えとしては、良い師匠を見つけて師事するのが一番早いかもしれないなと思っています。
これは起業家でも一緒な気はしていて、やはり優れた起業家、ユニークな、イノベーティブな起業家のそばにいて、その人の仕事の仕方を見ることによって学べることは非常に多いと思うんですね。
そういう人たちが書いた本から参考になる点もあると思うけれど、そういった人たちと一緒に仕事をすることによって学べることは、想像以上に多いと思います。実際に一流の起業家に師事して一流になっていった人たちもたくさんいるはずです。
結局はプロダクトマネージャーも同じで、優れたプロダクトを生み出せるイノベーティブな、プロフェッショナルなプロダクトマネージャーの側で働くことが一番の近道になるんじゃないかと。そういった考えから、エムスリーでは、実際に階層構造をできるだけ減らして、私が直接プロダクトマネージャーとしての手本が見せられるような環境を用意しています。
――とはいえ、必ずしも一流のプロダクトマネージャーが身近にいるとは限らないですよね。でもスキルは身につけていきたい、身につけないといけないとなった場合には、どういった行動をとるのがよいでしょうか。
山崎:方法は4つあると思います。1番目は、転職も含めて、そういう師匠のいるチームで腕を磨く、超一流のプロダクトマネージャーがいるチームで経験を積む。これは非常に有効で、効率がいいです。
2番目はどうするかと言うと、プロダクトマネージャー以外でもそういった働き方をしている人はいる可能性があります。例えば企業の代表とか、事業責任者とか、ビジネスサイドの人たちです。
『INSPIRED』の第1版に書いてあったと思いますが、「プロダクトマネージャーという正式な肩書きではないけれども、プロダクトマネージャーみたいな仕事をしている人たちは社内に必ずいるから、そいつを探せ」という話があるんですね。
エンジニアかもしれないし、デザイナーかもしれないし、創業者かもしれないし、事業責任者かもしれない。社内にプロダクトマネージャーの考え方で仕事をしている人たちがいるはずだから、その人たちを観察して、場合によっては教えを請う。これが2番目の戦略です。
3番目の戦略。1番目も2番目も不可能な場合は、社外のプロダクトマネージャーにいろいろ相談をしてみる。最近は勉強会もあるし、プロダクトマネージャーカンファレンスもあります。そういったところで見つけた人にカジュアル面談をお願いするとか、勉強会に参加するとかでコミュニケーションできる機会を作る。最近ではSlackコミュニティとかもあるので、そういうところで研鑽するのが3番目のやり方です。
プロダクトマネージャーはやはり数が少ないので、そもそも会社に何人もいない可能性もあります。そもそも会社の中で学ぶというのは難しい可能性があるので、そういった時は外で学びましょう。
最後の4番目。これは一番難しい方法ですが、自分のセンスでなんとかする方法です。つまり独学でがんばる。ただ、かなり厳しい気はします。エンジニアリングやデザインは50年とか100年以上の歴史があって、大量の書籍があって、王道がある程度あるような状態であればできるんですけれど、プロダクトマネジメントについては現時点では難しいと思います。
エンジニアリングの世界では、アンディ・ハントとかケント・ベックとかがアジャイルの始祖と言われていますよね。アジャイルというものを作ってきた人たちは、アジャイル開発宣言をする前からそれぞれがんばっていました。しかし、多くの人が理解したのは、アジャイルソフトウェア宣言が出されて、スクラムという開発方法が成り立って、それが書籍によって、または勉強会によって広められたあとだと思うんですね。つまり、先駆者に対して、その恩恵をあとで受けているという話だと思います。
アンディ・ハントとかケント・ベックががんばっている時に、同じペースでがんばれる人たちは独学でも大丈夫ですが、その域に達しないと、プロダクトマネジメントを自ら学ぶというのは難しいかもしれないです。
――なるほど……。
山崎:王道の8割を学ぶのは難しくないんですよ。ただ、イノベーティブな2割をどう学ぶのかっていうことです。いつ、どの段階で、多数の意見じゃなく少数の意見に目を向けるのか。そのタイミングとかセンスは、たぶんまだ書籍には書かれていません。
北野唯我氏の『凡人が、天才を殺すことがある理由。』というブログ記事とか、『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』という本があると思いますが、あの考え方はかなりわかりやすいです。そこのブログ内で言われていますが、天才は創造性を軸に考えている人たちで、その人たちは極めて数が少ない。
なので、その人たちの言っていることは、多くの人は理解できない。認められずに埋もれていっちゃう可能性はあるんですね。だけど、そういった人たちが世の中を変えていきます。それが優れたプロダクトマネージャーだったり、良いプロダクトのアイデアということです。
――このお話を踏まえると、プロダクトマネージャーとして埋もれないためには周囲の環境も重要になるように思えますが、企業側には何を求めるべきでしょうか。
山崎:難しいことではありますが、第一に「先ず隗より始めよ」。企業よりも自分をどうしなきゃいけないかということが根本的にあると思います。やはりプロダクトマネージャーにはある種の謙虚さが必要です。
「自分が言っていることが間違っているかもしれない」という可能性、自分の考えには自信はあるけれど、その考えが間違っている可能性は認めなきゃいけない。そういった謙虚な姿勢は絶対に必要になってきます。
なぜかというと、その謙虚な姿勢がないと、経営陣はそのアイデアを全面的には受け入れられないからです。経営陣を動かして、会社の貴重なリソースを貸してもらうわけですし、失敗する可能性はゼロじゃない。
そこでプロダクトマネージャーが「これだったら絶対勝てます!」みたいな、「絶対儲かる株があります!」みたいな話はダメだと思うんですよね。「そんなことあるわけないだろう」という話になって信頼されません。
経営陣も多少なりともプロダクトマネージャー的な考えはしているので、経営陣を経営陣としてリスペクトして、自分の考えが間違っているかもしれないということは認めないといけません。
その上で、受け入れてもらえる可能性がどこまであるのかがポイントになってきます。経営陣側にも必要なことはいろいろあると思っていますが、アダム・グラントの『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』という本がすごくおもしろくて。「考え直す可能性」を経営陣には求めたいですね。
イノベーションというものは、今までやっていなかったこと、新しいことをやってみるっていうことに近いので、それを提案した時には「いや、今の戦略はこうだから」みたいな話になりがちです。王道から外れるということもあり得るので、それを認めてもらわないといけません。
つまり、プロダクトマネージャーの意見を聞いて経営陣が考え方を変える。考え直して考えを変えることが必要です。なので経営陣に対して、会社に対して、考え直せる能力があるのか。
アダム・グラントの本の中では、今までは知識や考えることが重要だったけれど、これからの時代は考え直すことがより重要だと言われています。「仮説思考でいきましょう」みたいなことです。もっと言えば、科学者の考え方をしていこうと。実験してみて、結果によって考えを変える考え方が重要だと言っています。
なので、新しいイノベーティブなプロダクトのアイデアに対して、「確かにそうかもしれない。じゃあやってみましょうか!」「結果を見て考えましょう」みたいな、科学者の思考が必要になってくると思います。
――山崎さんはプロダクトマネージャーカンファレンス2021の際にプロダクトマネージャーの育成・成長について体系立ててお話をされていたのが印象的でしたが、どのような考えや方法で理論立てをされているのでしょうか。
山崎:前半の8対2の法則に戻りますが、前提として、プロダクトマネージャーが考えていること、もっと言えば世の中で発想力が平均以上にある人が考えている考えは、平均的な人に届きにくいです。なので、それをどうやったらわかりやすく伝えられるのかは工夫しています。
プロダクトマネージャーカンファレンス2021で発表した「7つのシコウ」の発想のきっかけとして、「プロダクト“シコウ”と言った場合には、どれが適切なのか?」みたいな話がありました。
ベーシックな知識として、プロダクト開発関連で有名なシコウとしてすでに、デザイン思考やオブジェクト指向という言葉があります。デザイン思考はDesign Thinkingなので1番目の「思考」、オブジェクト思考はObject Orientedなので、2番目の「指向」です。チーム志向という言葉もチームワークの研究分野で使われているようで、それは3番目の「志向」でした。このように、すでにいろいろな“シコウ”が世の中にあることが前提になります。
その上で、プロダクト“シコウ”と言った場合には、どれが適切なのか。私はGoogle日本語入力が大好きで、すばらしいプロダクトで最高だと思っているんですが、“シコウ”を変換している時に、どの“シコウ”もあり得ると思ったわけです。この文脈ではこの“シコウ”、この文脈ではこの“シコウ”、この文脈ではこの“シコウ”が使える。
つまり、プロダクト“シコウ”は状況によって変わる、状況によって使い分けなきゃいけない。じゃあそれをどう説明するのかといった時に、まずあるものを全部書き出して、どういう関係性にあるのかに注目しました。
時系列別に並べると、その間には当然関係性があって、「プロダクトマネジメントの前半ではこの3つとか4つが必要になるし、後半ではこの3つとか4つが必要になる」みたいなことがわかるわけですね。
関係性が整理ができたら、これをどうやって初めて聞く人にうまく伝えられるのかを考えます。エムスリーには、マッキンゼーの「7S」(Strategy、Structure、System、Staff、Style、Skills、Superordinate Goals/Shared Value)を参考にしたと思われる、「7P」という考え方がありますが、このエムスリーの「7P」(Performance target、Philosophy、Technology platform、Place / Process、Payment System、People / Player、Public policy)を参考にしました。
マーケティングの「4P」(Product、Price、Promotion、Place)などの考え方も、コンサル業界でよく使われます。敏腕コンサルタントも、新しい概念を作って、いかにわかりやすく人に説明するかということを生業にしていますよね。だから、“シコウ”の説明でも同じようにフレームワークが使えるはず。
そこで、フレームワーク的な考え方を取り入れて、7つのシコウの基本的な説明を作りました。その上で、これを今の世代によりわかりやすく伝えるために、最後のエッセンスとして、デザイン的なアナロジーを取り入れる。
私が考えついたのは、“ドラゴンボール”という表現でした。誰でも知っていると思いますし、「これはプロダクトマネージャーの夢を叶えるドラゴンボールなんだ」という言い方をすると、先進的な考えが共感を得やすくなります。もちろん見た目も黄色にしました。
これはある意味、プロダクト開発におけるテクニックの1つかもしれません。先進的なプロダクトを宣伝する時に、「これは〇〇業界の〇〇みたいなものです」みたいな言い方ができますよね。そういった多くの人がわかりやすいアナロジーを使うことで、少しでも多くの人に理解してもらえるように考えています。
――要素を書き出して、フレームワークに当てはめられるものなら当てはめ、最後に共感を得やすいような落とし込みをすると。
山崎:シンプルに言うと、イノベーティブな2割の人に加えて、残りの8割の人にも確実に届けるために、いろいろな業界のいろいろな知名度の高い例を持ってきて合体させるということです。自分の考えをより伝わりやすいかたちに変換する。これが重要だと思います。
――最後にお聞きしたいのですが、ずばり山崎さんにとってプロダクトマネージャーとは何でしょうか。
山崎:結局のところ、未来を作る人なんだと思います。人々の未来を作っていく仕事。それが一番しっくりくるような気がしますね。もっと言えば、人々の未来をみんなと楽しみながら作れる人。これがプロダクトマネージャーだと思います。
――そんな未来を作るプロダクトマネージャーにこれからなろうとしている人、未来を作る人として、より力をつけていこうと思っている方に向けて、メッセージをお願いします。
山崎:プロダクトマネージャーは王道を学ぶということに加えて、イノベーティブなことも仕掛けていかなきゃいけない。それを学ぶにあたって、独学もいいけれどすごく大変なことなので、周りのプロダクトマネージャーとか、できれば優秀なプロダクトマネージャーに話を聞いて学んでいくのがいいんじゃないかなと思います。
周りを頼るということは、孤独な中でも最終的にプロダクトマネージャーを諦めず、いわゆる一流のプロダクトマネージャー、もっと言えば未来を作れるプロダクトマネージャーになっていくためには重要になってくるのかもしれませんね。
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