2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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――まず簡単に、山崎さんのご経歴をおうかがいしてもよいでしょうか。
山崎聡氏(以下、山崎):みなさん、こんにちは、こんばんは。
私は8歳からプログラミングを始めて、中学時代はパソコン通信とかにハマって、中学3年生の時からインターネットに興味を持って使い始めました。
1994年に高校に入学しましたが、高校時代にはNetscapeやWindows Internet Explorerが1.0から現れ、2.0になり、3.0になり、そのあとWindows 95が出てきて。私の思ったとおりだなと(笑)。これからは間違いなくインターネットの時代になると思っていました。
高校2年生の時にYahooのUS版を使っていたので、「これの日本語版は俺が作るんだ」と思っていたんだけれど、孫さんが「Yahoo! JAPAN」とか言い出して(笑)。ショックでしたが、それなら私は違うことをしようかなと思って、もっと深くインターネットを勉強するために大学に入りました。
大学の勉強はそれはそれでおもしろかったのですが、自分のプログラミング歴がその時点でもう10年あったので、大学の講義では教わることがあまりなくて。なので、1997年からは老舗のパソコンショップの新規事業としてEコマースのサイトを作っていました。
そのまま、学生社会人みたいな感じで、いろいろな会社でいろいろなプロダクトをCTO的立場で見てきました。SIer企業の中の100人でプロダクトを作るとかではなくて、3人でプロダクトをぶち上げるみたいな。そういう仕事をやってきた感じです。
一方で学生も続けており、博士過程の途中でアカデミックに行くか、それともベンチャーとかスタートアップの世界に行くかを決めなきゃいけなくて、アカデミックの世界よりはベンチャーの世界が自分には合うだろうと思って、博士の2年で中退してベンチャー企業に行きました。
学生時代にはある程度技術力があったので、仕様が決まればだいたい作れるような状況ではありましたね。ただ、作ることも重要だけれど、それ以上に会社の成長を左右するのは何を作るか。もっと言うと、「なぜ」「何を作るのか」が重要だということに気が付きました。
そういうところに興味があったので、社会人1年目からプロダクトマネージャー兼エンジニアのようなキャリアを歩んできました。
――エンジニアのキャリアとしては、主に技術力を磨いて、いわゆるスペシャリストとして進んでいく道と、マネジメントに進む道の2つがあると思います。山崎さんがマネジメントのほうに進むことになったのは、学生時代の経験が影響しているのでしょうか?
山崎:そうですね。作る楽しみも十分あります。自分以外の「こういうものを作りたい」というプロダクトマネージャーと組んで、「じゃあどうやってうまく作るのか」という、Howの部分に集中するのもエンジニアの楽しみの1つだと思っています。今でもプログラミングをすることもありますが、それはそれで楽しいんですよね。だからその道でもぜんぜんいいと思います。それはまったく否定していません。
一方で、だからこそ何を作るのかが重要だという話もあって、せっかくエンジニアが楽しく作ってくれるのであれば、より良いものが作れたほうがいい。もっと言えば、それがたくさん売れて、世の中に良いインパクトを与えられたほうがおもしろいはずです。
昔からエンジニアは、人の役に立つものを作る、みんなが楽になるためにものづくりをする職業だったんだと思います。
それが結果、使ってもらえないで終わってしまうのか、みんなに使ってもらえるかでエンジニアにとっての喜びにも大きな差が出るんじゃないかと。なので、やはり多くの人が必要とする、多くの人がメリットを感じられるようなサービスが作れたらいいかなとは思っていますね。
総量というか、一定の人がすごく助かるのでもいいんですが、インパクトが大きいほうがエンジニアにとってもいいのかなと。エンジニアに楽しんでもらいたい。そして自分も楽しみたい。そういうところはありそうな気がします。
――エンジニアの中でもマネジメントに負担を感じてしまう人もいると思いますが、山崎さんは逆に楽しめると思えるタイプなのかもしれませんね。
山崎:負担がないかと言うと、ありますよ(笑)。大変です。採用とかリテンションとかいろいろと大変ですが、「自分のようなエンジニアが楽しめる組織を作りたい」という気持ちが大きいです。「自分がいちエンジニアだったらこんな組織がいいな」というものを実現したいですね。
だから、自分のために自分の組織を作っているようなところはあります。自分はその組織のメンバーにはなれませんけど(笑)。
私は、エンジニアのパワーは大きいと思っています。過去には自動車を開発して世の中を変えてきたし、車の歴史でいえば、台車もそうかもしれません。5500年前に台車作った人は超リスペクトされたと思うんですよね。持って運んでいた荷物を台車に載せてゴロゴロ引けばいいなんて、「すげぇ、これ重力どうなってんだ」みたいな話になったはずなんですよ。
そこから「自転車すげぇわ」みたいな話になって、バイクみたいなものが出てきて、自動車が出てきて。そういう中で、みんなが助かっていったんだと思うんです。
同じような思いを現代のエンジニアにもさせてあげたい。私は別に5500年は生きてないですが(笑)。もちろんそうじゃない人もいていいと思いますが、そういう人を少なくとも楽しませてあげたい。仕事も楽しいし、世の中にもインパクトがあるし、それを使っている人もうれしいみたいな。自分が少し工夫をすれば、みんながwin-winの世界ができるんじゃないかなと思って。
結局のところ、エンジニアに楽しんでほしいという気持ちが大きいですね。エンジニアリングマネージャーになったのもそうだし、プロダクトマネージャーになったのもそうです。もちろんその結果、顧客に満足もしてもらいたい。逆も言えますね。顧客に満足してもらいたい、かつ、エンジニアも楽しいのがいい。私には向いていたのか、それをやってみたら空気を吸うようにできちゃったんですよね(笑)。
でも、いろいろ聞いていくと、なかなか難しいことみたいですね。
――とはいえ、すべてが簡単に進んだわけではないだろうと想像しますが、プロダクトマネージャーという肩書きになった時、その立場の難しさを感じたところはどんなところでしたか?
山崎:私はいわゆるスクラムチームのプロダクトオーナーみたいなところからスタートして、そのあと本格的なプロダクトマネージャーになりましたが、自分の説明能力の不足もあって、今も昔も変わらず、なかなか話が通じないのが一番困りますね(笑)。
プロダクトマネージャーのアイデアって、プロダクトマネージャーの頭の中にはあるんですが、それを形としてアウトプットして、メンバーに理解してもらう。もっと言えば、経営陣にも理解してもらうということは思っている以上に難しい。
プロダクトマネージャーの話は一貫して「8対2の法則」みたいなものが出てくる気がしていて。プロダクトマネージャーが考えていることは、8割の人にはもしかしたらわからないかもしれない、未来予想みたいな話なんですよね。
プロダクトマネージャーは「こういう未来が来るから、今のうちにこういうプロダクトを作ったほうがいい」みたいなことを考えるわけですね。もちろん、既存のマーケットにいわゆる二番手戦略で「これが流行ったから同じようなことをやろう」という人もいて、それもいいと思います。
“プロフェッショナルなプロダクトマネージャー”と言った時には、基本的には意味が2つあって、1つは新たな価値観を創造するみたいな、イノベーターとしてのプロフェッショナルさ。もう1つはいわゆる二番手戦略で確実にお金を稼いでいくようなプロフェッショナルさ。これも賢さとしては必要になってきます。両極端な人もいれば、ミックスの人もいます。
この時に、イノベータータイプのプロフェッショナルなプロダクトマネージャーとなってくると、その人の考えている世界って、未来なんですよね。だから、「その人の言っていることが新しすぎてわからない」ということが起きるんです。これが私がプロダクトマネージャーをやってみて最初に考えた難しさであり、今でも難しいと思っているというところです。
――その難しさは、イノベータータイプのプロフェッショナルなプロダクトマネージャー独自のものなのでしょうか。
山崎:二番手戦略でいっても、最終的には「一番になりたい」みたいな話が出てくるんですよね。二番手戦略でうまくいくのは主にマーケットが小さく、拡大している時で、二番手でも勢いでそれなりの売上が上げられますが、だんだん一番になるために「差別化しよう」とかの話になるんですね(笑)。そうなってくると、どこかでイノベーションを仕掛けなきゃいけません。
これも実は8対2の法則で、8割は王道を行くんですよ。8割は多くの人が理解できることをやる。つまり、顕在ニーズに対して欲しいと思っているものを作るみたいな話です。プロダクトの8割はそうなってるんですよ。
2割はそれのさらに上を行くことをやらなきゃいけない。なので、二番手戦略を8割使いつつ、イノベーター戦略を2割混ぜていく。そのイノベーター戦略の2割の話を8割の人は理解できない。これをどうやって対処していくかという話になります。
結局は、二番手戦略でも最後はイノベーティブなことが必要になってしまうので、なぜそれをやらなきゃいけないかを説明しないといけません。
――なるほど。
山崎:わかりやすいように、横軸をアイディアの良さ、縦軸を理解度として、ヒストグラムのように並べると正規分布のようになっているはずなんです。真ん中は理解できる人が多いから、それは共通概念、つまり常識とかになっているわけです。「普通に考えればわかるでしょ」というものが真ん中あたりの話です。
両端にはすごくいい話とダメな話があって、プロダクトマネージャーのイノベーションはすごくいい話から起きる可能性が高い。つまり、平均よりいいほうの少数の意見から起きることが多いです。
つまり8対2の法則があって、全体の2割くらいの人しか理解できないアイデアが、プロダクトを作っていくにあたっては肝になります。ここを確実に押さえていけるのが、いわゆる“プロフェッショナルなプロダクトマネージャー”の一番大事な要素なんじゃないかなと最近は思っています。仮説なので合っているかどうかはわかりませんが、経験的にはそういうことなんじゃないかなという気がしますね。
そういった事情から私自身がいつも困るのが、社内でよくある「山崎さん何言ってるかわからない問題」ですね。毎回「なんか新しいこと言い出したぞ」「よくわかんない」からスタートなんです。でもそれはそうで、人が平均的に考えることとは違うことを私は言っているので、よくわからないのだと思います。
それを説明していくためには、2つの壁があります。1つ目は言っていることが想像できないという意味で、本当にわからないということです。
例えばですが、私は遠い将来“ドラクエベッド”というものが医療業界で流行ると思っています。『ドラゴンクエスト』というゲームの中では、宿屋に泊まると体力が完全回復するんですね。
これはそれを実現したもので、ベッドに必要な医療機器が全部備え付けられていて、寝ている間に自分の体調をモニタリングした上で、必要があれば投薬とか手術とかしてくれる。そんなベッドがあれば、よほどのことが無い限り病院に行かなくていいような世界が来ると思うので、医療体験はすごく快適になるはずです。
でも、このドラクエベッドのような発想は、普通はわからないんですね。今は“ドラクエベッド”というアナロジーを使っているから理解できるけれど、ドラクエをやったことがない人には理解がかなり難しい。まず言っていることが想像できないというのが第一の壁です。
2つ目が、それに賛同できるかどうか。「山崎さんが言っていることは理解はしたけれど、僕はそうなるとは思わない」みたいなことです。共感が得られるかですね。
新しいことというのは、そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。そこに対しての意見は、批判が多くなりがちで、特に保守的な人からは批判的な意見が出るんですね。
これもだいたい8対2の法則で、8割の人が反対して、2割の人が賛成するような意見というのが優れた意見になります。時代の先を読んで今後必要となるようなサービスやプロダクトを提案しているわけなので、現時点ではそのニーズが顕在化していない可能性が高いです。
なので、潜在ニーズを当てにいくと、賛成票は2割集まればいいところになります。その状態でそのプロダクトをGOできるかは、プロダクトマネージャーの仮説構築能力に加えて、会社の経営陣のイノベーションへの理解が非常に重要になってきます。
つまり、プロダクトマネージャーは最終的にはロジカルに考えすぎるとダメだといういう話になるんですよ。その中で突破していけるのが、イノベータータイプのプロフェッショナルなプロダクトマネージャーで、このようないろいろな8対2の構造になっていると今のところ私は理解しています。
(次回に続く)
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